Birth0Death
第二一話 誤解
ざっ、と足もとの草を踏みつけて、彼らは現れた。
消えかかった焚き火はうっすらとしか、辺りを照らさない。彼らの姿もはっきりとはうつさない。
膝を抱えて、うつらうつらしていたクラウスはばっ、と足音のした方を見た。
黒い人影が三つ・・・。
「・・・・お前ら」
クラウスの言葉が続かない。
「マルッ!!!」
「・・・あ??サッサ?」
寝ぼけたマルは、ぼんやりした口調で答えた。
サッサの声がしたから答えたまで。
やたら真剣な声だからびっくりだ。
・・・そういえば、なんでサッサが?
じょじょに頭がはっきりしてくる。
「誰、あれ!?」
ばっ、と起き上がるロナ。クラウスも顔色を変えて立ちあがる。
「ううっ・・・」
マルは痛む肩をかばうように、ゆっくりと起きあがった。思わずうめき声を上げてしまう。
「マルッ!!無事なの?」
「おいっ、あれが魔王の子だ!!」
なぜ、アクトクが一緒に?
そう思っている間にアクトクが右手をさり気なく挙げた。サッサとサティはロナを見ていて気付いていない。
「あ、あかんっ!!」
ララの声が小さく聞こえた気がした。
アクトクの右手がさらりと揺れる。と、マルの喉に重圧感がかかる。苦しくはない。苦しくはないのだが・・・。
「・・・・・・・・・・・!?」
声がでない。
「マル、魔王の子に何かされたのっ!?」
「だめだ、あいつはもう君たちの声が聞こえない・・・」
アクトクのやつは何を言ってるんだっ?!
「見ろよ、あんなに顔の色が悪い。魔王の子に操られている証拠だ」
い、いや違うって。おいおいおいおい。
「魔王とその手下ドラド将軍が、ここに復活しようとしているっ!!マルももはやデスの人間だッ!!」
声が出ないうちに、アクトクに勝手に話しを進められていく。
ロナもクラウスも、声が出せないのは同じようだ。アクトクの話にサティもサッサも熱くなるばかり。
「倒さないと、ダメよね・・・」
サティがステッキを構えた。
え・・・。おいおいおい。
「・・・ああ。そうだな。オレも手伝うよ」
マルは必死で首をふる。目で訴えようにも、辺りが暗くて伝わらない。
アクトクはクラウスのものだった剣を鞘から抜いた。ロナの顔色が変わる。咄嗟にマルは彼女を背後にかばう。
「マル、どうやら完全に魔王の子の味方、なんだな・・・くそッ!!!!」
ば、バカ、サッサッ!!
サッサが魔法をぶつけてくる。
手加減などない。
ロナを庇いながら、横に飛び退く。傷ついた肩を炎が掠めていく。
・・・サッサ、本気だ。
マルは頭が真っ白になった。
いつものふざけた魔法のぶつけ方ではない。ホンキだ。本気でマルを殺そうとぶつけた炎。
サティも、鋭い目つきでステッキを構える。
「マル・・・・ッ!!!やっぱり悪魔に取り付かれてるんだね・・・」
悲しそうなその顔はそれでもやはり、普段の戦闘で見慣れた真剣な表情だ。
何言ってるんだ!?
マルの言葉は声にならない。
サティの脇に立つアクトクが、にやりと笑みを浮かべる。
くっそ、あいつ!?
“なんで・・・・・・・・なんでヴァース人は私を攻撃するの・・・私が、敵、だから?”
ロナの思いがマルの心に伝わる。
違う、違うよロナ!!
ロナは何か魔法を使おうとしているのか、ゆっくりと翼を広げる。
お願いだから、やめてくれ!!
マルはロナを止める為、とっさに彼女の前に立つ。両手を広げて。
それはサッサたちから見れば、やはり、ロナを庇うように見えた。
「やっぱり、取りつかれやがったか。くそっ!!!これじゃ魔王を攻撃できないッ!!」
「取りつかれたら、もう元には戻れないらしい、あんたらの手で開放してやるのが、義務ってもんだぜ!!」
ちがう、そんなヤツの言うこと、間に受けるんじゃない!!
