火葬戦記 〜跳梁跋扈!?〜

 

第十話

 

グリニッジ標準時1945年1月30日午後3時すぎ、北海

戦艦『グロースドイッチュラント』艦橋にて

「ヒンデンブルク侯爵」
「ん…」
侯爵と呼ばれた者は、個室のベッドで上体を起こした。
外光の殆ど入らない部屋と、低く唸るエンジンの音。
波の音。
天気晴朗なれども、波高し。
そう、ここは戦艦の艦橋なのである。
「どうしました?」
ぼんやりと霧の掛かったような意識のまま、伝声管に問う。
電話を掛けるのも面倒だ。
「ラダール(レーダー)に反応があります。速力24ノット、4隻単縦陣で11時の方向を東進中」
ドイツの船という可能性は既に皆無なので、自動的に敵国艦船ということになる。
いや、何を見ても、それは99%敵である。
日本の何かがうろついている可能性も殆ど無いのだ。
「今行きます。帝国海軍旗を掲げてください」
「わかりました」
侯爵と呼ばれた者―――フルネームはテレーゼ・ラーナ・フュルスティン・フォン=ヒンデンブルクという―――は、長い髪を簡単に結んで、部屋を後にした。
外では、するすると後部マストに旗が揚がっていく。
十字の中央に鷲の紋章、十字で区切られた左上の区画に、黒白赤のストライプと、その上に描かれた鉄十字。
ワイマール時代の前、旧ドイツ帝国の海軍旗だ…。

「おはよう」
「おはよう。どうですか?」
気さくに声を掛けてくる男。
彼の名はヨハネス・ヒンデンブルク(41)、知識の不足なテレーゼを補佐し、この艦の実質的な指揮を執る。
とは言うものの、元々は潜水艦乗りで、水上戦についての経験は殆ど無い。
ちなみに、叔父に当たる。
「残念ながら、戦闘艦と思うなあ。商船は24ノットは出さない」
「そうですか…」
二人揃って、厳しい表情をする。
司令塔要員も、それを見守る。
別に敵―――恐らくは英国海軍―――を恐れているわけではない。
このグロースドイッチュラントの性能を見れば、英水上艦の4隻程度、恐れる理由は見当たらない。
基準排水量197,000トン、主砲50.8cm4連装砲4基、16門、最大速力32ノット。
もうこれだけ述べれば十分だろう。
問題なのは、その力を100%発揮できるか、だ。
ビスマルクの状態は酷かったが、この艦は更に悪い。
初出撃が処女航海であり、乗員の錬度は不足している。
努力はした。
時間もそれなりにあった。
しかし、ドックの中で数十m走ったり、模擬訓練を繰り返した程度で十分に初期不良を根絶し、錬度を上げられるのなら苦労は無いのだ。
それは皆に共通の不安でもあった。
そして、後続する20万トン巨人空母「フライヘル・リヒトホーフェン」についても、これは同じだ。
しかし、今のところは問題は出ていない。
「敵艦見ゆ! 距離60,000m、軍艦に間違いありません、明らかな大型艦2、その他2!」
「明らかな大型艦…戦います。あの戦法を」
「ああ、戦意ありを伝えよ。フライヘル・リヒトホーフェンへ下令、戦術“掘り炬燵”に則って行動せよ。本艦は取り舵に切れ、最大戦速」
オールディーゼルの機関が唸りを上げ、巨大な船体を前へと推し進める。
舳先が徐々に左へと動いていく。
北海の荒波が、巨大な艦首に蹴散らされ、滝壺の水のように飛び散る。
やがて、相手の陣容が明らかになる。
英戦艦キング・ジョージV世型2隻、型式不明駆逐艦2隻。
英艦隊は面舵に切り、反航戦を挑んでくるようだ。
速力は推定30ノット。
上手い手だな、と二人は思う。
つまりこうやると、自分達が英本土に近付く方向へ動くことになるのだから。
「一番射撃系、先頭の敵戦艦、二番射撃系、後続の戦艦。54,000で斉射せよ」
ヨハネスは言った。



