Birth0Death
第三一話 力の代償
「・・・・・ここ、ほんとに地下か?・・・・別の空間、か」
自問自答がつづく。
幼きマルのあとにつづいて、もう一時間が過ぎようとしていた。
泣きながら、マルはさまよう。
幾度かこれは魔物の幻で、自分は惑わされているのでは、と疑いを抱いた。
だが、そうではない、と理屈ではなく、心のどこかで感じていた。
「お・・・・」
森の中に唐突に開けた土地があった。
天然の石を積み重ねて造られた祠がある。
マルは躊躇したあと、入っていった。バッツもその後につづく。
中は思いの他広い。
前を行くマルに手を伸ばしても届かない。
マルはやがて立ち止まった。バッツも足を止める。
「う・・・・わあ・・・・」
見上げてバッツは呆然とした。
クリスタルだろうか?
祭壇の上に、祠の天井を貫いて、天まで届いている、透明の石がある。
柱より太く、向こうの壁まで見えるほどに澄んでいた。
それでもそれがあるとわかるのは、空から降り注ぐ光のため。
その中央に飲み込まれるようなかたちで剣が輝いていた。
天然の照明を浴びて、剣はそれ以上ないほど美しさを見せていた。
滑ってしまいそうなほど研ぎ澄まされた刃の剣だ。
バッツと幼きマルは並んでその剣に見惚れていた。
「お兄さん、その剣が欲しいの?」
突然マルに話しかけられて、バッツは飛びあがる。
「あ、ああ」
こいつ、俺が見えるのか?
「じゃあ、お兄さんにあげるよ・・・」
幼きマルはしょんぼりと言う。
「いいのか?」
あまりにしょんぼりしているため、バッツはちと、不安になった。
この日、マルは力を求めて、このルドの剣を求めて、ここに来た。
そのはずなのに、あっさりと剣をバッツに譲ってくれる。
「だって・・・・」
「だって?」
「僕には使えそうにないんだもん」
少しすねたようにマルは言った。
この頃においても、マルはやっぱりマル。
できないことはできないと、あっさりすっきり言い放つ。
「お兄さんはさ、ちゃんとルドの血の勇者さんだから、きっと使えるよ」
・・・ルドの血か。
それがいやでいやでしかたなかった。
だからこそ、弟が勇者として育てられないように、自分が意地でもがんばった。
幸い、幼きマルは病弱で、勇者の修行に耐えられるような体ではなかった。
おかげで、マルは勇者への期待を自分ほど、背負わずにすんだはずだ。
だけど、彼はここにいる。
「・・・じゃ、遠慮なく」
マルももし使えるのなら、この剣を手に、悪魔たちと争ったのだろうか。
臆病で、流されやすくて、でも優しくて。
そんなマルを戦わせるわけにはいかない。
“今”も今も。
そう思ったバッツは、剣に手を伸ばす。
クリスタルと見えたものは、手を近づけてみると、水のようにあっさりと、手を受け入れた。
剣の銀色をした柄をぐっ、とつかむ。
すると、まわりを覆っていたものも、同時に消えていった。
―― よく来たな、力を求めるものたち。
どこからともなく、声がする。
剣をもったまま、バッツはキョロキョロと、辺りを見まわした。
マルはバッツに背を向け、その辺を漁っている。声の主は彼ではないようだ。
―― この俺様にささげるものを述べよ。
「ささげるもの!?んだよそれ、だいたい誰だよ、お前!!」
―― 我は、剣守(つるぎもり)。
律儀に答えてくれる“声”。
―― ささげるものがなければ、力は与えられぬ。
律儀ではあるが、容赦ない。
「お兄さんは、戻ってきちゃった時をささげるといいよ」
いつのまにか隣りに来ていたマルが、こともなげに言う。
「あ、な、なんだそれ?」
バッツはマルに視線をあわせるため、しゃがみこんだ。
「ほら、僕はこれ、もらったんだ」
マルの手にはあの楕円形の水晶。
にこにこと嬉しそうにマルが笑顔を浮かべている。
なんだか久しぶりに見た顔だ。心の奥底がじーんと、温かくなる。
そんな笑顔。
「これなら、僕にも使えると思うんだ」
マルの言葉にバッツはうなずく。
確かにお前はそれを見事に使いこなしていたよ。
と、思いながら。
「で?お前は何をささげたんだ?」
「・・・・・・・記憶。これからささげるの」
マルは目を伏せていった。
パパとママが去っていったその姿を思い出すのがつらいから。
そんな考えがバッツにも伝わってくる。
