Birth0Death

第三十九話 ルドの一族


 

 

「マルッ!!!!」

 

ロナとルーワの間に、マルが立っていた。

全身でロナの恨みの気持ちを背負う。

 

「なぜ?なぜあたしを助ける?」

「・・・・・・いやだったんだ・・・・」

 

いやだったんだ。

 

ロナが誰かを殺してしまうのを見るのが。

ただ、それだけの話。

単純だけれど、譲れない。ロナを魔王にするわけにはいかないという思い。

例え、それが許されざる行いをした者であっても、ロナがデスの代表として手を下すことは、いやだった。

ロナが、ロンガルフになるのはいやだった。

自分なら大丈夫だ、という自信があった。自分なら、ロナに刺されても、大丈夫だという自信が。

 

「・・・・・マル!!」

ロナがマルに駆け寄るのを、ルーワは放心したように座りこんで見ていた。

 

「・・・大丈夫。このくらいの傷は・・・・なんともないよ」

なんともない、とは言いがいたい傷を抱えて、マルはそれでも立っていた。

傷のためか痙攣する手で、脇腹に刺さった、ルドの剣を握り締める。

 

彼はそのまま動きを止めた。

 

ルドの剣を見つめる。

マルはその姿を知っている。

この剣の“力”を知っている。

 

―― 使うものの力を増幅させ、大地をも切り裂く。

あまりにも強大なその力を、ルドは恐れ、戦いののち、それを封じた。

増幅される力。

大地をも切り裂く力。

 

自分の、勇者ルドの血をひく自分の血。

その“奇跡”の力は、“無の水”を“浄化”する。

 

負の感情で埋まった世界、ゼロの大地を“浄化”できれば・・・・もう、“無の水”も生まれない。

 

そうか。

それで、すべてが解決される。

それはルドの一族としての生きかたになってしまうけれど。

 

「わかった…」

 

マルはふっ、と後ろに佇む仲間たちを振りかえった。

 

「やっぱ僕は勇者にはなれないよ。・・・けど。僕にもできることが・・・ある・・・・・」

 

 

力を振り絞り、握り締めたルドの剣を引きぬく。

そして、その剣を自分の胸元に向ける。

 

「マルッ!!!?」

「ロナ」

ロナの名を呼ぶマルの声はとても穏やかで・・・。

浮かんだ微笑はやはり優しくて・・・。

 

でも、止めないで、という思いが伝わってくる。

 

 

「兄さん、すべての元凶は、あの大地。ゼロ。すべてを無にする大地。あれがある限り、“悪魔がえり”はなくならない」

マルは穏やかな光りと、強い意志の輝きを瞳に宿らせて、兄を見つめた。

「マル、なにを・・・?」

 

――勇者の血は“浄化”するんだ。

 

「マルっ!?」

サティの声が聞こえる。

ずっと、姉のように自分を見守ってきた、彼女の声が。

いつも、心配そうに自分を見てきた、サティ。

自分たちがラック荘に行った日から、サティには心配をかけどうしだった。

 

――そうすれば“無の水”もなくなる。

 

「や、やめろ!!」

クラウス・・・。

彼は必死に、ボロボロの体で駆け寄ろうとしている。

“出来損ない”と言われ、それでもヴァース人に恨まれ・・・でも、彼には優しさがある。

 

――そうすれば“滅びの穴”もなくなる。

 

「あかん、そんな・・・・」

ララ・・・。

止めたいのに止められない。動きたいのに動けない。

彼女も、小さな体で、飄々としながら、でもいつも無理をしていた。

ふらふらになるような魔法を、いつも咄嗟に使っていた。

今の自分と近いものがあったのかもしれない。

 

 

――そうすれば・・・“悪魔がえり”も起こらない。

 

「やめろ、やめろよ、マルッ!!」

青ざめて、首を振り続けるサッサ。

正義感が強くて、曲がったことが大嫌いで。

彼の言う正しさを、心のどこかで、ばかにしていた。

でも、羨ましかったのかもしれない。そのまっすぐさを。

気づきもしなかった彼の翳りに、その正しさへの憧れを理解した気がした。

 

――もう、大丈夫。

 

 

悲劇も、絶望も、狂気も、なくなる。

 

 

「ゼロを“浄化”して。兄さんの、勇者バッツの手で」

「マ、マルっ!?」

 

すっと瞳を閉じたマルは本当に穏やかだった。

 

 

「ごめん。・・・僕もやっぱりルドの一族だった」

謝りながらも、にっこりと笑顔を残す。

 

 

 

そうして、マルは剣を自らの胸に突き刺した。

そこからは、不思議と血が出ない。変わりに、眩しい光が溢れていく。

ルドの血族の持つ、“浄化”の力がルドの剣に込められていく。

 

 

「マル―ッ!!!!」

サッサの絶叫が、エンディッド平原に響き渡った。

 

 

ルドの剣は透明から、紅に色を変えていた。

後に残ったルドの剣を、バッツは静かに握り締める。

 

 

バッツはルーワを見つめた。

その表情は何かを問うているようだ。

 

言葉にしなくても、ルーワにはわかる。バッツが何を言いたいのか。

 

