以前の「ひとこと」 : 2002年7月前半
7月1日(月) ムシハフナ・ロシヤフミ
米粒の話の続きです。米粒の粒の数と容積、重さについてWebで検索してみたら、一升の米粒の数はムシヤフナというページをみつけました。
このページの情報によると、一升の米粒の数はムシハフナ(64827)粒という言い伝えがあるのだそうです。これとは別に、ロシヤフミ(ロシア文:64823)という覚え方もあるということが書かれています。また、5例の実測例が載っていて、その平均値が上記の数字に極めて近い値になっています。 (昨日予想した「一合一万粒」というのはだいぶ大きめの数値でしたが、倍以上違ったというわけではないので、まあよい数字だったかと自己満足しました。)
さて、一升が約6万5千粒というと、これは2の16乗(65536)にかなり近い数字です(ムシハフナ、の62827の2を底とした対数は15.984…で、ほとんど16です)。ということは、初日が米粒1粒で、毎日倍・倍にしてゆくと、16日目にやっと一升になるということです。
一昨日のひとことでご紹介した話では1ヶ月これを続けるということなので、あと14日、この倍々ゲームを続けることになります。2の10乗が1024で約1000なので、2の14乗は約1万6千です。ということで1粒から始めて毎日倍・倍にしてゆくと、30日目には16,000升になっているということです。10升が1斗、4斗で1俵ですから、16,000升は1,600斗、400俵ということになって、40石ということになります。1日目からの累積になりますから、高校で習う等比級数で和を計算するとだいたい80石ということになりますが、それにしても30日くらいだとあんまりたいしたことがないですね。元の話は麦なのでちょっと違いますが、王様の穀物倉が空になる、というのはちょっと大げさかなという気もします。(ということは私の記憶違いかな。)
なお、インターネットおコメ館:おコメの単位というページに、コメの計り方について解説されていました。
<おまけのひとこと>
昨年に続いて今年もあんずの収穫をしてきました。「ジャムの中では昔からあんずジャムが一番好き」という妻ががんばって、昨夜のうちに4リットルビンに2本分をジャムにしました。梅もいっしょに収穫してきました。
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あんずと梅のジャムを参考にもらってきたのですが、子供たちが気に入って今朝もパンにつけて食べるといって食べていました。
7月2日(火) 多面体モデルに糸を通す:正十二面体・正二十面体
このところ3日ほど米粒の話をしていて、ビーズ多面体に糸を通す話の残りを載せていませんでしたので、今日まとめて図だけ載せておきます。
正十二面体を2つに分ける閉路 ⇒
左側の図のように、正5角形を底にして、5枚の正5角形を側面にした陶器の小鉢があるそうですね。このような面の対が6対あるので、右側の図のように6つの閉路ができます。
正二十面体を2つに分ける閉路 ⇒
正二十面体の場合も同様に、12個の頂点を6対に分けるような閉路が6つ存在します。これらを重ね合わせることで、1本の糸が各辺をちょうど2回ずつ通り、各面の全ての角を一度ずつ通る経路になります。
<おまけのひとこと>
昨夜帰宅したら、うちじゅうのビンが集められてジャムの容器になっていました。写真はそのごく一部です。
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7月3日(水) ゲームの理論
