Birth0Death
第三十二話 花火師サッサ
エンディッド平原。
普通に渡るとものすごく広く感じる。
どこまでも草草草・・・。
そりゃ、緑、黄緑、深緑、様々な緑があるけれど。
それでも草はやっぱり草である。
エンディッド平原に出る魔物も限られていて、山鳥が主。
集団で襲いかかってくるので、一人旅だと危険だが、いかんせん、こちらはララを抜いても五人もいる。
山鳥の集団ごときに負けるような集団ではない。
サッサの魔法も、サティの鞭も大活躍。
クラウスは剣こそ使わなくなったものの、ロッドと銀の弓矢で、十分山鳥をやっつけられる。
それに相手が剣を持っていないおかげで、ロナも大活躍である。
例え相手を斬ることのできないロッドでも、ロナの剣技を生かした攻撃は中々、強力なのである。
一方、我等が主人公は、パーティーの非戦闘員となりつつある。
サティに回復魔法をかけてもらったとはいえ、まだ肩の傷が治りきっていないのだから、仕方ないといえば仕方ない。
まあ、前よりも雑魚との戦い中も、進んで眠り魔法を使うようになって、少しは役に立っているようだ。
そのようにして、一行は着実にスジへの道を進んでいた。
と、そのスジの方向らしきところから、駆け寄ってくる者がいる。
「ああ〜っ!!サティの姉御っ!!」
ばたばたと走ってきたのは、イッコク、ニコク、サンゴク。そう、あの鬼舟団。
「誰、あれ?」
こそこそとロナはマルに尋ねる。
「・・・や、なんというか・・・サティの子分?」
「あら、私はあんなのを子分にする趣味はないわ」
マルの言葉を聞いたサティは小声で宣言した。結構、鬼である。
「あなたたち、こんなところでどうしたの?」
先ほどの言葉が嘘のように、優しく、三人に話しかける。
「大変ッス!」
「スジにゃいっちゃいけねぇっ!」
「姉御がやられちまうっ!」
「どうしたっていうんだッ!!?」
「テメェみたいなガキが一緒だから、姐さんに迷惑がかかるんだっ!」
ひどい言われようである。
「・・・サティのファン?」
「ま、まあ、それに近いかな」
マルは困ったように、そして呆れたように苦笑した。
ロナの鬼舟団への認識は、サティの熱烈なるファン、ということに決定した瞬間だった。
「で、どうしたっていうの?」
サティは穏やかに聞いた。
「そ、そうなんっすよ、スジが大変なんっすよッ!」
「暴動起こりかけッ!」
「ピンチッス、ピンチっ!!」
「一辺に言わないでね♪」
一辺に話し出した三人に、サティは一言お願いをした。
にこやかな笑いが逆に怖い、サティである。
うっ、と一瞬青ざめた鬼舟団だったが、めげずにニコクが話す。
「ウォンテッドって、手配書がっ!」
ニコクがサティになにやら紙を渡す。
「サティさんの顔はもっと美人っすけどっ!!」
そこにはサティの似顔絵。なぜかしらちょっと凶悪風味。
「なにこれ?」
呆れたようにその手配書を見つめる。
「魔王に荷担する者ってことで、お尋ね者になっちまってんでさー!」
「・・・・・事実には違いないが・・・」
「こら、クラウス、そういうこと言わないの」
「うーん、ドラドに荷担する者っていうんやったら、わかるんやけど・・・」
ララの意見はもっともだ。ロナが“悪魔の扉”から出て三日。いくらなんでも情報が早すぎる。
「アクトクの奴かッ!!!」
サッサが思いついたように叫ぶ。
「おうおうっ!!アクトクの奴がサティさんやテメェらをお尋ね者扱いしてやがるんだっ!」
「エンディッド平原に繰り出す傭兵団を募ってやがったしっ!」
「じきにこっちへ来るかもっ!!」
三兄弟は、口々に叫ぶ。
「傭兵・・・ヴァース人、だよね・・・」
サティと鬼舟団の会話を聞いて、ロナはつぶやいた。
「ロナ、君は絶対手を出しちゃだめだよ」
「うん・・・」
私には手加減ができない。
もし手を出したら、ヴァース人を壊してしまう。
クラウスも私も、下手をしたらマルたちも“ワルモノ”になってしまう。
例え、相手が先に手を出してきても。
そう考えて、ロナはうつむいてしまった。
死ぬのはいやだけど・・・。“ワルモノ”にされるのもいやだ。
「おうッ、大丈夫だぜッ!!」
そんな不安を打ち消すようにサッサがロナの背中を叩く。
「マルの眠り魔法もあるし、俺の、超必殺魔法があるからなッ!!!」
や、必殺って、必ず殺しちゃいかんだろ・・・とはマルの心のツッコミ。
ロナは少し不安が軽くなった気がした。
「ありがとね、サッサ」
ロナはサッサに微笑みかける。マルはちょこっと面白くない気がした。
そんな気分になったのは久しぶりである。誰かを羨ましいと思うことはもう、やめていたというのに。
そんな三人の様子を、クラウスは眉間にしわを寄せて見ていた。
その唇はしかし、少し笑っていた。
「だからっ」
「姐さんっ、オレたちあなたを守りますっ!」
「守らせてくださいっ!!」
「・・・・かなり熱烈だね」
「そうだろ」
ぼそぼそとつぶやくマル&ロナ。
