パターンあやとりの世界


第1章:開始処理・装飾処理・継続処理・終了処理

1.あやとりを取る手順(工程)を分解する

 あやとりを取るときの手順について考えてみます。たとえばご存じの方も多いと思われる「さかずき」というあやとりは、以下のような手順で取ることができます。

さかずき
  1. 人差指の構え
  2. 親指で人差指向こうの糸を取る
  3. 親指でナバホ取り
    ナバホ取り:上下2つの輪のうち上の輪をそのままにして下の輪だけ外す操作
  4. 小指を放す

 最初なので少しだけ図を使って説明しておきます。下の図(Fig.1-11)は「人差指の構え」を取ったところです。赤マルの糸が「人差指の向こうの糸」で、これを親指で取ります。

Fig.1-11:人差指の構え

 次の「ナバホ取り」ですが、これは1本の指に2つ(以上)の輪が掛かっているとき、上の輪はそのままにして下の輪だけを外す操作です。

Fig.1-12:ナバホ取り

 こういったあやとり手順の中で、他のあやとりを取るときにも使い回しできるような一連の処理があったらそれに名前を付けて再利用することを考えます。「さかずき」はシンプルなあやとりなので、再利用できるのは冒頭の「人差指の構え」くらいですが、一般にパターンあやとりはこんな風に処理を分けて考えることができます。

Fig.1-13:[1.開始処理]→[2.継続処理]→[3.終了処理]

糸が手にかかっていない最初の状態から、1.開始処理であるパターンを作ります。たとえば開始処理として「人差指の構え」を取った場合、両手の3本の指にそれぞれ1つずつ輪がかかった状態になります。2.継続処理 というのは、その状態から何か操作を行って、両手の間の図形(糸のパターン)を変化させ、再び両手の3本の指にそれぞれ1つずつ輪がかかった状態にする操作です。最後に3.終了処理で仕上げます。

 簡単な実例を見てみましょう。最も簡単な三本指の開始処理、「人差指の構え」です。

Fig.1-14:開始処理「人差指の構え」
  1. はじめの構え
  2. 右人差指で左掌の糸を取る
  3. 左人差指で右人差指の輪の中から右掌の糸を取る

 次に継続処理の例です。三本指の状態から始めて三本指の状態に戻る継続処理として多用される「ナウルの太陽」です。

Fig.1-15:継続処理「ナウルの太陽」
  1. 人差指の構え
     もしくは親指・人差指・小指に1つずつ輪がかかった状態
  2. 親指で人差指の向こうの糸を取る
     親指には2つの輪がかかっている
  3. 中指で親指向こうの糸を取る
  4. 親指の2つの輪を外す
  5. 親指を人差指の輪に上から入れ、人差指向こうの糸と小指手前の糸の下から小指の向こうの糸を取る
     これは少し難しい操作です
  6. 小指の輪を外す
  7. 中指の輪をつまんで外し、向こうへ半回転ひねって小指にかける
    もしくは、小指で中指手前の糸を取り、中指の輪を外す

 この「ナウルの太陽」は連続して何回も取ることができます。

 最後に終了処理の例です。三本指の状態からの終了処理として有名な「カロリン展開」を、「ナウルの太陽」に対して施してみます。

Fig.1-16:終了処理「カロリン展開」
  1. (三本指の状態から)人差指の輪を外す
     両手を左右に少し広げて人差指の輪だった糸のたるみを無くし、中央の図形を整える
  2. 人差指を親指の輪に上から入れ、親指手前の糸をすくいとって親指を外す
  3. 親指を下から小指の輪の中に入れ、下から小指手前の糸と人差指手前の糸を取り、人差指の輪を外す
    親指には2つの輪がかかっている
  4. 人差指を上から親指の輪の中に入れ、人差指の先で親指向こうの糸を下から向こう、上へとすくいとる
    親指は外さない
  5. 親指の向こうの2本の糸を親指と人差し指の根元ではさんで固定しながら人差指の先端で糸を左右に引き、全体のかたちを整える

 上の写真で、左右の中央に2本のピンで水平な2本の糸を固定していますが、これが親指と人差指根元ではさんで固定している糸になります。



 一般には、途中の状態は常に3本指とは限らず、4つの輪の状態になったり5つの輪の状態になったりします。

Fig.1-17:[開始処理]→[継続処理xx]→・・・→[継続処理xx]→[終了処理]

 もちろんこれ以外の他の種類の状態もたくさんあります。こんな風に中央部分の図形のかたちは考えないで、どの指にどんなふうに輪がかかっているのかだけに注目して状態遷移を考えると、あやとりの処理を系統的に理解しやすくなるのです。

 次頁では最もシンプルな開始処理を説明します。

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2021.05.01
長谷川 浩(あそびをせんとや)


(c)2021 長谷川 浩
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