ふたりでじゃんけんをして、グーで勝ったらグ・リ・コと言って3歩進み、チョキで勝ったらチ・ヨ・コ・レ・イ・トと言って6歩進み、パーで勝ったらパ・イ・ナ・ツ・プ・ルと言ってやっぱり6歩進むという遊びがあります。子供の頃、階段とか歩道などで遊んだものです。
普通のじゃんけんでは、相手がグー・チョキ・パーをどのような比率で出してきたとしても、自分は3つを等確率で出していれば長期的には必ずとんとんになりますが、上記の遊び(名前がわかりませんが「グリコ」としておきましょう)ではどうでしょうか? この遊びでは明らかにグーで勝つよりも、チョキやパーで勝つほうが嬉しいですよね。
とすると、最適な戦略はグー・チョキ・パーをそれぞれどういった割合で出すのがいいんでしょうか? グーで勝ってもあまり嬉しくないので、グーを少なく出したほうがいいでしょうか? それともやっぱり同じ割合で出すほうがいいでしょうか? それとも他に最適な戦略があるでしょうか? ちょっと予想してみてください。
<おまけのひとこと>
ゲームの理論をご存知の方には簡単な問題ですね。ゲーム理論については、以下のページがなかなかいいです。
・ゲーム理論入門--ゲーム理論の成り立ち
・第7章 ゲーム理論
<おまけのひとこと:その2>
日経サイエンスの最新号の「パズリング・アドベンチャー」というコラムにゴール目指して駆け抜けろ!という小さなゲームが紹介されていました。 多分1ヶ月くらいで上記のリンクは辿れなくなりそうですので、ルールを簡単にまとめておきます。6×6マスの盤で攻め方が1駒、守り方が3駒で戦うゲームで、攻め方は前と斜め前の3つのうちどこかに移動でき、守り方は将棋の王将と同じく8近傍に動けます。交互にプレーしますが、攻め方は一度に2手動かせます。守り方は将棋やチェスと違って、1回の手番で自分の3駒を全て動かせます。守り方は動かない駒があってもOKです。
別の駒があるマスには入れません。従って攻め方の駒の進める先である前と斜め前の3マスを、守り方の3駒がふさいでしまえば攻め方は動けませんから守り方の勝ちです。攻め方は、6×6マスの盤の一番遠くの列(守り方の陣地)に進入すれば勝ちです。(6マスのうちのどこでもOKです。)
最初は、攻め方は自分の陣地(一番手前の列)の6マスのうち、好きな場所に自分の唯一の駒を置きます。守り方はそれを見届けた後、自分の3駒を、自分の陣地から3段目まで(攻め方から3マス以上はなれたマスに)布陣します。配置が終わったら攻め方からゲーム開始です。
このゲームを子供たちにやらせてみました。自力で必勝法を見つけて欲しいんですが、まだわかっていないようです。
7月4日(木) アンダーカット
とあるコラムで読んだのですが、2人で遊ぶゲームで「アンダーカット」というものがあります。ちょっとその遊びをご紹介してみようと思います。
2人のプレーヤーは、1から5までのうち、好きな数字を1つ出します。通常は出した数字がそのまま自分の得点になります。ただしもしも自分の出した数字が相手よりちょうど1つだけ小さかったら、これを「アンダーカット」と呼んで、このときに限り自分と相手の数字の和が自分の得点になります。アンダーカットされてしまった側は0点です。 また、2人とも同じ数字を出した場合は、両者とも0点です。 これを、例えばどちらかが予め定めた目標得点を超えるまで続けます。先に目標を超えたプレーヤが勝ちです。
と、これだけの説明ではよくわからないかもしれないので、実戦の例を1つ載せます。先に100点取ったほうが勝ちという条件です。表の欄は順に勝負の回数、出した数字、累積得点を表します。39回の勝負で決着がつきました。長いので表を4つに分けて表示しています。
