さて、そのゲオルク・シェーファー・コレ
クションなのですが、数は42と少ないのです
が、これが名品揃い。

     Altdeutsche Bilder
     Der Sammlung Georg Schäfer,
     Schweinfurt

という単行本まで出版されているくらい。

 とりわけ

      Lucas Cranach der Ältere
         Martin Luther
         Katharina Bora
         1528

は傑作中の傑作なのです。Lucas Cranachに
よる夫妻の肖像画はスイスのバーゼルに小さ
いのがあり、ワイマールに中版のがあるけれ
ど、どうぞ比較なさってください。優劣の差
は歴然としています。良好な保存状態もさる
ことながら、描かれている当人の精気と迫力
が画面から噴き出しています。

 このような名品がカバーもなしに接近して
観察できる美術館は世界でもあまり多くない
と思います。

 私は美術好きのおたく傾向があるので、
コーブルグへくるのは、大袈裟にいえば、
コーブルグ要塞美術館に収蔵されている
Georg Schäfer (ゲオルク・シェーファー)
コレクションを見るのが目的なのです。

 ドイツの美術は、おおざっぱなことをい
えば、イタリアのルネッサンスのころに始
まるのですが、その頃の絵画や彫刻はあま
り数が多くない。私は30年ほども前にドイ
ツの西部のデュッセルドルフという町に暮
らしていたが、あのあたりは文化不毛の土
地で、古い美術品にも滅多におめにかかれ
ない。ドイツの古美術はミュンヘンからド
レスデンにかけて点々と各地に埋蔵されて
いるのです。ちょうどイタリアの古美術を
鑑賞するためには、イタリアの各都市国家
を回り歩かねばならないのと同様、ドイツ
でも美術は足でかせぐ必要があるのです。

その数少ない古美術のなかでも最上の蒐
集品の一つがコーブルグ要塞に収蔵されて
いるGeorg Schaferコレクションなのです。

画像:http://www.britain.tv/wikipedia.php?title=Coburg

コーブルグの町に到着し、駐車場に車を入れてから
気がついた。私はいったいどこにいるのか。

ふつうの大きな街ならば、街の地図が案内書(たと
えば「地球の歩きかた」)に載っている。ところが、
このコーブルグという町は「地球の歩き方」にはもと
もと載っていない。私の頼りとする
Michelinにも地図
など載ってはいない。
City PlanInformationで貰え
ばことは済むのだが、どこに
Informationがあるかさ
え私にはわかっていないのだ。

画像:
Pieta
Franken oder Thueringen
Um 1360/70
Kunstsammulungen der Veste Coburg
©2004 Deutscher Kunstverlag GmbH Munchen Berlin

画像:
http://www.schaeffler.com/remotemedien/media
/_shared_media/company/history/fag/1896_42_0
3-01_history.jpg

 さてこのコレクションの蒐集をしたGeorg Schäfer
という人の解説をしておかなければなりません。

 ご存じのように産業革命は英国で1730年ころに紡
績業で始まったのですが、1769年にジェームズ・ワ
ットの蒸気機関の発明があり、機械化がはじまりま
した。1817年には足蹴り自転車がドイツのドライス
伯爵によって発明されたのですが、この自転車はベ
アリングも空気入りタイヤも使われてはいなかった
のです。


 ところが1883年、この自転車の回転部分に使用す
ることを目的として、ドイツの
Friedrich Fischer
ball grinderを設計し完全な球体で精密なサイズ
の金属ボールの大量生産に成功したのです。

 世界ではじめての快挙でした。

画像:
http://www.schaeffler.com/remotemedien/media/_shared_
media/company/history/fag/1883_23_86-02_history.jpg

画像:ドライジーネ
http://www.cycle-info.bpaj.or.jp
/japanese/history/nenpyo/nenp02.htm

 それまでの機械は、可動部分はすべて
「すべり抵抗」の原理で作成されていた
のですが、Fischerのボールの発明により、
機械に「転がり摩擦」の原理が導入され
ることとなり、運動にかんする抵抗値は
桁違いに小さくなりました。機械産業の
基礎がここで築かれたのです。

 実に、ドイツが機械王国となった原因
の一つは(コーブルクからほど遠からぬ)
SchweinfurtにおけるFischerの完全球体
で精密なサイズの鋼鉄ボールの発明によ
るといっても過言ではないでしょう。

 Fischerは1899年になくなったのです
が、彼の会社を買い取ったのが、Georg
Schäferなのです。ドイツの機械産業を
支える中枢のベアリング工場としての
FAG(Fischer AG)がこうして成立したの
です。

画像:
Altdeutsche Bilder der Sammlung Georg Schäfer, Schweinfurt
©Sammlung Georg Schafer , Schweinfurt 1985

