火葬戦記 〜跳梁跋扈!?〜

 

第五話

 

1944年10月20日
連合艦隊旗艦 武蔵

「二式大艇からの報告により、ハルゼー及びマッカーサーの部隊が行動を開始した事が確認された。諸君、時は満ちた。しかし、解説の前に、ティー・タイムとしよう」
明るい室内に、男達がおよそ100名ほど、座っている。
連合艦隊各艦の艦長、及び各部隊の司令官達である。
そして、前に一人が立って、演説していた。
山本長官の声に反応して、水兵達が現れ、薫り高い紅茶とクッキーを運んでくる。
長官は早速、しかし悠然と紅茶をすすって、言った。
「如何なる場合にも、余裕が肝要。紳士は常に冷静であらねばならないのだ。おいしいかね?」
どこかで聞いたような話である。
「は、はあ。おいしいであります」
「そうか。セイロン島から取り寄せておいた、残り少ない品だ。じっくり味わって欲しい」
部下達をやきもきさせながら、長官はそういう行動を続けた。
15分ほど、一同くつろいだようだ。



「さて諸君。今さら詳細を説明する必要は無いだろう。よって質問する。本作戦に於ける主役は、どの艦隊だと思うかな?」
長官は、おもむろに口を開いた。
ここで少々、説明が必要だろう。
本作戦を構成する部隊は、大きく分けて4つ。
まず、連合艦隊主力、山本部隊。
旗艦武蔵以下、戦艦6隻を基幹とする、35隻の大部隊である。
スリガオ海峡を抜け、マッカーサーの上陸軍を戦艦6隻の火力で砲撃し、木端微塵に打ち砕いてしまおうというものだ。
次に、小沢部隊。
空母4隻を基幹とするが、正規空母は旗艦瑞鶴のみ。
また、艦載機も乗員の練度が低く、あまり期待できない。
予想されるハルゼーの機動部隊に対し、偵察と陽動、攪乱を目的とする。
第三、歌上部隊。
部隊とは言わないかも知れない。
戦艦大和のみから成る部隊で、単艦でハルゼー機動部隊に殴り込みを掛け、よって注意を引き付ける。
また、ハルゼー機動部隊の航空攻撃力を吸収する目的もある。
最後に、栗田部隊。
戦艦金剛を旗艦とし、その他13隻から成る。
目的は、輸送船団護衛であるが、この輸送船団が半端ではない。
250隻もの大船団で、例えば石油なら50万トンを搭載している。
作戦全体の目的は、今後の本土近海決戦に備えるため、撤収する事になったが、これを容易ならしめるため、敵を攻撃するというものだ。
出来れば米軍が来る前に撤収したかったのだが、こうなってしまうと、それも叶わない願いだ。
「論理的に、考えて欲しい」
一人が手を挙げた。
「よし、言ってみろ」
「まず根底事項として、決戦に備えるため、南西太平洋から撤収するという事があります。ということは、敵兵力の漸減も重要ではありますが、何より万全の態勢で決戦に臨みうるよう、本作戦は実施せらるべきだと愚考するものであります」
戦艦長門の艦長だった。
ちなみに、小沢機動部隊は内地を出航したばかりなので、この部隊の艦長達は臨席していない。
「うん、続けろ」
「然るに、本土に於いて備蓄の少なくなった現状を鑑みれば、戦略物資の確保は、帝国の至上目的と言うべきでありますから、最も重要なのは栗田提督の部隊であると考えるものであります」
彼がそう言い終えると、次々に手が挙がる。
しかし、山本長官がそれを制した。
「重要と言うには語弊があったかもしれん。いずれの部隊とも、本作戦に欠くことの出来ない存在で、その意味でいずれも重要である。しかし、作戦の本質に関わる、すなわち撤収し、事後に備えるの目的を考えれば、栗田中将、貴官の責務が最も重い。これが連合艦隊司令長官である私の見解だ。質問は?」
名指しにされて、栗田中将が一礼する。
質問自体は無さそうである。
と、突然サイレンが鳴り響いた。
警戒警報のようだ。
一瞬場がどよめくが、すぐに落ち着く。
駆逐艦から戦艦まで、大きさは違えど、さすがに一隻を指揮する人間の集団だ。
そして、一人の水兵が走り込んできた。
「何事か」
いつも通りの調子で、長官が聞く。
「敵陸上機、およそ170機が、こちらに向かっています」
「なるほど。邀撃機は出たか?」
「間もなく零戦隊が出ます」
「陸軍は?」
「まだ連絡が取れておりません。取れ次第、報告いたします」
「そうか。よし、各艦に伝達、対空戦用意、発見し次第発砲を許可する」
「了解。ただちに通達します」
「よし、行け」
「はっ、失礼しました!」
水兵はカチリと踵を合わせて敬礼し、急いで去っていった。
「ふう、やはり、一番の問題は制空権か。成算はどうだろうな…」
出せる零戦は30機程度のはずである。
護衛機付の170だと、返り討ちの危険性もある。
「…無論、これ以上の敗北は許されないが。さて諸君、現在の状況に鑑み、各々艦に戻って任務を全うしてくれ。解散する」
一斉に敬礼、その後整然と、しかし素早く全員が退室した。
『豚作戦』は、何とも淡泊な幕開けになってしまった。



