Birth0Death
第三十四話 滅びの時
「サッサ、熟睡してるな」
キャンプに戻ってきたマルの第一声。
「疲れてるんだね」
ロナはそっと布団がわりのマントをかけなおしてやった。
暖かい季節なので、マントだけで十分布団がわりになる。これが冬だったら、恐らく凍え死んでいるところだ。
「あなたたちも先に寝て?私が番するわ」
サティのすすめに、マルとロナは素直にうなずく。
そして、とっとと寝る準備にかかる。
一方クラウスは、ちっとも寝る準備をしていない。
「クラウス、あなたも先に寝て、ね?」
「・・・え?あ、ああ」
何を思ったのか、一瞬戸惑って、クラウスは慌ててその場に寝転んだ。
・・・もしかして、一緒に見張りするつもりだったのかしら。
ちらりとそう考えたが、サティは肩をすくめて、暗闇を見据えるのだった。
そうして、静かに夜は更けていく。
サッサとララを抜かした4人は、交代で見張りをしていく。
エンディッド平原にも、今だに魔物はいるのだから、注意を怠るわけにはいかない。
まだ日は昇らないが、それでも明け方近く。
クラウスに揺り起こされたロナが見張りについた。
あと何時間で今日がはじまるのだろう?
ロナは膝を抱えて、焚き火を見つめた。焚き火ごしに、穏やかな表情を浮かべたマルが見える。
その寝顔を見て、ロナは、なんとなく、ホントになんとなく、安堵感に包まれた。
「ロナ、ロナ!!」
「え?」
ふいに呼ぶ声がした。振りかえると、右肩越しに緑色の光がいる。
「ちょっと、話があんねん」
「・・・ララ?」
ロナのことを確認することなく、飛びまわる妖精。
真っ暗に続く平原の方へと、とっとと進んでしまう。
「どうしたの、ララ??」
「タクスのこと・・・やよ。ついてきて」
一瞬、眠りについている一同を見つめ、危険はないだろうと判断して、ロナは妖精のあとにつづいた。
どれだけ歩いただろう。
結構遠くへ来てしまったような気がしてならない。
不安に思ったロナはララに何度も話しかける。
が、ララは全然返事をしてくれない。
「ララってば!!どうしたの?どこへ行くの?」
ふいに、ララの動きが止まる。
「ララ??」
一瞬の間。
「きゃっ!?」
目も眩むようなフラッシュ。
光りの爆発が目の前で起きる。
それと同時に、何か粉末状のものがあたりに飛び散る。思わずロナはそれを吸い込んでしまっていた。
・・・・体が、動かない??
手足がわずかに痙攣している。
体重を支えきれなくなった足は自然とおれる。
ロナはその場にしゃがみこんでしまった。
「ふぃ〜。まんまとひっかかってくれたもんだな〜」
不抜けた声が闇の中から聞こえた。
いや、もはや闇ではない。あたりは仄かに光りを受け始めている。
まっ黒な世界から、虹色の世界へと移り行く。その間のとき。青や藍や紺の色が支配する、わずかな時間。
草原の中に不自然な土の破片が、いくつか落ちている。あの緑の光りの原因。
それは土人形。ララの姿に似せて作られた精巧なニセモノだった。
そして、今、目前に立ったのが、それを放った人物。その顔が、薄ぼんやりと見える。
まだ薄暗いためにぼんやりしているのか、それとも吸い込んでしまった薬のせいなのか。
「あなたは・・・・」
「あんたはしっかり見てなかったんだな〜。オレがア・ク・ト・クだぜ〜」
ご丁寧に指まで振って、アクトクは名乗る。
「お前がアクトクっ・・・」
相手の正体を知ったロナは、すぐに薬の効果を打ち破ろうと、魔力を集中させた。
と、慌てたアクトクが剣をつきつける。
剣。つるぎ・・・・ツルギ・・・・・・
するどい切っ先をつきつけられて、ロナの目に怯えの色が浮かぶ。
魔力を集中させることすらできない。
「お〜。ホントに剣によぇ〜んだなぁ。オモシロ〜イ♪」
アクトクはにやりと歪んだ笑いを浮かべた。
ロナはどうすることもできなくて、涙目になりながらアクトクを睨みつける。が、すぐに怯えた目になってしまう。
ツルギをつきつけられたままだから。
嘔吐感までしてくる。しびれ薬のせいだけでなく、体中の力が抜ける。
「あ〜の、ドラド将軍のぼっちゃんにい〜もんもらってラッキーだったぜ♪」
うきうきしながらアクトクは懐から小壜を取り出した。
前の、マルを殺すための毒薬とは違うものが中で揺れている。
