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以前の「ひとこと」 : 2003年6月前半



6月1日(日) 一様多面体のリングモデル

 月がかわったので、今日はまだご紹介していなかった模型のうち、わりと気に入っているものを1つ掲載しようと思います。

図 1 図 2
図 3 図 4

 この模型に関する詳細はまた明日にでも書きたいと思います。

 <おまけのひとこと>
 6月も、学校やら地区やらの用事が週末ごとにあって大変です。


 鉄道ファンの下の子が、特急列車の正面図を描いていました。鉄道車両に詳しい方なら、何を描こうとしたのか、なんとかわかっていただけるレベルなのではないかと思って(親ばか)、スキャナで取り込んでみました。



 左から「成田エクスプレス」「サンライズエクスプレス」「ゆふいんのもり」です。実物は、6.5cm角くらいのメモ用紙に1枚ずつ描かれていて、裏に説明が書かれていました。例えば
 ・さんらいづえくすぷれす。とうきょうたかまつ〜とうきょういずも(おか山でせとといずもにわかれます)
 ・ゆふいんのもり(はかた〜べっぷ) (コのほかゆふいんのもりつうもあります。)
 ⇒「ゆふいんのもりつう」というのは「ゆふいんの森2(ツー)」のことです。



6月2日(月) 一様多面体のスリット入りカードモデル

 昨日のリングモデルのスリット入りカード版です。

図 1 図 2

 George W. Hart氏のホームページを見ていたら、Classroom Polyhedra Activitiesというコーナーがあって、そこにSlide - Togethersという、スリット入りの多角形のカードを互いに組み合わせて一様多面体を作る写真と型紙が載っているのを知りました。私がこれまでご紹介してきたものもいくつも載っています。このページをみつけてしまったので、型紙や枚数などはそちらにお任せすることにしました。

図 3 図 4

 カードモデルとリングモデルを並べてみました。実は、写真の背景のカッターマットの方眼の目の細かさの違いで明らかなように、リングモデルのほうが大きいです。ただし、リングモデルの切り取った中央の六角形をカードモデルに使ったわけではありません。(この2つの模型は全然違う日に作ったものです。確かお正月あたりだったかな。) リングモデルは部品として利用される部分の面積はかなり少ないので、リングモデルの型紙のリングの内側をカードモデルで利用するというのは、数も同じですし、紙の利用効率も上がってよいのではないかと思います。

 リングモデルのほうが稜の構造がよくわかって気に入っています。ただしどうしてもパーツが反ってきてしまって、きれいに頂点が合わなくなってきていて悲しいです。何度も組み直しができるようにもうちょっと丈夫な素材で作って、リングを組むときのスリットの内外を工夫してパズルにできないかな、などとちょっと考えたりしています。

 <おまけのひとこと>
 最近、上の子がビーズ多面体を自分でも作ってみたいと言ってくれるようになってきました。テグス糸を通す順番うんぬんというのはまだ大変なので、とりあえず多面体の1つ1つの面をゴムで結んでゆく作り方を教えてみました。これだとゴムの張力で自然と形は整いやすいですし、どこか1箇所が切れてもすぐにはばらばらにならないですし、局所的に考えればいいので比較的簡単です。
 写真のものは、というわけで子供が作った正十二面体と正二十面体です。例によってライスビーズを使っています。



 ゴムの結び方が若干大きかったり、余り糸(ゴム)をきれいに切れていなかったりするところもありますが、局所的なルール(面のかたちと頂点の次数)を教えただけで自力で最初から最後まで作っていて、感心しました。



6月3日(火) カッツの太鼓の解で遊ぶ

 2日ほど間があきましたが、カッツの太鼓の問題の実例として解かれた、2つの凹八角形で遊ぼうという話の続きです。今日はタイリング、平面に同じ図形を敷き詰めることを考えます。

 図1は、何度も掲載している、同じ音色で鳴り響くはずの2つの凹八角形です。これを平面に隙間なく重なりもせずに敷き詰めることはできるでしょうか?