0 - 0 - 0 1 [5]-[1] 5 - 1 2 [1]-[3] 6 - 4 3 [3]-[5] 9 - 9 4 [2]-[1] 9 - 12 5 [5]-[3] 14 - 15 6 [3]-[5] 17 - 20 7 [2]-[4] 19 - 24 8 [1]-[4] 20 - 28 9 [4]-[2] 24 - 30
10 [3]-[1] 27 - 31 11 [5]-[1] 32 - 32 12 [3]-[5] 35 - 37 13 [3]-[4] 42 - 37 14 [1]-[1] 42 - 37 15 [5]-[2] 47 - 39 16 [3]-[4] 54 - 39 17 [1]-[3] 55 - 42 18 [5]-[1] 60 - 43 19 [2]-[2] 60 - 43
20 [3]-[2] 60 - 48 21 [4]-[1] 64 - 49 22 [1]-[5] 65 - 54 23 [2]-[3] 70 - 54 24 [2]-[4] 72 - 58 25 [1]-[2] 75 - 58 26 [1]-[2] 78 - 58 27 [2]-[3] 83 - 58 28 [3]-[1] 86 - 59 29 [4]-[3] 86 - 66
30 [1]-[3] 87 - 69 31 [1]-[3] 88 - 72 32 [2]-[3] 93 - 72 33 [1]-[4] 94 - 76 34 [1]-[4] 95 - 80 35 [2]-[4] 97 - 84 36 [3]-[3] 97 - 84 37 [2]-[5] 99 - 89 38 [1]-[1] 99 - 89 39 [1]-[5] 100 - 94 0対0から始まって、1回目は左側のプレーヤーが5を、右側のプレーヤーが1を出して、それぞれ出した数字がそのまま自分の得点になりました。2回目は1と3を出して、やはり出した数字がそのまま得点に加算され、6対4になりました。というように続けて行きます。
表の中で青い数字は左側のプレーヤーがアンダーカットしたことを示し、赤い数字は右側のプレーヤーがアンダーカットしたことを示します。また、グレーの数字は引き分けで点が入らなかったことを示します。
なお、このプレイの例は、1から5までを乱数で一様に発生させたものと対戦してみたものです。(面倒なので、得点の計算から色分けしたhtmlのソースまで自動生成してくれるようにしてあります。C言語で100行ちょっとです。)
○ 子供たちにこのゲームを教えてみようと思うのですが、カードを5枚ずつ渡して選んで出すようにするのがいいのか、それともサイコロを1つずつ渡して、好きな目を上にして置いて隠しておいて、同時に覆いをどけて勝負する、というかたちにしようか、いろいろ考えています。
<おまけのひとこと>
昨日ご紹介した、じゃんけんをしてグーで勝ったらグリコ…という遊びですが、妻が「グーで勝った時は『グリコのおまけ』と言って7歩進んでいた」というのです。ついでに、遊びそのものも「グリコのおまけ」と呼んでいたとか。そこで、「グリコのおまけ&じゃんけん」で検索してみたら、いろいろ出てきました。 でも、これだとグー・チョキ・パーのどれで勝ってもあまり違いが無くて、ちょっと物足りないような気がするのですが…
7月5日(金) アンダーカット(その2)
1から5までの好きな数字を出して、相手よりちょうど1つだけ小さかったらボーナスがもらえるという「アンダーカット」という2人ゲームの話の続きです。くわしくは昨日のひとことをご覧下さい。
さて、昨日のプレイの例は、擬似乱数を使って計算機に1から5までを等しい確率で出させていました。昨日の例ではとりあえず相手の戦略がわからないものとしてプレイしてみましたが、もし相手がサイコロを振るように1から5までを等確率で出してくるとしたら、自分のとるべき最適な戦略はどうなるでしょうか?
