【2ND ACTION】
寝台特急の車輪が、線路の下に敷かれた鋼鉄製の枕木を踏むたびに、一定の小気味よいリズム音が響いてくる。軽い上下の振動は、睡魔を誘うのには絶好の揺らし方である。前を見れば、すでにカーシーは寝息を立て始めている。自分の隣に腰を下ろしているソロネも、黙ったまま俯いている。瞳こそ閉じられているが、もともと盲目な彼女のことだ。寝ているのか起きているのかさえ、見た目だけでは判らない。
ミシェルは昨晩、10時間以上の睡眠をとっていたため、睡魔の誘惑には負けなかった。凄まじいスピードで建物が残像を残しながら、右から左へと流れていく分厚い窓ガラスから覗き見ていた外界は、しばらくはミシェルに楽しさを与えていたが、別の娯楽に飢え始めたミシェルは、すぐに飽き、する事もないのでソロネの耳の中に指を突っ込んでみた。
「ひょえ!」
どうやら本当に寝ていたようだ。がばっと身を起こし、何事かと当たりを伺う仕草をするソロネに、ミシェルはくくく、と含み笑いを浮かべた。反応が、非常に面白かったのだろう。
「姉ちゃん、暇だよ。カードゲームとか持っていないの?」
「ミシェル君、私は目が見えないのよ? カードなんて出来ないじゃない」
「そっか…。でも何か無い? 暇で暇で死にそうだよー!」
ただをこね始めたミシェルに、苦笑いを浮かべ返答するソロネは、自分のズボンのポケットから財布をとりだした。そして中から銀貨を数枚取り出すと、それをミシェルに差し出した。
「2両後ろが食堂車両になっているよ。何か美味しい物でも買ってくれば気が紛れるかも」
「おっ、姉ちゃんいいヨメはんになるでぇ」
返事もそこそこに、ミシェルは椅子から飛び降りると、とっとと廊下を渡っていってしまった。 その気配を感じ取ったソロネは、一度軽く溜息をつくと、再び頭を下に垂らす。そして、ゆっくりと睡魔に身を任せていった。
乱れたシーツに、甘い香りが漂う寝台車両の大型個室の一室。カーテンが窓には敷かれ、その隙間から直線となって差し込んでくるのは、朝の証拠だろう。晦はいつの間にか過ぎ去り、この個室に押しとどめられていた男は、裸の上半身にうっすらと汗を浮かべさせていた。
決して大きくはないベッドに、毛布にくるまるようにして寝息を立てているのは半裸の女だ。 その女を一瞥すると、男はキャビネットの中から高級のワインのボトルを引っぱり出す。グラスはひとつだ。女のぶんは用意しないらしい。
薄暗く、淫らな甘い香りが立ちこめる個室で、男はワインをグラスに注ぐ。それを一息で飲み干すと、ぐしゃぐしゃと自分の髪を掻きむしる。
男の髪の色は不自然だった。前髪だけは茶褐色なのだが、後ろに流すやや長めの髪の色は、漆黒である。
すらりとした顔立ち、そして身体中には幾本もの切り傷の痕が刻まれている。しなやかな筋肉と、鋭く尖ったような瞳を見れば、この男が死地をくぐり抜けてきた戦士だという事が判る。
男は、ベッドでまだ丸くなっている女を横目に、肺の中の空気を絞り出すような溜息をついた。
この女とは、昨日ステーションで出会った、名も知らない女だ。お互い、自己紹介だなんて照れくさいことはしていない。あの女は「フレンズの武器開発関係者」とだけ名乗っただけだ。それ以上のことは話さなかったし、興味もなかった。ただお互い気が合い、相性が良かっただけだ。ただ、それだけなのに、気がつけば二人とも素っ裸だ。世の中、何が起きるのか判ったものじゃあないな。と、
コンコン、と、ドアがノックされる。男はワインのボトルを握りしめながら、ドアを軽く半分だけ開けた。そこから、涼しい車両の空気が循環する。甘ったるい香りは外部へ。そして透き通るような新鮮な空気が内部へ入り交じる。
彼の視界に広がった物。それは、ハンディカム・ビデオカメラの、レンズのどアップだった。一瞬何が何だか判らなくて、男は顔をしかめる。が、
「あ、失礼。お邪魔さま。ごごご、ごめんなさい。知っていたら下車してからでも」
「用は済んだよ。…そっちの用件は何だ? 敏腕カメラマン」
名刺を取り出そうとしたのは、ずたずたになったジーンズのベストを、まだ勿体なさそうに着こなしていた双林真実だった。先に素性を簡単にばらされ、双林はちょっと意外そうに眉をひそめて微笑する。