図 1

 ちょっとやってみると、これは無理そうだということがわかります。そこで、別の問題を考えてみました。この2つの凹八角形を同じ数ずつ使って、全く同じ図形にすることはできるでしょうか? 例えば図2として簡単な例を挙げてみました。図2は、単位正方形が4つくっついたテトロミノと呼ばれる図形のうちの2つです。よくTとOなどと呼ばれるかたちです。この2つの図形は、図2のようにそれぞれ4つずつ集めると、全く同じ図形にすることができます。

図 2

 同じように、カッツの太鼓の解の2つの凹八角形は、それぞれ何個ずつ集めれば同じ形にすることができるでしょうか? また、その図形はどんな形でしょうか?

 <おまけのひとこと>
 最近、H.Hamanaka very private pageの表紙の画像がどんどん変化しています。 これらの画像は、過去の表紙Nova Plexus拡張への道 というシリーズとして解説されています。非常に面白くて、続きが楽しみで毎日わくわくして見に行っています。
 自分でも作ってみたくなって、先週末に家の中で何か材料になるものは…と思って探して、台所の引き出しにあった丸箸を六膳使って、まずは輪ゴムでとめるかたちで作ってみました。 大変面白い形です。







6月4日(水) L型エッジモデルの交差

 ちょっと忙しいので、以前作った模型の蔵出しで、単発の話題です。先日、2月28日3月4日に、断面がL型のパーツ(2つ折りパーツ)を多面体の稜として組む正二十面体と正十二面体をご紹介しました。特に、正十二面体のほうが頂点の次数が3で面が五角形なので非常に弱い模型でした。これを丈夫にするために、相貫体にしてやったらどうかと思って、ちょっと考えてみました。

図 1 図 2

 2つのL字型パーツを交差させるには、図1のようなスリットを入れてやれば、図2のように組めそうです。角度や太さなどは相貫させる2つの立体の形状によりますが、とりあえず最も簡単な、正四面体2つの相貫体を考えてみることにしました。この場合はパーツは図3のようになるでしょう。

図 3

 上が「外側」のパーツ、下が「内側」のパーツで、それぞれ正四面体ですから6本ずつ用意します。最初にこの2つを十字型に組んで、それを立方体の各面の筋交いのように組んでゆきます。

図 4 図 5

 完成写真です。もちろん接着剤等は一切使いません。この方法だと頂点の結合が弱いのですが、今回ご紹介したパーツの交差する部分はとてもしっかりと結合します。 この方法で他の相貫体も作ってみようかなと思ったのですが、まだパーツの設計すらしていません。

 <おまけのひとこと>
 昨日の問題の答は、ご希望があれば掲載したいと思います。



6月5日(木) 組み木パズル

 春休みに家族が出かけたときに、お土産に民芸品店で組み木パズルを買ってきてくれました。

図 1 図 2

 単位立方体の1辺の長さを1とすると、長さが5の白いパーツが3本と、長さが3の、紫・橙・緑のパーツが2本ずつの9本の組み木です。

 とりあえずなにか面白い形があると、紙を組んで(接着したりしないで)作れないかなと考えてみる癖がついています。このパズルの形はよく見かけるかたちですが、これも紙で組むとしたら・・・と考えてみることにしました。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 丈夫な布の帯の切れ端があったので、つい手慰みにいろいろ折ったり結んだり曲げたりして遊んでいたら、バラの花のような形になりました。



 最近は忙しいので、少しはやく仕事に行くようにしています。職場に7時前に着くような時間帯だと、道がすいていて楽です。



6月6日(金) 組み木パズルのかたちを紙で作る(その1)

 昨日写真を載せた、組み木パズルの形の一段単純なものを紙の帯を編むかたちで作ってみました。

図 1 図 2

 基本的には昨年の4月17日にご紹介した立方体を組むのと同じ原理です。

 このかたちを見ていると、消波ブロックを思い出します。消波ブロックといえばテトラポッド、テトラポッドといえばこちらのサイトのファンです。(正確に言うとこちらのページで「消波ブロック」という一般名称を知りました。)こちらの写真の一番左の上から3番目のかたちが、今日の紙模型のかたちです。