大雑把な(何)作戦図





それから数分後、戦艦大和
「時間だ。抜錨せよ!」
「了解! 抜錨せよ」
司令塔に、橘川の声が、続いて力強い復唱の声が木霊する。
やや重い金属音を立てて、大和を海の一点に繋ぎ止める戒めが、解かれる。
やがてガシャンという音を立てて、錨は完全に巻き上げられた。
「面舵、微速前進6ノット。出撃するぞ。野郎共、初陣だ、気合い入れて掛かれ!」
復唱の声と、おう、という気合いの声が混じり、司令塔を支配した。
否、艦全体に轟いた。
やがて、純白の巨大戦艦は、浅くて危険な海域を抜ける。
橘川は、腰の刀に手を掛けた。
紫電一閃。
伝家の宝刀、正宗である。
妖しい光を放つ銘刀を掲げて、彼は再び吼えた。
「進路を真北に取れ。速力22ノット。バラワンを過ぎたら東、シブヤン海を抜けてアメ公の艦隊に突入だ。良いか野郎共、空母は一隻残らず喰い殺してやれ!」



その頃、金峰山基地
「急がんかい、ジジイ! 間に合わんだろうが!」
ここに入っている唯一の部隊、陸軍9999航空隊『凶』の隊長、柳井が騒いでいた。
「せからしかわい、バカタレ! 急いどっだろが、わからんとか!」
最新鋭を掻き集めた基地は、騒然としていた。
整備兵が慌てふためいて駆け回り、滑走路脇に停められた連山2機に、弾薬や燃料を詰め込んでいる。
真っ赤に染められたのと、上が濃緑色、下が灰色の普通の2機に、ざっと20人ずつ付いて、騒がしく整備をしている。
乗員達は乗員達で、走り回って持ち物を揃え、走りながら飛行服を身につけている。
「スパナ! いや、そのレンチだ!」
「無線の故障は直ったんですよね!?」
「ガソリン、次! 次持ってこい!」
「機銃弾だ! 弾の補充が終わってないぞ!」
「そう、もうちょっと右…違う、行き過ぎ! そうそう…いや、それじゃない! かせ、俺がやる!」
何か飛行機に見えなくもない、大きな爆弾が、両機の腹に抱え込まれていく。
イ号二型甲無線誘導弾という、いわゆる対艦ミサイルである。
一型は低空で目標4000mまで母機も接近しなければならなかったが、二型は射程25kmに伸び、高度10000mから発射・誘導可能である。
その為エンジン重量と燃料搭載量が増加し、結果大型化、総重量が3.8トンに達し、連山以外では運用不可能になってしまった。
元々陸軍の兵器だったのに、である。
まあ、凶部隊は名目上陸軍航空隊だから、一応問題は無いのだが。
兎にも角にも日本の超秘密兵器の一つで、ドイツでは既に同種の物が実用化され、例えば『フリッツX』無線誘導爆弾は戦艦撃沈1、大破2以下、赫々たる戦果を挙げている。
期待できるだろう。
ちなみに一型乙には、テスト中に故障で女湯に突入し、エロ爆弾などというあだ名が付いていたりする。
…皆が怒鳴り合いながらも、整備は確実に進んでいる。
何故こんなに急ぐハメになったのかは、隊の秘密である。
だが、柳井に原因があることだけはわかっていた。
「一番発動機整備終了しました! 調子は最高です!」
「滑走路の方も問題ありません! 飛べます!」
準備完了が告げられていく。
「あと二時間。よし、間に合いそうだな」
柳井は腕時計を見て、そう結論付けた。







