「みなこの四天王がひとり火妖鬼・刹火の劫火の餌食や!!」
「させへん!!」
深夜、突如として現われた刹火という名の四天王のひとり。
その姿は相も変わらず、勇んで敵の前に立ちはだかった翼宿の容貌そのままであった。
刹那。同じ顔、同じ声が一語一句違わず同じ言葉を発した。
『烈火っ神焔!!!』
やはりその鉄扇の先からほとばしり出る大火は一見して互角。
ただ今は、翼宿の炎のほうが若干相手のそれよりも柔らかかった。
しなやかな火炎が刹火の先鋭の大火を包み込み、その先のタンダたちの家族を守るように一気に押し返した。
相殺された火炎同士が風音とともに姿を消す。
「井宿!!お前はみんなを守ったれ」
「わかったのだ!小帆、危ないから後ろへ退くのだ」
「ううん!私もここで戦う!!」
「小帆!?」
「小帆!あかん、お前はさがっとれ!!」
鉄扇を構える表情は真剣そのもので、翼宿は声だけを後方の二人に向けていた。
小帆はさらに後方へ引っ張ろうとする井宿の手を「お願い!」と振り解いた。
「だって、二人とも私に言ったよ!?困った時は助けを求めてもいい。ひとりで悩むなって!
自分たちは只支えてやりたいからって、そういうことだったんだよね」
「小帆……」
井宿が再度引こうとして小帆のほうに伸ばした手を止めた。
「でも、そんなのやだ!私だって誰かの助けになるってこと証明したい。
そりゃ翼宿たちみたいに私は強くない。けれど、誰かの側にいて一緒に乗り越えることくらいなら、
こんな私にもできるんだよ!!」
今までちっとも気付かなかった。
自分に出来ること。それは、きっとほんの少しの勇気を持つことでこうもあっさり答えがでるもの。
ここで、逃げたらたぶんこの先もずっとそうなる。
元の世界に戻ってもきっとそうだ。
また、自分で勝手に寂しがって、勝手にその寂しさから逃げようとして自分を追い詰めていくに決まってる。
「二人のお陰で自分がどれほど誰かに愛されていたかわかったの。
……でも、愛されてるだけじゃダメなんだってことも知った」
お母さんを愛したい。このまま嫌ったままなんて嫌だから。
「私も誰かの支えになりたい!!」
「……せやな」
小さい声で呟いたはずが、その声は小帆の耳にきちんと届いていた。
「翼宿……?」
「ほんとに小帆はちっこいのにようわかっとる。
わかってなかったんは俺らかもしれんな。小帆を子供と思て侮っとったっちゅーわけや。
いっぱしのこと言うからには覚悟ができとるってことなんやろな」
「うん!」
「よっしゃ。ほんならお言葉に甘えて助けてもらおうやないか。なぁ?」
井宿が柔らかく頷いたのを気配で感じ取って、翼宿は、しかし、彼が何か言う前にひょいっと一言付け足した。
「けど、一緒に戦うんは結構やけどな。お前、頼むからそのちっこい身体で、ちょこまか邪魔だけはせんでくれよ?」
この言葉が図星だっただけに、出鼻を挫かれて小帆は一瞬むかっと眉を寄せた。
「だ〜!翼宿はいつも一言多いのだぁ」
「一言多いんはお互い様やろが!お前はさっさと言われたことやっとれ!」
「やれやれ……」
天を持ち上げた井宿と小帆の視線が合い、一瞬クスリと笑う音が重なった。
「でも、小帆。あの時みたいに怪我は極力してほしくないのだ」
あの時とは、述べるまでもなく、倶東国での功翔との決戦だ。
その戦いで、小帆はとっさのことだったとはいえ二人をその身を挺して庇い、深手を負った。
自分が傷付くよりも誰かが傷付くほうが辛いことだってある。
小帆もそれはわからないでもなかった。
「わかってる。大丈夫だから」
短く、しかし、しっかり言うと小帆はそのまま翼宿の隣、半歩後方に並んだ。
「感動ドラマはもう終いか?」
生あくびを噛殺す仕種で刹火が言った。
「ああ。待たせてすまんな。第二幕といこうやないか」