 昔、小学校のころ、学校で海に旅行に行ったときに初めて見た消波ブロックが、この六脚ブロックというかたちでした。これを先生が「テトラポッド」と教えてくれたので、消波ブロック=テトラポッドなんだとずっと信じていました。さらに、「テトラポッド」といえばこの立方体を組み合わせた六脚ブロックなんだと思っていて、「三角の珍しいものもあるんだ・・・」と本末転倒なことを思ったりもしていました。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 上記のTetra'sというページは、多面体の双対の話とかオイラーの公式の話とか、牛乳の三角パックの話とか、とても優れた内容がたくさんあるすばらしいページです。



6月7日(土) 組み木パズルのかたちを紙で作る(その2)

 組み木パズルの形を紙で編んでみました。今度は細い帯になったため、余裕をとりすぎてゆるゆるの模型になってしまいました。失敗です。

図 1 図 2

 もう1つ作りたいと思うほど気に入った形というわけでもないので、この失敗作を載せてしまうことにしました。

 <おまけのひとこと>
 一昨日、帯でバラの花のような形に巻いた写真を載せたら、ハチマキを五角形に巻く話をメールで教えていただきました。私も中学のころよくやっていました。柔道着の帯とかでもやったような記憶があります。いただいたメールでは、女の子たちがやっていたと書かれていたのですが、私の記憶だと、私に教えてくれたのも男子でしたし、逆に女の子がやっていたのを見た記憶がそういえばありません。
 同じ技法で、帯をできるだけ折らないように、中央を膨らませるように五角形に巻いて、七夕飾りを作れるのだそうです。写真も送っていただきました。とてもきれいですね。



 ちょっとトリミングさせていただいて掲載させていただきました。ありがとうございました。



6月8日(日) 組み木パズルのかたちを紙で作る(その3)

 一昨日・昨日と、立方体を組み合わせて作る形を帯で編んだものをご紹介しましたが、その作り方をちょっと書いておきます。

図 1 図 2

 図1のようなかたちを編もうとすると、普通に正方形4枚で一周する短い帯と、図2のように十字型で正方形12枚で一周する長い帯があります。

図 3

 図3は、水色の短い帯が、黄色とピンクの長い帯とどのように組み合わさるか、1つの立方体の突起の部分で説明した図になります。上下・左右・前後の3つの向きで、それぞれ長い帯が1本と短い帯が2本必要です。

図 4

 というわけで、このような型紙を作ってプリンタで印刷して組んだのでした。この型紙は、紙の厚さを考慮して、正方形ではなくてほんの少し横長にしてあります。型紙はぴったり正方形にしておいて、切り出すときに調整するという方法でもよいと思います。

 さて、立方体を組み合わせたものも帯で編めるわけですから、そのほかの帯で編める凸多面体を組み合わせたものも帯で編めるのではないでしょうか。というわけでいくつか試してみました。

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 昨日は小学校の参観日(午前中)と、PTA親子作業(午後)でした。今朝は7時から地域の共同作業(共有場所の草刈など)があります。天気がよくて助かりました。



6月9日(月) 帯で編む多面体:菱形多面体(その1)

 ここ3日ほど、立方体を組み合わせた凹多面体が帯で編めるという話を書きましたが、これが可能であれば、他の帯で編める多面体を組み合わせたかたちもできるはずだと考えました。 立方体を組み合わせたかたちにもまだ面白いものもあるのでしょうけれども、とりあえず別の基本形から作れるものを考えてみました。

 立方体の次(に帯で編めるかたち)、といえば菱形十二面体です。これまた空間を充填するかたちです。とりあえずこれが4個つながった形を作ってみることにしました。4個ですから、ちょうど「テトラポッド」のように4つの菱形十二面体が正四面体の頂点の位置関係になります。

図 1 図 2

 図1が一般的な視点から見たところ、図2が「頂点方向」から見たところです。どんな形状なのかおわかりいただけますでしょうか?

