Birth0Death
第三十八話 デスの恨み
ロンガルフはマルに背を向けて、仲間たちを攻撃している。
バッツもアイズも、クラウスもふっとばされて、意識すら危うい。
ルドの剣さえも、バッツの手を離れて、ロンガルフのそばの大地に突き刺さっていた。
それでも、彼らは必死に食らいつく。
魔法やロッドや自らの拳で。
「くっ・・・・」
マルはゆっくりと立ちあがる。
体中が悲鳴を上げる。握られていたはずの水晶は、跡形もなく消えていた。
「・・・ロナ・・・・」
戦いは終わらない。
マルの声は届かない。
ゆっくりと近づくマルの気配にロンガルフは気づかない。
今の彼に、気配なんてものはないのかもしれない。
だが、マルはわかっていた。
やるべきことを。
この混乱した場所で、彼一人が穏やかな空気を纏っていた。
そうして、マルは魔王を、ロンガルフを、優しく抱きしめた。
血に塗れたマル。
その血がロナにつたわる。
目を閉じて、マルは祈るように抱きしめる。
魔王の動きが止まる。
「戻って来るんだ・・・・」
サティもサッサも、クラウスもララも。
「君が壊すべきものなんて、何も、ないんだよ・・・」
バッツもアイズも、ルーワも。
静まり行く様子を、ただただ、見ていた。
闇が宙にうずまき、エンディッド平原の上空を染める。
それが、固まるように集結していく。
「・・・・・・マル」
「ロナ・・・・・・」
闇を放ち、そこにはロナが――魔物化したロナでなく、いつものロナが――いた。
上空の闇は段々と形をなして行く。
「うーわっ・・・まさか」
サティはルーワのつぶやきを聞いて不思議に思っていた。
ルーワに浮かぶ驚愕の表情。
その間も、闇が形をなして行く。
エンディッド平原の上空を埋めるように広がる大陸。
浮遊した大陸。
ロナが“浄化”されるのと同時に、それは現れた。
“浄化”の起こした空間のずれ。
そして呼び出される大地。
はじまりと終わりの大地がそこにはあった。
「・・・・ロナ、戻ったんだな」
血にまみれていたが、マルの足取りはしっかりしていた。
「マルっ、大丈夫?」
「ああ。僕は大丈夫」
水晶はもう、粉々に砕け散っていたけれど。その代わり、マルの命をつないだ。
「マル、これは一体・・・?」
辛うじて起き上がったバッツはマルに問いかける。
突然目の前の敵が姿を変えた。マルを心配そうに支える少女に。
見覚えはあるけれど、その表情にあの魔王の城で見たような、憎しみの色はない。
彼女が、魔王であるとは、今の表情からは到底思えない。
風が吹き過ぎて行く。
「あ〜あ、ゼロまで出しちゃって」
背後から聞こえる声に二人は振り返った。
バッツも声の主をはっ、と見つめる。
彼女の姿を見て、マルの腕の中のロナは息を呑んだ。
「お前がっ、お前が父上を狂わせた・・・・・」
「ろ、ロナ!?」
「そうよ。あたしよ。すべてはゼロのため。あたしの故郷を存在させる為」
上空をあおぐルーワ。
そこにははじまりと終わりの大地――ゼロがあった。
“無”を意味するその大地が、空に蜃気楼のように漂っている。
その大地から無の水を溢れさせて。
「あいつが、あいつがすべての元凶、“滅びの穴”の原因」
「あの人がっ!?」
ロナは今だ、ルーワを睨みつけている。
あの人が全ての元凶?でもあの人は兄さんの仲間・・・。
水晶の向こうで魔王と戦っていた、勇者バッツの仲間。
「そ〜よ。あたしが全ての元凶」
からからと笑うルーワ。
その声はマルにはなぜか哀しく聞こえた。
「ルーワ?何言ってる・・・?」
バッツの呆然とした言葉に、ルーワは綺麗な笑みを浮かべて答えた。
「あたしがね、“悪魔がえり”の元凶なんだ」
「う、嘘だろ」
