Birth0Death

第二十八話 ラインにて ―勇者バッツ―


 

次の日。

 

「占ってもらおうか?」

眉間にしわを寄せ、マルに迫る。まるで脅しているようにも聞こえる。久々のクラウス節である。

「お、おうッ!!」

最近サッサ化が癖になるマルだった。

 

水晶を見つめる。

ぼんやりと見えてくるのは・・・・。

 

「これ・・・ライン?」

ラインの城下町が水晶にぼんやりと現れる。

「あ・・・青い髪?・・・兄さんだ・・・・・・・」

「え?」

「兄さんの近くに、アクトクがいる」

水晶には青い髪の青年のイメージがはっきりと現れていた。

「勇者と“滅びの穴”に関連が・・・・?」

「そんなこと、あるわけないじゃない!」

ロナの言葉をさえぎって、サティが珍しく声を荒げる。

「確かにそれはないな」

クールに言い放つクラウス。

「淀んだ空気、感じるのか?」

マルは首を横に振って答えた。

「兄さんの空気は変わらないよ。でも、そばから感じるんだ。よどんだというか、不気味な空気・・・」

 

水銀のような、どろりとした、それでいて真空に限りなく近い、切り裂くような空気。

そんなものを水晶ごしに感じる。

 

「・・・ともかく、ラインに戻ったらいいと思う」

マルの一言で、これからが決まった。

 

☆    ☆    ☆

 

「バッツ、バッツか!?」

「ゴンドラか!?」

ひしっとエルボーを交わしあう。

「おおおおおっ!!勇者バッツのご帰還だー!!」

大声で泣き叫び、歓喜するゴンドラに、ルーワは思わず引いていた。

「すごいとこですね」

「オレの村よかすごいぜ・・・」

もう一人の勇者の仲間、アイズもつぶやいた。

ちなみに彼の故郷は遥か東方、武紺の国。その山奥にある、戦士の村。

それはそれは武術が盛んで、住民の心意気が熱い場所だ。

ゴンドラの熱さはそれに負けずとも劣らない・・・ようである。

「早速、宴会しようぜっ!!」

勇者の仲間のひそひそ話もおかまいなしに、ゴンドラは熱く叫ぶ。

やはりライン住民は宴会好き、である。

「いや、宴会はまだだ。・・・それはいいけど、サティとマルは?」

照れたようにバッツはラック荘の方をうかがう。

これだけ大声でゴンドラが騒いでいるのだ、今に玄関から飛び出してくるのでは・・・と、バッツは考えていた。

「そうそう、それなんだが・・・。サティとマルはな、旅に出た」

「・・・・な、なに―ッ!!?」

バッツの声にゴンドラは驚いて目を見張る。

「あ、いや、駆け落ちじゃないぞ。サッサも一緒だ」

いや、そういう誤解は、はなからない。

「どこに行ったんだ?」

「ジュカってとこだぜ」

「ジュカ!!!?」

「バッツ!!」

バッツとアイズは顔を見合わせてうなずいた。

 

バッツたちの旅は魔王を倒したときに遭遇してしまった魔王の子のために、長引いていた。

もしかすると、魔王よりもさらに強大な力を有している人物。

その人物がジュカにいる、という情報をつかんだ。

つかみはしたがそれ以来、その足取りは途絶えた。

だが、今、その魔王の子が魔王として、復活を遂げようとしていた。

バッツの仲間である賢者ルーワは、その気配を感じたと言う。

 

魔王の子を倒さない限り、本当の平穏は望めない。

 

だからこそ、彼らの旅は続く。

そう、勇者バッツの故郷、ラインに帰ってきたのも、魔王の子と戦うための準備の一環。

 