(つづく)

 <おまけのひとこと>
 立方体を組み合わせたかたちでも、たとえばソーマキューブを1セット作るとか、いろいろプランもあったのですけれども、とりあえず菱形多面体の方がおもしろそうだったので菱形をベースにしたものをいくつか作ってみました。
 今日は、小学校は土曜参観とPTA親子作業の振り替えということでお休みです。(ちょっとうらやましい)



6月10日(火) 帯で編む多面体:菱形多面体(その2)

 昨日に続いて、菱形十二面体を繋げた形を帯で編んでみました。昨日のものは菱形十二面体4個が正四面体の4頂点の位置にあったものですが、今日のものは菱形十二面体6個が正八面体の頂点に位置にあるものです。

図 1 図 2

 図1、図2は一般的な視点から見たものです。 最近は模型の撮影場所を確保するのが面倒なときは、ノートPCのキーボードの上で写真を撮っています。

図 3 図 4

 図3は2つの菱形の面の方向から撮っています。この図の中央を水平に並ぶ2つの菱形の長い対角線、これがこの模型の正八面体の構造の稜になっています。図4はその正八面体構造の頂点から見下ろしたところです。 特に図4の写真など、この模型の精度がいかに低いかがばれてしまいますね。

 昨日の模型や今日の模型は、それぞれどんな帯をどれだけ使えば編めるか、おわかりになりますでしょうか?

 <おまけのひとこと>
 先日、有名な菱形十二面体の星型の6本組み木を購入しました(300円)。 布製の袋(写真右)に入っていました。この星型はエッシャーの星型などとも呼ばれますし、先日もちょっとご紹介した「吉本キューブ」の星型でもあります。



 先月受診した集団胃検診で要再検査になってしまってがっかりしています。再検査を受ける人の中で、本当に深刻な病気が見つかる確率は(少なくとも私の勤務先のデータでは)1%以下だということなのだそうですが、自分で病院を決めて日を決めて予約をして仕事を休んで病院にいくというのが憂鬱です。疑わしきは再検査、なのだと思うのですが、検査そのものが身体に負担をかけるという面もあり、医療コストという問題もあり、難しいなと思います。



6月11日(水) 帯で編む多面体:菱形多面体(その3)

 一昨日・昨日と菱形十二面体を組み合わせた多面体を帯で編んだ模型の写真を載せました。これらの立体は、下のABの2種類の帯の輪を組み合わせて作ったものです。

A B

 Aのほうは、菱形十二面体を編むのに使ったパーツそのもので、菱形6個+オーバーラップ分2個で、8個の菱形が繋がった帯を輪にしたものです。Bのほうは、菱形12個+オーバーラップ2個で菱形14個の帯になります。Aがすべての折り線が山折りだったのに対して、Bは「山・山・山・谷」を繰り返します。

図 3

 図3は、一昨日写真を載せた、菱形十二面体4個が繋がったかたちのCGです。これは、上記のリングABが4個ずつで編むことができます。一方、昨日写真を載せた菱形十二面体6個が繋がったかたちは、上のリングBだけを8つ組み合わせて作ります。

図 4

 型紙としては、図4のようなものを作って、必要な長さと本数を切り出して使っています。同じ大きさの菱形の帯で作っておくと、組み合わせることもできます。

 <おまけのひとこと>
 昨日の菱形十二面体の星型の6本組み木と一緒に、ボールが繋がったパーツを使って正四面体のかたちを作るパズルも買いました。同じく300円でした。



 しばらく前にパズル工房『葉樹林』葉樹林日記の2月末から3月のはじめころ、このようなボールピラミッドパズルがいろいろ紹介されていました。葉樹林日記は大変すばらしいパズルのコレクションなどがほとんど毎日掲載されていて、その情報量には驚きます。 私も同じような頻度で更新しているつもりなので、ひそかに親近感を抱いています。



6月12日(木) 無限に開く立方体を帯で編む(いただきもの)

 先日、立方体を繋げたかたちを帯で編む話をご紹介したころに、このページをご覧いただいている方から、5月16日にご紹介したような無限に開く立方体を、同じように帯を編む手法で作られたということを写真と図つきのメールで教えていただきました。5月17日の、穴の空いた筒状のものを参考にして下さったとおっしゃるのですが、編んで作る立体の手法で作られているので、それぞれの立方体の6面全てがきちんと揃っていて二重(以上)になっていて、もちろん接着剤等は一切使わず、しかもきちんと稼働するというたいへんすばらしいものです。

