Birth0Death
第三〇話 “悪”の事情
「まいったゼ、迷子だゼ、どうするよ、俺ーーッ!!」
どこぞで聞いたせりふである。さすが兄弟。迷子になったらとりあえず叫ぶ。
叫んでみても迷子は迷子。ひとり叫ぶ青年バッツ。
彼もまた、とことん迷子中。
「こんどは森かよーッ!!!!」
憤りを噴き出すように、バッツは絶叫する。
霧に覆われたここは、森。
巨木が立ち並ぶ。風もなく、音のない森。神秘的な雰囲気が漂う。
幻の森と見紛う場所が、このラインの地下にも存在していた。
バッツはきっ、と前を見て、歩き始めた。
少々のことではへこたれないのが、バッツである。
さく、さくっと音をたてて歩を進める。
ふいに、バッツの足音とは別の音が聞こえてきた。
涙をすする、子どもの弱々しい声。
少し長めの青い髪、着ている服は十年前のあの日と同じ。
白いシャツと茶色のチェックのズボン。
それは、子どもの頃のマルの姿。
「パパ、ママ・・・・・・ぼく、がんばる・・・・・・・」
鼻を啜りながら、短い足でせっせと進む。
「兄さま・・・ぼくも、がんばるから・・・」
自分の言葉に、兄の姿が思い浮かぶ。さらに心細くなって、新たな涙が溢れた。
それでも、涙を必死に腕でぬぐいながら歩いている。
怖くて怖くてしかたがないのに、それでも進まずにいられない。
この先に、きっと強くなれる何かが、あるはずだから。
「マルっ!?」
バッツの呼びかけに答えることなく、子どものマルはずんずん中に入っていく。
「あいつ、こんなとこに来てたのか」
十年前、ライン城下に来襲した魔王軍。
あのときバッツは城の中で、マルを探して歩いた。
町が燃えていた。
必死でマルを探しているときに城の窓から見えた。
父も母も戦いに行っていた。
赤々と炎に包まれる家々。断末魔の叫び。
それらの中で突然はなたれた白い閃光。
バッツは今も覚えている。城の最上階から、父母が結界を張った瞬間を見ていた自分を。
「・・・・ついて行ってみるか」
バッツはマルのあとを歩きだした。
☆ ☆ ☆
ここはラインの万屋の裏。二人の人影が揺れる。
「すまん、失敗した」
無言で立っているルーワに頭を下げる。
ルーワの視線は冷たい。その瞳で見つめられたものは凍らされてしまいそうなほどに。
そんな目を見るとアクトクは奴隷だった頃を思い出してしまう。
「・・・役立たず、だね」
くっ、とアクトクはこぶしを握りしめた。いつかの父の姿が脳裏に浮かぶ。
「まあいいさ。あんたにさ、頼みたいことがあるんだ」
アクトクの沈んだ様子にルーワは軽く笑って言った。
「なんだ〜?頼みって」
いつもの軽い調子に戻って、アクトクも問い返す。
「もうさ、しちめんどくさいことなしにして、直接さ、魔王の子を魔王にして?」
「は?」
アクトクは一瞬耳を疑った。ここまでしちめんどくさいことをしてきたというのに、あの苦労はなんだったのか。
「魔王の子に無の水をムリヤリ飲ませるの」
まるで、グッドアイディアを思いついたかのように、うかれた調子でルーワは言う。
「でも、どうやって?オレ、力ないぜ〜?お前がやれば〜?」
魔王の子に“無の水”を飲ませることができれば、確かに、一気に魔王にできてしまうだろう。
デスを狂わせる“無の水”。
霧状にして、“滅びの穴”にしこむことで、魔王や他の狂ったデス人をつくりだしてきた。
それを直接飲ませることができれば、問題はなにもあるまい。
グッドアイディアといえばグッドアイディアだが・・・・。
「あたしはさ、ほら忙しいし。あいつら、ここに向ってるみたいだよ、ってことは、スジの町、通るんでしょ?」
「あ、住人使えばいいってか?」
「ご名答。混乱中に魔王の子、さらっちゃえばいいじゃん。そして無の水を飲ませるの」
邪悪な空気を漂わせつつ、笑顔はやはり美しい。
「結構しちめんどくせ〜な」
「けど、そういうの好きでしょ?」
「まあな〜」
ばかみたいにしちめんどくさいごちゃごちゃが好き。
いや、正確に言うと、人を動かすのが好きなのだ、彼は。
アクトクは早速、作戦を思案している。
どうせ、たいした作戦じゃないんだろうけど。
ルーワは心の中で彼を嘲笑う。
「ああ、でも、無の水はあんたが飲ませてね」
「なんでだ〜?」
「知っているのが、あんただけだから」
にこやかにルーワは言う。“知りすぎたのが”と本当は言いたかったのかもしれない。
そろそろ、この粗忽な共犯者が邪魔になってきた。
ルーワは美しい笑みを浮かべたまま、“無の水”を詰めた透明の壜をアクトクに手渡した。