こうなったら・・・。
マルは目を閉じて、水晶を握り締めた。
ごめん、サッサ、サティ・・・ッ魔法、かけさせてもらうよッ!!
心の中で謝りながら、マルは眠りの魔法を解き放った。
だが。
「そう来ると思ったわよ!!」
涙声でサティが叫ぶ。
サティはステッキを一振りして、その魔法を弾き返した。
「わかってるんだから。あんたとの付合いは長いのよ!!行動は一緒なのに・・・っ!!」
弾き返された魔法は逆にマルに直撃する。
強烈な睡魔が襲いかかる。脳が麻痺していくようなそんな感覚。
ここで眠ったら・・・僕はサティやサッサに殺される?
“マル!!!”
ロナを振り返ると、彼女の目はこれ以上ないほど大きく開かれていた。
大丈夫、僕は大丈夫。
放った魔法をはね返された。
マルがその直撃を受けて、瞬間、ときが止まったように、ロナには感じられた。
クラウスがロナの腕をつかむ。
ロナはマルに手を伸ばした。後少しで届くところだったのに。彼は前のめりに倒れていく。
白い光が辺りを包み、彼女は自分が空間を移動したことを悟った。
・・・・・・・倒れたマルを残して。
☆ ☆ ☆
「逃げられちゃったね〜。こいつだけでも倒しとく?」
アクトクは眠りこけたマルを足蹴にする。
「こいつ、とかいうなっ!!」
サッサは胸倉をつかんでアクトクを睨みつけた。
「・・・ダメよ。もしかしたら、魔王たちが助けに来るかもしれないじゃない」
「そんな捨て駒だろ〜。助けに来るってことはありえないぜ〜。いくらもと仲間だからって、もう、魔王の手下、だぜ?」
「だからって、マルは私たちの大切なともだちよ。そう簡単に殺せない」
「けど、目を覚ましちまったら、魔王の手下のまんまだぜ?今のうちに倒さないと」
さらに食い下がるアクトクに、サティはゆっくり首を振る。
「いいのよ、方法はあるはずだわ魔王の呪いをとく」
「おう、きっとあるはずだぜッ!!」
サッサもうなずく。
「・・・けどよ〜」
まだアクトクは反対しようとしている、と、その言葉を遮ってサティは宣言した。
「私達はライン住民よ?ちょっとやそっとじゃ諦めないわ」
「そうだぜ。それによッ、マルはよわっちい。魔王の手下になっても、よわっちいのはかわんねぇッ!!」
サティの宣言にサッサも同意する。
ライン住人の心意気である。
「それじゃあな〜っ・・・・魔王はどうするよ?」
折角の余計な者を消す機会がなくなっちまう。アクトクは内心ちょっとあせった。
「魔王のことは・・・ラインに帰ってからだわ。ともかく、一番近い町につれていきましょう。マルを助けるの」
・・・・・・こりゃ、こいつらとは別れた方がいいな。
その前に・・・こいつを殺るか。
「おう、運んでやるぜ〜」
アクトクはマルを荷物袋のごとく肩につんで、歩き出した。
・・・目指すはセンの町。
☆ ☆ ☆
ここは、エンディッド平原の南端。
向こうに、センの町の灯りが見える。この大陸でも大きな町の一つ。
“明日”から目指そうとしていた場所。
魔法の効果が今になって消えた。声が出せる。
「ララ、大丈夫か?」
再びララのテレポートで危機を脱した。
「あ、あかんかも」
ふらふらとララはクラウスの肩にとまった。そして意識を失う。
「・・・・・マル・・・」
「ロナ。あいつはまだ生きてる」
「あなたに何がわかるっていうの!?魔の力も持たない癖にっ!!」
この男はマルを見捨てた。もう少しで手が届くところだったのに。
目の前でマルは倒れた。あのとき、振りかえった彼の顔に優しい笑みが浮かんでいた・・・。