「ええ。そうです。あの大地が消えるとき、私も失われる」

それは“勇者の仲間”としての、最後の言葉。

 

「お、おいっ、バッツ!!!?」

アイズがバッツを止めに入る。それをクラウスが止めた。

「頼む。終わらせさせてくれ」

「でもっ、あいつは俺たちの仲間なんだっ!!」

アイズの悲痛な叫びに、ルーワは表情を一転させる。

「あたしはあんたたちを利用してただけだよ」

嘲りの笑みを浮かべていった。

「ルーワッ!!!」

言葉とは裏腹に泣きそうな笑み。

バッツはゆっくりとルドの剣を振りかざす。

赤々と剣は、輝く。マルの血がそのまま剣になったかのように。

「・・・ルーワ」

 

ゼロはあってはならない。

例え、ルーワの守るべき場所だとしても。

 

振り上げた剣に、光が集まる。

バッツは上空の大陸を睨みつける。

一気に振り下ろされた剣。

集まった光がまっすぐに大陸にぶつかっていく。

 

赤い閃光。

空も瞬間、赤色に染まる。

 

「は・・・・はははは・・・・・」

ルーワの笑いが、平原に響き渡る。

「は・・はは・は・・は・・・・・・・・・」

ゼロの大地が消えていくとともに、ルーワの姿もだんだんと薄れていく。

「ルーワッ!!!」

アイズはルーワに駆け寄り抱きしめた。

バッツも剣を放り出して、ルーワに駆け寄る。

バッツが駆け寄るよりもはやく、アイズの腕の中にいたはずのルーワは消えていた。

 

 

ロナは静かに、残されたルドの剣を拾い上げた。

 

「……マル・……」

 

きゅっと唇を噛み締めて、涙をこらえる。

もう、泣いてばかりはいられない。

 

「…ロナ、ここは泣いていいと思うで」

いつのまにかロナの肩に座って、ララはぽつりとつぶやいた。

「うちも、悪いけど、泣かせてもらうわ」

一六〇年間、様々な生き死にを見てきた。

そんなララの目にも、涙が溢れた瞬間だった。

 

☆    ☆    ☆

 

エンディッド平原は、いつもの姿に戻ろうとしていた。

「俺たち、ルーワの弔いするから…仲間、だったんだ俺たちにとって」

バッツとアイズはそう言って、エンディッド平原に残ることになった。

「バッツ…」

別れ際、サティはバッツに話しかけた。

「なんだ?」

「…元気で」

もう、会うことは、ない。

もう、待っていても彼はラインに戻らない。

そんな予感がサティにはあったのかもしれない。

 

「マルを頼む」

 

それはバッツの旅立ちの日に言われた言葉。

今、再び聞いた言葉。

 

バッツの言葉にサティは静かにうなずいた。


タクスの部屋♪

タクス「さてさてさてさて。とうとう次で、最後ですよー。最終回ですよー!!なのに、なのに主人公のマルくん死んでるしーっ!!!」

優「そういうことをネタにするのはやめようよ!(びしっ)」

タクス「わっ(@_@)!!どなたですか?!」

優「作者です。ご挨拶に伺いました」

タクス「はあ、よろしくお願いします」

優「ええ、よろしくお願いします」

 

双方、ちゃぶ台を挟んで、正座。

そして、礼儀正しく礼。

 

タクス「しっかし・・・これ、よかったんですか?」

優「マルくん、ぐっさり剣でGO−のこと?」

タクス「な、なんというか・・・(汗)まあ、その通りですけど」

優「このシーンはね、もう、一番に決まってました。ってか、ここから書きはじめたっぽい感じなのであります」

タクス「一番に?」

 

優、ずずずーっと、お茶を啜る。

 

優「んーなんちゅうかね、鼠な会社と四角い会社が協力してつくったゲームのテーマソングが流れるようなイメージの場面」

タクス「なんという回りくどい・・・」

優「ん、ぶっちゃけ、このシーン、そのゲームのイベントから思い浮かんだネタ」

タクス「そこはかとなく某ゲームのネタバレじゃないですか(T_T)(T_T)(T_T)私、まだ終わってませんのに」

優「ここ・・・そんなハイテク機器もあるのね」

タクス「四畳一間を侮らないでください(ノ−_−)ノ〜┻━┻」

優「ああ、もう、ちゃぶ台ひっくり返したらだめでしょ。(せっせと直す)」

タクス「やりにくい相手ですね作者・・・(T_T)」

優「うん。一人芝居だもんね所詮」

タクス「現実に帰っちゃいけませんよ(汗)えっと、ですね〜。まあともかく、はなからマルくんは死にゆくことに・・・」

優「そういうことをネタにするのはやめようよ!(びしっ)」

タクス「(汗)では何をネタにしろというのですか(T_T)」

優「・・・・・・・・・・・・。」

タクス「さ、作者??」

優「次回予告!!第四〇話『新たなる旅立ち』とうとうラストになりました!!」

タクス「クラウスの電池切れは作者から来てたんですね・・・」

マル(?)「I’ll be back!!!(叫び)」

タクス「・・・・今、不穏な叫びが聞こえたような(T_T)」

 


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