プラフィスはレビデトを使ってゆっくりと地面に降り立つ。
「まったく、あの男もずいぶんと乱暴なものですね」
と、右手で前髪をかき上げながら頭から落ちて雪にめりこんでいる男・・・疾風海 権兵衛を見る。
「ぶはっ! 畜生め! 今度あいつに会ったらただじゃおかねえ!」
と、自力で這い出る権兵衛。かなり怒っているようだ。
「いいではないですか。とりあえずは生きているのですし」
プラフィスは冷静に言う。そう言われると、権兵衛も少し落ち着いた。
「・・・多分碧雲は大丈夫だろうがよ、今の俺の武装はこいつしかねえぜ?」
と、背中から刀を取り出す。
形は野太刀で刃渡り211CMと、本人の身長とほぼ同じだ。
プラフィスはすぐに、それは普通の野太刀ではないことを悟った。
「なかなかすばらしい刀をお持ちですね」
「ほほう、この刀の良さが曲者のあんたがわかるってか?」
今度はご機嫌になる権兵衛。
「私の名前は曲者じゃないですよ。私はプラフィスといいます。それにしてもいい刀ですね」
また言われて権兵衛は余計にご機嫌になった。
「当然だ。こいつは『烈火』っつー名前をもつ業物なんだからな」
と、『烈火』を振り回していると、炎が出た。
「これはこれは・・・」
「すげぇだろ?」
そう言うと権兵衛は背中に刀をしまう。
(世の中にはそれぞれに属性の込められた刀が三つあると聞いていますが、ひとつは『風切り刃』、ひとつは『氷閻』、そしてこの『烈火』でしたね。見れるはずがないと思っておりましたが・・・)
世の中に三つしかないもののうち、ひとつを見ることができたのだ。
それを見て好奇心満々。
どうにかその威力を見てみたいと思っていた矢先、生物の営みの音が遠ざかっているのを感じた。
「・・・権兵衛さん、ひとつ頼まれてくれませんか?」
「おう、何だ?」
灰色のひげをしごきながら権兵衛はプラフィスの方を見た。
「私のその刀の威力を見せて下さい。敵はすぐそこですから」
と、髪をかき上げるとプラフィスは南の方向に指さした。
そこには凍った植物みたいなものがたくさん、山を背景に蔓を使ってこちらに歩いてくる。
その植物のつぼみみたいなものに獣の牙が生えて、よだれを垂らしているところは何ともおぞましい。おそらく、食人植物なのだろう。
「へっ! この森のモンスターか!?」
「いえ、神の使者です。余りなめてかからない方がいいですよ? 名前は・・・スリンクフォウルです」
そう言うと、プラフィスは飛んで、木の枝に座った。
権兵衛はそれを見て少々不機嫌になるが、どちらにしろ腕が鳴る。
「さあ、神の使者ども! この『獄炎刀』を受けてみろ!」
そう言って刀を掲げ、猛然と切りかかる。
射程内に入るとスリンクフォウルは蔓を伸ばして攻撃を開始する。
権兵衛はそれを焼きはらうと、斬った。
斬られたスリンクフォウルは燃えながらも、権兵衛に蔓の鞭を食らわせる。
「ぐっ・・・やったな!」
権兵衛はもう一度斬りつけると、ようやく燃えつきた。
プラフィスはそれを見て、どうやら権兵衛の実力ではこれだけのスリンクフォウルを相手にするのは不可能と考えて、加勢することにした。
「さてと、あなたはどうも腑甲斐無いようですから、私も戦いましょう」
「何をう!?」 怒り始めた権兵衛は一撃で三匹のスリンクフォウルを燃やした。
「私も暇なのです。あなただけの時間は終わりました。さあ、行きましょうか」
そう言うと星流の槍を取り出し、スリンクフォウルを一刀両断する。
「ちっ!やるじゃねえか!」
「あなたに比べれば格段に」
「ちっ、言ってくれんぜ!」
そう言うと今度は自分が腹立たしくなり、今度は五匹のスリンクフォウルをほおむった。
「ここは競争しませんか?」
「どっちが先にたくさんの敵を倒せるかって!? オリャすでに九匹倒しとるわい!」
「それ位のハンデ、常識でしょう」
「言ったな!」
と、更に一匹ぶった斬る。
「これで十匹だ!さあ、急げよ!」
「ふん」
結局、この戦いは権兵衛の勝ちであった。
プラフィスは少々つまらなそうな顔をしただけで、取り分け悔しがったりはしなかった。
「さあ、俺が勝ったぞ!? どうするんだ!?」
「・・・上の方に飛んでいる敵がいますね。九牙、頼みます」
そう言うと、突如プラフィスの体に変化が起きる。
髪の色、そのしばり方、耳の長さ、メガネが現れ、そしてやりは消えていった。
「ああ! あいつ勝負を逃げやがったな!」
「うるさいな。とりあえずあの変な虫が近くに来たら倒してくれ」
そう言うと、銃を呼び出してすぐさま撃ち始めた。
撃ち落としたものは、氷のハエだ。
とりあえず、100メートルという遠距離から撃ち落としているものの、逃がしたハエは10メートル程近づくとブレスを吐き始めた。
それにふれたものは次の瞬間、凍りついた。
幸い、二人には被害はなかったが・・・
「!!」
今度は命中し、九牙の左腕が凍ってしまった。
「おい! 大丈夫かよねえちゃん!」
「・・・少々のダメージは覚悟するか・・・権兵衛、この腕を焼いてくれ」
と、左腕を権兵衛に差し出しつつ、右手と顔は敵に向けられていた。
「ど、どういう・・・わかった、やってみよう」
突然のことでどういうことかわからなかったが、どういうことかはわかった。
権兵衛は『烈火』に点火すると、九牙の腕を焼き始めた。
そして、右腕のそでが灰になり、敵も消えた時にようやくその腕は回復した。
「すまない」
「いやいや、こいつの炎が良かっただけだ」
そう言って刀を目の前にかざす。
「・・・そうだな」
「さて、わが部下も全滅したようだからな・・・私が相手になろう」
突然の敵に驚き、二人の反応が大幅に遅れた。