 写真や図を含めて、私のページで公開することをご快諾いただけたので、今日はこれをご紹介させていただきます。

図 1

 まずはいただいた写真です。裏返ったところで色が変わるように、青と赤に塗り分けられるように設計されていることがわかります。加工精度も高そうですね。美しいです。 正直言って、なぜ自分が思いつけなかったんだろうと少々悔しい思をしています(笑)。 いただいたメールでも、まずこの写真をご覧いただいた後で、図を見る前にどんなパーツでどのように編まれているか、考えてみてくださいとありました。私もとりあえず考えてみました。











・・・ちょっとだけ間をあけて・・・











 これをどのように「編んだら」よいでしょうか? 単位立方体は8個ですから、それぞれが長さ4+2の帯3つ分で編めるとして、長さ4+2の短い帯が24本あれば、ばらばらの立方体8個が作れます。しかしこれは8個がリング状に稜の部分でつながった構造ですから、8個の蝶番が必要です。この蝶番のところで帯が繋がっているはずです。 1つの立方体には2つの蝶番の稜があることになりますが、これは平行ではないため、3つ以上の立方体に渡って同じ帯が回るということはなさそうです。

 ということで、立方体2個を繋ぐ長い帯が8本、これは長さが4×2+2で10必要ではないかと思われます。これで先ほどの短い帯の16本分はカバーできますから、残りは短い帯8本になるかな、と思います。

 ということで答を見てみたら、基本的にはあっていたと思うのですが、さらに組み方にも工夫が必要のようです。図も添付していただきました。ちょっと減色処理などをさせていただきましたけれども、いただいた図をそのまま掲載させていただきます。

図 2 図 3 図 4

 なるほど、こんな工夫が必要なのですね。たいへんすばらしいです。時間ができたらぜひ組んでみたいと思います。

図 5

 参考までに、先日筒状に組んだものの写真を再掲します。これをみると、長い帯をどのように使うかが考えやすいかと思います。自分でも作ってみたいです。 情報提供を本当にありがとございました。

 <おまけのひとこと>
 基本的に、特にご指示がない場合は、感想やコメントをいただいた際に、ホームページでご紹介する際には匿名とさせていただいておりますが、今回のように考案者の独創性が高くて、他に発表されていらっしゃらないものの場合に「匿名」というのは失礼なように思います。と思って、メールを下さった方に、どのようにご紹介したらよろしいでしょうか? とお尋ねしたところ、「匿名」とのご指示でしたので、そのようにさせていただきました。



6月13日(金) 「どんな人が幸福と感じているか」

 別に、13日の金曜日だから、というわけではないのですけれども、今日はちょっと雑談を。

 日経サイエンスの最新号(2003年7月号:5月24日発売)に「君といつまでも」の幻想というトピックス(p.15)が掲載されていました。 雑誌の1ページの4分の1くらいのちいさなコラムです。元はJournal of Personality and Social Psychologyという雑誌の今年の3月号とのことでしたので、おそらく"Reexamining Adaptation and the Set Point Model of Happiness: Reactions to Changes in Marital Status" by Richard E. Lucas, Andrew E. Clark, Yannis Georgellis, and Ed Diener だと思います。(Abstractくらい読めるかと思って探したのですが、タイトルしかわかりませんでした。)

 元論文にあたる手段も意思も(英語の専門論文を読みこなす能力も)ないので、日経サイエンスの要約を鵜呑みにしますと、要するに「平均すると既婚者は独身者よりも幸せだが、その幸福感の差はごくわずかでしかないようだ。」ということだそうです。(11段階に分けたときの0.1ということですから、統計的に有意な差があると言えるのか、よくわかりません。)しかも、自分の人生に対する満足度が高い人ほど、結婚による幸福も、離別(死別や離婚)による不幸もあまり大きく受け止めていないのだそうです。結論としては、「人生でどのような出来事が起きようとも、人々が抱く主観的な幸福感は時とともに平均的な水準に戻ってしまうものだという考え方を、この研究は支持している。」と結ばれています。(「」内は記事より引用させていただきました。)