「大きい…」
英艦隊司令長官ネイザン提督は唸った。
50,000m以上であの大きさと言うことは、全長400m近い、あるいは超えているだろう。
どんな恐ろしい火力、防御力を持っているか、想像も付かない。
ただし、それでも確かなことがある。
彼の乗る戦艦デューク・オブ・ヨークより確実に強いということだ。
いつか葬った敵、シャルンホルスト。
格の違いを見せつけた戦いだったが、それが立場を逆にして繰り返されるのだろうか。
何故、今さら旧ドイツ帝国海軍旗なのか、それも不気味だ。
本心では、戦慄を覚えている。
「敵空母、面舵で離脱します」
ミッチェル艦長の報告。
「放っておけ、先にあの戦艦だ」
「はい。…提督」
艦長が、提督を見る。
いや、艦長だけではない。
「わかってるさ。お前達の不安はもっともだ。だが、敵は1隻だけだ。公平に見ても、我々が有利だ。大英帝国の勝利を信じろ!」
ネイザン提督は力を込めて言った。
半分は自分に向けてでもある。
皆が頷いたその時。
「敵戦艦、発砲!」
「なに? 距離は?」
「54,000です!」
「そんなに届くのか…」
艦長ミッチェルの、信じがたいと言った声。
「安心しろ、こんな距離で当たるはずがない! 35,000で初弾発射するぞ!」
提督の声。
やがて、敵戦艦グロースドイッチュラントの放った砲弾が、立て続けに着弾し、巨大な水幕をつくりあげた。
まさに巨大だ。
他に形容しようがないのだ。
あんな物に巻き込まれたら、この艦はどうなってしまうのか。
同じ物が、後続のアンソンの側にも現れている。
相当に外れているが…。
水幕がスコールと化して海面を泡立てた後には、雷鳴の如き一斉射撃の音が、遅れて届く。
音より砲弾の方が速いのである。
艦橋のガラスが、ビリビリと揺れる。
「見ろ、あの通りだ! 当たりゃせん!」
一瞬血の気の引いた艦橋も、その一声で生気を取り戻す。
しかしながら、提督は知っていた。
注目すべきはその外れ方ではなく、水柱の間隔が狭く、一箇所へ集中的に落ちていることだ。
散布界が200m強しか無さそうだ、それもこの距離で。
夾叉されたら、2斉射内でほぼ確実に被弾する。
被弾したらどうなるか…。
しかも、どうなっているのか知らないが、2隻同時に狙って撃っている。
その数8×2の16門。
恐らくは4連装の4基。
これでは数の優位も消し飛んでしまう。
遺書を遺してきたことに、少しだけ安堵を感じる提督だった。



「すごい外れ方ですね…」
「う〜む…」
苦笑いを浮かべるテレーゼと、顔を覆うヨハネス。
ざっと、2000mは外れたか。
どこかで計算を間違えたんじゃないか。
そう言いたくなる。
「1番主砲射撃装置に故障発生。使用できません」
果たして、出た。
電話から聞こえてきた声は、ヨハネスの気を滅入らせるには十分だった。
「はあ…やれやれ。どれくらい掛かる?」
「1時間か、2時間か…。とにかく相当致命的な物です」
「1時間だと!? バカモン! その頃にはとっくに戦闘は終わっとるわ! 2分で直せ! 噛み付くぞ!?」
「2分!? む、無理です」
「無理だったらやれ! いいな、2分だ!」
そのまま電話を叩き付けるヨハネス。
「仕方ない。1番及び2番主砲塔、2番射撃系の指示によって、後方の敵戦艦へ目標を変更せよ」
彼はそう言い終わると、疲れたとばかりに椅子に腰を下ろす。
「う〜ん、何とかなりませんかね」
テレーゼも顎に手を当て、深刻な表情で外を見ている。
敵艦のマストが、水平線から浮かび上がっている。
「主砲が撃てないわけじゃないからな。それに、フネは駄目でも飛行機は大丈夫だろう、さすがに」
面舵で遠ざかりつつある空母「フライヘル・リヒトホーフェン」を見やるヨハネス。
「赤男爵、ですか…。どうしても駄目なら、思い切り接近しましょう」
「…だな」
その時、視界が赤に染まった。
続けて、197,000トンの巨体が雷鳴と共に揺さぶられる。
第二斉射だ。
グロースドイッチュラントの最大戦速は32ノット+。
英艦隊は30ノット。
振り切って逃げるのも、出来なくはないが、少々怪しいところだ。
となると、やはり最後は肉薄して殴り合う事になるか。
出来ればそれは避けたいのだ。
日本までの旅路は、長く、過酷だ。
通常の場合以上に、損傷は避けたい。
すべての鍵は「赤男爵」が握っている。

