Birth0Death
第二十九話 カリンさんのお楽しみ
バッツの疑いは見事に当っていた。
なんとまあ、ライン城の地下に、このような深いダンジョンがあるとは。
しかもところどころに、いかにも底なしっぽい穴があいている。その空き方がまた、罠っぽい空き方だったりして、恐ろしい。
侵入者を抹殺するために作られた落とし穴は、それこそ落ちた完全におわりである。
穴だけで、すめばいいのだが。
「な、なんで城ん中にこんな危険なところがあるんだー!!!」
勇者バッツ、まだまだ大人としてはなっていない。
カリンはふふんと笑いながら言った。
「こんなのまだまだ序の口だぜ?」
カリンの言葉に偽りはなかった。
「くっそーなんだって、火の中、水の中、雷の中、土の中をかけぬけにゃならんのだーっ!!」
もしかしたら、魔王の城よりもハードだったかもしれない、このダンジョンは。
世界中のダンジョンに溢れているであろうトラップを、すべて集めたかのようなハードさ。
ハード過ぎて逆におかしくなりそうだ。現にバッツは半分壊れていたとかいないとか。
「あら、楽しかったじゃないですか♪」
にこにこと嬉しそうなのはアンズ。
神官の子孫で、回復の命石魔法の使い手の彼女だが、実は趣味は格闘技だったりする。
両手にはめたグローブに命石をうめこんでいて、回復しながらパンチをする、むちゃくちゃな戦いをしていた。
「そういえばアンズちゃんに教えてもらったんだよな、回復魔法」
あの頃から彼女はこの姿のまんま・・・。一体いくつなのやら。
「バッツンバッツン。私には攻撃魔法を教わったってのは覚えているかい♪」
「あんたのあれは教わったっていわねぇ〜っ!!」
忘れもしない。毎回毎回身を持って魔法を体験したものだ。
身を焼かれ、身を凍らされ・・・実際、よく生きていたものだ。
バッツはしばし感慨に浸った。
カリンの魔法修行と称した攻撃には、半分命がけで望んだものだ。
まあ、おかげで魔法に不自由はしなくなったが。
カリンはあの頃と同じ、命石を連ねた数珠でもって、魔物を攻撃している。
「マルもな〜、お前がはじめたくらいんときから、修行してたらいい線行ったかもしれないのに〜」
「あいつはいいんだよっ、体も弱かったし、臆病だったしさ」
それに、あいつは優しすぎる。他人の命を奪うには。
「でも眠り魔法だけはすごいんですよね、マルさん」
「・・・ほめちまったんだよな、昔」
そうなのだ。ほめてしまったのだ、バッツは。
マルがまだ幼い頃。
傷ついた猫を拾ってきた。みゃーみゃー泣いて、決して治療をさせようとしない。
その猫にマルは眠りの魔法を使った。
幼いもの特有の必死さで、ものすごく真剣に作り上げたその魔法は、驚くほどよく効いた。
驚いたバッツはマルに「すげーなっ!!」と、心から感心したのだ。
そのとき浮かべたマルの嬉しそうな笑顔を、バッツは今も覚えている。
それ以来、マルの眠り魔法はがんがん伸びていった。
いや、伸ばしてしまったのだ、バッツの一言が。
「そうだったんですか」
「単純だな、あいつ」
カリンとアンズはにやにや笑っている。
「お前らな、今さら、誉め殺しでマルを成長させようとしても遅いと思うぜ?さすがに19歳の男に通じるこっちゃねぇよ」
そう釘をさしておかないと、本当に誉め殺しにしそうだ、この二人は。
カツンカツンと足音をならして、ライン城の地下洞窟を進んでいく。
このライン城の地下には数多くの魔物がいた。
魔物というよりアンデッド。死人や幽霊のたぐいが行く手を阻む。
デスの魔物か、それとも、もともとヴァースに住みついている魔物か、それはわからない。
ただ、バッツらの命を望んでいることは確か。
故に、カリンの魔法やアンズの体術、バッツの剣技が炸裂し、次から次へと現れては消えていく。
「・・・ったく。ルドのやろーは、ほんとは恨まれまくってるんじゃねぇか」
「かもしれないな」
カリンは意外にもバッツの言葉にうなずいた。
彼はラインでも有数のルド信者だというのに。
流石にバッツも驚いた。
「なんだ、バッツン、変な顔して」
「いや、なに、あんたの口からルドを悪く言うようなことを認める発言が聞けるなんて思わなかったからさ・・・」
「そりゃ、悪く言ってるわけじゃないだろ。勇者っていったらさ、逆の立場からみりゃ殺人鬼もいいとこだし」
「・・・そうだよな」
辺りに霧が漂い始める。
「それでも英雄ってもんは、逆の立場を考えずに、突き進まなきゃいけない」
「弱さを見せて、みんなを不安にさせるわけにはいかねぇもんな」
考え深げにバッツはうなずく。
霧はますます濃くなっていく。