刹火はふぅんとあごを撫でた。
「ええのか?巫女をそんな前に出しおってからに。死んでもうても俺は知らんで」
「心配無用や。そないなこと、この俺が命に代えてもさせへんからな!」
キンッと鉄扇が鳴った。
その後方では、タンダが小太刀ほどの長さの細身ののこぎりを構えていた。
井宿が後ろへと言っても、首を振った。
「俺もここに残る。あんたは家族たちを逃がしてやってくれ。
俺はあいつのせいで無実の人間を疑っちまったんだ。
息子の火傷のこともまとめて一太刀だけでも、やらないと気がすまない」
彼は自分に正直な男だった。
なるほどあの長老から、この一行の全てを長として任されているだけのことはある。
井宿は了承した。
しかし、彼がこの後家族を全員確認した時に、子供がひとり足りないことに気付いたのは、
タンダにとって大きな誤算だった。
戦線ではその間も鏡のにらみ合いは続いていた。
「前から思っとったんやけど、……お前、もしかして技数少ないんとちゃうか?」
「……技数やと?」
しかし、翼宿は相手の返答を待つことなく既に鉄扇を振りかざしていた。
刹火もはっとそれに遅れて構える。
「烈火っ砕竜陣!!」
「烈火っ神焔!!」
ここで初めて双方の呪文が異なった。
翼宿のほうからは弾丸状になった無数の炎が。
一方それを迎え撃つ、刹火の鉄扇からは相変わらずの強気な大火。
しかし、どう考えても乱射された小さな固体を打つのに、先鋭な火炎で対抗するのは分が悪い。
それがまた、攻撃することだけに気をとられているせいか、横に範囲が狭いのだ。
翼宿は先の交戦でそれを幾度か見ていた。
彼はいつも同じ形状の炎しか出してこないのだ。
翼宿はそれに気付き、一種賭けにでた。
歴戦の高技術。遠隔操作でたくみに散弾された炎の展開範囲を広めた。
「はっ……!?」
刹火が、それらが自分の放った炎をよけるようにして、展開していたということに気付いた時には、既に遅かった。
「ぐわあぁぁぁっ!!?」
無数の小さな炎が彼の体のいたるところを焼き裂いた。
しかし、当然ながらその彼が放った神焔も健在で、それは確かに翼宿のほうへ届いていた。
「あっ……!」
「翼宿!!?」
小帆がとっさの機転で彼に体当たりしていなければ、とてもじゃないが避けられなかっただろう。
当然ながら体格差があり、実際翼宿は小帆のほうへつんのめったわけであるが。
「……つっ!」
「た、翼宿!大丈夫!?」
「平気や。肩に火かすっただけや。助かったで」
言われて悪い気はしなかったのだが、小帆には彼に言うべきことがあった。
「翼宿やったはいいけど、後のこと考えてなかったんでしょ!?」
「うっ!!」
どうやら図星だったらしい。
「ははは……つい目先のことに捕らわれてしもて」
「笑って誤魔化さないでよ!!一歩間違えば大火傷だったんだからね!!」
「はい。ごめんなさい」
一方、体のいたるところにその大火傷を負った刹火の荒い息が、彼らの耳にまで届いてきた。
「……くっ。な、なぜ……っ」
「やっぱな。思った通りやった。お前とんだ勘違いしとったみたいやな。
俺はいざというときのために、技は常にあみだしとったんじゃ。
俺がアホの一つ覚えにみたいに同じ技だけしかない奴と思てたんやとしたら、
実はそっちのがよっぽどアホやったっちゅーわけやな」
草原に負傷して横たわる自分に近付いていくというのも、なんとも妙な感覚だった。
刹火は近付いてくる敵を前に指ひとつ動かせず、ただ悔しそうに舌打ちした。
かく言う翼宿のほうも、小帆がとっさに動いていなければ、持ち前の運動神経で反射的に避けたとしても、
ここまで軽傷で済むことはなかったに違いないのだが。
たとえ姿形、力量まで真似ても、仲間まではコピーできないのだ。
近くにいてくれる人の有無がひとえにこの勝負の勝敗を決した。