「ゴンドラさん、悪いけど、宴会はおあずけだ。俺たち、ライン城に行かなけりゃ」

「お、おい〜」

いっている間に、バッツはとっとと走り出していた。

「すみません。今、バッツは魔王より強大な者と戦おうとしているのです。ですから、宴会は・・・」

「ルーワッ!!」

いらないことを言わなくていい。不安を与える必要なぞない。

バッツの目は、ルーワの言葉を遮った意図を雄弁に語っていた。

「はいっ!!」

ルーワと呼ばれた深緑の髪の少女は、ゴンドラに丁寧に頭を下げて、遠ざかって行った。

「う、うぉーっ、冒険だっ、熱いなっ!!」

ゴンドラは一人叫ぶのだった。

 

 

 

「あ〜あ、あいつ、勇者といるとほんっと、別人だな〜」

 

「お客さま?」

「おう、これとこれ、くれ」

万屋の窓から一部始終を見ているのは、あのアクトクである。

「さてと。ルーワに暇が出来るまでまっとくか」

痛い失敗の話しかないけどな。

と、一人苦笑いを浮かべる。

彼は、エンドウが品物を包む様子を見つめながら、この町の平和さを、ぼんやりと身に感じていた。

 

☆    ☆    ☆

 

「バッツン〜!!バッツンじゃないか〜っ!!」

「げ・・・カリン」

「あらあら、久しぶりですね」

 

ここはライン城一階。そう、マルの職場である。

郵便局は今日も盛況。

 

「アンズちゃんもあいっかわらずだな。・・・ってか、十年前から変わってないぞ?」

「マルさんってば、私のこと年下だと思っているんですよ。年上なのに♪」

「ああ、はるかにな・・・」

ぼそりとつぶやくバッツにアンズのパンチがとぶ。

「ぐ・・ぐふ」

「あら〜勇者になってもお腹は弱いのですね」

「ったりめーだっ!!しっかし、お前らはまだライン城にいたんだな」

「そりゃ、王宮魔術師が王宮にいなくなってどうするよ」

「まだそんなこと言ってたのか。ところで、マルのやつ、旅に出たってか?」

「おうっ。やっぱり勇者弟とはいえ、勇者の血筋だよな〜♪」

「どうせ、お前がムリヤリ旅に出したんだろ・・・」

バッツは疑いの眼差しをカリンに向ける。

カリンは冷や汗を流した。笑顔のまま。

「・・・あいつには勇者とか、そういうのとは関係ない人生、送って欲しかったのにな」

「なーにを言ってる。ものすご〜く、弱いからって、勇者たるもの旅に出ねば!!」

ばんばんとバッツの背中を叩きながらカリンは主張した。

こいつはこういうやつだよ、と、バッツは半ば諦めの境地に立った。

 

「・・・あの、バッツ・・・」

遠慮がちに、ルーワがバッツに声をかける。

「あ、わりぃわりぃ。こいつはルーワ・ザン。俺の旅の仲間だ」

バッツは、頭一つ分は小さいルーワの、華奢な肩を抱きながらにこやかに紹介した。

ルーワも、少し照れたように頭を下げる。

「あとな、こっちのでかいのは、アイズ・マツワカだ」

今度は頭一つ分は大きいアイズの背を叩きながら、やはりにこやかに紹介する。

どちらもバッツにとって大切な仲間なのだ。

「三人しかいないのか?」

「ああ、ルドの言葉なんかに従うつもりはないね」

「・・・・・・旅、きつくなかったか?」

 

「・・・ちょっと」

 

認めるなよ、バッツ。

と、ルーワはつっこんだとかつっこまなかったとか。

 

「お前なあ、ご先祖様、ほんっと嫌いだな」

「・・・ったりめーだ!だがな、今回はルドの剣を貰い受けに来た」

「は!?」

カリンとアンズは思わずとびあがる。

「もう、倒したんじゃないんですか、魔王を?今度はまさか世界征服をっ・・・?」

「んなわけあるかーいっ!!実はな、まだ魔王より強い奴が残ってるかもしれねぇんだ・・・。この三年間追ってたわけなんだが・・・やっぱ今以上に強くならないと奴は倒せない」

ふいに、青い、力強い光に満ちた目で真剣に言う。

バッツには何気ない行動でも、見ているものには何か、呑まれそうな印象を与える。

「しっかし、ルドの剣とはまあ…」

 