「でも、ときどき思うんだよな」
「倒していった者たちや、その家族たちは、自分のことをどれだけ恨むのだろうって」
「それで、自分で自分がいい子ぶってるって、嘲笑するんだ」
「恨まれて血に汚れて、それでも勇者なんて呼ばれる」
「嘘もいいところだ」
「勇者なんかじゃねぇ」
「ただの殺人者」
「そう思って・・・それでも、また別の魔物を倒していく」
「・・・・・・・自分が正しいと信じて、な!!!」
バッツは背後に迫っていた影を容赦なく斬りつけた。
「ふん、その手の惑わしは慣れっこだ」
彼の瞳は強い輝きに満ちていた。
☆ ☆ ☆
「カリンさん〜、バッツさん、行っちゃいましたね」
アンズは相変わらずのんびりした口調でカリンに話しかけた。
「この先は、勇者の一族しか行けない場所だよ」
「…今まではカリンさんのつくったダンジョンでしたよね〜?」
「あ、バレてた?」
そう。
底なし穴だの、火の中、水の中、雷の中、土の中などといったダンジョンは、すべてカリンオリジナル。
世界のトラップ百科を参考に、彼の魔法でつくりだしたもの。
本来の、ここへ至るまでの道のりは、普通に地下へつづくやたら長い階段があるのみ。
ダンジョンをつくりだしたついでに、魔物まででてきたのには流石に焦った。
が、辿りつけたっぽいのでオールオッケーというのがカリンの心境である。
「そういえば、この先って、マルさんも行けるんですか?」
アンズは目の前の霧を見つめていった。この先というのは、霧の向こうのことなのだ。
「なに言ってるんだい。彼はもう、行ったよ。十年前に、ね」
バッツは今、その場所に向おうとしていた・・・・。
タクスの部屋♪
カリン「うぬ」
アンズ「・・・あら?」
タクス「今回のゲストはカリンさん&アンズさん+バッツさん、ですが・・・・・・」
カリン「なんで俺たちの文字色が、魔王&ドラド将軍色なんだ?」
とうとう、色のバリエーションがなくなりました(爆)
バッツ「いいじゃねぇか。細かいことは気にするな」
タクス「おお〜バッツさんっ!!言うことがおっとこまえですね!」
バッツ「そんなことより、カリン。お前、よくも・・・」
カリン「う?ど、どうしたんだバッツン??何をそんな不穏なオーラを漂わせながら怒っているんだい(汗)」
タクス「バッツさんはバッツンって呼ばれているんですか?」
アンズ「ええ。カリンさんはそう呼ぶんですよ♪王子様だったころはちゃんとバトリアス王子って呼んでいましたけれど」
バッツ「なんだって、テメェの名前が題名に出てやがるんだ!!」
カリン「い、いやあ、怒られても困っちゃうな…な〜んて☆」
タクス「おお〜バッツさんはバトリアスっていう名前だったんですね?」
アンズ「そうなんです♪バトリアス・ギュス・ド・ルドというお名前だったんです♪」
バッツ「マルの名前は題名に使われたことがないっていうのにっ!!」
カリン「それを言うならバッツンの名前だって前回登場したじゃないか。主人公であるマルくんを差し置いて」
タクス「いやあ、随分立派なお名前だったんですね。マルくんもそうなんですよね?」
アンズ「ええ。本編でも本人が語っていましたけれど、マルさんはマルシィス・ウィル・ド・ルドっていうんです」
バッツ「だいたい、俺のは副題だっ!!それに兄貴の俺はいいんだよっ!!」
カリン「それは横暴というものだよ、バッツン〜」
タクス「しっかし、アンズさんと話していると平和ですよね(^^)」
アンズ「そうなのですね♪そういっていただけて、嬉しいです」
バッツ「問・答・無・用!!主人公たるマルを邪魔する者めっ!!この俺が成敗してくれるっ!!」
カリン「ほぅ。面白い。魔王を倒したからといって、この俺に勝てると思っているのかい?」
カリン、目の色が変わる。
タクス「じゃあ、そろそろ次回予告をしましょうか」
アンズ「そうですね♪では、タクスさん、お願いします」
バッツ「カリン、テメェとは一度、白黒つけとこうと思ってたんだ」
バッツ、剣装備。
カリン「フッ。俺の魔法は世界一。ひよっこのお前に勝てるはずがあるまい(←口調がなぜか悪役化 笑)」
タクス「ああ〜アンズさんっ!!なんていい人なんだ♪私に次回予告を言わせてくれるとは・・(←感無量)次回・・・・」
バッツ「くらえっ!!」
カリン「砕け散れ!!」
激しい爆発。
相打ちでバッツ&カリン戦闘不能。
巻きこまれタクス、戦闘不能。
タクスの部屋半壊。
アンズ「あらまあ・・・。」
アンズ、見事に無傷。
アンズ「・・・これは私が次回予告するしかありませんね。次回第30話『悪の事情』ルーワさんの語りが入りますだそうです」