第20回:伝承作品「井戸」と関連作品 パターンの増減 

(2025年11月号:通巻769号)

 伝承作品「井戸」の関連作品の2回目です。本来「井戸」→「井戸の囲い」という連続作品なのですけれども、前回は立体的な作品に注目ということで「井戸の囲い」は取り上げませんでした。これは幾何学的で美しい平面的なあやとり作品なのですが、パターンを増やしたり減らしたりできるのです。その点に注目してご紹介することにしました。この回以降、2025年度後半は平面的なあやとり作品に戻ります。以下、「井戸の囲い」を「垣根」と呼ぶことにします。

 なお、本誌掲載記事では「垣根」のパターンを増やしたものを「長い垣根」と名付けてみましたが、記事公開後に同じ作品を江口雅彦先生が1976年のあやとりの本「心をかよわす あやとりあそび」で発表されていることがわかりました。参照できずに申し訳ありませんでした。


「垣根」と「モエ ホラ ヒア」

「垣根」(ローヤルティ諸島) 「モエ ホラ ヒア」(ツアモツ諸島)

 まずは伝承作品の「垣根」と「モエ ホラ ヒア」です。よく似たかたちをした伝承作品だと思います。


「カプンガ ルルツ」と「ツンガ パリリ」

「カプンガ ルルツ」(マオリ) 「ツンガ パリリ」(マオリ)

 「垣根」に非常によく似た「カプンガ ルルツ」という作品と、そこから派生する「ツンガ パリリ」という伝承作品があり、これが「パターンを増やす」例になっています。


パターンの増減

 「垣根」も「モエ ホラ ヒア」も同様にパターンを減らしたり増やしたりすることができるのです。

短い「垣根」 短い「モエ ホラ ヒア」
「垣根」 「モエ ホラ ヒア」 「カプンガ ルルツ」
長い「垣根」 長い「モエ ホラ ヒア」 「ツンガ パリリ」(マオリ)
長い長い「垣根」 長い長い「モエ ホラ ヒア」

 本誌記事でもこのような表のかたちで掲載できるとわかりやすかったかもしれないのですが、手順の説明も含めて記事を書くため、異なるレイアウトになっています。


江口雅彦先生の「柵」

 今回の「あやとりの楽しみ」第20回が公開されたものをあやとり協会の吉田さんが見て下さって、この「垣根」のパターンを増やす手順は心をかよわす あやとりあそび(江口雅彦著、ユニコン出版:1976年9月) という本(リンクは国際あやとり協会の「あやとりの本」のページです)に掲載されているということを教えてくれました。50年も前の本に書かれていたのだということを知って驚いた気持ちと、あの江口雅彦先生ならばやっぱり研究されていたのだな、という納得感と、両方の気持ちになりました。 (江口先生は第7回のサポートページでもご紹介したように「ふえる・あやとり」という記事を書かれていたりして、こういった変化をいろいろ調べられていたようなのです。)

 この本、調べてみたのですが古書でも見つからず、国立国会図書館のサイトで図書館の蔵書を調べてみると、埼玉県立久喜図書館にだけ蔵書があるとのことでした。地元の図書館に相談して、取り寄せていただきました。(吉田さんはたいへんご親切にも貸し出しを申し出て下さったのですが、まずは公的な図書館のサービスに頼ってみようと思ったのです。1週間ほどで取り寄せていただくことができました。ありがたいです。)

 中身を拝見すると、確かに同じ手順で同じ作品が掲載されていました。

江口先生の「柵」
長い「垣根」

 この本に掲載されている内容はきちんと理解しておかなければいけないと思いました。借りることができてとてもありがたかったです。


2025.11.02


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2025.11.02 公開
2025.11.02 更新
長谷川 浩(あそびをせんとや)


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