「残念やったな。世界中で俺はただひとりなんじゃ」
「くっ……」
刹火の鉄扇は衝撃を受けた際に取り落としている。
決して遠い位置でもないのだが、炎の衝撃でしゅうしゅう言っている身体で、
たとえ持てたとしても呪文に耐えられるだけの体力が残っているとは思えない。
「さぁて、聞かせてもらおうやないか。なんで、四天王のお前がこの俺の姿なんぞする必要があったかを」
「答える必要はない」
「……往生際の悪いやっちゃなぁ。それとも四天王は功翔といい、剛郭以外みんなこんなんか?」
「……」
「……黙秘権行使するつもりやったら、こっちも負けへんで」
「なにわけのわかんないこと言ってんの翼宿」
「あかんのや」
「は?」
「せやから、あかんのや。俺、自分の顔殴られへんもん」
小帆が脱力した。
「あのねぇ……」
「ホンマは無理矢理にでも吐かしたる思うとこなんやけどなぁ。くそ〜」
「でも、じゃあずっと対抗してる気?そんなことしてたら夜が明けちゃうよ」
「それもそうやけど……」
「何をためらう必要がある」
不意にタンダの声が彼らの会話に加わった。
「タンダさん?」
「そいつは敵なんだろう。お前たちにとっても、この俺にとっても仇だ。そんな奴生かしといて何になる。
また炎で何かやられる前にとどめをさすべきだ!!」
「気持ちはわかるけど……」
「確かに俺かてこいつのことは嫌いやけど、とどめ言うても……」
「そこのおっさんの言うとおりや。とっとと、とどめさしとかんと後で後悔しても遅いで」
「なんやと?お前なんで自分からそないなこと」
「無様に貴様らなんぞの慈悲を請うくらいなら、死んだほうがマシや」
「……なんか、案外一本筋通ってるところまで翼宿と似てるわね」
「小帆。それ褒めとらんやろ」
「……お前らがやらないなら俺がやる。どけ」
「なっ!タンダのおっさん、ちょ、ちょう待ってや」
潔く居直った偽者の変わりに本物が止めに入った。
「なんでだ!?お前たちだってこいつに散々……」
言い終わる前にどこからともなくか細い声が彼らの口論を中断させた。
「お父さーん!」
「……なっ、ルーク!?」
走ってきたのはまだ三、四歳そこらの男の子だった。
額に包帯を巻いていることからも、彼が顔に火傷を負ったというタンダの息子であることは間違いなかった。
そのころ、やや離れた泉のほとりまでみなを非難させていた井宿が、
誰かしらの言葉で人数が足りないことに気付いていた。
「長のお子さんがいないわ」
「なんだって!?まさか、あいつ兄貴のところへ?」
タンダの弟、ルーク少年から見て叔父にあたるシュダが言った。
昨日、翼宿に一番初めに刃を向けたのが彼だ。
「大変なのだ!」
皆の心配など露知らず、幼いルークは一年前に母を亡くしてからというもの、
父親のタンダの側を離れない子供だった。
今夜は寂しいのではなく、彼なりにたったひとりの家族である父親が心配だったのだ。
必死に短い足でとてとて走ってくる子供を一瞬彼らは放心状態で見ていた。
そんな中小帆がその場を離れ、ルークのもとに駆け寄っていった。
「ダメじゃない。みんなのところにいなくちゃ」
「だって……」
「ここは危ないのよ。あなたのお父さんなら大丈夫だから。ね?」
まだぽよぽよした頬を紅潮させて必死な表情を作っていた子供に、小帆はやさしく言った。
「なぁ、おっちゃん。子供の見てる前でとどめやのなんやの言うんはよそうや……」
「……」
タンダは脱力したようにその場に獲物を落とした。
次いで自分も膝を折る。
よほど悔しかったに違いない。
彼を心配してやってきた幼い息子に駆け寄ってやれる余裕も気力もなく、ただひとりその場に崩れた。
そんな中、彼らの横で地面にふしていた刹火に一瞬にして悪意が満ちた。
こうなったら巫女だけでも……!!