アンダーカットゲームの利得行列 相手 1 2 3 4 5 自分 1 0 3 -2 -3 -4 2 -3 0 5 -2 -3 3 2 -5 0 7 -2 4 3 2 -7 0 9 5 4 3 2 -9 0 この表は、自分が出す手5通りと、相手が出す手5通りのそれぞれの組み合わせについて、自分がどれだけ得をしたかを表したものです。例えば自分が4で相手が1のところには3と書いてありますが、これはゲームのルールにより、相手と自分はそれぞれ1点と4点をもらえますから、差し引き自分が3点得をしているということを表します。同様に自分が2で相手が3ならば、アンダーカットが発生して相手は0点で自分が2+3=5点ですから、自分が5点得をしていることになります。このような表のことを、ゲームの理論で利得行列と呼びます。
○ さて、相手が1から5までを均等に出してくるとします。そのとき仮に自分がずっと同じ手を出し続けたらどうなるでしょうか? 例えばずっと1だけを出しつづけるとしたら、相手が1ならばひきわけ、相手が2ならばアンダーカットできますが、あとの場合は相手のほうがもらえる点が多くなるので損です。上記の利得行列の横方向に足し算してみると、同じ手を出しつづけたときに5回の勝負あたり平均でどれだけ損得があるかがわかります。
相手が均一に手を出すときのそれぞれの手の利得 相手 計 1 2 3 4 5 自分 1 0 3 -2 -3 -4 -6 2 -3 0 5 -2 -3 -3 3 2 -5 0 7 -2 2 4 3 2 -7 0 9 7 5 4 3 2 -9 0 0 これを見ると、相手が確率の等しいサイコロを振って手を決めているとしたら、4だけをずっと出しつづけるのが有利だということがわかります。 (それではゲームの説明にならないので、昨日はあえて普通にプレイしてみました。) ところが人間同士でプレイしているとすれば、相手が絶対に4しか出さないと思ったら、3を出したくなるでしょう。少なくとも5は出しにくいはずです。
ではどういう戦略が最適か、という話はまた後日したいと思います。
<おまけのひとこと>
通勤に使っている車のエンジンオイルの警告灯が点きました。月曜日にガソリンを入れるついでにみてもらったところ、オイルパンにひびが入っているからはやく修理しないと危険だと言われました。確かに数ヶ月前、駐車スペースのエンジンルームの下あたりに油染みが出来ていたのですが、最近はまた油が垂れなくなっていました。オイルを足したらまた漏るようになるかな、と思ったのですが、いまのところ大丈夫のようです。ゴミとかでひびが目詰まりしているんだろうか、などと想像しています。来月車検なんですが、どうしようかな。
7月6日(土) 「グリコ」ゲームの分析
7月3日にご紹介した「グリコ」ゲーム(じゃんけんでグー・チョキ・パーで勝ったらそれぞれ「グリコ」「チヨコレイト」「パイナツプル」の文字の数だけ進めるというゲーム)について、最適戦略は何か考えてみした。 この場合もまず、それぞれの出す手に対する利得行列を考えます。
「グリコ」ゲームの利得行列 相手 グー パー チョキ 自分 グー 0 -6 3 パー 6 0 -6 チョキ -3 6 0 結論だけ述べると、最適な戦略はグー・チョキ・パーを2:2:1の割合で出すというものです。この割合で出すときのみ、相手がどんな割合でグー・チョキ・パーを出してきたとしても、長期的にはかならず損はしないのです。(このゲームは2人のプレーヤーは完全に対等な条件ですから、両者が最適な戦略をとれば引き分けになります。)
下の計算は、自分がグー/パー/チョキを出す確率を(p1,p2,p3)とし、相手の確率を(q1,q2,q3)としたときに、自分の利得の期待値を計算したものです。ご覧のとおり自分の確率を2:1:2にすると、相手の確率にかかわらず利得は0になることがわかります。
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自分の戦略がこれ以外の場合、必ず相手の側に期待値が0以上になる有利な戦略が存在します。従って、これが最適な戦略なのです。
○ こういうのは定性的な説明をするのは本質の理解からかえって遠ざかったりするのですが、一応言葉で説明してみます。
例えば「グーを出して勝ってもあんまりおもしろくないから、グーを出す比率を下げよう」という方針でプレイするとしましょう。いずれ相手には「グーが少ない」ということは悟られるでしょう。そうしたら相手は「チョキ」を多用してくるでしょう。そうなると、自分は主にパーかチョキしか出さないので、どんどん相手の得点が増えることになるでしょう。
また、グー・チョキ・パーを同じ割合で出していたとすると、相手がチョキだけしか出さければ、じゃんけんの勝敗は五分五分になりますが、自分が勝つときには3点、相手が勝つときには6点ですから、相手のほうが倍も期待値が高いということになります。
パーを減らしてもよい理由は、このゲームではグーではなくチョキが脅威だからです。ですからグーを押さえるためのパーは減らして、むしろチョキを押さえるためのグーのほうを増やすことが有効になります。
○ 例えば、グー・チョキ・パーで勝ったときにもらえる得点が1点・2点・5点だったとしたら、どのような比率で出すのがいいでしょうか?