あの毒薬はまさに毒々しい色をしていたが、今度のはほぼ無色。
「これ、何かわかるかな〜?」
右手で剣をつきつけたままだ。
そのまま、アクトクは左手を使い、小壜をロナの目の前で振って見せる。
「・・・・・“無の水”」
青ざめたロナは静かに答える。
「さっすが、魔王の子♪い〜や、あんたこそ“今回の”魔王になるべき人だったらしいからな〜、さっすが魔王様」
軽口をたたきながら、アクトクは小壜のフタを開けた。
「や、やめろっ、それを私に飲ませたら、どうなるかわかっているんでしょうっ!」
ロナは必死になって叫ぶ。
「ああ、わかっているとも。また命石がざっくざっくと現れるようになる。宝の山だ」
アクトクの顔に残忍な笑みが浮かぶ。動けないロナの喉もとに剣をつきつけて。
「命石は人の命なのにっ!それを・・・」
「金はな、命より重いんだよ」
「クッ・・・・!!!」
アクトクはロナの口に無の水を含ませた。
ロナの体に、紫の稲妻が走る。
傷ついていたはずの背中の翼は、六枚に増え、前よりも立派に、そして巨大になっていく。
自分の体をぎゅっ、と抱きしめても、肩が自然と震え出す。絶えきれない痛みが全身を襲う。
「さてと。おれは騒ぎが静まるまで逃げようかね〜」
うつろな灰色の命石――いつかの、あの、ものごいの子どもの。――を取り出して手に握る。
が、命石魔法は発動しない。
「・・・なっ」
あんたにさ、頼みたいことがあるんだ。
直接さ、魔王の子を魔王にして?
お前がやれば〜?
あたしはさ、ほら忙しいし。
・・・やられた。
アクトクは悟った。
もう逃げられない。魔物化していくロナの力に、命石魔法はかき消される。
いつか、ルーワと交わした会話が思い出される。
なんだって、“滅びの穴”なんてさ、しちめんどくさいことするんだ?
そりゃ、まあ、あれだよあれ魔物はいっぱい来た方がいいじゃん?
ほんとか〜?
ほんとなもんか。
“無の水”を与えたときに、与えた本人にも危険が及ぶ。
だからこそ“滅びの穴”などという手の込んだ方法を使うのだ。
くぐりぬけたデスが正気に戻ることはない。
それに、いくら他の召喚魔法の使い手が、“滅びの穴”を越えた者を、デスに戻そうとしてもそれは不可能。
そんな力をもった“滅びの穴”・・・いや“無の水”
それは決してヴァース人には無力というわけではなかった。
おれはあいつの捨て駒・・・・か。
「ちっ、おれの人生こんなんばっかだな」
目の前で魔王ロンガルフとして覚醒してゆくロナを、アクトクはぼんやりと見つめていた。
タクスの部屋
タクス「・・・・・・・(−_−)」
マル「・・・・・なんというか・・・ある意味すごい部屋になったな」
四畳一間のボロアパート部屋。唯一の照明は裸電球、中央には古びたちゃぶ台・・・。
マル「ま、まあある意味いい味出してるかも(笑)」
アクトク「だろだろ?」
タクス「・・・・・・・・(−_−)」
アクトク「代金は5000万・・・・」
タクス「(ノ−_−)ノ〜┻━┻」
マル「お〜ちゃぶ台返しだ〜」
アクトク「無言でひっくり返されてもなあ〜(笑)」
タクス「と、いうわけで今回はアクトクさんの最期でした♪」
ちゃぶ台をまめまめしく戻すタクス。
アクトク「まて〜っ、改装へのコメントはなしかーいっ!」
マル「いや、問題はそこじゃないだろ(汗)本編で、アクトクさんは亡くなったのか?」
アクトク「さあな〜(遠い目)生死もはっきりしないなんて、扱いひでーよな〜。フッ」
マル「(ああ、なんだか荒んでる 笑)」
タクス「フッ・・・捨て駒にすぎないのさ、彼は」
マル「!!ああ、じゃあ、こっちで活躍するしかないね♪」
アクトク「おおっ!!グットアイディア☆」
タクス「待てー!!それは困りますっ(ノ−_−)ノ〜┻━┻」
マル「そのちゃぶ台返し、実は気にってないか?」
タクス「えへvわかりました?」
マル「いや、えへってどうよ、えへって」
アクトク「とにもかくにもこれからは、ここがオレ様の活躍の場だ〜!!」
マル「あーあーあー、余計なこといっちゃったかな〜」
アクトク「ほんじゃ、早速次回予告行くぜっ!!次回第三十五話『ロナの恐れ』ラストへ向かってGOGOだぜ〜!」
タクス「ほんとにいつきそうな疑い大なんですけど…」
マル「僕、しーらない♪」
タクス「おひ・・・(T_T)」