 これを読んで思い出したのが、同じ日経サイエンスに以前(1996年7月号)掲載されていた、「どんな人が幸福と感じているか」(David G. Myers and Ed Diener)という論文です。これは、リンク先の概要をお読み頂ければわかるように、収入・性別・年齢・人種といった要素は、その人が幸福であると感じるかどうかには統計的有意差がみられず、客観的に判断できる基準としてただ一つ差が出たのは、既婚者は未婚者より幸福な人が多かった、ということなのだそうです。うろおぼえですが、こちらの論文では、幸福だと感じている人の割合は、およそ既婚者のうち40%、未婚者のうち20%、離婚者のうち10%という数字だったように記憶しています。

 こういった研究結果をレビューする難しさを端的に示す例だな、と思います。どのような調査を行ったのか、具体的には質問項目はどのような文章で、回答はどのような形式だったのか。その結果得られたデータは、どのように処理されたのか。そして著者らはそのデータからどのような論理でどのような結論を主張しているのか。ここをきちんとフォローしないと、結論だけが一人歩きしてしまいます。

 このように、全く異なるように見える結論が主張されている理由として、どんなものが考えられるでしょうか? また、皆さんでしたらどちらの結論に共感しますか?

 <おまけのひとこと>
 1996年の論文のことをなぜ覚えていたかというと、友人の結婚披露宴でスピーチを頼まれたときのトピックスに利用したことがあったためです。新郎の昔の話などをひとしきりした後で、最後に

 “Scientific American という権威ある雑誌があります。この雑誌は、論文が掲載された研究者が、後にノーベル賞を受賞したという例が多いことで有名なんだそうです。この日本語版である「日経サイエンス」に、しばらく前に「どんな人が幸福なのか」といった社会心理学の論文が掲載されました。幸福であると感じている人はどんな人なのか。収入が多いのか。年齢が若いのか。性別や人種はどうか。 この論文によると、実はこれらの要素はどれも関係ないのだそうです。お金があろうがなかろうが、若かろうが若くなかろうが、職業や性別や人種など、いずれも幸福だと感じるかどうかには無関係なのだそうです。ただ唯一、「幸せかどうか」に大きくかかわっていたのが、「その人が結婚しているかどうか」だったのだそうです・・・”

 なんて話をしたものでした。そんな場では、“「君といつまでも」の幻想” なんて話は間違ってもできませんね(笑)。


 今日は子供が県庁所在地の社会科見学で、学校に6時半に集合です。ゆうべ8時過ぎに帰宅したらもう寝に行っていて、今朝は5時に起きたら、めずらしく他の家族は全員起きていました。



6月14日(土) 顔の認識

 すみません、もう1日だけ、昨日に続いてもう1つ日経サイエンス2003年7月号のトピックスで取り上げられていた話題について書きます。

 今年の3月ころ、Hotwired Japan に、 “カーマニアは自動車を「人の顔」のように認識する” という紹介記事が載っていました。 「ゴーティエ博士らは、人が非常に好きなもの見る際に、顔を見るのと同じメカニズムで認識していることを示唆する結果として興味深い、としている。」 とまとめられています。

 身の回りにあるいろいろなものを「顔」として見るということは、決して珍しいことではありません。本来生き物の顔でもなんでもないものを、人工物であれ自然のものであれ、「顔」だと思ってしまうことはよくあることだと思います。 幼いころ、天井の木目とか家具や建具の取っ手などが顔に見えて怖かったという経験はないでしょうか。 生き物が生きてゆく上で、自分に攻撃的な生き物をいち早く察知することが生存に重要であるため、「顔」の認識に関しては脳の処理能力が発達しているとか、特別な処理を行っているのではないか、という説があります。

 上記の Hotwired の記事を読んだとき、「車って、前から見ると普通は顔の印象があるよなあ」と思って、そんなにたいした話ではないと思って読み飛ばしていました。

 同じ論文が最新号の日経サイエンスにトピックスとして簡単に紹介されていたのですが、そこではコラムのタイトルが“顔の認識は特別ではない?”となっていました。記事の長さとしては、上記の Hotwired のものと同程度なのですが、こちらを読んでこの論文の面白さがはじめて理解できました。