<おまけのひとこと>
行列の計算が面倒なので、とりあえずMicrosoftの表計算ソフトのExcelを使って連立方程式を解いたり逆行列を計算したり検算をしたりしているのですが、使い勝手がよくありません。 まあ今日のように3x3行列くらいだったら別に手計算でいいんですが。
7月7日(日) アンダーカット(その3)
1から5までの好きな数字を出して、相手よりちょうど1つだけ小さかったらボーナスがもらえるという「アンダーカット」という2人ゲームの話の第3回目です。
昨日はじゃんけんゲームの戦略の話をご紹介しましたが、このアンダーカットというゲームも、結局は1から5までの数をある割合で出すというのが最適の戦略です。結論から言うと、1/2/3/4/5をそれぞれ(10,26,13,16,1)の割合で出すというのが最適です。
アンダーカットゲームの利得行列に重みをつける 相手 1 2 3 4 5 自分 1 (10/66) 0x10 3x10 (-2)x10 (-3)x10 (-4)x10 2 (26/66) (-3)x26 0x26 5x26 (-2)x26 (-3)x26 3 (13/66) 2x13 (-5)x13 0x13 7x13 (-2)x13 4 (16/66) 3x16 2x16 (-7)x16 0x16 9x16 5 ( 1/66) 4x1 3x1 2x1 (-9)x1 0x1 計 0 0 0 0 0 一昨日にご紹介した「アンダーカット」ゲームの利得行列に、上記の自分の出す手の比率を重みとして掛け算してみると、上の表のようになります。これを縦方向に足してみると全部ゼロになります。これがどういうことかというと、相手が例えば1だけ、とか2だけ、とか任意の1つの手をずっと出し続けたとしても期待値はゼロだということです。さらに、相手が任意の割合で1から5までを出してきたとしても、やはり期待値はゼロということになります。
ゼロというのはあまりよくないように聞こえますけれども、相手がどんな戦略を採ろうとも期待値がマイナスにならいということは「絶対に負けない」ということですから、この戦略を知っていることは、実際にそれを採用するかどうかにかかわらずとても有益です。
○ このゲームは出せる数字が1から5までと限定されていました。この限定を取り去った「オーバーカット」というゲームもあるそうです。これは二人のプレーヤが好きな数字(自然数)を出して、少ない数字を出したプレーヤだけが自分の出した数字を得点としてもらえるというものです。ただし数字の差が1だった場合のみ、大きい数字を出したプレーヤが、二人の数字の和を得点としてもらえます。
この場合は例えば大きな数字も言えるということで、目標を500点とかにしてみましょう。実はこのゲームも、ゲーム理論で最適な戦略が解析されていますが、それはどんな手をどんな割合で出すものだと思いますか?
