〜残された傷跡〜

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はい今回もここまでお付き合い下さってありがとうございます!!!
う〜ん。なんだかんだ言ってアッシュは優しいんですよ(ツンデレだから)
いや傷を負わせる時点で間違ってる気が・・・
えっとまだまだ続きます(汗)
次はアブソーブゲートにしようと思ってはいるんですが、一気にエルドラント突入前の
ケセドニアにしようかとも思うのですが、
まだ微妙にアッシュの感情が変化していないので中間を入れたいと思ってます。
次も早めにUP出来るといいなぁ〜。


「俺・・・アッシュのこと、好きだよ」















先ほどの騒々しさが嘘のように部屋の中は静まり返っていた。
ベットの上には穏やかな寝息を立てながら眠るルークの姿がある。
数時間前の遣り取りの中アッシュの剣によって負わされた右腕の傷にはしっかりと包帯がまかれている。
部屋に差し込む衛星ルナが青白くあたりを照らし出している。その青白い光のせいか傍で眠るルークの顔は
穏やかではあるが、どこか儚く、今にも消え入りそうに感じる。


「っち」

その光景を目にしながらアッシュは一人苛立つのを抑えられなかった。


なぜ俺がこいつの手当てなど・・・。

そんな義理も情もあるはずがないと言うのに・・・

こいつの所為で居場所も名前も奪われた。俺の人生をめちゃくちゃにしやがったこのレプリカを・・・

ほっておけばいいだけだろ?簡単な事だ。

俺が手を下さなくとも、誰かが手当てするだろう。それこそガイ辺りが目の色変えて手当てする姿が想像できる。



それなのになぜ・・・

なぜ俺はここから離れられない?



視線の先には安心しきったように眠るルークの姿がある。
ついさっきまで自分に剣を向けていた相手が傍にいると言うのに、警戒心を微塵も感じさせないくらい
深い眠りについている。

「いい気なもんだな。」

アッシュはルークの眠るベットへと更に歩み寄った。
見下ろして見ればその安心しきった寝顔をに更なる苛立ちを覚える。





そうだな、今なら簡単に消すことが出来る。

この屑を・・・

俺のレプリカを。

跡形もなくこの世から消し去る事が出来る。

こいつは人じゃねぇ。

死ねば形も残らず第七音素として大気中に帰っていくだろう。

ただの模造品に過ぎない・・・

人ではないもの・・・レプリカ。




ルークと言う存在は一人でいい。







俺一人で・・・











アッシュはするりと両手を伸ばすとそのままルークの首へと回した。
「うっ・・・」
同時にルークの口から苦しげな息が漏れる。
その声に反応し思わずアッシュは動きを止めルークの様子を気にしたが、
よほど眠りが深いのかルークは苦しげな表情を見せてはいるが目覚める気配は一向にない。




このまま手に込めた力を少し強めればいいだけ・・・



アッシュはルークの首に回した手に力を入れようとするが、その行為は別の力によって阻止されていた。
別の何かに体を制御されている感覚にアッシュは眉間の皺を更に深くした。
自分の意思に逆らうかのように体が動いてくれない。



何故だ・・・早くしろ・・・

全てを奪ったこいつが憎いはずだろう?何を躊躇っている。

何を・・・・・

この指先に力を込めるだけ

そうすれば全てが終わる・・・自分の願った居場所へと戻ることが出来る・・・

もう一度「聖なる焔」の名を手にする事が出来る









(・・・俺・・・アッシュのこと・・・・)


ビクッと思わずアッシュは体を揺らした。
先ほどルークが口にした言葉が脳裏に蘇ってきた。
意識を失う前に呟かれた言葉。躊躇いがちにも確実に自分の想いを込めた言葉。
嫌われ、憎まれていると分かっていてなお伝えたかった切なる想い。
アッシュにも同じに思って欲しいとは思わない。それはある意味罪だから。
だからせめて認めて欲しい。自分が別の何かと同じでなく個と言う存在なのだと。