 まず、この実験では車の画像は正面ではなく横から見たところでした。この角度から見た車は、普通はまず「顔」の印象には結びつきません。さらに、実験では

車1,顔1,車2,顔2,車3,顔3,車4,顔4・・・

というように、車と顔の画像(全体、もしくは下半分のみ)を交互に提示し、車なら1つ前に提示した車、顔なら1つ前に提示した顔と同じ画像なのかを判断して答える、というタスクになっていました。(このあたりの実験の詳しい流れは、元論文にあたらないとわかりません。)

 車に興味の無い被験者は、顔の判断のほうが速く、車の判断は遅いそうです。これは、顔と車の判断に使われる脳の処理内容が異なることを示していると考えられます。

 ところが、車が好きな被験者は、顔と車の判断時間は同じレベルなのだそうです。さらに驚いたことに、車好きな被験者の顔の判断の時間は、車に興味の無い被験者よりも長くかかってしまうのだそうです。これは、車と顔の判断に使われる脳の処理領域が関係が深いことを強く示唆しています。

 このことから、次のような仮説が導かれる、というのです。 従来、顔というのは脳にとって特別な認識対象であると考えられていたけれども、そうではなくて、パターン認識には、脳が重要だと考える抽象度の高いレベルの認識処理があって、その代表が顔であり、強く興味を持っているものについても後天的にその抽象度の高いレベルの処理に移行してゆくのではないか。 この論文はそういうことを訴えているらしいのです。

 なるほど、これはとても面白い話です。興味のあるもの、重要なものは、分析的な見方は無意識の階層に隠れてしまって、意識の上では直観的に判断されるというわけですね。 そういう理解で改めて Hotwired の記事を読み返してみると、確かにそのように読むこともできます。オンラインの情報というのは即時性が高くて無料という点が確かにすばらしいですけれども、今回は日経サイエンスの記事の書き方に感心しました。

付記:検索してみると、元論文のAbstract (あらまし) が見つかりました。"Perceptual interference supports a non-modular account of face processing."(Isabel Gauthier, Tim Curran, Kim M. Curby & Daniel Collins) です。

 <おまけのひとこと>
 いつも楽しみにみせていただいているパズル工房『葉樹林』葉樹林日記の6月13日に、8個の合同な立体を円環状につないだかたちの品物5つの集合写真が掲載されていて、とても感心しました。5月後半に、簡易版の自作方法などをちょっと載せておきましたが、その原理で作られている様々な製品です。パーツが扇形の柱状のものや、直角二等辺三角柱でも高さが低いものなど、なるほどこういうバリエーションもあるんだな、と感心しました。 「あそびをせんとや」にもコメントいただいてあって嬉しくなりました。

 こちらも毎日見に行っている消失点より、一周年記念ということでおめでとうございます。こちらのページは、峠紀行などに惹かれて読み始めたのですが、実はそれ以外の文章もとても面白くて楽しませていただいています。物    語 -短い創作物語-などは、かなり質の高いテキストではないかと思います。私はぷるぷるとか夜行などがお気に入りです。 私は例えば坂田靖子とか竹本泉といった不思議な雰囲気の漫画家が好きなのですが、同じ空気を感じる短編です。 また、最近の雑記考の日月消 その1も、ひそかに共感を感じつつ読みました。つづきが楽しみです。

 このところH.Hamanaka very private pageで毎日更新されていたNova Plexus拡張への道シリーズが完結しました。次々と面白い解説が続いて、とても楽しみでした。こんなかたちのものを作ってみたいなあというアイディアやヒントの宝庫です。また、例えばNova Plexusの拡張への道/人の巻#8などで、さりげなく他の「不可能物体」などが置かれている写真があったりして、楽しいです。しばらくお休みされていた日記も更新されていました。