<おまけのひとこと>
先々週末にまとめて用意しておいたゲーム理論関係の「ひとこと」のストックがそろそろおしまいになりました。 昨日ご紹介した「グー・チョキ・パーの得点が1:2:5の時の最適戦略の話」や、今日ご紹介した「オーバーカットの最適戦略の話」など、もし興味がある方がいらしたらメール等でお問い合わせ下さい。明日からは別の話題にしようかと思っています。
7月8日(月) 5角24面体を編む
久々にペーパーモデルの多面体のお話です。今年の4月13日に菱形三十面体、4月14日に菱形十二面体、4月16日に凧型24面体、4月21日に凧型60面体と、多面体を構成する面を帯状に繋いだ紙で編む話をご紹介しました。 その時の手法では、少なくとも全ての面が偶数角形である必要がありそうでした。
最近、その条件を少し緩和すれば奇数角形の面を持つ多面体も編めるのではないかと思い至り、さっそくねじれ立方体の双対である5角24面体を設計して編んでみました。パーツは、面が8つ連結したものにオーバーラップ分の2面を加えた10面分で、これを6本使って組みます。
5角24面体(1) 5角24面体(2) せっかくですので型紙も載せます。pent24.pdf(7kbyte)です。この型紙はパーツ3つ分しか載っていませんので、同じものを2枚印刷してください。5角形のうちの1辺がスリットとして残るのを許すことにして、残りの4辺について、今まで同様にパーツが互い違いに表に出てくるように編みます。
作ってみて判ったのですが、スリットがあるため若干まとまりが悪いです。 多面体を編む手法では、表に出た面は、隣の面の下にもぐりこむ事によって隣の面に押さえられて安定するのですが、今日の立体の場合は5角形ですから5辺のうち2辺しか押さえてもらえません。そうすると5角形のうち1箇所だけ、隣り合う2辺とも押さえられていない角が出来てしまいます。その角が浮き上がってきてしまうのです。(左側の写真の右上に写っている面の、左上の角が浮き上がっています。)
<おまけのひとこと>
そういえば、凧型60面体の型紙を載せるのを忘れているのに気がつきました。
7月9日(火) 正十二面体を編む
昨日、スリットが残るのを許すという条件で5角24面体を6本の帯で編んだものをご紹介しましたが、5角形の多面体といえばそれよりなによりまず正十二面体だろうということで、順番が逆になってしまいましたが正十二面体を設計して作ってみました。
スリットは各面それぞれ1本ずつあることになりますが、1つのスリットはその両側の面に共有されるため、12面体ならば6本のスリットがあることになります。 スリットを無視して、それ以外の4辺について対辺につながるように面の帯を作っていくと… あれあれ? なんだか1本の帯で組めそうです。 展開図も自分自身と重なることなく、ちゃんと普通の平面に載ります。 規則的でとてもきれいな形です。
⇒ 正十二面体の型紙(1枚編み) 正十二面体 本当に組めるだろうかとどきどきしながら展開図を作って印刷し、切りとって組んでみました。 パーツはたった1枚ですので、帯の端は2箇所しかありません。組んでいって、どこかの面の上下関係が逆だと思ったら、そこまでほどいて組み直さなければいけません。正5角形なので、横切っている帯の下をくぐらせるのも大変です。 ちょっと苦労しましたが上の右の写真のように、ちゃんと組むことが出来ました。
型紙はdodeca.pdf(7kbyte)です。ひょろひょろっと細長い展開図なので、A4の紙に印刷しても正5角形の一辺の長さは1.2cmくらいで小さいです。
<おまけのひとこと>
紙テープや帯のようなものを平らに結ぶと、結び目のところに正5角形ができます。そのため、このような5角形が連なる形は紙テープのようなものを結ぶことによっても作ることができます。実際には結び目が分厚くなってしまうのでそれで正十二面体を組むのは難しいでしょうけれども、理論的には普通の幅一定の帯を結んで編むだけで正十二面体ができるということで、とても面白いと思います。
7月10日(水) 正十二面体を編む(その2)
昨日は1本の帯で正十二面体が編めることをご紹介しましたが、素直に考えると4本の帯で編むことになります。これはどうやって考えているかというと、最初に正十二面体のスリットがどこに入るかを考えて、そのスリット位置を実現する面のつながりがどうなっているかたどってみる、という風にしています。
昨日もお話した通りスリットは6本入るのですが、その6本の位置関係は1通りではありません。一番素直に考えると下のパターン1のようになります。図の赤い線がスリットとして残る6箇所を表します。このパターン1の時に4本の帯で編むパターンになります。
パターン1 パターン2 パターン3 それに対して、スリットをパターン2のように配置してみると昨日のように1本の帯になります。 そのほかにも例えばパターン3のようなスリットの残し方もあって、この場合は長い帯と短い帯が1本ずつになりました。
