ギアローが手をかざして遠くを見る。
「とりあえず穴を掘ろうか?」
突然のことだが、ギアローは手をたたく。
「なるほど、墓穴を掘るのだな?」
「ああ、そうだ」
と、明らかに日本語を使い間違っているが、そんなことは二人には関係ないのだろう。
そうやって穴を掘る(もちろん魔法で)のに夢中になっているうちに、気がつけば30もの穴を掘っていた。
それも子犬しか入らないような小さな穴から、ゴーレムが入りそうな巨大な穴までいろいろある。
穴自体は小石しか入らないが、その深さ40メートルのものや、ビックフット型の穴など、訳のわからないものまである。
「いやぁ、大分掘ったなぁ」
「まったく、すがすがしい汗はいいものだなぁ」
と、訳のわからないことまでいい始める始末。
誰か止めろ。
「HAHAHA・・・だんだんと小鳥のさえずりも遠く聞こえるほど疲労してきたようだ」
それを聞いた瞬間、ギアローの目が輝いた。
神が来る
「フェイ!貴様戦えるな!」
「私に戦うなというのは笑止千万と同じ意味!」
「ならば来るぞ!」
まったく意図が読めない返事をかわしつつ、接近してくるものを確認した。
「フェイ、あれが見えるか?」
「ふん、スノウブリギットか。手強そうといえばそうともいえない」
そう言ってフェイはオーラブレード“シラー”を持ち出し、赤い光を帯びている光を出した。
「結構巨大だな」
「それも分身しながらそれぞれ実態を持ってくるぞ」
「ふん、何体来ようと同じこと」
フェイのいいたいことはつまり、複数いるということだ。
そして見えてきたのは全身氷で固めている全長4メートルの怪鳥。
くちばしだけが普通で、目は赤い氷で覆われている。
フェイはこれをスノウブリギットと即興に名前をつけた。
「ふははははは!ショータイム!」
そう言って魔笛を取り出すと、音楽を奏で始める。
すると、スノウブリギットたちはふらふらし始めた。
「ふん、しょせんは獣、フェイの魔笛で同士討ちをするがいい」
ギアローがそう言うとスノウブリギットたちは同士討ちを始める。が、かっ、という音と共にスノウブリギットに落ちた光りは、彼らに正気を取り戻させたようだ。
「フェイ、効果が切れたようだぞ?」
「ふん、ダッツオーケー」
そう言って魔笛をしまうフェイ。
「残念だったな!このデンテイル様がこいつらを操っていたこの部隊に当たったこと、後悔するがいい!」
スノウブリギットの中でも更に一回り大きいスノウブリギットに乗っていた青い皮膚、そして黄色いモヒカン頭で、服装はロックだのパンクだのやっていそうな、何だか魚類っぽい男だ。
「それは私の問題ではないのだよ、ワトソン君」
「ワトソンどころが山田君の問題でもないだろうな」
「??何訳のわからないこといっていやがる!」
デンテイルも、さすがに二人のいっていることの意味がまったくわからず、混乱しそうになるが、一斉にスノウブリギット達に命令を与える。
「あの二人をやっちまえ!」
「・・・フェイ、こんな低級天使にやられるなよ」
「ふん、適当にやっても勝てる」
と、何だかシラーから水を噴き出しながら言う。
「見事な手品だろう?」
「なめるなー!」
もはやどうすればいいかわからないデンテイルだが、とりあえずやっつけることにした。
二匹のスノウブリギットが二人を襲う。
ギアローはかわすが、フェイは直撃を受ける。
その上、玉突き状態に連続で攻撃を受け、どんどん上昇していく。
そして落ちて大ダメージを受けてしまった。
「あほだな」
ギアローが言う。
「ム・・・み、味方をけなすとは、一体おまえらは・・・」
どうやらこの物語は敵の方が常識があるらしい。
「おほほほほ!私はこれくらいではやられませんわよ!」
と、先程とは別人のような行動に出るフェイ。
「残念だが、これも作戦のうちでね」
「ちっ!やっちまえ!」
突如普通(?)に戻ったフェイに向かってデンテイルは攻撃命令を出した。
すると、フェイは右手を一匹のスノウブリギットに向かってかざすと、そのスノウブリギットは突如苦しそうに落ちていった。
「何!?いったい何をした!?」
「私の苦しみを味わってもらっただけだ。気にするな」
気にするなといわれても・・・どうも部下を倒されたのに、怒る気になれない。
何だか受け流された感じで、この怒りをどこに向ければいいか迷っている。
「どけ。今度は私が片付ける」
そう言って出てきたのはギアローだ。
「撃てー!」
デンテイルが命令すると、スノウブリギットたちは氷を吐き出した。
ギアローはそれをバリアで防ぎ、唱え始める。
力をあいまみえし二匹の二つ首の竜よ
お互いを認め合い
力を合わせて力を得ん
そしてこの魔力に応じ
我に力を貸したまえ
なんじらの好む
反逆の名の元に
「『フォーシューロー!』」
ギアローが唱え終えると、巨大な四つ首の竜が現れ、スノウブリギット達をにらんだ。
そして口を開けると、光線に似たブレスを浴びせる。
それを浴びたスノウブリギットはすべて溶けて水となる。
「何・・・!?」
残ったスノウブリギットは自分のを含めてたったの二匹。
「私の出番を奪ったな?」
フェイはギアローを睨むが、本人はひょうひょうとしている。
「まあ待て、大本は倒していないだろう?」
その言葉を聞いて、デンテイルは逃げ出した。
「・・・フェイ、あの残った一匹は、もはや奴の支配を受け入れなくなった。思う存分に操るがいい」
フェイはそれを聞き、にやっとするとギアローを吹き飛ばした。
「うおおお!?」
とりあえずおとなしく飛ばされようとして飛ばされるギアロー。
「私の出番を奪った罪は重いからな。戦線離脱していろ」
そう言うと魔笛を吹き、スノウブリギットを呼び寄せた。