再び大和
既に正午をまわり、艦はあと2時間もすればシブヤン海を抜けて、フィリピン東方に達する。
今までのところ、予定通りだ。
「海は〜、広い。だが、この海は狭いよな」
「つまり逃げ場が無いという事でもある」
司令塔では、橘川と歌上が言葉を交わしていた。
「それにしても、見慣れない機械が増えたな…」
ふと漏らす歌上。
その最たる物は、電探だろう。
円形の画面上に、片方は島や艦船が、片方には飛行機が映る。
ほんの2、3年前まで無かったのだが、これのお陰で随分と様相が変わってしまった。
昼も夜もお構いなしに、敵を発見できてしまうのだから。
「年寄りには、付いていけん」
「まあそう言わず。鍛え抜かれた勘と経験は、最後に物を言うってものですよ」
それがこの大和に必要とされるかどうか…。
と思ったが、橘川は口にしなかった。
「対空捜索電探に感あり! 機影およそ220機、12時の方角より200ノットで接近中!」
その電探が、敵を探知したようだ。
「距離」
「およそ70kmです」
確かに、画面には明るい緑色に輝く点が、一塊りになって映っている。
「どう、思う?」
「味方とは思えません。例によって、コーストウォッチャーとやらから、通報されたんでしょう」
「うむ、やはりそれが妥当な線だろうな」
二人は短く会話した。
そもそも単艦作戦なのだから、艦長+艦隊司令長官という組み合わせは、殆ど無意味なのだが…。
橘川は再び鋭く正宗を抜き放ち、怒号を飛ばした。
「野郎共! 敵機襲来だ。だが恐れる事はねぇ。この大和の装甲は、5.5トン爆弾や93式酸素魚雷に耐えられるように設計されている。アメ公のヒコーキ如きで沈むほどヤワじゃねぇぞ! 良いか、聞け。雷撃機は無視しろ、艦爆を狙え。船体に当たるやつはどうせ効かねぇが、艦上構造物に爆弾が命中すると、多少の被害が出る。それを阻止しろ! わかったら対空戦用意! 見つけ次第、残らず叩き落とせ!! それから、進路はこのまま、速力30ノットに上げろ!」
獅子の咆吼の如き命令が、司令塔を駆けめぐる。
続く復唱の連呼。
白い帝王は、俄に活気を帯びはじめた。
「敵機来襲ぅ〜〜!!」
20分後には、大編隊が東方に見えはじめた。
「長10サンチ、撃ち方はじめ!」
巨体に据えられた、40基の最新鋭高角砲。
その内指向できる物が、その二連装の大筒から次々に炎を吐き、その度にドーン、ドーンという轟音が、辺りを揺るがす。
30ノットで進む大和の艦体が、砲の硝煙をたちまち後方へ洗い流す。
見やれば、編隊の方で無数の閃光が瞬き、続いて黒いしみのような物が、次々と現れる。
砲弾の炸裂だ。
46サンチの巨砲群は、今は静かに時を待っている。
「照準修正、仰角1度下げ! …撃て!」
一基の射撃装置が、平均4基の高角砲を受け持つ。
射撃装置単位で、次々と10cm砲弾が弾き出される。
明らかに撃墜とわかる、下に向かって引かれる、黒い線。
しかし、点のような敵機は次第に大きくなり、やがて飛行機のカタチを成してくる。
また一機、今度は直撃を受けて、粉々になる。
「敵、急降下ぁ〜〜っ!!」
「四番、照準変更、頭上の急降下! 高角機銃、全基撃ち方はじめ!」
司令塔は怒号が飛び交い、会話も難しいほどになっている。
90基の25ミリ3連装機銃と、36基の13ミリ4連装機銃が駆動音と共に軽快に旋回し、各々の電探射撃装置に従って、撃ち始めた。
光の豪雨。
頭上に陣取った27機のカーチス・ヘルダイバー艦上爆撃機に向けて、雨霰と機関砲弾が、重力とは逆向きに降り注ぐ。
一機が火を噴く。
もう一機、煙を吹き出し、直後に爆発する。
次々に命中、撃墜。
それでも米海軍航空隊、ヤンキー魂の底力を見せ、一歩も退かず、次々と突っ込んでくる。
「敵、雷撃ぃ〜っ!! 3時の方向より接近中、およそ40機!」
その時、一機のヘルダイバーが、二つに分離した。
いや、違う。
爆弾を切り離した。
直後、その機は主翼に高角砲弾を直撃され、跳ね飛ばされるように吹き飛んで、海面に突っ込んだ。