 Coburg(コーブルグ)が日本人にと
って、ちっとも馴染みのないお城であ
るのは、このお城が巨大で完璧な形で
のこされているにかかわらず、コーブ
ルクという土地がまるで盲腸のように
奥まった場所にあり、ニュールンベル
クなどの大きな街を見て歩く観光コー
スには乗りにくいのが原因であるから
でしょう。第二次大戦後はアメリカ軍
に駐留され、東北西の三方を東ドイツ
との鉄のカーテンで仕切られて、まる
で陸の孤島のような存在だったのです。

地図:http://4travel.jp/traveler/berggeist
pict/11140465/src.html

寄木細工の狩猟の間http://allabout.co.jp/travel/travelgermany
/closeup/CU20071015A/index8.htm

 このような彫刻や甲冑類、狩猟の間の精密な寄木細工、ヴェネチアングラスなどまことにたくさんの宝物類が溢れていて、すべてが渾然一体となった濃密な雰囲気を作りあげています。これぞ「中世のドイツのお城」という深い感覚を味わうことができます。

 ぜひ一度訪ねてみられることをお勧めいたします。


 では皆様ご機嫌よう

画像:
Manns- und Rossharnisch
Um 1505 bzw. Um 1550
Kunstsammulungen der Veste Coburg
©2004 Deutscher Kunstverlag GmbH Munchen Berlin

 中世ドイツの絵画に関するGeorg Schäferコレクションだけではありません。

 見て下さい。

画像:いずれも

Altdeutsche Bilder
Der Sammlung Georg Schafer, Schweinfurt
©Sammlung Georg Schafer , Schweinfurt 1985

Grűnewaldの
   Das Abendmahl         
   ならびにその裏面
   Heiligen Dorothea und Agnes
   Um 1500

も素晴らしいし、

 にもかかわらず、ドイツ人にはとても人気があ
って有名です。


 有名である理由は次の三点でしょう。

1. 現在の英国王室の祖先であること。
2. 膨大な美術品が山積みにされていること。
3. ドイツ人の心を育んだルターがいたこと。

 英国人は事実をひた隠しにしているようだけれ
ど、現在の英国王室の祖先はヴィクトリア女王の
前後から
Saxe-Coburg und Gotha家ときっても切
れない縁があって、たとえばヴィクトリア女王の
婿殿アルバートはSaxe-Coburg und Gotha家から来
ている。英国王家の家名ももともとは、Saxe-
Coburg und Gothaだったのだが、第一次大戦のと
きにウィンザー家に改名された。ヴィクトリア女
王は彼女の在位中6回もコーブルグに滞在したこと
もある。

 肝心なのは、Vesteだから、
Vesteへゆく道さえわかればよ
いのだ。細い道だから、矢印
のついた道
Festungsstr.を注
意深く発見すればよい。

 私たちが現在コーブルグ城で鑑賞
できるコレクションは二代目のGeorg
Schäferが1960年頃に買い集めた

集品
のようです。彼はなにを思った
のか、そのとき、おそらく第二次大
戦で散逸してしまっていた中世ドイ
ツの名画に的を絞り集中的に買い集
めたのです。しかも名品だけを選び
ぬいて。

 このときの二代目Georg Schäferの
執念を私たちはありがたく、たった
€5にてコーブルグ要塞で鑑賞するこ
とができます。

 私がとても素晴らしいと感じるのは、

     Bamberger Maler um 1480
     Anbetung der Konige

です。イタリアのルネサンスに引けをとることがないように思います。

画像:いずれも

Altdeutsche Bilder
Der Sammlung Georg Schafer, Schweinfurt
©Sammlung Georg Schafer , Schweinfurt 1985

 そんな由緒のあるコーブルグのお城は、日
本でいえば平安時代に作られたお城を基礎と
して、代々丁寧に保存され拡張されて、いま
はドイツに存在する数少ない完全なかたちで
残る巨大な要塞だし、

 それにもまして、ドイツ人の精神的支柱を
作ったルターの遺跡としての価値もある。事
実ルターはこの城に1530年の半年間居住して
旧約聖書の翻訳をしたのである。このとき翻
訳された旧約聖書はいまもドイツで使われつ
づけている。これが歴史的事実であり、その
当時の雰囲気に浸れるのであるから、人気が
あるのは当然でしょう。

 そこらにいる人に「Veste(要
塞)はどこ?」と聞いたらば、
「足では無理だよ。自動車ならば、
そこの角を右に折れて、すぐ左に
まがる。標識がでているからそれ
に従って登っていくのさ」と簡単
に教えてくれた。



 コーブルグの地図なんぞかんた
んには手にはいらないから、いま
インターネットで入手した地図を
ここに掲載しておこう。

コ ー ブ ル グ

        2008/06/23