ようやく体を起こした、もうひとりの勇者の仲間、アイズは理解できない、といった表情でルーワを見つめる。
そんな二人から目を逸らして、彼女は語り出す。
まるで堰を切ったように。
今まで、表には隠しつづけてきたことを。
幻の世界、ゼロ。
大魔王によって生み出された世界。
否、大魔王を生み出した世界。
歪んだ空間に生み出された大地。
“悪魔がえり”によって起こる、デスの民の狂気と、死で成り立つ世界。
“悪魔がえり”によって引き起こされる、ヴァースの絶望と、犠牲で成り立つ世界。
負の感情が支える世界。
「まだ足りないんだよ。今回の“悪魔がえり”はたった12年で終わっちゃったから。だから次の魔王はあんたのつもりだったのにさ」
残念、残念と、彼女は笑う。
そう、笑ったのである。
その笑みは綺麗で、でも、なにもない。
「・・・・・許せない、いや、許さないッ!!!」
「ロナッ!!!」
デスの王女として…、ロンガルフとして。
ロナは近くに落ちていた剣を振りあげて、笑う少女にぶつかっていく。
もう、剣も怖くはない。怖がっている場合ではない。
彼女は、ルドの剣を握り締めて、デスの民の恨みを晴らそうとしていた。
一瞬、ルーワの表情が哀しげなものに変わり、彼女は目を閉じた。
これで終わり・・・・・・・・。
憎悪をこめた剣が深々と突き刺さる。
「クッ・・・・・・」
脇腹から血が広がる。
目の前の人物を見て、デスの王女もゼロの生き残りも、愕然とした。
タクスの部屋♪
サッサ「くっそー!!最近目立たないぜッ!!!」
サティ「しょうがないじゃないの、本編はクライマックスだし、あれでもマルは主人公だし」
タクス「ああ、ルーワさんの影に隠れる二人組ではないですか♪」
サティ「あーら、感じの悪い言い方ね」
サッサ「ま、テメェみたいに本編に実体がでれねー奴よりましだぜッ!!」
タクス「・・・・・・・・・・(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)」
ルーワ「あーあ。あんまり苛めるんじゃないよ、うざいんだからさ」
サッサ「げッ!!ラスボスッ!!」←部屋のすみに逃げている。
ルーワ「あらあら。ひっどいじゃん。よーやく勇者パーティーバージョンじゃなくって済むようになったってのにさ」
サティ「な、なんだか本編のラスボスと共演するのは緊張するわ」
ルーワ「あー。サティ姐さんに言われると、あたしちょっとショックかも〜」
タクス「そういえば、今回でようやく猫かぶりじゃなくなったんですね、ルーワさん」
ルーワ「そうだよ♪あたしさ、ラスボスでしょ?だからやっぱ散るしかないと思うんだー」
タクス「(・・・あ、いやな予感が)」
サティ「(あの子、目が虚ろになってきてるわよ・・・??)」
サッサ「・・・・・・ッ(←怖くて言葉にならない)」
ルーワ「だけどさ、同じ散るなら、楽しく散りたいのよね、あたし。そう、本編でも、こっちでも。笑ってそして散りたいの・・・(←遠い・・・というより、どこを見ているのかわからない目)」
サティ「や、やけに聖女じみた雰囲気を醸し出してるわね(汗)」
サッサ「衣裳まで白いドレスにかわってるぜッ!!後光もさしてるしッー!?」
タクス「い、いつのまにー!?」
ルーワ「だからね、あたし決めたの。もう泣かないって」
タクス「いや、泣いてませんって、あなた」
ルーワ「次回第三十九話『ルドの一族』とうとう最後から二番目、なんだよ?どうする?!」
サッサ「そ、そんなこと言われても困るぜッ!?」
ルーワ「そうして、この世からあたしという存在が消えていくのよ、そうよ、そうなんだよ」
サティ「なんだか・・・・ねぇ(汗)」