一見すると黒色だが、裏返してみると焦げ茶色。
では皆様ご機嫌よう。
ここで芸術感覚がかきたてられたので、さらに能作へ立ち寄って輪島塗の器を見てまわった。輪島塗は工程がきわめて複雑で13工程で完成品になるという話なのだが、あまりにも完璧すぎて面白味がない。店員にお願いして、半製品で安いのを見せてくださいな、とお願いして、13工程から最後の3工程を除いた半製品を見た。これが私の心に響いたので、赤椀と焦げ茶色の平皿を一個づつ購入した。この二つは半製品だというのに、二個で3万円を越える値段だった。塗りの筋目が残っているし、表面はざらざらしているのだが、こちらのほうが私の感覚に合っていると思った。漆器の器でこんなに高価なのを買ったのは初めてだ。軽くって軽やかでおおいに気に入っている。普段使いにはベストだと思う。蒔絵だとか沈金を使った品物を現代に使いこなす人が、はたして現在の日本にいったいどれだけいるのだろう。
近寄って見ると、夢見るような幽玄の世界だ。
元の石川県庁を改築した「しいのき迎賓館」のギャラリーに展示されていた石川県立九谷焼技術研修所(能美市)の卒業制作のなかの一品。非常に薄く延ばした陶片を組立てた構造だが、触れば壊れるデリカシーのなかに女性作家の技術の冴えが汲み取れる。
「紅枝垂」
「緑萼枝垂」
「摩耶紅」
「白加賀」
昔の百間堀(現在の「白鳥路」)に密生する椿の群落
兼六園内の梅園に咲く各種類の梅の花
東山茶屋街前昆布屋「しら井」
水甕の金魚を借景にした生け花というまことに斬新な発想。
長い北陸の暗鬱な冬もやっと終りに近づいた。
無色で無機質であるように見えた金沢の風景も突然息を吹き返しはじめた。
すると、街の商家も店先のたしなみを復活しはじめる。生け花の素養というか、なにげなしの粧いをまことに自然にちらりと見せてくれる。
近江町近くの十間町和菓子屋「村上」
金 沢 短 信 (8) 2015/03/25