Birth0Death
第八話 暴走舟にご用心
「うおっしッ!!エンディッド平原目指していっくゼ〜ッ!!!!!」
「えっと、この川の下流に港町スジがあるから、そこまで行って、それから南東に行けばいいのよね。ちょっと小さい山があるみたいだけど…もうすぐ、よね」
サティは地図を見て確認している。
チョクセ川を下ってスジまで行き、そこから南東に歩けば目指す大地、エンディッド平原なのだ。
「頭が痛い〜」
サッサの声がガンガン響く。
マルはしっかり二日酔いになっていた。
あれだけ飲んだというのにサティもサッサも今朝はすっきり。
クラウスにいたっては、一滴も飲んでいないのだから、いつもと全く変わりない。
ただ、先ほどサティにマントを渡されたときになにかあったらしく、顔が赤い。
無論、彼の眉間には皺がよっていた。
「・・・・・あれ?ララは??」
「ごめんな〜♪舟の手配しとってん」
小さな体で大活躍である。
ララの手配した舟は、なかなか立派だった。
「船頭サンおらんけど、サッサとクラウスとマルがいれば大丈夫やんね?」
「おうッ!!!オレ様がいればばっちりだ!!!」
・・・・・どうせすぐばてるくせに。
と、マルはこっそり思った。
「なんでも暴走舟とかがでるらしいから、注意してな♪」
してな♪って人ごとみたいに・・・。
マルの心のツッコミは続いた。
「暴走舟って?」
「そのまんまや。舟旅の人たちにレース挑んで、金品巻き上げる、せこいヤツラや」
・・・確かにせこい。
願わくばそんな者たちに会いたくない。
が、会ってしまうんだろうな、と、マルは半ば諦めモードで考えた。
勇者の一族のさだめかもしれない。トラブルに巻き込まれるのは。
「なぜ船頭サンいないのかしら?」
サティの疑問にララはあっさり答える。
「ああ、それはナナノ滝掃除や」
「掃除?」
「うーん、言い方悪かったかもしれんなぁ・・・」
町の人はみな、ナナノ滝に残された命石を取り除く作業で忙しいのだそうだ。
「どんなにきれーに見えても、あれは死体と、かわらんもんな」
ララの何気ない言葉に、サッサの顔に陰りが見えた。
「どうした?サッサ??」
「ああッ!?おうッ!!!舟でもなんでも漕いでやるゼッ!!暴走舟上等ッ!!!!」
すでに暴走舟と競う気まんまんである。
おいおい・・・・。
マルの心のツッコミはこうして繰り返されていく。
☆ ☆ ☆
母さん、僕、もうだめなのかな。
ああ、父さんごめんね、こんな不出来な息子で。
あああ・・・・。
もう一度ルリちゃんに会いたかったな。
でも、かわりに、きっともうすぐ父さんにも母さんにも会えるよ・・・・・・・。
「・・・って何目ぇつぶって寝てるのよ!!!」
「イテッ」
目を開けるとお怒りサティがいた。
現在、川下り真っ只中。
舟を漕いでいるのはサティとクラウス。
漕ぐといっても、流れの通りに行くと、ときどき変な方向に行ってしまうので、それを修正するという程度。
エメラルドグリーンの水面はゆるやかな流れを移して、舟をスジへと導く。
川を挟む両岸は森。
白い花をつけた木々が川に向かってのびている。
「ぎぼちわりッ〜!!!」
そんな美しい景色を見る余裕もない。
「げ、こっち向いて吐くなよ〜っ。ううう、僕まで気持ちわる・・・」
サッサとマルは船酔いでバテバテである。マルはプラス二日酔い。
「なぁ〜。この舟いつ、つくんや〜?」
ララもばてばてで、船底にへばりついている。
朝出発して、今はもう昼すぎ。・・・・それだけの時間、舟は流されていた。
チョクセ川を含む、幾つもの小さな川が合流して、今はもうかなり大きな川となっている。