「…そっか」
バッツはすべてを悟った、そんな気がした瞬間だった。
だから、あいつは何も知らない。
何も覚えてはいない。城のこと、カリンたちのこと、・・・父さんのこと、母さんのこと。
だけど…結局、去って行くあの姿だけは忘れられないんだよな。こいつ。
何度それで慰めたことだろう。
今ならそれも止められる…止められるが、バッツはあえて止めなかった。
「これでね、僕、未来をみるの。たくさんの人を助けるの」
「そっか・・・」
彼からはできるだけ離しておきたかった考え方。
――誰かのために犠牲になる。そう、自己犠牲。
離しておきたかったのに、マルもやはりルドの一族だった・・・。
バッツは無言で、力強く立ち上がった。
「…俺はこれで」
バッツは剣を天にかかげる。
「たくさんの人の命を救うよ」
―― もとめるものよ。その代償をささげよ。
バッツとマルは顔を見合わせて、うなずきあった。
「僕の記憶をささげます」
「俺の、超えちまった時間をささげる」
バッツのまわりの時が揺らぐ。
隣りにいたはずのマルの姿は跡形もなく、消えていた。
祠を出ると、そこはライン城の地下への入り口だった。
戻ってきたのだ“今”に。
「バッツ、お帰りなさい」
「おお、バッツン。とうとうルドの剣を手に入れたか!」
「お前らも無事だったんだな、サンキューな、手伝ってくれて」
「いいってことよ。ところでもう、行くのか?」
「ああ、最終決戦が待ってる」
そう、最終決戦が、待っている。もうすぐ。
タクスの部屋♪
バッツ「あいかわらず、ここは青空のまんまだな(汗)しかもタクスいねーし」
子マル「お兄さん、ここ、なあに?」
バッツ「マ、マ、マル―っ!!(動揺)」
しかと抱きしめ頬ずり・・・・・「させるかーっ!!」(←地獄の果てから復活タクス)
バッツ「くうっ、この俺を足蹴とはっ、やるな、タクス!!!」
タクス「フッフッフ。伊達に仙人やってませんよ?危なかったですね、ちびっこマルくん」
ヒーローのごとく肩にちびっこマルを乗せるタクス。
にっこり笑い答えるちびっこマル。
そう、まるで絵のように微笑ましい二人・・・・。
バッツ「く、く、くそーっ!!俺様の可愛い弟といい感じな雰囲気(違)つくりやがって・・・許すまじタクスっ!!」
燃えあがるバッツ。
子マル「お兄さんが怖いよぅ」
タクス「おお、よしよし。ほら、マルくんが怖がっているじゃありませんか」
バッツ「うう(T_T)ごめんよ、マル〜(狼狽)」
子マル「お兄さん泣いてるの?ごめん、僕のせい??(しゅん)」
バッツ「ちがう、ちがうぞっ、マルっ!!」
タクス「・・・・・・。しっかしホントに可愛いですね、マルくん。今のマルくんと偉い違いだ・・・」
マル「悪うござんしたね」
バッツ「うおっ!!でかマルまでっ!!」
マル「フッ、子マルだの、でかマルだの・・・いっそ花マルとでも言ってくれ」
バッツ「どうしたんだマルっ!!すっかりやさぐれて(T_T)」
タクス「ここに来ると彼はこうなるんです(笑)」
子マル「もう一人のお兄さんは僕とおんなじ名前なの?」
マル「まあ、そうだよ(いや、我ながら可愛いな、おい)」
タクス「ああ、マルくんがナルシスト入ってるっ!?」
マル「うーんナルシストと言っていいのか・・・。こりゃまるっきり別人じゃないかなあ」
子マル「???」
バッツ「いや、そんなことはない。小さくて可愛かろうが、大きくて、やさぐれていようが、お前は俺の大事な弟だ!!!」
マル「兄さん・・・・・・・・・・・」
バッツ「さあ弟よ、この胸に飛び込んで・・・(げしっ)マル「あ、ごめん。勝手に足が・・・」
マルの足がバッツの顔面にクリーンヒット。
バッツ「強くなったな、弟よ・・・(がくっ)」
子マル「すごいね、すごいね!!僕と同じ名前のお兄さん(感心の眼差し)」
マル「うう、僕ってこんなに素直な子どもだったのか」
タクス「胸を痛めてますね(笑)さて、うるさいのも静かになりましたし・・・」
マル「次回予告だね、子マル、一緒にやろう?」
子マル「うん!!」
微笑ましい二重マル。
マル&子マル「次回第三十二話『花火師サッサ』!!!」
マル「久しぶりに僕たちパーティーに話が戻ってきます」
タクス「いや、あの、この部屋の修理を・・・・って終わってるー!?」