思うと行動が早いのもこの時ばかりは、翼宿の姿を借りて損はなかったと言えよう。
翼宿本人が背後の不穏な動きに気付いたときには、既に刹火の手の中に鉄扇がしっかり握られていた。
刹火からみて丁度右手向こうに、巫女はいた。
その彼の前で方膝を折っている翼宿からは、やや右後方の遠く。
刹火にとっては絶好の位置だった。
その刹火が呪文を唱えた刹那、振り向いた翼宿は長い髪が自分の頬をかすめたのを感じた。
……女?
「烈火っ神焔!!」
その声もやはり彼の思ったとおり高いものだった。
自分の後ろにいたのは確かに自分の偽者であったはずだが。
「……はっ!あかんっ」
そんなことに気をとられている場合ではなかった。
既に炎は放たれた。
「くっ……!!」
「ルーク!!」
間に合うか!?
小帆は聞きなれない声の呪文に悪寒を感じて、彼らのほうを見た。
火が……!!
そう思った途端、彼女はルークを守るようにして抱いた。
私はいい。
でもこの子だけはダメ。
助けて。
光!!
「小帆 っ!!」
翼宿の声が大火より近かった。
井宿が戻ってきたのは丁度その瞬間。
「小帆!翼宿!」
「ぐああぁぁぁっ!!」
しかし、翼宿の悲痛な叫びのほうが彼が印を結ぶ時より一瞬早かった。
ルーク、小帆そして翼宿の姿が井宿の術によって窮地から脱された。
だが、
「痛っ 」
翼宿の背は無残に広範囲にわたり焼け焦げていた。
「翼宿!!?」
小帆は驚いて彼の傷を診た。
「い゛っ!!い゛ででででっ!!!あっあほ!やたらさわん……な」
「ごっ、ごめっ」
「翼宿ー!!大丈夫なのだ!?」
「ち、井宿か。た、助かったで、ホンマ……おっちゃんの子は?無事、か?」
「無事よ。大丈夫」
翼宿が不確かな視界の中で見たのは、タンダが泣きじゃくるルークをなだめているところだった。
「そっか。なら……よかった」
「翼宿!?」
はっとなった小帆を尻目に井宿が脈をとる。
「大丈夫なのだ。気を失っただけなのだ……火傷もそれほど深くないのだ。
……間に合ってよかったのだ」
「翼宿は大丈夫……なんだな」
「はい」
タンダが心底申し訳無さそうに言った。
「すまなかった。ルークが来てしまったせいで……」
「大丈夫です。脈はしっかりしてるし、息も荒くないですからじきに目を覚ますと思いますのだ」
「そうだ!あいつは!?」
小帆が振り返る。
しかし、井宿が答えた。
「逃げられたのだ。オイラが三人を助けた瞬間にはもういなかったのだ」
誰もいなくなった、しかし、暗闇にもそこにかつて何かが横たわっていたのかがわかるその痕跡を見て、
小帆はふいに呟いた。
「私……見たの」
「何を?」
「……火と翼宿の体に視界が覆われる寸前、髪の長い女の人を見た気がするの」
「オイラも見た気がするのだ……」
「え!?」
「一瞬だけだったからよく覚えてないのだ。……でも、とにかく今は翼宿のほうが先なのだ」
「あ、うん」
「俺が運ぶ。早く倒れた天幕を直して運び入れるんだ。ルークそうみんなに伝えろ」
翼宿が目覚めたのは翌朝だった。
背中に火傷を負っているため、うつぶせになっていたのであまり目覚めが良いとは言えなかった。
「背中めっちゃいてぇ……」
「当たり前だよ。軽かったとはいえ火傷負ってるんだから」
とはいえ、小帆はちゃんと彼に礼を言った。
