Birth0Death
第三十五話 ロナの恐れ
「あ・・・・ああ・・・・・あああ・・・っ」
暗い暗い闇?眩しい眩しい光?
ここは、どこ?
荒野の砂漠よりも虚しい世界。
何も見えない、何も聞こえない。
何も、感じない。
「あああああああっ・・・・・・!!!!!!」
絶叫とともに起こる、激しい閃光、凄まじい爆音。
☆ ☆ ☆
平原の真ん中に沸き上がる噴煙。
紫帯びた爆風がマルたちにまで届く。
激しい重圧にマルたちは飛び起きた。
「ロナ・・・!!!?」
ロナがいたはずの場所に、彼女はいない。
「ロナの身に何かあったのかッ!?」
咄嗟のことでサッサは混乱している。サティもクラウスもただただ空に立ち上る黒々した雲を見つめる。
青い空になることが約束されたような、仄かな桃色帯びた空だったはずなのに。
黒と紫の異様な空が広がっていく。
マルは慌てて水晶をのぞいた。
アクトクとロナのやりとりが、映し出される。
「たいへんだ・・・・」
「どうした?」
「大変だ。アクトクが、ロナに“無の水”を・・・」
「なにっ!?」
マルはしばし呆然としていた。
あまりに突然過ぎる。アクトクはなんて馬鹿なことをしたのだろう。
ヴァース人が魔王を創り出すなんて・・・。
「もう、魔物化してしまったのか!?」
紫帯びた爆風はやがて、竜巻となり、一種の結界を織り成していく。
「まだだっ、まだ、感じる!」
マルは竜巻の中、水晶を握り締める。強く強く・・・。
「お、おい!?」
ふっ、とマルの姿は消えていた。
☆ ☆ ☆
怖い、怖いよ・・・。
さまよっていた。いや、さまよっているような感覚。
魔物化の姿に現在を奪われたロナは、今、“ここ”にいた。
「ロナ、ロナ………・」
声が聞こえる。闇とも光ともとれないこの場所。
なにもない、このゼロの空気。
「・・・・タクス?タクス?!」
声がする方はどこかわからない。それでもロナは駆け出していた。
「・・・・・・・・・大丈夫ですよ、ロナ」
「でも、怖い、怖いよ」
近づいてくる白髪の青年。やはり変わらぬ優しい笑顔。光を纏った賢者は今も、同じ空気。
それは近づきもせず遠のきもしない。
「大丈夫。もう一度、お眠りなさい。ゆっくりと・・・・・・・・・」
ぴたりと足をとめる。
やはりタクスは微笑んでいる。貼りつけたような、笑顔。
「違う・・・・・」
ロナはうつむいた。
「どうしたのですか、ロナ?もう、大丈夫ですよ?」
肩がふるえる。怒り、激しい怒りを感じる。
「あなたはタクスじゃない。タクスは眠れなんて言わないっ!!!」
顔を上げて、ロナは投げつけるように叫んだ。
と、タクスの姿が陽炎のように歪んでいく。
「あ〜あ、ばれちゃった。下手に意識、残っちゃうとしんどいのにさ」
「・・・誰?」
「あたし?あたしはルーワ・ザン。大賢者タクス・キョウ・トウゲンに化ければ、あんたも騙されてころりと眠ると思ったのにさ」
陽炎はやがて、深緑の髪の少女に変わる。
「お前が、“滅びの穴”を造った者?」
硬い表情でルーワを睨みつける。
「ま〜、いまさらあんたが知ったところで、もう魔物化しちゃったわけだし」
ルーワは手のひらをぱたぱたさせて、笑う。
その笑いが嘘のように美しいのだ。
「お前が・・・・」
「勇者の血って、やっかいよね。ゼロをうめ尽くすから。“無の水”浄化しちゃうんだもん」
「なにっ!?」
「ま、いまさら知ったところでどうにもできないでしょ?どーせ、あんなひ弱くん、あんたを浄化する前に一突きで殺されちゃいそうだし♪」
からから笑うルーワ。
「大賢者もさ、あんたの研究なんかしなけりゃ、長生きできたのにね」
再びタクスの姿になって、ロナを愚弄する。
「お前がっ・・・・!!」
憎しみがわきおこる。抑えつけても抑えつけても。
ロナ、ロナだめだっ!!
ふいに、マルの声が聞こえる。
そのおかげか、ロナの気持ちの高ぶりも落ちつく。
「また勇者弟か。やっかいよね」
タクスの姿からもとの姿に戻ったルーワは、舌打ちをした。
こっちの世界でも憎しみを募らせれば、狂って、最強の魔王となっただろうに。
「こっちで意識があると、魔物化してるあんたが暴れるとき、苦しいよ〜?」
「何が言いたい?」
「お仲間とか殺っちゃったりしてさ〜。じきにあの勇者弟も来るし、ここらで眠っちゃえば?」
冗談じゃない。眠るだの、狂うだのはごめんだ。
「やっぱり、あなたが“滅びの穴”の原因なのね・・・。なら・・・私が倒す!!」
「冷静になっちゃったんだね、つまんないなっ。じゃ、あたし、帰るわ」
「待てッ!!!」
「とっとと厄介者の勇者弟、倒してね♪じゃ、ね〜」
投げキッスを残して、ルーワは消えていった。
ロナはこのなにもない世界に取り残された。ただ、体から感じる負の空気が、あまりに重かった。
☆ ☆ ☆
「ロナっ!!!!」
テレポートで近づいたとはいえ、魔王となったロナのまわりには、なお強力な紫色の結界ができていく。
かまいたちがマルの体を切り刻んでいく。
血が、頬から腕から足からも、滴り落ちる。
「くそっ・・・」
マントで、全身を覆い、飛ばされないように右手で、顔のところを抑える。
もう、右手右腕右肩の傷はこれ以上増えても気にならない。
ルドの一族は“奇跡”を起こす。
そんなこと、誰が言ったんだ!!
“奇跡”を起せるのなら、今すぐに、ロナのもとへ行きたい。
ロナを、助けたい。
だが、別のところで“奇跡”は起ころうとしていた。
タクスの部屋アクトクの部屋♪
タクス「(ノ−_−)ノ〜┻━┻ よいしょ (ノ−_−)ノ〜┻━┻ よいしょ (ノ−_−)ノ〜┻━┻ よいしょ (ノ−_−)ノ〜┻━┻ 」
アクトク「わざわざ、自分でなおしてまでやるかな〜、連続ちゃぶ台返し」
タクス「・・よいしょ。・・・って、そのくらいの怒りなんですよぅっ!タクスの部屋の題名になんてことしてくれたんですかっ!!」
アクトク「そんくらいの怒りならたいしたことねぇな〜♪いいじゃねぇか★」
タクス「・・・別に本気で怒ってもいいですよ?捨て駒くん??」
アクトク「・・・(ぐっ、こ、こえ〜)ま、まあ今回ぐらいいいじゃねぇか。ロナも来てることだしよ」
タクス「え!?ロナがvvv」
・・・・・・・・現れる黒い影。
タクス「・・・・ロ、ロナ??」
アクトク「・・・あ゛。ロナっていうより、ロンガルフ、かも♪」
タクス「・・・・え??」
アクトク「次回第三十六話『ロンガルフ』マルが結構、やばげだぜ!さ、トンズラっ!!」
タクス「あ゛、アクトクさん、逃げた・・・・・って、ロ、ロナ・・・ぎゃーーーっ!!」