○ 上の図を見ていると、赤い線を蝶番として2枚の正5角形をつないでいるパターン(下図)が6個集まっているようにも見えます。
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スリットの位置を考える場合、この正5角形2連結の部品6個で正十二面体を覆うパターンを考えると面白いです。
<おまけのひとこと>
昨夜は職場で飲み会があって、ちょっと飲みすぎました。 ということで今日の説明は不親切です。
7月11日(木) 正十二面体を編む(その3)
昨日、スリットを蝶番にして2枚の正5角形を繋いだもの6組を組み合わせて正十二面体を構成することによって、6本のスリットの位置をデザインできるという話をしました。(初めてお読みになる方にはなんのことやらさっぱりわからないと思います。すみません。) このとき、面の帯が通過する方向はスリットに対して一定で、ちょうど「たすきがけ」のようになります。これを線として描いてやると、面の帯がどのように連なって行くのかがわかりやすいかな、と思いました。
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このパターンを使って、正十二面体を4本の帯や1本の帯で編むときの面の繋がり具合を図示してみました。最初に、4本の帯で編む場合です。この場合は5角形6個で一回りする“大円”が4つ集まった形になります。
4本の帯で編む場合 スリットパターン1 面の帯の連結方向(表) 面の帯の連結方向(全部) 当たり前ですが、左の図の赤線で描いたスリットの稜を横切る青線がないことにご注目下さい。 一番右の図は、直接は見えないはずの裏側の面の軌道も淡い色で描いてあります。ちょっと見るとごちゃごちゃしてわかりにくいですが、実はこの裏側の面の軌道は、中央の表の面の絵の上下を逆さにしただけです。
1本の帯で編む場合 スリットパターン2 面の帯の連結方向(表) 面の帯の連結方向(全部) 1本の帯で編む場合は、青い線は全部ひと繋がりになります。やっぱりちょっとわかりずらいですが、一番右側の図で丁寧に青い線を追っかけてゆくと、全部の道を1回だけ辿って戻ってきます。
<おまけのひとこと>
面の帯をたどるには、本当は双対多面体(この場合だと正二十面体)の稜をたどるとわかりやすいです。ただ、上のような絵を描くのがとても楽しいものですから、ついつい描いてみました。
7月12日(金) 甲乙付け難い2つ
先日、こんな本を買いました。
『多面体の模型』
─その作り方と鑑賞─
・マグナスJ.ウェニンガー 著
・茂木 勇、横手一郎/共訳
・教育出版
・1979年8月15日初版
・ISBN4-316-31571-4
・4,500円
プラトンの5つの正多面体、アルキメデスの13の準正多面体にはじまって、星型多面体・複合体、そして凸でない一様多面体など、実に119種類の多面体の作り方が載っています。写真と図を見ているだけでとても楽しいです。
さて、この本の中の正十二面体の項に、以下のような記述があります。(p.19)
正12面体は、ある意味では、5種のプラトンの立体の中で最も魅惑的である。なお、もし2番目に魅惑的な立体といえるものがあるとすれば、正20面体がその1つである。
正十二面体 正二十面体 うーむ、私は正十二面体と正二十面体のどっちが好きかと尋ねられたら悩みます。この2つは互いに双対で表裏一体、分かちがたいということを置いておいても、例えば模型を作るとして、面モデルなのか稜モデルなのか頂点モデルなのか、色分けをするのか単色なのか、素材は…といろいろ考えると、やっぱり甲乙付けがたいと思うのです。
<おまけのひとこと>
この正十二面体と正二十面体を選べない感じに近いものはないか、自分にとって「どっちもすごく好きで選べないもの」というものの例をいくつか考えてみました。…どれも違いますね。 「どっちもすごく好きで選べないもの」といったらどんなものを思いつきますか?シャケのおにぎりとたらこのおにぎり ラーメンとそば ビールとお酒 バッハのピアノ曲とショパンのピアノ曲 本屋さんと楽譜屋さん 軽自動車と普通乗用車 地下室と屋根裏部屋(うちには屋根裏部屋はないですけれども)
7月13日(土) 正十二面体を編むパターン(4本)
5角形が6個連なった帯で正12面体を編むときの面のつながり具合がどうなっているかという絵を、直線で描いてみました。図1が手前に見えているものだけ、図2が裏側を薄い色で描いてみたもの、そして図3は4つの六角形を色分けしてみたものです。
正十二面体を4本の帯で編む軌跡 ⇒ ⇒ 図 1 図 2 図 3
↓
↓
↓図 4 図 5 図 6 図1〜3は、ちょっとごちゃごちゃした図になっているので、正十二面体の骨格を取り去って、6角形4個だけの絵にしてみました。4個の6角形の絡まり方がおわかりになるでしょうか?