その「赤男爵」は、しかし普通ではなかった。
いや、艦自体は、大きいことを除けば、特に変なところはない。
問題はその甲板に並んだ物体なのだ。
世にも奇妙な物体が、所狭しと並んでいるではないか。
空母なのだから飛行機を積んでいるはずだが、見当たる内で飛行機と呼べそうな物は、せいぜい5、6機である。
飛ばない物も幾つか置かれているようだが。
「どうして技師が艦長をやるのかも不思議だが…壮観だな、ある意味」
フォークトはかせは、艦橋でぼやいた。
・フォッケ・ウルフ Ta183“フッケバイン”(凶兆の大カラス)
・フォッケ・ウルフ “トリープフリューゲル”(三つの翼)
・フォッケ・ウルフ “ウンタータッセ”(皿)
・ハインケル “レルヒェU”(ヒバリ2)
・ヴェーザーフルーク P.1003
・ブローム・ウント・フォス Bv P.202
・A−4“フェアゲルトゥングヴァッフェU”(報復兵器2号)
・ラインメタル・ボルズィヒ “ラインフランメ”(ラインの炎)
・ラインメタル・ボルズィヒ “フォイエルリリー F55”(エゾスカシユリF55)
・ヘンシェル Hs117“シュメッターリンク”(蝶)
・ポルシェ “ケーニヒス・マオス”(王様ハツカネズミ)
「私のP.202が平凡に見えるとは」
色んな意味で、恐ろしいラインナップである。
「艦長、変針位置です」
「わかった、変針したまえ」
艦長のフォークトはかせの苦悩を余所に、巨人空母は舳先を左へと巡らす。
「ラインフランメ、射出用意」
砲術長の声がする。
ドイツに於いて空母の運用は初めてなので、誰が飛行機を管理するのか―――ラインフランメを飛行機と呼ぶのか疑問が残るが―――色々と試行錯誤の段階で、差し当たって砲術長がすることになっている。
「ワハハハハ〜! ヤーパン(日本)は面白い所だと良いな」
突然艦橋のドアが開かれ、いかにもアブなそうな白髪の爺さまが現れた。
服装はまあ、普通のドイツのオヤジなのだが、その目つきがすべてを否定している。
「おお〜っ、戦闘か? いかんいかん、照明が暗いぞ?」
爺さまはきょろきょろと周囲を見渡し、状況を悟った。
「ポルシェ博士、危ないですので指定箇所へ戻ってください」
邪魔になると見たフォークトはかせは、すかさず退散を願う。
しかし
「多分、これじゃな」
はかせが見たとき、ポルシェは配電盤を開け、配線をいじっているではないか。
「ちょ、止め…!」







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  α       ξ   ☆

☆ ★  ♪  ※ ◎ ∽   Å Ψ □ ((★_★))     ※ Σ(@△@;) ♪ 〆℃ $& £ §  〒  ↓
 Å
Ψ   ν κ

 