あの時あのままアッシュに殺されると思った瞬間に伝えたかった唯一の想い



その言葉はアッシュの胸を突き刺すような衝撃を与えた。
だがその先の言葉を思い出したくなくて必死に深い霧で覆い隠し、無理やりに記憶の奥底へと閉じ込めた。




「くそっ」


何に苛立つのか分からない自分にすら苛立ってしまう。湧き上がる怒りを吐き捨てながらルークの首に回していた手を離すと
そのまま振り返る事もなく、今となっては自分ではないルークの物となってしまったこの場所を後にした。




苛々する。あいつの行動、言動の一つ一つに。
遠ざければ遠ざけるほど近づこうとしやがる。
暴言を投げつければそれに甘んじるかのように微笑を向けてきやがる。

苛々する。

剣を向けた時にさえ死を覚悟するかのように身を任せようとする始末だ。
レプリカは死ぬのが怖くないってか?そうだよな、所詮レプリカ・・・

だったらあの時・・・



(俺だって死ぬのは怖いよ。)


レムの塔に向う前のあいつは死を怖いと言っていた。
だったら何故そんなに簡単に俺に殺されようとした。



(アッシュになら・・・消されても・・・・)



俺になら?
アッシュはハッとして今出てきたばかりの扉へと視線を向けた。
そう言えばさっき斬りかかった時は頭に血が上っていてルークの放った言葉を気にも留めなかったが
彼は自分になら殺されてもいいのだと言い放ったのだ。



「・・・屑が」



そう言い残すとアッシュは再び翻し外へと歩きだした。




















「・・・ク・・・ル・・・ク」

身体に軽い揺れを感じルークは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
まだはっきりとしない視界の中に映る金色の髪と、聞き慣れた自分の名を呼ぶ声の持ち主の名を口にした。

「・・・ガイ?」
そう呼ばれた声の持ち主はほっとしたように肩をなでおろした。
「もう昼過ぎだぞ〜。まぁ、本当だったらもう少し寝かせておいてやりたいところだったんだが、
今日は陛下に報告しなきゃだろ?それなのにお前ときたら全然起きて来ないし、起こしに
来てみれば・・・・」
途端にガイが口を濁す様にしてルークの右腕に視線を向けた。
ルークは思わずハッとして昨日のアッシュとの遣り取りで負った右腕の傷を確認した。
「えっ。あれ?」
きょとんと惚けた顔で傷口に巻かれている布にそっと触れた。
どうした?と言わんばかりガイはルークの顔を覗き込んだ。

「・・・手当してある」
不思議そうにぼそっと口にしたルークの言葉に疑問を持ったのはガイの方だった。
「自分でやったんじゃないのか?」
そう不思議そうに問いかけた。

ギクっとルークは思わず肩を揺らすが
「えっ、あイヤ、そう〜だった昨日ウッカリ寝る前にミュウ踏みそうになって慌てて避け
たら机の角に思いっきりぶつけちまってさぁ。寝る間際だったから本当に眠くて手当した事忘れちまってたぜ。」
ハハハっと苦笑いするルークにガイはハァ〜っと思いっきり溜め息をつくと「来てたんだろ?」と確信ずいた言葉を発した。



少しの沈黙のあとルークは黙って頷いた。
「やっぱりな。その傷だってアッシュが付けたんだろ?」
「ちっ!違うって!これは本当に俺のせいで・・・アッシュは悪くねぇーって。」
物凄い勢いで否定の言葉を口にしたが、その態度自体が肯定しているのだと言う事をルークは気付いていないのだ。 



やれやれ、俺にはわからないよ。どうしてお前がそこまでアッシュに入れ込む事が出来るのか。
あんなに毎回冷たい態度を取られていても悪くないと言い張る。
いくら自分の被験者と言っても、気を使い続ける必要がある訳でもないだろうに・・・

そうでもないか・・・
俺達には分からない繋がりがあるのかもな。
被験者とレプリカの間には・・・





ガイが押し黙ってしまった事に気付きその隙にルークはもう一度怪我を負った右腕に視線を移した。
思わず手当てをしている時のアッシュの姿を想像してしまい自然と笑みが零れた。



(また、会えるよな・・・)