ここはもうチョクセ川ではなく、テンセ川。
恐らくかなり深いのだろう。豊かな水量を誇るテンセ川は、マルたちの舟をゆったりと流していく。
「ごめんね、舟、ゆっくりすぎるのかしら。下流に流されてるのは確かだから、もうすぐ着くと思うんだけど・・・」
サティはかなり不安になっていた。
自分の提案でこの道を行っている。
だが、実はこのルートより歩きの方が速かったりしたのではないか。
地図上の知識には詳しくとも、実際旅したことのない彼女にとって、その距離感はまだまだ甘い。
「・・・歩いていくより速いはずだ」
サティの不安が顔に出ていたのだろうか。
クラウスはそっぽを向いてぼそりと言った。
「そうね、きっと」
「うんうん。クラウスが言うんやったら間違いないわ」
「ありがと、クラウス」
サティに感謝の言葉を述べられて、クラウスは苦虫をつぶしたような表情を浮かべていた。
「くっそ〜ッ!!!なんかクラウスのヤロー、気にいらねぇゼッ!!!」
や、お前に気に入られても嬉しくないぞ。
と、マルは心の中で密やかにツッコミをいれたのだった。
そこからしばらく。
昼ご飯を食べ――――もちろん、ボーダーの宿屋でつくってもらったお弁当だ。英雄サッサの威力は偉大である。―――何事もなく流れていく・・・・かと思われた。
が。
「そこの舟ッ!!!!!!!」
サッサにも劣らぬ大声。
と、いうかサッサと同じ精神の持ち主の存在を感じて、マルは眉をしかめた。
いや、たんなる予感だが。きっとこの手の声の持ち主は、面倒なやつだ。
「げ〜?なんだろ???」
やる気の抜けきった声。
マルはダブルの酔いで疲れきった体を起し、背後を見た。
「なにかしら、あれ・・・・」
サティも呆れ顔で見ている。
チョクセ川と同じようにテンセ川に合流してきた小さな川、キョクセ川。
そこからやって来たのはマルたちの乗る舟と変わらぬ大きさの舟。
だが、その派手さは異様だった。
もとの舟の色は黒いのだろう。ちなみにマルたちの舟は黄色だ。
彼らの舟はその黒地に、あざやかなショッキングピンクで何やら文字が書かれている。しかもそれは蛍光。
さらに、青、緑、白などの塗料で花や髑髏やわけのわからない模様が描かれていた。
「あんだよッ!!!テメェらッ!!!!!」
売られたケンカを買わずにおられない、熱い男サッサ。
いや、まだケンカを売られたわけではないのだが・・・。
と、いうよりできるだけ、関わりたくないというのがマルの一番正直な気持ち。
「久しぶりにチョクセから流れて来たと思ったら、こんなヤツラか」
海賊風の男に、嘲りの言葉をはかれてしまった。見ず知らずだと言うのに。
「アアッ!?なんだとッ!!!!!!」
「んっとだぜ〜。病弱そうな兄ちゃんに、陰気なにーさんに、うるさいだけのガキ。綺麗なおねえさんが、こんなヤツラと旅しているとは」
海賊風の男に同意するように、青ローブの男が、嘆かわしいと首を振っている。
ああ、はたから見たらそうなのかもな〜。
と、妙に納得してしまったマルは置いておいて。
無論、サッサの方は怒り心頭である。
口には出さないものの、クラウスの目つきもかなりお怒りをば含んでいる。
キョクセ川から出てきた男たち。
全部で四人なのは、やはりルドの格言"旅は四人がもっとも良い"というものが、今も残っているからだろう。
一人は鎧を着た戦士。
一人は髭をはやし、バンダナを頭にまいた海賊。
一人は黒のローブを纏った魔法使い。
そしてあとの一人は、一見してもその得意分野のわからない青いフードつきのローブを羽織った男。
だいたい青いローブなんぞを羽織っている者は命石魔法の使い手なのだろうけれど。