ルドの剣は諸刃の剣。

その力ゆえ使ったルドですら、恐れたというのに。

 

「わかってんだぜ、この城にあるのは」

「・・・そうか」

カリンは肩をすくめる。

「わかった。ルドの剣のところに連れてってやるよ。けどな、悪いがお仲間さんには待っててもらわないといけない」

いつになく真剣な表情をうかべるカリン。

「また、しきたり、かよ?」

「こればっかりはゆずれないぞ」

カリンの顔に笑みがない。バッツも肩をすくめて言った。

「わかった。ルーワ、アイズ、待っててくれ」

アイズはしぶしぶと、ルーワは素直にうなずいた。

二人とも、しきたりのことはよくよく理解しているようだ。

「万屋さんで待っていてくださいね、あそこのケーキおいしいですから、ぜひぜひ食べてみてくださいな」

「・・・って、アンズちゃんは来るのかーッ!?」

「当たり前です♪」

バッツははっ、と気付いた。

カリンもアンズも目を輝かせている。もしや、かなり危険な場所なのでは?

バッツの顔には疑惑の表情が浮かんでいた。


バッツ「ほぉー。ここが噂のタクスの部屋か」

アイズ「おおっ。こりゃすげぇっ!!」

ルーワ「そうですね、すごいですよね。こういうところ、私はじめてです。(嘘だけどさ)」

タクス「ル、ルーワさん・・・前と全然しゃべり方が違うような・・・・」

ルーワ「タ・ク・スさん(セットに気をとられているバッツ&アイズの背後で密やかに包丁装備)

タクス「(T_T)あ、いえいえなんでも、ないです・・・・・」

バッツ「んー?どうした??」

バッツが振りかえると同時にルーワ、包丁をしまう。

ルーワ「なんでもないですよ。それよりタクスさん、お仕事されてはいかがですか?」

タクス「はいーっ、お仕事さしてもらいます(汗)今日のゲスト、勇者様パーティーですっ!!自己紹介どうぞ」

アイズ「アイズ・マツワカだ!ん?名前の由来?会津若松だ!!(何故かは誰も知らない・・・)

タクス「誰も由来まで聞いてませんから(笑)」

ルーワ「ルーワ・ザンです。名前の由来は・・・ワル(悪)の逆だよん♪

バッツ「ん?なんか言ったか?ルーワ??」

ルーワ「いえ、なんでもありません」

タクス「(うわーっ、そこはかとなく危険なことを 汗)ええっと、では最後に勇者様、自己紹介をどうぞ」

バッツ「ああ。俺は主人公マル・スカイブルーの兄、バッツ・スカイブルーだ。二人あわせて○×兄弟!!」

タクス「うお?!マルくんが主人公だってことを強調するとは珍しい人ですね?!」

バッツ「あいつはな、俺の大事な大事な弟だ。兄として、弟が主人公なのを喜ばないはずはない!!」

タクス「・・・・・バッツさん?」

バッツ「もうしばらく会ってないけどな、昔は〜それはもぅ、かわいかったんだぜ。兄さま兄さまっていってさ・・・」

タクス「・・・・バッツさん、なんだか別世界に飛んでいってますよぅ〜??」

アイズ「ああ、はじまった・・・。こいつ弟のことを語り出すと長いんだ。とくに酒の入った時なんかにゃあ…」

バッツ「短い足でさ、必死についてきてさ。おっきくなってからも、何かって言うと世話かけさせやがってさ(^^)」

タクス「(う、嬉しそう・・・)もしかして・・・勇者様ってばブラコン?」

ルーワ「もしかしなくても・・・」

アイズ「そうだよな」

深深とうなずきあう勇者のお仲間二人。

タクス「これ以上勇者のイメージを壊さないために・・・次回予告っ!!」

アイズ「おぅ、任せろ!!ちょい役のカリンが題名に!?次回、第29話『カリンさんのお楽しみ』」

バッツ「・・でさでさ、俺が誕生日のときなんかさ、サティと一緒にケーキやいてくれちゃったり…」

タクス「・・・まだ続いてますね」

 


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