「キェロロロロロロロロロ!?」


「大丈夫ですか!?」
「電源が落ちました!」
突如すべての電気機器が停止し、騒然となる艦橋。
やらかしたようだ。
しばらくすると非常電源に切り替わり、照明が戻る。
そして、煙を上げて焦げているポルシェ博士が居た。
「う〜む、今のは頭にすかーっと来たわい。病み付きになりそうじゃよ、ウキョキョキョ! では、失礼」
壊れた笑い声を撒いて、ポルシェ博士は去っていった。
「何しに来たんだよ、あのジジイは」
「信じられない」
「海に放り出した方が良いんじゃないですか?」
「確かに迷惑だが…いや、さあ皆、任務に戻ってくれ。彼には後でお守りを付けておくから」
フォークトはかせはそう言って要員を宥めすかす。
やがて艦橋は平常へと戻っていった。
甲板を見やれば、砲弾に翼を付けたような物体が24、5基、蒸気を上げて並べられていく。
ラインフランメは空母専用の無人飛行爆弾―――艦対艦ミサイルなのだ。
赤男爵の鋭利な艦首が、北海の荒波を切り裂き、艦は33ノットで英艦隊の右舷側へと驀進する。
距離はおおよそ70,000m。
P.1003が、それを見張ってしている。
「照準、大体ヨシ!」
「ラインフランメ、射出準備ヨシ!」
きびきびとした号令は、さすが軍人と言いたいが、照準“大体”ヨシとはどういうことだろう。
複雑な気分になるフォークトはかせ。
「砲術、誘導用意。射出開始」
特に感情も込めずに、フォークトはかせは命令を下した。
以前、三菱に行ったことがある。
今、あの会社はどう成長しているだろうか。
楽しみだ。
彼はそんなことを考えていた。
しかし、その考えも馬鹿みたいな騒音で遮られる。
豪快な炎と、大気の張り裂けるような轟音を曳いて、砲弾に翼を付けたような例の物体が、飛行甲板を走る。
3基同時にだ。
排気遮蔽板が、真っ黒に焼け焦げている。
2秒もすると、ラインフランメ対艦ミサイルは、「赤男爵」の元を離れていた。
「では、誘導を頼むよ」
「了解」



「レーダーに反応あり、9時方向より未確認飛行物体! 数3…後方に同じく3! 速力推定970キロでまっすぐ接近してきます!」
「敵空母らしきもの、再び探知! 9時方向より高速で接近してきます」
英艦隊旗艦デューク・オブ・ヨークの艦上は、さらに騒然となった。
徐々に精度を増すグロースドイッチュラントの砲撃が、続航するアンソンの前方左舷側に大水幕を形作る。
命中は時間の問題となってきた。
しかし、距離はいまだ40,000mあるのだ。
その上に…だ。
「くそ、攻撃機か! 駆逐艦に下令、防空戦用意! 一匹も通すな!」
ネイザン提督が吼える。
しかし、何か違うことはすぐにわかった。
それが肉眼で確認できたからだ。
派手な炎を曳いて、密集した3機編隊で突っ込んでくる物体。
思わず目を見張る。
「繰り返すぞ、絶対に通すな!」
デューク・オブ・ヨークの乗員の内、少なからぬ数が、その物体の挙動を、固唾を呑んで見守る。
護衛の駆逐艦2隻が、弾幕を張る。
しかし、速い。
見る見る大きくなる物体は、一瞬とも思えるほどの時間の内に、駆逐艦の防空圏を飛びすぎ、猛然とデューク・オブ・ヨークに向かってくる。
まるで意思があるかのようだ。
「何をボケッとしている! 撃ち落とせ!」
固まった艦橋内に、ミッチェル艦長の声が響く。
その時、凄まじい轟音が周囲を圧倒した。
その方向を振り向けば、戦艦アンソンが途轍もない火柱を上げ、巨大な滝壺のような水柱に揉まれていた。
遂にグロースドイッチュラントの砲撃が、命中を見たのだ。
381ミリ、あるいは406ミリ弾防御のキング・ジョージ5世型戦艦の装甲で、508ミリ砲弾などという怪物を食い止められるわけはない。
それはいとも容易く船体を貫き、酷い物は反対舷の艦底部にまで到達して、爆発した。
その数、4発。
たまったものではない。
その結果が、真っ二つに引き裂かれ、大火災の中に沈みゆく姿なのだ。
「信じられん…」
対空砲火の轟音すら、意識を覚醒させるには足りない。
艦橋が静まりかえる。
第二次世界大戦型の戦艦が、敵戦艦からの、たった一度の命中で沈められるなど…。
提督のその考えは、言葉として出ては来なかった。
大地震を思わせる揺れが、デューク・オブ・ヨークを襲った。
火柱と爆煙が艦首を覆う。
艦橋の前面ガラスに炎が吹き付ける。
一番主砲塔付近に、ラインフランメ3基がまとまって命中したのだ。
隅々まで配慮の行き届いたデューク・オブ・ヨークは、主砲弾薬庫誘爆を免れたが、前部主砲2基が沈黙を余儀なくされる。
続けてグロースドイッチュラントの砲撃が、デューク・オブ・ヨークの付近に殺到し、周囲をハリケーンに荒れる海へと変える。
両艦は既に最接近点を過ぎ、遠ざかりつつある。
「駄目だ、勝てん…。速力このまま、取り舵。しかし、タダでは終わらせんぞ。駆逐艦に命令、敵空母を雷撃せよ! 本艦も続く!」
提督は叫んだ。
たった2隻の駆逐艦では、敵戦艦の副砲火網をかいくぐって魚雷を発射するのは、不可能だ。
しかし、空母ならば…。
デューク・オブ・ヨークの航跡が左へと曲がり始めた。
そこへもう一群のラインフランメが殺到するが、火柱と水柱に遮られて、狙いをはずれ、海へ突入した。



