Birth0Death

第四話 はじめての魔物遭遇


翌日の早朝。
誰にも見送られることなく、マルたちはこっそり旅立った。
サッサ&ララはかなり残念そうだったが。
「・・・・・・・しかし、あのお祭り騒ぎはなんだったのだ・・・・」
ぶつぶつ文句を垂れているのは、クラウス。
「すみませんっ、あの町で旅立ちって言ったらそりゃもう、トクベツなことなもんで」
平謝りを続ける勇者弟。徐々に町が遠のく。
「ま、ええやん。楽しかったし♪」
クラウスのまわりを飛びまわるのは妖精ララ。
「せや。幻の森の行きかたなんやケドな、この辺に広い場所ある?」
「へ?」
そういえば昨日のお祭り騒ぎのせいで、この二人の詳しい話を聞いていなかったのを、マルは思い出した。
無論、これから目指すジュカについても、何も知らない。
「広い場所があったら幻の森に行けるのかッ!!!?」
熱く叫ぶのはもちろん、サッサである。
「そうやねん。ジュカをつくったのがな、タクスっていうすごい仙人なんよ」
「仙人?」
「そそ。仙人」
なんだか、爺むさい。
「その幻の森っていうのは・・・?」
「広い場所見つけて、呼び出せばいいねん」
「呼び出す?」

呼び出すといえば、召喚魔法。
召喚魔法とは、デスから血の契約の元に魔物を呼び出す魔法。
命石魔法と違って、それが使えるのはごくごく限られた者だけだ。

「何を隠そう、うちは召喚魔法が使えんねん!!」
使えないという意味の「使えん」ではなさそうだ。
と、一瞬考えて、

「えええっ〜〜〜〜〜!!!!」
「なにッーーーーー!!!!!」
「うそっ」
マル&サッサは驚きの声を上げた。クールなサティも驚く。

「やから、広い場所に行きたいんやけど?」
「この近くの広い場所っていったら・・・やっぱり平野がいいわよね?」
ララがうなずいたのを確認するとサティは頭に地図を浮かべた。
「だったら、エンディッド平原がいいかしら。カイタ山を突っ切れば直線距離では早いけど…そこは危険なのよね。だから海へ出るコースにしましょ。…そうね、ボーダーまで行けばそこから、川を下る舟があるはず。川を下った方がはやいわね」
サティは地図を見ながら検討する。

ボーダーとは山間の町。
ラインからまあ、おおざっぱに言って、北へ一日ぐらい歩けば着く。
ちなみにラインは森に囲まれた町だったりする。
東に行けばカイタ山という、高く険しい山がある。
カイタ山は旅慣れない者には登れそうにない。いや、旅慣れていたとしても登るのは困難だ。
エンディッド平原に安全に向うには、サティの言うコースが確実なのである。

「ボーダー、せせらぎの町だな!!あそこにゃ有名な滝があるらしいぜ!!!」
サッサは握りこぶしを振り挙げて、力説した。どうやらその滝を見物したいらしい。
「まずはともかくボーダーに向うんだね?」
マルは一応確認した。
「そやね〜♪楽しみ楽しみ♪」
「ほんッとだぜ♪」
ララもサッサもうきうきしている。
「そうね、私も楽しみだわ」
サティも微笑を浮かべる。

にこやかに話す四人の後ろで、ふっ、と空気が変わった。
「え?」
マルはその微妙な変化に気がつき、振り返る。
後ろを歩いていたはずのクラウスがいない。

それは、一瞬のできごとだった。

彼の剣は寸分の狂いもなく、巨大な鳥の喉元に突き刺さっていた。
その瞬間を目にすることも出来なかった。
呆然と見守る。
クラウスは、剣を何事もなかったかのように、すっと引きぬく。
途端、赤々とした血が噴き出した。それまでは、剣のお陰で血止めの役割になっていたのだろう。
「油断するな。ここはもう、ラインではない」
ラインから一歩出たらそこは結界のない土地。
魔物や野獣が溢れる大地。
顔色をなくしたのは決して、マルだけではなかった。

鳥の死骸を横目に、マルたちはボーダー目指して歩き始めた。

「・・・・・やっぱり命石にはならないんやな」
死骸を横目にララはぽつりとつぶやいた。
クラウスはその言葉に目を細めていた。

☆    ☆    ☆

「俺のハートが燃えあがるッ!!ああ栄光はオレに輝くッ!!!怒涛の烈火流星波!!!!!」

サッサはわけのわからない技名(きっと命名は彼自身だろう)を叫びながら、魔物に炎を浴びせる。
彼の命石魔法は、その首から下げた紅いペンダントから発せられる。
「ねぇ、お願いだからその無駄な叫びはやめてくれない?」
サティはサッサの言動に呆れつつ、手にもった皮の鞭で、しっかり援護している。