「『疾風』のイシュト、こと、イシュトヴァーンさんに名前を覚えられるだなんて、光栄ね」
「そいつぁ…どうも。アンタの取った映像、テレビで見てるぜ。アンタのツラもな」
そこまで言って、イシュトヴァーンは歯を見せながらニヤリと笑う。
「ついでに知らないアンタの生活にも関与したいと願うのは、俺の叶わぬ願望かな」
「フーン、そうやって女の子を口説くんだ」
双林は右手に隠し持っていた録音テープのスイッチを切った。
「伝説の戦士イシュトヴァーンの、口説き文句百選。朝まで生討論の明日の見出しはこれで決まりね」
「オイオイ、用は何なんだ? 俺の私生活のことかよ」
苦笑するイシュトヴァーンを横目に、双林はにんまりと笑みを作った。
「じゃあ単刀直入に言うわ。イシュトヴァーンさん、私に雇われていただけない?」
「なん…だと?」
眉間にしわを寄せ、イシュトヴァーンが双林の言葉を聞き返した。聞き取れなかったのではない。突然の依頼に戸惑っただけだ。だが、口調にうろたえた気配はない。変わらない、落ち着き払った何かが含まれている口調だ。
「実は、あなたフレンズって会社知っている?」
「大手産業メーカーだろ? 色々作っているよな。コンポ、レーザーディスク、パソコン、ゲーム機…確か武器販売までなんでもござれのふざけた名前の社長が頑張っている…」
「そう。それは表の姿よ。私、昨晩、秘密裏に隠されていた、非合理なこの会社の裏面を映像として入手することが出来たわ。それを、誰にも知られないように、私をミッドガルドのマトリックス放送局まで連れていって」
「何バカなことを。マトリックスなんて、すぐそこじゃないか。俺に頼む暇あったら、下車する用意でもしていろよ」
そこで、イシュトヴァーンの言葉をかき消したのは、突然の激しい銃声だった。
イシュトヴァーンが持っていたワインボトルが、赤黒い液体をぶちまけながら四散した。同時に部屋の中の絨毯が、着弾した瞬間に跳ね上がり、ベッドの内部に敷き詰められていた羽毛が、天使の羽根のように部屋の中に乱舞した。厚い窓ガラスも蜘蛛の巣のような放射線状のひびを走らせ、その中央には弾痕が外部へと貫通した穴が口を開けている。
咄嗟にイシュトヴァーンは、双林を押し倒した。そのまま床に彼女の身体を押し当てながら、這うようにして車両の廊下に出る。そしてその刹那、彼は飛び込むようにして隣の車両に飛び込んだ。
グワシャアッ! 甲高い音と共に、連結部分を覆っているガラス状の自動ドアが、イシュトヴァーンの背中によって破壊された。鋭い痛みを裸の背に感じながらも、イシュトヴァーンは咄嗟に自分のことよりも、自分の下で庇っている双林に視線を向けた。
そして、驚愕。
流れるような動作で、彼女はジーンズの内ポケットから、ドス黒く輝く冷たい固まりを取り出し、右手でそれを構え、添えるようにして左手で右手を覆う。迷い無き新緑色の瞳が、果たして相手の姿をとらえたのであろうか。それをイシュトヴァーンが考えた瞬間には、彼女の『グロック−36』が、爆音を上げながら40S&W弾を吐き出していた。
着弾音は、まるで小規模な爆音のように背後から吹きあがった。
だが、背後からはタタタタタ、という軽い銃声が返答してきた。マシンガン特有のサイレンサー使用時の音だ。
誰がはじめに悲鳴を上げたのか、確かめる術はない。だが、あいにく彼が飛び込んだここは、食堂車両だった。午前中という事で、まだ客の姿は数えるほどしか確認できない。それが幸いだ。
「ほらやっぱり、雇ってくれないと困るのよ」
「何を訳のワカラン事を言っていやがる! 何だ、あの女は何なんだ?」
「多分、フレンズの関係者でしょう。特殊廃棄物処理係『フラッド』の一員…ってところかしら」
「確かにフレンズの武器開発に携わっているとか何とか言っていたけどよォ、何で貴様がそんなことを知っているんだよ!」
「だからぁ、昨晩見ちゃった秘密裏の事って、そのことなのよ」
チッと舌打ちをしながら、イシュトヴァーンは素早く食堂車両を見回した。なにか、盾になる物が欲しい。このままでは、いつかは銃弾を浴びてしまう。『疾風』のイシュト、と言われても、疲れて鈍ったところを狙われてはどうしようもないのだ。