もしかしたら、今こうして火傷で参っていたのは自分だったかもしれないのだと思うと、申し訳なかった。
そう言うと彼は、
「んなん、おあいこや。俺やってお前に助けてもろたしな」
と言って笑い飛ばしたのだった。
「翼宿」
「そんなん気にすんなや」
「ねぇ、翼宿」
「なんや?せやから気にすんなて……」
「ううん。あのね、そうじゃないの」
「は?」
「この傷薬。たぶんすっごい沁みるから……許してね」
「へ?……ぎゃ っっ!!」
翼宿の悲鳴はある意味昨日の大火を浴びた時よりも大きかったかもしれない。
「……すごい悲鳴なのだ」
天幕を開けて、井宿が唖然とした表情のまま入ってきた。
「……私、結構やさしくしたつもりなんだけど」
「あ、お兄ちゃん伸びてるぅ」
井宿の後からはルークとタンダが続いて入ってきた。
「……あ、あほ。ちっともやさしかないわい!!」
「人がせっかく介抱してるのにそんなに怒鳴ることないじゃない」
「あ、こら!人が下手に出たと思って調子に乗りおったな!」
「そんなことないよ!それに私はちゃんと沁みるよって忠告してあげたもん」
「せやから沁みるんやったらもっとやさしくせぇ。こっちゃ怪我人やぞ!?」
「やさしくしたよ!」
「あ、ルーク」
子供と言うのは常に好奇心で動く。
タンダが目を離した隙に、ルークは口論する二人の間にとてとて歩んでいった。
「なぁ、坊主。このお姉ちゃん優しそうに見えて、ホンマはむっちゃ乱暴なんやで。気をつけえよ?」
「ちょ、ちょっと!何関係のない子供にまでヘンなこと……」
しかし、ルークの視線がずっと薬塗りたての翼宿の背の傷に、
釘付けになっているのに二人は気付いた。
同時に「?」を浮かべたその時である。
……つん。
「うぎゃ っっ!?」
こともあろうに彼は翼宿の背中を指で突っついたのだ。
翼宿はしばらく脂汗を吹き出して枕を握り締めた。
「っこ!このくそガキャ!!なにさらすんじゃ〜!!……あ、痛ぅっ……」
どうやらしばらくは安静が必要らしかった。
「あまり怪我人をいじめないのだ。二人とも」
『はーい』
「……いじめとったんかい」
おんどれ。治ったら覚えとれよ!!
と、翼宿が思ったのは言うまでもない。
「はぁ……。で?井宿もおっちゃんもなんや用か?」
「用があるから来たのだ。さっき、二人で行って昨日のことを長老に話してきたところなのだ」
「あぁ……女がおったっちゅーやつか。俺もこいつら庇う前に髪の毛に触れたんや。
あれは確かに長い女の髪やった」
「そうだ。それと、あの刹火がその場から姿を消したこともな」
タンダは言った。
「これから、長老に聞いてきた話をそのまま話すが、翼宿、身体は平気か?」
「あぁ。こんくらいたいしたことあらへん。……そこらへんちょろちょろしとるガキがなんかしてこん限りな」
タンダは苦笑いした。
「わかった。では、話そう」
タンダはそういうと声のトーンを落とした。
まるで昔話をするような、そんな雰囲気が流れる。
実際、彼が話したのはこの国の伝説のようなものだった。
それは実は小帆自身少し覚えのある話で、しかし、彼女の知っているそれとはわずかに違ったのである。
雪女の伝説。
しかし、世にも不思議な雪女の伝説だった。
それは遠い遠い昔、火に魅入られてその身を焦がした氷雪の乙女の物語……。
(update:04.05.30)