「ありがとう、けど、大丈夫よ」
にっこりと笑ってサティは言った。
「いえっ!」
「大丈夫だなんてっ!」
「やっぱりオレたちがッ!!」
ずんずんと迫る鬼舟団。
そのとき、さっ、とサティを背に立った者が一人。
「ご苦労だったな、もういい」
クラウスは上から見下ろすように、三兄弟を睨みつける。
眉間にしわだけではきかないぐらい、ものすごい形相で。
・・・どうやらこのパーティーには鬼が二人いるようである。
鬼舟団、半泣き状態。
「わ、わかった」
「サティさんのことはテメェに任せてやる」
「覚えてろっ!!」
捨て台詞を残して、鬼舟団は去っていった。
最後のそのセリフは間違ってるぞ・・・マルは鬼舟団に、同情しつつも心の中でツッコミを入れていた。
「それにしても、最悪やねっ!アクトクっ!!」
ララは頭から煙りを出しそうな勢いで怒り狂う。
「愚痴を言っている場合ではないな」
クラウスは肩をすくめて首をふる。
「アクトクの野郎をとっつかまえて、知ってること吐かせてやるつもりだっていうのによッ!!」
「とっつかまえる前にとっつかまりそうな雰囲気だもんな」
「マル、テメェはどうして、そう後ろ向きなんだッ!!!」
後ろ向きはマルの特性である。
「まあ、前よりましになったんじゃない?」
「え、これで!?」
ロナにまで後ろ向きだと思われていたのか・・・。マルはかな〜り落ちこんでいた。
☆ ☆ ☆
その丘にさしかかったとき、マルは感じた。
辺りはすでに薄暗くなっていた。
もう、宵の口である。
「・・・ロナ、僕のそばから離れるな」
「え?」
ロナの手をしっかり握る。
右肩がやはり少し痛む。
「マル、なにやってるんや?」
近くを飛んでいたララは不思議そうに二人を見つめる。
「空気が、おかしいんだ」
「なに・・・?」
前を歩いていたクラウスも振りかえり言った。
「まさか、アクトクが向こうからおでましって奴かッ!!?」
「あ・・・・・・あれ・・・・・・・・」
サティの指差す方向。それはスジへとつづく山道。
山道に赤い光が点々としている。
その数は千人に近い。
「・・・・・傭兵?」
想像以上の傭兵の数。まるで今から、どこかの国に侵攻しそうな勢いだ。
「へッへッへッ!!!」
サッサがおかしな笑いを浮かべている。
「サッサ、どうした?!」
あまりの数にびびりすぎて狂ったか。
「オレに任せなッ!!やってやるぜ、“殺さない止め方”をッ!!!」
サッサの顔は、いたずら坊主そのもの。
クラウスはその顔を見て、意を得たりといった感じで笑っている。
マルにはわけがわからなかったが、心配はいらないようだ、と感じた。
とはいえ、相手は小高い場所にいる。こちらが圧倒的に不利だ。
「へっへっへ。オレの編み出した魔法、見てなッ!!」
妹の命石だというペンダントを握り締め、サッサは気合いを入れる。
赤、オレンジ、緑、紫・・・いつもと違って、炎色反応を起こした炎が手許に沸きあがる。
「たまやッー!!!」
・・・おい。
技の名前を久々に叫ぶ。が、その名前はどうかと思うぞ。
「すごい・・・綺麗!」
ロナは素直に喜んでいる。・・・いや、素直すぎである。
エンディッド平原の空を彩る花火。
平原の空は、遮るものが何もない。だからこそ、よけいに巨大な花火が打ち上がって行く。
華のように、鳥のように、空を彩る。
まるで、あのボーダーの滝で輝いていた命石のように、色とりどりの炎が空を染めていく。
命石魔法でつくりだしたその花火は、花火師のつくる花火よりも、さらに幻想的だ。
「花火師サッサ様をなめるなよッ!!」
お前、いつのまに花火師になったんだ・・・。
マルはツッコミを入れる元気もない。
「おいッ、なんだあれッ!?」
赤い髪の男が空を見上げて叫ぶ。
「は、花火みたいだね?」
ぽっちゃりした金髪の男も呆気に取られて見ている。
「・・・俺たちの敵って、本当に魔王か?」
茶髪の男が、あきれて言った。
そのそばにいた、黒髪の、憂いをたたえた青年は、とっとと踵を返してスジへの道を歩き始める。
「おい、どこいくんだ?」
茶髪の男にぼそりと答える。
「帰る」
その言葉をきっかけに、まわりの男たちも、戦意をなくしていった。
花火は確かに傭兵たちに動揺を与えていたのである。
「お、松明がごちゃごちゃしだしたなッ!!」
「なんとかなるかな・・・?」
ほっとしたのもつかの間。
ひゅんっと、音をたてて矢が降り注ぐ。
「ちっ、まだめげねぇかッ!!!」
みんながみんな花火に騙されたわけではなさそうだ。近くまで、矢が飛んでくる。
「じゃ、これでどーだッ!!」
ペンダントを関節が白くなるほど握り締める。
手のうちにオレンジ色の炎ができて行く。
「打ちあがれーッ!!!」
炎と音の芸術。
空いっぱいに、花火が打ちあがるとともに、サンバのリズムが流れ出す。
思わず踊り出したくなるような、そんな音楽。実際、ノリのよい傭兵は踊っている。
イッツ、カーニバル!!