6月15日(日) 帯で編む多面体:稜連結モデル

 6月12日のひとことで、このページをご覧いただいている方から、開き続ける2x2x2の立方体を帯で編んだものについての写真と図面をいただいたことをご紹介しました。実はそのしばらく前に、立方体を稜で連結するモデルについてのアイディアを、兵庫教育大学の濱中さん(H.Hamanaka very private pageの濱中さん)から教えていただいていました。 教えていただいた文をそのまま記載すると、「2×2×2の立方体を市松に塗り分けた黒い部分だけを帯で編む。」 です。 面白そうだな、お休みの日にでも時間を作って作ってみようかな、と思っていたところ、ほどなく先日(6/12)の開き続ける立方体の情報をいただいたのでした。「稜連結モデルが作れる」というところまでヒントをいただいていたのに、なぜもう一歩発想が進まなかったのだろう・・・

 ともかく、今日は濱中さんから教えていただいたかたちを作ってみたので、それをご紹介します。濱中さんからは菱形の帯で作るものについてもいくつか面白いアイディアをいただいているのですが、そちらはパーツの用意が正方形のものよりちょっと大変なので、まだ作っていません。 今日のものは立方体の組み合わせなので、例によって3色で作ってあります。

図 1 図 2 図 3

 ちょっと工作が雑です。最近、模型の置き場がなくなってきて、できるだけ小さめに作っているのですが、これは帯の幅が1cmくらいとかなり小ぶりにしたのが失敗でした。もうすこし大きめに作ったほうが組み立てが楽です。

 ところでこのかたち、確か工業デザインの関係で、新聞か何かで最近見たような・・・と思ったら、思い出しました。コクヨのカドケシという消しゴムです。 これ、とても面白い製品だと思うのですが、力まかせにごしごし消したら立方体の連結部分が折れてしまうのではないかと心配です。それなら最初からその大きさに切ってしまっても同じになってしまいます。無論そんなことは製品企画の段階で十分検討されているのでしょうけれども。

 昨日の顔の認識の話について、こんな画像がありますよ、という情報をいただきました。非常に面白い情報をありがとうございました。 場合によっては目がちかちかしたり、気分が悪くなったりする可能性もありますのでご注意ください。画像はこちらですが、ご覧いただかなくても、画像については以下に言葉で説明しておきます。

 これがどのような画像かというと、人間の顔の目と口の部分をコピーして、上下にずらして貼り付けたというものだと思います。結果的に目が4つ、口が2つある顔の写真になっています。これを見ると、私たちの脳の視覚情報処理系は戸惑います。(擬人的な表現ですみません。)

 生物の目にとって、「それが何であるのか」という形の認識が大事なのと同様、「それはどのように動いているか」という「動き」の認識が大切です。目で動きがわかるというのは、同じ形のものの位置が変わったということがわかるということです。今回教えていただいた画像のように、パーツをコピーして作られたものというのは、視覚情報処理系では比較的初期の段階で、無意識に「こことここに同じものがある」とみつけているはずです。

 そこで、もっと上位の処理として、脳は自分が普通に知っている「目が2つ、口が1つの顔が動いている」という解釈と、見たとおりの「目が4つ、口が2つの顔がある」という解釈と、どちらが妥当なのか、自ら情報収集にかかります。人間の目というのは、視野の中心は色などの感度や分解能が高く、視野の周辺は動きに関する感度が高いといわれています。脳の積極的な情報収集というのは、視線をいろいろ走らせて、分解能の高い視野の中心を動かすことによって(サッケード、といいます)、自分が仮定した対象のモデル(この場合なら普通の顔であるということ)が正しいかどうか検証しようとします。ところが、見ている対象や視線をどのように「動いている」と仮定しても、うまく解釈できない。この、ありもしない「動き・移動」を様々に仮定してみる処理が、意識の上では「目がちかちかする」という印象になるのだと思います。 ・・・ というのが私の解釈ですが、専門家の説明はまた違うのかもしれませんから鵜呑みにされないようお願いします。

 人間の目というのは、このように静止画を見ているときでも、自ら視線を動かして、「動画」として情報処理をしています。たとえば特殊な目薬などで目の動きを強制的に止めると、何も見えなくなってしまうのだそうです。(恐ろしくてそんな実験の被験者にはなりたくありませんけれども。)

 <おまけのひとこと>
 今月は週末ごとに地域やPTAの用事があってたいへんです。



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