「表の姿は人のいい笑顔を浮かべながら揉み手をする一流電機産業メーカーとしてや、正義のための武器開発を大量生産しているけれど、ところがその側面では、暗殺家業から麻薬売買、人間の臓器や身体の横流し。汚い仕事はほとんど手をつけているって事。それを知っちゃった私は、こうやって今日の朝から狙われてるのよ」
「事情は判ったが、とにかく今はトーキングタイムはストップだぜ。双林! 歯ァ食いしばれよ!」
「はい?」
なんのことだか判らないような、素っ頓狂な表情を浮かべた双林。それにウインクを投げかけたイシュトヴァーンがとった行動。それは。
イシュトヴァーンは、抱えていた荷物の双林を、倒れていたテーブルの陰に放り投げると、自分は素早く地面を蹴り、厨房の中へと姿を消した。遠くで双林の「ぐえ」といううめき声が聞こえたような気がしたが、確認する余裕はない。
イシュトヴァーンとベッドを共にしていた女が、ゆっくりと車両に入ってくる。シーツを簡単に身体に巻き付けただけの姿だ。長く、濡れたような赤い髪から、あの甘ったるい匂いがする。それを嗅ぐと、何だか不快な気分になってくる。双林は、テーブルの陰から女の姿を垣間見ながら、強打した鼻の頭をぽりぽりと掻いた。そして、グロック−36の銃把を握り直した。
「出ておいで、双林真実! アンタの撮ったそのテープ、悪いんだけどマトリックスに運ばせるわけには行かないよ」
お約束の台詞、どうもありがとう。
口元に嘲笑を浮かべ、双林は尻のポケットの中身を確認した。
小型のビデオテープ。全ての答えが収められている、今現在、もっとも大切なものだ。
それを、そう易々と相手に渡すわけにはいかない。渡したところで、真相を知っている私の存在は、奴等にして見れば邪魔意外なにものでもないだろう。間違いなく、暗澹たる惨禍が待ち受けているに違いない。
食堂車両のシェフ達が、言葉にならない悲鳴を叫びながら、隣の車両へと走り去っていく。それを女は軽く一瞥し、無言でマシンガンの冷たいトリガーを絞った。
鮮血が霧のように舞い、同時にシェフの白衣が鮮やかな朱色に染まる。そのまま2、3歩進むが、そのままがくりと崩れ折れた。その惨劇を見ていたカップルが、絞り出すような喘ぎを漏らしながら、這うようにして逃げ出そうとする。だが、それは叶わぬ無駄な行為だった。二人の逃亡劇は、数秒と経たない間に閉幕ベルを告げた。眉間の中心に銀貨大の孔を空け、男がうつぶせに倒れた。それを涙で濡れた瞳で凝視した女の乳房の間から、鮮血が迸る。瞳を大きく開いたまま、二人は折り重なるようにして血の海に沈んだ。
「さて、双林、次は誰が死ぬのかしら」
空薬侠が、キンキンと軽い金属音を残しながら地面に散らばった。女は、じろりと辺りを見回し、情けない悲鳴をあげながら身をすくめている少女にその邪悪な双眸を固定させる。
「早く出ておいで。さもなければ、次はこの子を殺すよ」
女は少女の髪を掴むと、無理矢理立位をとらせた。そしてその少女のこめかみに、熱いマシンガンの銃口を突きつけた。ひいっという悲鳴と共に、少女の瞳から恐怖の涙が滴り落ちる。
双林は、心の中で舌打ちした。
そうきたか。自分を追いつめるために、他人にまず銃口を向けたか。
仕方がない。双林は、テーブルの陰から身を乗り出すと、女の視界内に入り込んだ。
「その子を開放しなさい」
「駄目よ。まずはあなたの銃を床に投げなさい。そして、続いてテープもね」
「その子が先よ。そうすれば私はあなたに従うわ」
「フフ、選択肢は無いのよ? 判るかしら双林」
女のトリガーにかける指の力が強められた。カキン、という音が、静寂の空間の中に異様に大きく響く。軽い上下の振動が、今はとても違和感となって感じた。
「ひ…あッ…、た、助け…」
「あなたが助かるも助からないも、あの女の行動で決まるのよ、お嬢ちゃん」
鮮血で濡れたような赤い唇が、にたっと弧を描いた。
仕方ない、ここは相手の要求を呑もう。そう、双林が諦め、地面に銃を投げようとした。
その時。
何かが空を裂く音が響いた。それは一直線に、女に向かって進んでいく。
女の身体が何かに感電したように、びくりと震え、そして苦痛に歪むように眉根を寄せた。
女が振り返る。その左の肩甲骨の当たりに、氷を砕くピックが深々と突き刺さっていた。
「何で俺が『疾風』って呼ばれているか、知ってるかい?」
