もう二、三例をお見せしましょう。まずは南側の経蔵(Library)の西面ペディメント(三角切妻壁)の彫刻です。

 愛の神カーマがシヴァ神にむかって矢を放とうとしています。シヴァの注意を惹いてシヴァの妻となるべきウマに注目を向けさせようとしているのです。(詳しくはを参照のこと)

 けれども訪ねてみたらご理解いただけると思うが、アンコール・ワット、アンコール・トムと比較するとずっと古いだけに、古典的なヒンドゥーの精神世界が濃縮されている。彫刻の一つ一つを調べて回っていると、心が綺麗にヒンドゥー世界へと浄化されていくのがわかる。小さいけれどもキリッとしていて心が引き締まる。
 でもよく理解するためにはヒンドゥーの知識が必要だ。

 昔この地域は仏領インドシナだったので、探険や発掘は19世紀後半にフランス人が行った。AymonierとかLunet de la Jonquièreとかが有名だが、この小さな寺院は彼らの目にとまらず、発見されたのはずっと遅れて1914年だった。

 作家であるアンドレ・マルローがこの地をおとずれたのは1923年で、彼はこの寺院の彫刻に魅せられて四体のアプサラ像を盗んだ。が直ぐに捕まり、アプサラ像は返還させられた。

4. その他の彫刻

バンテアイ・スレイ

                    2013/01/31

 充分堪能いたしました。うっとりするほど素晴らしい寺院でした。

 では皆様、ご機嫌よう。

 中央祠堂の基盤上、階段を登ったところに異形な丸彫りの像がうずくまっている。これらは守護神で、身体は人間なのだが、首から上は鬼だったり、猿だったり、いろいろ。神秘的な雰囲気をうまく作り上げている。

「地球の歩き方」の解説:(一部改変)

踊る(10本腕の)シヴァ神。左側に坐っているのはカリーカラミヤ(Kareikalammeyar)という女性。大変美しい王妃であったが、王が亡くなった後、あちこちの王がこの女性を奪い合った。憂いたカリーカラミヤは自分の魅力、美貌を破壊してくれとシヴァ神に頼み、シヴァ神は望みを聞き入れ美貌を破壊してしまった。(ここに描写されているのは破壊されたカリーカラミヤ。垂れ下がった乳房に注目せよ)右側では雷神インドラ神が太鼓をたたいている。

写真:第一周壁の門の上部のpedimentの彫刻

 魔王ラーヴァナは、ラーマ(ヴィシュヌ神の七番目の化身)が彼の妹スルパナカの鼻を切り落としたことに怒り、ラーマが結婚する予定だったシータ姫を誘拐する。(ラーマーヤナ)解説は

 このレリーフに関する「地球の歩き方」の説明は:

 瞑想をするシヴァ神と妻のウマ。そのときバラモン僧が争いを始め世界は混乱に陥った。ウマが瞑想をやめたが、シヴァ神が瞑想をやめないので、ウマは愛の神カーマにシヴァ神の瞑想をやめさせるよう頼んだ。応じたカーマが弓矢でシヴァ神を狙ったそのとき、シヴァ神は額中央の第三の目から光を発し、カーマを焼き殺してしまった。ウマは自分のせいだと嘆き、シヴァ神にカーマをよみがえらせてもらった。このときよみがえったのはカーマの魂のみだが、愛の神の魂は消滅せずによみがえったことから、世界中の誰にでも愛は存在するとされている。

 カンダバの森には、牙をむくライオン、馬、象、シカ、猿、鳥、それにナーガ(蛇)がいます。素晴らしい芸術性。西暦950年頃の作品なのです。日本の鳥獣戯画よりも200年以上も古いのです。左に馬車に立っているのはクリシュナでしょう。

上の写真を部分拡大すると、

写真:インドラが金剛杵を手にもって念じています。人類が畏れ崇めている様子が活写されています。天界の下で雨が降り出しました。

 インドラが乗る象アイラヴァータ(Airavata)は、ヒンズー教のラーマーヤナに述べられている伝説上の象。牙が四本、胴体が四つあり、天空に棲む。彼は、水であふれている黄泉の国に身を沈め、水を吸い上げ、雲の中に撒き散らす。これが地上界では雨になる。タイではエラワン(Erawan)と呼ばれている象。

天空の神様インドラが頭が三つある象(アイラヴァータ)に跨り、カンダバの森に生じた火災を消すために雨を降らせている。この火事は別の神様アグニがこの森に棲む蛇タクサカを殺すためにおこしたものであった。神アグニはクリシュナと彼の兄弟であるバララマに助けをもとめたので、両者は森の両側に陣取り、動物の離散を防ぐとともに、矢を放ち、雨が降るのを止めようとしている。(原文は”Ancient Angkor” River Books, 1999

 建物や門の入口上部にあるペディメント(三角切妻壁)に美しい彫刻がほどこされている。赤い砂岩に精密に彫られた作品で、注意深く観察すると絶句するほど美しい。

 夕日に照らされると、感動的な美しさを見せるデヴァター。

我々が訪ねたのは夕方でした。あまり明るくなくて写真が平板に撮れています。

 この寺院、バンテアイ・スレイ(「女の砦」)、はアンコールの北方20kmの森林地帯のなかに作られました。作ったのは王様ではなくてラジェンドラヴァルマン王の相談役を勤めていたヤジュナヴァラハという人物で、次期国王の指導者(摂政役?)でした。完成したのは967422日。

 規模の小さいミニチュア寺院であって、すべてがこじんまりとつくられている。

 観光客

写真:閻魔大王たるカーラの口が吐き出すハヌマーン(猿の神)

写真:カーラが吐き出すナーガ(蛇神)

画像:背中に羽根があるからガルーダ。

写真:入口の参道の横におかれてあったペディメントから。

2. ペディメント(三角切妻壁)彫刻

1. デヴァター(Devats、 神)

3. 守護神

画像:北側の経蔵(Library)の東側ペディメント(三角切妻壁)の彫刻、主題は「カンダバの森の火事」。

画像:聖殿南側のデヴァター

画像:「東洋のモナリザ」といわれるデヴァター

画像:”Ancient Angkor” Michael Freeman, Claude Jacques, River Books 1999, P207

写真:E Gopura (ゴープラ=塔門E