そんな二人を横目に、クラウスは無言で魔物を倒していく。
彼の剣は的確に敵を斬っていく。
このパーティーで一番の功労者は彼である。

今、一行を囲んでいるのはスライムとよばれる薄ピンク色をしたゲル状の生き物。
数が半端じゃない。
おそらく、彼らの住処の上を通ってしまったのだろう。
大きさは手のひらサイズのものから、人の腰まであるものまで、まちまち。
だが狂暴性はどれも同じ。
顔面にむかって跳びかかり、窒息させんとするものがあれば、全面で体当たりしてくるものもいる。

ところで、我らが主人公、マル・スカイブルーは、というと。
「ああっ、もうっ、来るな来るな〜〜」
細身の剣を振りまわすも、ちっとも当たらない。スライムの方も半ばからかうようにまわりを取り囲む。
・・・しかも彼を取り囲むスライムはなぜか、皆ちっこい。ちびっこスライムたちにモテモテ?状態だった。

「ご苦労さん♪いやあ、ええ戦いっぷりやったわ♪」
「ララ、テメェどこにいたんだよッ!?」
どうにかこうにかスライムたちを退け、マルたちは、その場にて休憩をとる。
「そりゃ、うちは上空から敵がこないか見張ってたんや♪」
結構ないいわけである。
「サッサもサティも、なかなかやるやん♪ま、マルはちょっと問題ありやったな〜」
いっそ非戦闘員に入れてくれ、と、マルは心で叫んだ。

マルたちがラインを出て、ようやく3時間ほど歩いたところ。
もはや、マルらのまわりは、すっかり鬱蒼とした森に包まれている。
もしかしたらルドの時代から生きていたのかもしれないような、そんな大木が、ところどころに根を張っている。
「こういうじめじめしたとこにはな、スライムがつきもんやねん。
やからな、慣れやで、慣れ。山ほど出てくるはずやから。こんなんはたいした魔物やない。"悪魔がえり"の魔物と比べたらな。そもそもスライムっちゅうのはやな、命石のなりそこないやから、いろんな属性をもっとるわけよ、んでな・・・・」
戦闘に参加したためしのないララが説教をたれる。
説教と言うか魔物知識の小講義。
確かにララの言うとおり。
この辺りに出る魔物は、デスからの訪問者ではない。
ほとんどが、この地方にもともと生息する生き物。
もしかしたら、何百年か前の"悪魔がえり"のさいの忘れ物、かもしれない。
だが、その力は"悪魔がえり"の魔物たちに比べると格段劣っている。

「んな知識はいらんから、お前も戦えよ〜ッ!!」
熱血少年サッサは、あまりに魔法を使いすぎてちょっとふらふら。ララの講義を聴く元気もない。
始めての旅で、スタミナの使い方が全然なっていないのである。
「だってうちは非力やもん♪」
確かに飛びまわる蝿よりちょっと大きいぐらいの彼女に戦闘をさせるのは酷である。

「先を急ぐぞ」
クラウスはその場に置いた荷物を背負い、さっさと歩き出す。
「待ってよ。ジュカに行って扉を開くって、詳しい説明はいつしてくれるんだ?」
マルは聞こう聞こうと思って、結局聞けなかった旅の目的をようやく口にした。
「その話は歩きながらにしましょ。こんな森で夜を迎えるのは嫌だし」
サティの提案に一同、素直にうなずく。

「で、"悪魔の扉"を開くってどういうことなんだ?」
「そりゃ、"悪魔の扉"ってぐらいなんだから、その扉の向こうの悪魔をやっつけるんだろっ♪」
「ええっ!?やっぱそうなのかい?」
クラウスが言うよりはやく、サッサは己の希望を口にした。
マルはとってもいやそう。
サッサの方はとってもルンルン。
「違う」
クラウスは無言でサッサを睨みつける。
「な、なんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とらわれのお姫さまを助けるんやよ」
またも無言になってしまったクラウスに、ララは助け舟を出した。
「は??」
「とらわれのお姫さま?」
流石のサティも予想外の答えに驚きを隠せない。
「うちらの友達でな。ちょっとばっかり複雑な事情の子なんやけど、でも、めっちゃ純な子なんやで」
ララは心なしか遠い目になっている。
「その子を助けるために扉を開くのか。お前、無愛想なわりにいいヤツだな〜ッ♪」
サッサはクラウスの背中をばんばん叩く。クラウスはとても嫌そうに眉をしかめた。