「なんか、妙に急ぎ出したな〜」
「うん、急がないとさ、バッツが強くなりすぎそうでやばいの。まっさかルドの剣に手ぇ出すとはねー」
肩をすくめて放たれたルーワの言葉に、アクトクは目を見開いて驚いた。
「ルドの剣!?やべーじゃん。世界破壊する気か?」
「その辺は大丈夫だと思うけどね」
「・・・・・・・・なあ、勇者はあいつじゃなくってもいいんじゃねぇか?」
「はあ?あの弟には無理でしょ。勇者はやっぱバッツじゃないと」
ルーワの言葉は軽いが、瞳はどこか必死だ。
勇者はバッツじゃないと。・・・じゃないと、なんなのだろう。
自問自答しそうになる思いを振り切るようにルーワは軽く首を振った。
「ともかく、あと三年ぐらいは魔王の子に暴れてもらって、デスの死人を増やしてもらわないと」
「はじまりと、おわりの大地守るんだもんな」
「まあね」
デスの民の死と狂気が生み出す、空間の歪み。
ヴァースの絶望と希望が織り成す、空間のずれ。
そういった、時空の歪みにその大地はある。誰もいないその地を守る。それがルーワの望みであり、本能。
「ま、オレにはそういう先祖代々のモノを守ろうっていう気持ちはわかんねぇけどな〜」
「あんたにはそりゃね」
でも、あたしにはわかる。
いや、違う。わかるんじゃない。
あの場所を守る。それはもう息をしているのと同じこと。
ルーワの使命、それははじまりと終わりの大地――ゼロを守ること。
かつて大魔王が倒されたとき、その地も、空間を漂う運命を背負った。
ゼロの生き残りであるルーワは、何百年も繰り返し“悪魔がえり”を起こす。
それはゼロを守るためのメカニズム。
「オレもな〜あと三年は、命石で儲けさせてもらいたいしな♪じゃ、まあ、任せとけ〜」
アクトクは使い捨ての命石を使い、去っていった。
「あと三年、ね」
「おお〜い、ルーワ!!ケーキを食うぞ〜!さき食っちまうぞっ!!」
「はいー今行きます〜」
ルーワは“勇者の仲間の顔”となって、万屋に戻っていった。
タクスの部屋♪
タクス「はい。はじまりました、タクスの部屋!!久々に青空版ですなあ(遠い目)・・・」
ルーワ「前回、バッツとカリンさんに壊されてしまいましたものね」
タクス「・・・うっ、ルーワサン、勇者の仲間ヴァージョンですか(^_^;)(←仲間ヴァージョンの方が怖いらしい)ってことは・・・」
バッツ「うおーっ!!マルっ!!マルだーっ!!マルをだぜーっ!!」
タクス「暴れないでくださいよぅ(汗)」
バッツ「激しく可愛い、俺の弟、子ども版マルをここに連れてこい―っ!!あ、大人版でも可、だけどな♪」
タクス「そんなにマルくんに会いたいんですかねぇ・・・」
バッツ「おぅ、会いたいぞ!!!」
ルーワ「私もお会いしたいものですね(にっこり微笑む)」
タクス「(悪寒)ル、ルーワさんの笑みがとっても怖いのですが(T_T)と、ところで、今回のお話で、ようやくタイトルの“0”の意味が明かになったみたいですね」
バッツ「うん?そうなのか?(←今回の本編、マルのことしか目に入っていない人 笑)」
ルーワ「バッツ・・・・・・(にっこり笑う)ちょっと眠っててください」
バッツ「へ?」
ルーワの睡眠魔法炸裂。バッツ睡眠。
バッツ「Zzzzzz」
タクス「なんで眠ると“Z”が並ぶんだろうとか、そういう疑問は置いといて・・・、強引ですよぅ、ルーワさん(汗)」
ルーワ「さ。タクスさんよ、バッツの前で余計なことをペラペラしゃべったオトシマエ、どうつけてもらおうか?」
タクス「ル、ルーワサン(T_T)とても恐ろしいのですが(汗)・・・って、ぎゃー!!!」
ルーワ「まあ、確かに、タイトル『Birth0Death』の真ん中の“0”はあたしの出生地を表してるんだけどさ。30話にしてようやくその意味が出てくるなんて、遅いっての。きっとなんなのこのタイトルは!!ってなことになってたんじゃないの〜ほんっと」
話ながらもサクサクと作業するルーワ。
バッツ「ん?あれ??俺、寝てた??」
ルーワ「あ、バッツ。あの、タクスさんから伝言です。次回予告をお願いしますとのことですよ」
バッツ「ん?そうか次回第三一話『力の代償』俺とちびっこマルの兄弟愛がテーマだ!」
ルーワ「いや違いますから(笑)」
バッツ「あれ?ところでタクスは・・・・???」
ルーワ「あら?あんなところで、ちびっこマルさんが泣いてますよ?」
バッツ「ぬわにーー(光速ダッシュ)」
ルーワ「・・・・フッ」
・・・・タクスの運命やいかに!!