その男は背に美しい、銀の弓矢を背負っている。
あまり使われていないのか、はたまた、新品なのか。やたら綺麗だ。
ただ、その弓矢を背負っているということで、職業を決定できない、神秘的な雰囲気をつくりだしている。
そんな男たちの口から、罵倒の言葉が飛んでくるのだ。
メンバー全員、ニヤニヤ笑いを浮かべている。どいつも品はあまりよろしくない。
「なんやねんな、あんたら?」
お昼寝をしていたララも飛び起きた。
「ほぅほぅ。そんな虫けらまでつれないと旅が出来ないってか〜?」
青ローブ男はララを見てせせら笑う。
うっわ、感じ悪い・・・。
マルは流石にムカッときた。
「テメェら、オレたちになんのようだッ!!!!!」
「別に〜。野郎にようはねぇよ。そっちのおネエちゃん、俺らの仲間にならないかい〜?」
ナンパかよ。マルは呆れて青ローブを見た。
「あ?なんだ病弱兄ちゃん?文句あんのか??」
戦士風の男がマルの視線に気がついて、いちゃもんをつけてくる。
「まあそりゃ、いろいろと」
唐突に現れて、ケンカを売って。はてはサティをナンパとは。文句がないはずはない。
「悪いけど、私はこのパーティーを離れたくないの」
はっきりと断るサティ。
その間、男たちの舟は徐々に近づいてくる。
「俺たちの名を聞いても?」
魔法使い風男が言った。
「ちなみに誰?」
一応サティは聞いてみた。できれば関わりたくなかった・・・というのはマルと同じ。
「俺たちはなッ!!」
海賊風の男が言う。その言葉に続いて魔法使い風の男が言葉を発した。
「魔法の王者、イッコク!!!」
「筋肉の達人、ニコク!!」
「川の貴公子、サンゴク!!!」
「我等、戦国舟鬼団っ!!!夜露死苦!!!」
三人が三人、声を合わせて、ポーズも決めて名乗る。
・ ・・どうやら、暴走舟の団体、らしい。
バカにしかみえない。いいや、たぶんバカ。
おそらくこの三名は兄弟なのだろう。職業や体格こそちがえ、顔がそっくりだ。
「はぁ〜ッ!!!!?こちとら、勇者ルドの精神を受け継いだ、勇者様の御一行だゼッ!!!!」
サッサのいう「勇者」はきっとサッサ自身のことなのだろう。
「なに――ッ!!!勇者ルドッ!?」
「そりゃ、ますます殺りがいがあるってもんだ!!!」
おいおい、騙されてるよ君ら。と、マルは思ったとか思わなかったとか。
「あれ?ちなみにあんたは誰や?」
ララに話しかけられて不快そうに青ローブの男は顔をしかめたが、すぐに元通り気取った顔に戻る。
「俺か?俺様はな〜、旅の大商人、アクトク様だ!!!!!」
言葉と同時に青いローブを脱ぎ捨てた。―― 長い黒髪が、風に揺れる。
その顔には無数の傷跡がみられるが、とくにひどいのが左目のあるはずの部分に走った傷跡。顎の近くまでたっしている。
一方、ふさがっていない右目は毒々しい雰囲気を持った紫。
面長で、口元は常にニヒルな笑いを浮かべている。
スパンコールのついた、青色のシャツに黒い革のズボン。真っ白な太いベルト。
腕に首に、腰にも。銀のアクセサリーがわりにじゃらじゃらと鎖をつけている。しかもこの鎖、赤、青、黄色と、さまざまな宝石をあしらっている。
いや、もしかすると宝石でなく、命石かもしれない。
・・・一番のバカはこいつである。
だが、バカにも関わらず、マルはこの男に、なにか、いうにいわれぬ淀んだ空気が見えるような気がしていた。
「戦国鬼舟団、期待の新人だッ!!!」
「テメェらみたいな奴に、そのお嬢サンはもったいない」
そのお嬢サンとは、サティのことを指すらしい。
「おれらと勝負だっ!!!」