カウンターに腰を下ろし、長い脚を優雅に組みながら、いつの間にかイシュトヴァーンが、ステーキを切るためのナイフを右手で弄んでいた。それを親指と中指だけで器用に一回転させると、人差し指を屈曲させ、それを弾いた。
先端の丸いナイフが、鋭い凶器となって、女の右肩に吸い込まれた。あまりの早さに、いつ投擲したのかさえも判らない。目で追うことすら叶わないスピードだ。
女の手から、マシンガンが落ちた。それを見逃さなかった双林が、投げようとしていた銃を引き戻し、トリガーを引いた。爆音がグロックから吐き出され、床に落ちたマシンガンの銃身を破壊する。そして、少女を拘束していた左手にポイントを定め、迷い無くトリガーを再び引き絞った。だが、銃弾は女の手を破壊することはなく、虚空に射出される。
なぜ、狙いがはずれたのか。
それはすぐに気づいた。女の頸部に、銀色に輝くフォークが突き刺さっていた。その一撃を受けた女の膝の力が抜け、女の身体が沈んだため、双林の弾丸は女に着弾することはなかった。 激情を漲らせた瞳をイシュトヴァーンに向け、何かを口にしようとした。だが気力はそこで尽きたようだ。女は自らが手にかけた恋人達の骸の上に重なるようにして、崩れ折れた。その光景を、さも当たり前だと言わんばかりの表情で一瞥していたイシュトヴァーンが、得意げに軽く口笛を鳴らす。絶命した女の美しい身体を指さしながら。
「このイシュトヴァーンの流星はよォ、弾丸よりも疾風に近いんだぜ。だから、目じゃ追えないし、音もないから気がつかねェ」
開放された少女の震える肩を、優しく抱き締め、イシュトヴァーンは双林に微笑を浮かべた。
「DO YOU UNDERSTAND?」
ドウン。グロック−36の銃口から、躊躇いも見せずに発射された弾丸は、イシュトヴァーンの頬をかすめながら、背後のガラス窓を粉砕した。その突然の出来事に、イシュトヴァーンは微笑みながら硬直した。同時に、嫌な汗が背中を伝う。
「あんた、ナニ言ってるの? ンなことはどうでもいいのよ」
憤怒に頬を赤く染めた双林が指さしたもの。それは、すでに物言わぬ肉塊と姿を変えた、人間達の末路の姿だった。あの女に射殺されたシェフ、そして恋人達。その双眸は恐怖と絶望に支配されたまま、大きく開かれたままになっていた。流れ出した涙は、未だ止まることを知らない血液と混合し、かき消えている。
「これどうするの?」
その言葉を、後頭部を掻きながら聞いていたイシュトヴァーンが吐いた言葉。
それは、伝説の戦士には当てはまらないような、場違いな言葉だった。
「知らんぷりしとけば? どうせやったのはこの女なんだしさ」
けろりとした表情のイシュトヴァーンを、困惑な瞳で見つめていた双林だったが、肩をすくめると、無駄だと思いながらも反発する言葉を紡ぎだそうとした。
それが、喉から絞り出されようとしたとき、
「ところでさぁ」
気の抜けるような甲高い声が、惨劇と化した食堂車両に響きわたる。一瞬新手かと思い、双林はグロックの銃把を、イシュトヴァーンはくすねてきたフォークを構える。が、声の主は以外にも簡単に見つかった。
そのテーブルだけ、破損も大破もしてはいなかった。まるで何事もなかったかのように、その場に今まで通り設置されている。その高い椅子に投げ出した脚をぶらつかせながら、つまらなさそうに一部始終を見つめているやんちゃな瞳のワルガキ。
ミシェルだった。
「ボクの頼んだジュースはまだなの? あの女の人がシェフ殺しちゃったから、誰がボクの注文
を持ってきてくれるのかとわくわくしていたんだけれど───」
大げさに、芝居がかった動きで両手を広げると、肩をすくめた。そして首を悩ましげに左右に振りながら、しっかり論点のずれている不満を、イシュトヴァーンと双林に向けた瞳に便乗させ、呟いた。
「仕方ないから、悪いんだけどお姉ちゃん、オレンジジュース買ってきてくれる? お金はお姉ちゃん持ちで。あ、当たり前か」
鋼鉄の車輪が、線路下に一定の距離を置いて敷かれている枕木を通過するたび、タタン、タタンという上下の心地よい振動が車両を揺らしていた。
放置されたままの死体が、その振動の度に小刻みに身体を揺らす。開かれた瞳は虚空を見つめ、流れ出る血液は、凝固しつつあった。