お姫さまが"悪魔の扉"に閉じ込められる、か。
そうか、"悪魔がえり"の爪痕の一つなのかもしれないな。
マルは自分なりにクラウスたちの事情を解釈したのだった。
そういう理由なら、悪魔、魔物関係も出てこないかも♪
・・・・・マルの足取りに力が戻った瞬間だった。

「しっかしまあ、強いのねクラウスさん」
何匹目の魔物を仕留めただろう。
ふいにサティがクラウスに声をかけた。
「そら、クラウスの剣技は世界一やもん。な?クラウス?」
「そうでもない」
ララの言葉に素気無く返したクラウスは、やっぱり無愛想。
「あ!!!!」
慣れない旅の慣れない戦闘ですっかり疲れきっていたサッサが唐突に声をあげた。
「なんだよ?」
マルもすでに息切れ状態。
「クラウス、剣を教えてくれよ!!!!」
「は?」
さすが勇者志望の魔法使い。
努力を怠らない。
素晴らしき前向きさ。
後ろ向き大王のマルは心の中で拍手を送った。無論、傍観者を決めこんで。
が。
「おう、決めた決めた!!もちろん、マルもだぜ?」
有無を言わさぬサッサの決定。
この強引さなら勇者になれるかも。・・・などと感心している場合ではない。
「はあ???」
マルは間抜けな声で聞き返した。
おいおい、腹筋93回になにをやらせる気だ〜ッ?
「なんつったって勇者弟だしよっ!!」

バンバンと肩を叩かれ、マルは余計に疲労をば感じていた。
そんなこんなで、ボーダーについたら、クラウス先生に剣技を伝授してもらう羽目になった。
クラウスの返事はないが、おそらく、強引にサッサが進めることだろう。

「で、肝心のボーダーはまだなん?」
「登りになってきたでしょ、きっともうすぐ。日が暮れる前にはつけると思うわ」
足元の土を踏みしめながら、一行は進んでいく。登りの傾斜がじょじょに急になっていく。

「あれかしら?」
サティの言うとおり、日暮れ近くになって、ようやく下方に建物が見えてきた。
ちょうど、町に灯りが灯り始めた頃のようだ。白壁にオレンジ色の屋根の家が数軒、立ち並ぶ。
小麦畑もみえるし、牧場らしきものも見える。独特の石畳の町並みと、中央の河川。
平和そうな町なのだが・・・・・・・・。

「お〜い、マル?」
「あ、なんだよ?」
見えるものが他にないか、目をこらしていたマルに、サッサが問いかける。
「どうせなら、さっさと町に入ろうぜ」
「ああ、うん」
マルはボーダーに、なにかどんよりとした空気を感じていた。

☆    ☆    ☆

谷間に位置する小さな町、ボーダー。
別名せせらぎの町。
町の中央に流れるチョクセ川がその名の由来となっている。
チョクセ川を舟でくだれば、目指す大地、エンディッド平原のそばに出るはずだ。

「今日は宿に泊まるとして。明日舟を探せば、明日の夜にはエンディッド平原の端につくかしらね」
「なんだ、あっという間だな♪」
マルは明かにほっとした。
たった一日しかたっていないのに、彼はすでにラインに帰りたいモードになっていた。
「なんだよ、お姫さま助けたらそれで終わりかよ〜ッ」
サッサはとても残念そうだ。
「終わりでいい」
ぼそりとクラウスはつぶやいたのだった。


タクスの部屋!!

タクス「祝!本編出演っ!!!

マル「あのー、タクスさん、なんですか、そのラメ入りタキシード・・・」

クラウス「袖にそーめんつけてるな」

タクス「フフフ。すごかろう。かつてエルビス・プレスリーが身にまとい、ついでにしきのあきら、ジュディ・オングが身につけたという伝説の・・・」

ララ「あ〜も〜、え〜からっ。大体タクス、名前だけやん、出てきたのって」

タクス「ううっ(T_T)」

マル「本当に仙人って名乗ってるしな〜」

タクス「そう、マルくん、爺むさいとはどういうことかね!?この私のすんばらしーポリシーをもって名乗る、華麗にして甘美、かつ理知的なネーミングに対してっ!!!!」

マル「ギャーっ、そのメイクしまくった顔で近寄るな〜!!」

タクス「いやん♪ひどいよ、マルくーん♪(←おもしろいので追いかける)」

マル「ギャーッ(脱兎)」

ララ「はあ、あほくさ。クラウス、次回予告頼むわ」

クラウス「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ララ「・・・はあ(ため息)」

ララ、クラウスから原稿を奪う。

ララ「次回はクラウスの過去がちょっとだけ明らかに・・・第五話「クラウスの思い出」 やね。まあ、楽しみにしたってなー」(←なげやり)

タクス「ぎゃーっ、またも言われてしまったああ・・・」


INDEX

NEXT STORY