なんだか、話が鬼舟団のペースにのせられている。三兄弟+アクトクのいうことには、サティを賭けて、舟のレースをしようということらしい。
「待って待って、んなの、賭けにならんやん。そっちは何かけんねんッ!!」
「しょうがないな〜魔王の情報を賭けてやる。勇者ルドの血を受け継いだ勇者様一行、なんだろ?」
「魔王?」
「魔王だってッ!?」
「魔王!!?」
三者三様に、ライン出身者は飛びあがった。三人の反応に、にやりと笑うアクトク。
「魔王ったって、もう倒されたじゃないの、三年も前に」
「三年前、ね」
アクトクのシニカルな思わせぶりな笑みに、サティも困惑の表情を浮かべた。
「・・・気になる話だッ!!!」
「係わり合いになるのはやめとこうよ」
「こらッマルッ!!!テメェはそんなんだからいつまでたっても勇者の弟なんだよッ!!!」
マルはサッサに怒られてしまった。
「まあ、テメェらみたいな腰抜け野郎どもに、魔王の情報をやったって役にたたねぇかな〜」
「がはははっ」
アクトクの言葉に三兄弟が笑いの合いの手をつける。
「オレたちゃ、ボーダーの悪魔を倒したんだゼッ!!!!」
「嘘はいけねぇぜ、お兄さん」
「嘘じゃねぇッ!!!」
「そうよ。私たちはボーダーの悪魔を倒したわよ。だからこうしてチョクセ川からきたんじゃないの」
サティは冷静に、諭すように述べた。おかげで、三兄弟&アクトクは納得したようだ。
「よっぽど弱かったんだなその魔物〜。そいつこそ、腰抜けだ」
ケケケと笑うアクトクに、クラウスの怒りは頂点に達した。――セミを嘲るなど、言語道断。
「勝負のルールは?」
まわりの温度を下げるような、冷たい声。眉間のしわはいつもよりさらに険しい。
一瞬の間。
「がははははっ」
「ケケケケケッ」
イッコク、ニコク、サンゴクは声を揃えてがさつな笑いを、アクトクは嘲りの笑いを起こした。
クラウスはますます不機嫌な表情を浮かべる。
「な〜んもしゃべらん兄ちゃんからそんなセリフが聞けるとは思わなかったぜ」
アクトクは、やはりからかうように言った。
「よぅし、やる気満万だな♪」
「ちょっとクラウス何言ってんだよう」
「すまん・・・」
すまんって言われても、こちらが賭けるのはパーティーの華、パーティーの回復係そして、パーティーの策士。
サティ・ビブール・・・・・・。
「ま、いいんじゃない?アクトクさん、中々カッコイイし♪」
とうのサティはにやりと笑った。
ただでさえ船酔いで青白かったマルの顔色が、ますます悪くなった瞬間だった。
タクスの部屋!!
タクス「さてさて、セットも復活して、やってきました、タクスの部屋タイム!」
サンゴク「おう、ここがタクスの部屋かあ!」
イッコク「いいもん、そろっとるな」
ニコク「このソファ、高く売れそうだぜ。どーよ、アクトク?」
アクトク「う〜ん、このソファは金貨に換算して・・・・」
タクス「こりゃーっ!!君たち人の部屋(本当に部屋だったのか!?)を荒すんじゃなーいっ!!!」
サンゴク「うわ。あんまり怒ると血圧あがるぜ?」
ニコク「そうそう」
イッコク「年寄りの冷や水」
三兄弟「がははははっ!!!」
タクス「(しくしく・・・こいつら、いや〜!!)」
アクトク「ほらほら、困ってるっすよ、センパイ方」
タクス「ああ、アクトクくん、君だけですよ、私の味方は〜」
アクトク「・・・・(ニヤリ)」
タクス「(な、なんなんだー、今のニヒルかつシニカルな嘲りをこめた不敵な笑いは〜(長ッ!))」
アクトク「さ〜て次回は」
イッコク「サティ最強伝説」
ニコク「第九話 「ボートレース」」
サンゴク「お楽しみにー!」
タクス「・・・ああ〜私のセリフ・・・・」