「後方の敵戦艦を撃沈しました。残る敵艦隊は右へ回頭、遠ざかります」
一発も撃たせずに敵戦艦を撃沈して見せただけあって、グロースドイッチュラントの艦橋は明るい雰囲気だ。
「そうかそうか、よし、このまま突っ切ろう。速度は落とすな、例によって、他にも艦隊が居るだろうからな」
ヨハネスも言う。
他にも艦隊が居るだろう、というのは、ビスマルク追撃戦の例からの推測だ。
主砲が係止位置ヘと戻る。
「待ってください。英艦隊の行く先には、F.リヒトホーフェンが居るのではありませんか?」
その時、テレーゼの声が艦橋に飛んだ。
はた、と祝賀の気運が止む。
「そうだった…。フライヘル・リヒトホーフェンへ命令だ、離脱せよと伝えよ」
気配りが足りない。
これも、錬度が足りないということなのか。
テレーゼは溜息を付いた。
「先が思いやられますね…」
そして、小さくそう漏らすのだった。



「振り切れますか?」
「いえ、逆に詰められてますね」
一方、赤男爵。
公称30ノットのデューク・オブ・ヨークは次第に遠ざかるが、駆逐艦2隻が張り付いてくる。
「ラインフランメは撃ち尽くしたし…ネズミさんに頑張ってもらいましょうか」
フォークトはかせは緊張感のない声で決断した。
「A−4とレルヒェUを撤収して、ケーニヒス・マオスを回せ!」
「焦るな、昇降機はレルヒェUが先だ!」
「P.1003を空中退避させろ」
ひととき、乗員の声と物音で、巨人空母の飛行甲板が騒がしくなる。
「砲撃準備が整ったら、各個撃ち方始め」
「了解」
Ta183の説明書を読みながら、フォークトはかせは追加命令を発した。
5分後には、準備は整う。
ケーニヒス・マオス重戦車。
いや、重戦車という表現は誤解を招く。
超を付けるべきだ。
戦闘重量220トン、主砲に155ミリ砲を搭載。
それが12両。
赤男爵の150ミリ装甲甲板は、その大重量にも耐えてみせる。
そしてすなわち、155ミリ砲が12門。
これは、額面上は下手な軽巡洋艦とまともに撃ち合える程の規模だ。
そして、大仰角を取れ、自走砲としての運用も可能なケーニヒス・マオスであれば、額面通りの火力を発揮できる。
弾着観測はP.1003がやってくれる。
70口径という長大な砲身が、次々と火を噴く。
その勇ましい音は、しかしフォークトはかせには、勉強の邪魔としか受け取られなかったのだった。
そして、史上初の空母搭載車両による洋上艦撃沈という、恐らく絶後になるであろう記録を残して、亡命独逸艦隊は、その行方を眩ました。
いや、二度ほど英軍に発見されたのだが、30ノット以上の高速で北上する艦隊を捕捉することは、とうとう出来なかったのだ…。












つづく

INDEX