サッサは、というと、ひと仕事終えたかのように満足そうに汗を拭っている。
「アクトク、お前のいうことは嘘なんじゃねーか?こりゃあ楽しいぜ〜♪」
南国育ちはご機嫌である。
「あほらし〜」
「あ〜あ、もー帰ろうぜッ」
南国育ちの傭兵を残して、町の人々はさんざんアクトクを罵って帰っていく。
「ま、待て、ホントだって・・・あ〜くっそ、なんだってあんなアホな攻撃してきやがるんだ〜っ!!」
アクトクは一人絶叫していたという。
「サッサ、お前アホだな」
脱力したようにマルは言う。すると、得意げにサッサは笑った。
「一歩違やあ、炎もケンカの道具にゃならねぇんだよッ!!!」
「サッサ、ラインに帰ったら、お祭りの花火師になりなさいよ。万屋さんのよりも綺麗だった。あんた、才能あるわ」
「だろだろッ!」
サティ、大絶賛である。
「・・・私もあんな風に戦いたいな」
強すぎる力の少女は、ぽつりとそう漏らしていた。
松明が、すべて退散するのを待って、マルたちは、野宿の準備をはじめた。
辺りはもう真っ暗。すっかり平和になった一晩が、過ぎて行こうとしていた。
その頃、平原で頭を抱える男が一人。
ムリヤリ、お姫様をさらってくる方法。
だめだ〜。思いつかねぇ〜っ!!
向こうもオレを探してるらしいしっ。
スジの住人を使った作戦も「たまや〜」に負けちまったし。
このままじゃ、“滅びの穴”のカラクリもばれちまう〜っ!
アクトク大ピンチである。
「おっと。偵察がきたな」
偵察の虫。
アクトク便利道具の一つ。さすが旅する大商人なだけある。
虫の目から、マルたちの今が映し出される。
のん気に野宿中。
「く、くっそー!!」
とっても口惜しいらしい。
アクトクの絶叫が平原に響き渡った。
タクスの部屋♪
タクス「今回は珍しい方々が登場してますね〜」
マル「ああ、作者の連載止まってる他作品の登場人物(from ゼファルド)とか(笑)」
タクス「ちっがーう!!それをネタにしてはいけません、消されますよ?」
マル「(汗)僕がうかつだったよ・・・」
タクス「そうではなくって、イッコク、ニコク、サンゴクさんたちですよぅ〜」
クラウス「そうだな、確かにあいつらがまた、登場するとは思わなかった」
タクス「うわっ!クラウス、いたんですか?」
クラウス「ああ、久しぶりだな、こっちは」
タクス「いや、本編も久しぶり・・・」
マル「甘いなタクスさん、これから本編は、主人公パーティーの大スペクタクルロマンだよ?久しぶりとかそういうことは問題ないね」
タクス「・・・ぐっ、ま、負けた・・・・」
クラウス「(勝負だったのか・・・)」
マル「ところでさ、いつまで青空版が続くんだ、ここ?」
タクス「!!!!マルくん(T_T)(T_T)(T_T)」
マル「な、なんだよ??(その顔で迫るな〜)」
タクス「ありがとう、そうです、そうなんですっ!!修理をしなくてはいけないんですっ!!!気付いてくれて良かったです〜」
クラウス「・・・だが、だいぶ前(第七話〜第八話のタクスの部屋参照 笑)はあっさり復活したんじゃなかったか?」
タクス「フッ・・・・・。どうやら私も新しい風に吹かれたいようですよ(遠い目)」
マル「なんなんだ、それ(汗)」
クラウス「要約すると、タクスは『徹○の部屋』風のセットはつくれても、『笑っ○いいとも』風のセットはつくれない、ということだな」
マル「・・・要約違うー!ってか一言もそんなこといってないー!?」
タクス「さすがクラウスですね(^^)」
マル「あってるのかーッ!?」(←マル、サッサ化 笑)
クラウス「とはいえ、そろそろ我々は本編に戻らねば」
マル「そうだね♪次回第三十三話『決戦前夜』とうとうラストに向かって動き出す・・・らしいよ?」
クラウス「本編もとうとう佳境か・・・」
マル「みたいだね(しみじみ・・・)じゃ、タクスさん、また今度♪」
マル&クラウス、次元の彼方へ。
タクス「あ・・・あああ〜(T_T)(T_T)ここの修理を〜〜〜」