ほぼ同時に、大和の巨体が轟音と共に、微かに揺れた。
「艦首に被弾! 艦首に命中弾あり!」
「被害状況報せろ!」
「上空の艦爆隊は全滅! 対空火器は全基、雷撃隊を迎撃せよ!」
右舷高角砲群が、高角機銃が、一斉に旋回する。
なかなか壮観だ。
すぐさま、それらが一斉に火を噴く。
炎と煙、光の雨が、束になってグラマン・アベンジャー雷撃機の編隊に襲い掛かる。
付近の海面が、爆風と破片で白く泡立つ。
轟音が支配する。
先程と同様、蜘蛛の子を散らすように、次々と墜ちる米軍機。
「敵、魚雷接近!」
「艦首部の被弾箇所は被害軽微、繰り返す、被害軽微! 戦闘に何ら支障無し!」
「魚雷、もう3本接近中! 回避行動を!」
「そんな必要はねぇ! このまま進め!」
明らかに遠すぎる雷撃は、避けようと思えば避けられる。
だが、それをしない橘川。
「艦長!」
白波を蹴散らし、驀進する大和。
脇に迫る、白い筋。
アベンジャーが一機、被弾してきりきりと回転し、海面でバウンドしてバラバラになる。
「教えてやるんだよ、奴等にな。この大和の恐ろしさをだ!! 右舷で作業中の奴等、衝撃に備えろ!」
最初の魚雷は、橘川のその声の直後に、大和の艦腹を捉えた。
ドバァーンという轟音を立て、真っ白い昇竜が、大和の右舷中央部に躍り上がる。
が…。
「浸水ありません! 異状なし!」
「死傷者無し! 被害はありません!」
魚雷命中するも、被害無し。
底まで達する510ミリの装甲板が、魚雷の前に立ちはだかり、すべてのエネルギーを見事海中に弾き飛ばしたのだ。
ニヤリと笑みを浮かべる橘川。
なおも大和は走る。
続けて三本、魚雷が命中し、水柱が噴き上がるが、それを完全に無視したかのように、大和は驀進する。
さきほど同様、被害は皆無。
「敵機多数、散開して接近!」
「各個に迎え撃て! 近付けるな!」
敵もさるものだ。
固まって突っ込めばやられると知ったのか、雷撃隊は両舷同時に、急降下爆撃隊は多方向から迫る。
戦闘機隊も爆弾を抱え、次々と突っ込んでくる。
「雷撃隊は後回しだ! 爆弾を投下させるな!」
今やすべての対空火器が真っ赤な火を噴き、大量の砲弾を撒き散らしている。
また一本、魚雷が命中する。
戦闘機が一機、弾幕をくぐり抜け、大和の巨大な前檣楼に突き進んできた。
爆弾を積んでいない。
捨てたのか。
前檣楼側面の13ミリ機銃が旋回し、それに向けて弾丸を浴びせる。
命中を見る前に、その戦闘機は両翼の12.7ミリ機銃を発射した。
銃口が火を噴き、光の筋が伸びる。
けたたましい金属音が轟く。
司令塔より一階上に命中したようだ。
戦闘機はそのまま前檣楼の左をかすめ、飛び去っていった。
黒い物が一つ、向かってくる。
爆弾だ。
反射的に、赤原軍曹は、長10サンチ砲塔の陰に身を縮めた。
途端、どやしつけられるような衝撃と音。
目を開けてみると、砲塔はひしゃげ、そこらには破片が散らばり、煙が立ちこめていた。
足下に、人間の腕が落ちている。
いや、よく見れば、あちこちにそういった“物”が散乱している。
彼は戦慄を覚えた。
(落ち着け、責務を果たすんだ!)
襲い来る吐き気を押さえ、彼は手近にあった伝声管に叫んだ。
「右舷高角砲群に命中弾!」
力強く、長10サンチの吼える音が空を突き抜けていく。
交戦から7分、米艦載機は84機の被害を出して、引き揚げていった。
一方の大和にも5発の爆弾が命中しており、内2発が合わせて11基の対空火器を破壊していた。
魚雷は7本が命中したが、これによる被害は特にない。
火災は無い。
そして幸いなことに、主砲射撃装置は無事で、艦橋の機能にもさしたるダメージは受けなかった。
34人の死者と、77人の負傷者を出したが、被害は小破に留まっている。
一応は勝利と言えるだろう。
「しっかし、うちの機関砲はボスボス当たったな。あれが電探射撃の威力ってやつか…。よし、野郎共、ご苦労だろうが、後始末をはじめろ。速力22ノットに落とせ。進路はこのままだ」
橘川は正宗を元通り鞘に収め、作戦続行を命じたのだった。