<おまけのひとこと>
この週末は更新をお休みしてしまいました。
7月14日(日) 正十二面体を4本で編む(実践編)
さて、実際に4本の帯で正十二面体を編んでみました。12面体ですから、4本で編むとそれぞれの帯は3面ずつ表に出ます。そこでせっかくですからそれぞれの帯の表に出る面に色をつけてみました。画面上で見ると、私の環境ですと淡い青と淡い緑の色の区別がつきにくいのですが、実際に印刷してみると違いははっきりわかりました。
⇒ 正十二面体を4本で編む型紙(PDF:6kbyte) 写真1 写真2
(4本編みと1本編み)5角形が連なっている絵を描くのはわりとやさしいと思いますが、一応PDFファイルで型紙を載せておきます。
写真1のように、1つの色の周りを3つの色が2:2:1で取り囲むようになります。こうやってみると対称性がよくわからないですが、写真2をみていただくと、赤・青・黄色が集まっている1つ外側を、3つの緑(全ての緑)が取り囲んでいるのがなんとか見えると思います。
この正十二面体を4本で組むのは、今までの多面体を編むシリーズと比較してちょっと難しいかもしれません。4色の色をつけてあるほうが若干やさしいかと思います。で、出来上がりが若干まとまりに欠けるので、正直あまりよいデザインではないかなあと思っています。
<おまけのひとこと>
下の子が、私がコンピュータで型紙を作っているところからプリンタで刷っているところ、カッターで切り抜いて折り目をつけるところ、組み上げるところまでを面白そうにずっと見ていました。出来上がった12面体を見て、家に100個以上転がっているビーズや紙やブロックで作った多面体の中から、正十二面体を集めていました。
7月15日(月) 正6角形4枚のモデル
一昨日のひとことで、正6角形4枚で正十二面体に内接する形を見ていただきました。これを実際に正6角形の紙4枚で組んでみようと思って、さっそくやってみました。これも一応ここ(ring6_12.pdf:7kbyte)に型紙を置いておきます。
正6角形4枚による正十二面体の骨格 ⇒ ⇒ 写真 エッジをなぞった 外接正十二面体 切り欠きの位置は6角形の各辺をちょうど黄金比に分割するように入れます。実際に作ってみると、この立体から正十二面体を想像するのはちょっと難しいです。一応写真を撮ったものの外側に絵を描いてみました。
4枚の6角形に入れた切込みは、4つとも全部異なっています。外側に切込みが入っているのが内側のパーツで、中側に切り込みが入るのが外パーツです。中/中/中、中/中/外、中/外/外、外/外/外の4パターンになります。この4つをこの順に組んでゆきます。
<おまけのひとこと>
今までの立体と違って、風でコロコロとよく転がります。