女の射出したマシンガンの弾痕が、窓ガラスを四散させ、カウンタテーブルに数え切れないほどの弾痕を残していた。レースのカーテンはボロ切れのようになりながら、それでもゆらゆらと風になびかれながらはためいている。純白のテーブルクロスは血と硝煙をたっぷりと染み込ませ、新品同然のカーペットには、どす黒い血溜まりが広がっていた。
その光景を見下すような冷たい瞳で見る人物がいた。茶色がかったブロンドを、肩口で短く切りそろえ、新緑色の瞳の女騎士、レミリアだった。
「いつまでそうしているつもり? 名演技はもう終わりよ」
その言葉に反応したかのように、恋人達の死体がむくりと動く。いや、何者かによって動かされた。乱暴に転がされ、男の死体がごろりとカーペットの上を一回転する。そして立ち上がったのは、恋人達の血を全身に浴びた、あの女だった。身体に巻き付けたシーツはすでにはだけ、一糸纏わぬ美しい裸体を浮かび上がらせていたが、その身体は、誰が見ても違和感を感じるものだった。部分部分、まるで時空が歪んだように、輪郭がずれているのである。そしてずれる度に、耳障りなノイズが響く。まるで遠距離と無線通話を行っているときのように。
「ごめんなさいね、失敗したわ」
女は自分の肩口に突き刺さっているナイフを、肩甲骨のピックを、そして最後に間違いなく頸動脈と気管を貫いているフォークを簡単に、苦痛に顔を歪ませることなく抜き捨てる。血は、一滴たりとも滴ることはない。
「いや、大丈夫。双林がヒフミの推測通り、この電車に搭乗していることがはっきりとした。あとはミッドガルドに到着する前に、あいつからデータを抜き取ればいいわ。ところでリューナ」
レミリアは女───リューナ
───を見ると、確かめるように呟いた。
「イシュトヴァーンが双林に協力していることを、ヒフミに伝えて頂戴。あいつは以外と厄介だわ」
「『疾風』のイシュトヴァーン…イイ男じゃない。でも」
リューナは自分の身体を愛撫するように撫でると、妖艶な笑みを浮かべた。
「その名の通り、大してお楽しみの時間は長くはなかったわ」
「…莫迦、昨夜の感想を聞いているんじゃない。戦力として存在が邪魔だと言ったんだ」
「あら、怒ること無いじゃない。でも、旦那が死んで、私がうらやましいのは判るけど」
「五月蠅いな、もういい」
パチンとレミリアが指を鳴らすと、リューナの身体が一瞬閃光を放つ。そして光が消えた刹那、リューナの姿はどこにもなかった。あるのは、白銀に輝く長槍が、ふわりと空中に漂っていただけだった。レミリアはその槍を掴むと、くるりと手首だけで一回転する。そして再び手を離したときには、何処にも長槍の姿を見ることは出来なかった。
「お前に自我を与えると、以外とお喋りだという事が判ったが、まさかこれほどとは思わなかった。ヒフミには私が連絡しておくから、しばらく黙ってな」
『あら、照れちゃって』
声が、何処からか聞こえたような気がした。だが、レミリアは無視すると、右の手首を背屈させ、動脈部分に設置されている小型の無線機に唇を近づけた。
「こちらレミリア。双林を確認。同行者一名、イシュトヴァーンと確認。危険度S。両名の排除
及び記録の追跡を開始する」
「コメント」
どうも、第2話をお届けです。
さすがに難しいです。この設定は。馴れないことばかりでヒーコラ言いながら書いています。
何だか冴えない文章ですいません。もう少し描写を勉強しないとまずいですね。では、今度は3話で。今度のは少し息抜き路線で行きたいと思います。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言ッ!
うあ、アクションすごいし。冴えなくないですよー、怖いですよー。描写が良すぎて。
さて、今日もやってまいりました、戯言のお時間です(ヲイ)
うんうん、オリジナルはつらいっす。自分だけじゃなくて他人にも解るようにせんといけないし。
さて、前回の【1ST】で出て来たキャラが全員繋がりましたな。出会いんぐ(何故ing形!?)
―――とは言っても、ワルガキ君の素性は未だに謎ですが。
おお? なんか解説らしいこと言ってるぞ、オイラ。
これ以上なんか言うとボロが出そうなのでここらへんで留めときますか(もうボロでてる?)
息抜き路線―――ほっと一息?
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