連合艦隊旗艦 武蔵
「歌上部隊は任務を果たしている。我々も続かねばならんな…!」
山本長官は、艦隊司令長官席で、一人そう言葉を綴った。
外は既に夜の帳が降りている。
報告によれば、大和は二度に渡るハルゼー機動部隊の航空攻撃を受けたが、特に大きな被害もなく、現在敵主力推定位置に向け、30ノットで進撃中である。
さらに、小沢部隊が索敵に12機を発進させ、間もなく発見できるとの事だ。
慣れない連中の夜間飛行故に、着艦が少々不安ではあるが…。
栗田部隊もまた、順調すぎるほど順調で、未だ敵潜敵機共に遭遇していないという。
「長官、小沢提督より無電が」
一人が、考え込む彼に話し掛けた。
「うむ」
彼はすぐに出た。
「どうした、小沢くん。ああ…あれかな?」
『いかにもその通りじゃ…』
この小沢という男、仙人じみたかなりの変人であるが、その不思議に当たる予想には、山本も一目置いている。
霊感というのだろうか。
『うむ…悪くはないが、さりとて良くもない。未だ機は熟さず…』
「なるほど…」
『目の前に…。貴方の正面に、何か、何かが、おる。気を付けられよ…』
「…わかった。ありがとう」
『うむ…』
口べたな提督であるが…。
無線通信はそこで途絶えた。
「傍受されたと考えるべきでしょうが、大丈夫でしょうか」
兵士が一人、そう聞いてきた。
「さきほど空襲があっただろう。既に全部隊、居所は知られている。…各艦に伝達、戦闘態勢を取らせろ。間もなく会敵のはずだ」
平静を装い、山本は命じた。
敵は自分達の居場所を知り、味方は知らない。
非常に不利なところだ。
強力なハルゼー機動部隊の航空攻撃圏内に無いことが、救いだ。
大和とは違い、これに攻撃されれば、こちらはかなりの損害を覚悟しなければならない。
繰り返すが、敵発見の報は無い。
が、彼は小沢提督を信用していた。
「出来るだけ、小さな損害で、長い時間を稼ぐことだな…」
彼は、自らの目標を、反芻した。
スリガオ海峡を抜け、粛々と進む、連合艦隊主力。
時は迫る…。











つづく

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