Birth0Death

第三十六話 ロンガルフ


紫の竜巻は、来る者を押し戻していく。

「ロナ・・・マル・・・」

近づけない結界にただただサティは見ているしかなかった。

そこに、ざっ、と現れる。

もう一人の“奇跡”

「・・・サティ?」

「・・・え?」

サティだけでなく、みんなが振り返る。

 

青い髪の青年が、そこにはいた。

鋭さと強さを帯びた瞳。その目は強い光を放つ。

 

「バッツ!!!?」

 

「勇者バッツだと!?」

「サティ、これは?!・・・この空気、魔王かっ!!」

「ま、待って!!」

サティの静止は風に吹き消される。

 

バッツは結界に向って、ルドの剣を構えた。

クリスタルのように透明な刃。それは自然と光を放つ。

 

「消えろっ!!」

 

気合いの声とともに振り下ろされたルドの剣。勇者の巻き起こした風は、結界に綻びを造っていく。

壊されるはずのない魔王の結界を、勇者の“奇跡”が破っていく。

「行くぞっ!!」

バッツはいち早く、魔王のもとへと向っていく。

「ここは、オレたち勇者パーティーに任せろ!」

「あなたがたは、安全なところへ!!」

アイズとルーワは、そういうと、バッツの後を追う。

「俺たちも行かなけりゃッ!!!」

サッサとサティもその後を追う。

ララとクラウスは顔を見合わせ、うなずいた。そして結界の中へと入っていった。

 

 

☆     ☆     ☆

 

「ロナっ!!」

結界の中を、むりやり進んでいくマル。

意識は朦朧とし、足元もおぼつかなくなりつつあった。

 

風の中に塊が見える。

 

「ロナ・・・・・・・」

 

ロナがいた。

いや、魔王ロンガルフがそこにはいた。

 

 

醜く、巨大な悪魔。

 

 

「マルっ」

“ここ”で、ロナはマルの空気を感じていた。

 

マルが、近づいてくる。

 

もし、彼が近づいたら、きっと私はマルを傷つける。

だから、だから来ないで・・・。

 

 

それでもマルはロンガルフに近づく。

近づいて、何ができるか、そんなことを考える余裕もなかった。

ただ、ただロナに近づいていく。

残虐な空気、狂った空気に悲しみを覚えながら。

ただ、近づいていく。

 

 

 

魔王ロンガルフ。

鋭い瞳は白く、険しい顔には鋭い牙が生え、ロナの面影はどこにも見られない。

巨大な暗黒のマントを翻し、紫の禍禍しい空気を発している。

 

マルは水晶を握り締め、ロンガルフと対峙した。

 

ロンガルフは獲物を見つめ目を光らせる。

壊すべき対象たるヴァース人が、目の前に無防備に立っている。

 

 

殺せ、壊せ、すべてをゼロに。

 

 

口元に笑みを浮かべ、ロンガルフは右手を振り上げる。

鋭い爪が右の手から伸びる。それはロンガルフの凶器。

銀色の爪が魔力を帯び、光を発している。

マルの青い瞳は漠然とそれらのモノを見つめていた。

 

ロナを救うには、どうすればいい?

 

体が引き裂かれる感覚を人ごとのように感じる。

左肩から斜めにざっくりと、切り裂かれていく。

生温かい血がぬるぬると流れ落ちていく。

 

握り締めていた水晶の感覚が消えていった…。

 

「マルッ!!!」

勇者バッツの声が辺りに響く。

「てめぇ、マルをっ!!マルをよくもっ!!!」

バッツは、青い髪を逆立てて、怒りに燃える。強い光を持った青い瞳で、魔王を睨みつけた。

 

駆けつけてきたマルの仲間たち。

それに勇者のパーティー。

 

 

ロンガルフの瞳は白く光る。口元には再び笑みが浮かぶ。

 

 

壊すモノが増えた。

彼女のそばには、打ち捨てられたようにマルが倒れていた。

 

 

彼女は右腕を再び振り上げる。

空気に漂う分子が手に集まる。

「ロナ、ロナッ!!!」

サッサの必死の声。

それに反応することなく、魔王は爆破魔法を放つ。

「・・・ロナっ、もう、言葉が通じない?」

咄嗟にサティは風の魔法で魔王の魔法を防ぐ。

だが、防ぎきれるものではない。

バッツが駆けつけて、サティの魔法を助ける。

「サティ、お前らは安全なところに逃げろっ!!」

バッツは、そう命じて、ルドの剣を構えた。

「違うのっ!!彼女は魔王だけど・・・・っ!!」

再び放たれる爆破魔法に、サティの言葉は続かない。

「ルーワっ、サティたちを頼むっ!!」

「わかりました!!」

「いくぜ、アイズっ!!」

勇者たちは魔王に向っていく。

 

「クラウス、クラウス」

「なんだ、ララっ?!」

爆風の中、ララは懸命に飛んでいき、落ちていた剣を運ぶ。

それはアクトクに渡した、クラウスの剣。

クラウスは剣を拾い、握り締めた。

もう、使うことはない、と思っていたその剣を。

「俺も行こう」

クラウスはバッツと合流する。

「あんたは?」

「クラウス・エル・ドラド。“出来損ない”のデス人だ」

そう、世界一の“出来損ない”。友人すらも守れなかった、“出来損ない”

だが、こうなったら、彼女の苦しみを終わらせる。

 

 

「なんだっていうんだッ!!!」

ルーワの張ったバリアの中で、サッサは泣き叫ぶ。

彼やサティのレベルでは魔王と戦うなど、無理。

このバリアから出て行ったら、それはもう死を意味する。

それほどに、戦いは激化していた。

話にならない無力感。

「強い、強すぎる魔王、ですね」

ルーワはサティとサッサに背を向けて、魔法のバリアをつくりだしている。

その口元には満足げな笑みが浮かんでいた。

 

やばくなったら、勇者をつれてテレポートしよっと♪

そんなことをのん気に考えながら。


タクスの部屋♪

タクス「ここ、意外と丈夫ですよね・・・」

マル「・・・ほんとだよな」

タクス「げ。またマルくんですか」

マル「なんだよ、その“げ”っていうのは」

タクス「本編じゃあ〜ふらふらってか、もう倒れてるんですよね、マルくん。えっと「打ち捨てられたように」

マル「フッ。こっちでもかわらないさ・・・半分魂出しながら、お送りしてるわけですよ(遠い目)

タクス「なぜに丁寧語ーっ(T_T)」

マル「ってかさー、もう僕死にかけ10秒前って感じだよ(笑)どうしよ?」

マル、青い顔、土色の唇、そして血まみれ・・・・。ほとんど死体状態(笑)

タクス「笑いながら言わないでください〜。こ、怖いですー(T_T)(T_T)(T_T)」

マル「実はすでにゾンビだったりして(笑)どうよ?ゾンビな主人公」

タクス「マ、マルくん(汗)」

壊れマル「ははは。そういうの、楽しいかもナ。ロナ、いいや、ロンガルフ、1の部下。ゾンビな僕★世界破壊に貢献するのさ」

タクス「マルくんがいつになくダークです(汗)マルくんっ、マルくん〜!!」

 

タクス、マルを揺さぶる。

 

マル「・・・はっ!?思わず本心を言っていたよ。さて、次回・・・おおっ!?」

タクス「・・・な?マルくんの顔色が良くなりましたよ!?」

マル「次回第三十七話『勇者の血』僕が主人公っぽい!」

タクス「いや、一応、主人公ですよ、君・・・」


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