「あいつは魔法をはね返された。得意の“眠り”魔法をな」
「眠り?」
「そうだ。あいつはな、剣もだめ、魔法もだめ、な“出来損ない”だそうだ」
「マルが?・・・うそ・・・・」
「本当だ。だからな、俺でもわかる。あいつは大丈夫だ」
「・・・そっか・・・・」
ロナはうつむいた。
「クラウス、ごめん」
ひどいことを言った。クラウスが一番気にしていることを。
魔の力のないことを。
「かまわん。俺も“出来損ない”だから、な」
クラウスの口調に皮肉も自嘲もない。
ふっ、と笑うクラウスに、ロナはなにか彼は昔と変わったな、という思いを抱いた。
「襲ってきたのはサッサとサティって人?」
「そうだ。あの二人はドラド軍のライン侵攻を経験している。だから、俺を恨んでる」
クラウスはドラドには違いない。だが、ドラド軍の行動には関係していない。
なのになぜ・・・。
「それ、おかしな話じゃない?」
「・・・確かにそうなんだがな」
それでもクラウスはドラド家の者である。
ドラドとしての責任を、彼は果たしたいのだろう。その気持ちを、ロナもわかるような気がした。
「・・・でも。あの二人とは戦いたくない」
「俺もだ」
「誤解、解こう。“滅びの穴”の話をしよう」
そうすれば、きっとわかってくれる。マルの友人なのだから。
クラウスは無言でうなずく。
背中に背負った銀の弓矢に手を触れ、ふいに思い出す。
「あとアクトク・・・あの黒髪の奴。あれは・・・」
「あいつの空気は異常だった」
「うん。あいつは二人を煽っていた」
しかも、声の出なくなる命石魔法をかけてきた。
ごくごく簡単な命石魔法である。だが、そのせいでサッサとサティと話をすることができなくなった。
「ともかく、私はマルを助けたい」
「俺もだ」
「じゃあ、行こう」
「ああ」
平原に、風が吹き過ぎていく。
遥か東方の空が白みはじめていた。
タクスの部屋♪
サッサ「おーいッ」
タクス石化中。
サティ「あらら。この人、なんで石化してるのかしらね〜」
前回参照(笑)
アクトク「こりゃー、オレたちだけでタクスの部屋進めるしかねぇみたいだぜ〜。フッ“タクスの部屋”じゃねぇな、今日からここは“悪徳の部屋”だ!」
サティ「・・・・・・・アクトクさん、漢字変換は止めたほうがいいわよ」
サッサ「さっすが、悪徳商人だなッ!!」
悪徳「はあ?なに言ってんだ?・・・・・・・だああ!?アクトクが漢字変換になってやがる〜!?」
フッフッフ・・・・・・・・・・。
サティ「あら?妙な笑い声が聞こえてきたような・・・」
タクス「ファファファッ!!この私を差し置いて、ここを乗っ取ろうなんぞ、百年早いですよっ!!」
タクス、復活。
悪徳「ちっ、あんたもう戻ったのかよ」
タクス「私はグレートな仙人なんですよぅ♪ところでそもそも、アクトクくんは、本編で活躍するんですから、こっちで活躍してはならないのですっ!!」
サッサ「あれって活躍っていうのか?」
サティ「悪巧みって言った方がいいわよね」
いや、君らは騙されてるはずだから、悟らないで〜(←作者の叫び)
悪徳「どうでもいいから、この漢字変換、どうにかしてくれよ〜」
タクス「フッ。君のために私が動くと思いますか?」
サッサ&サティ「(・・・・・・タクス、口調が悪人・・・・・・・・)」
悪徳「…フッ。あんた、このオレ様にそんな口聞いていいのかい?しっかり覚えているぜ、あんたのプロフィール」
タクス「!!!?く、卑怯なっ」
アクトク「ふん。はじめからこうしておけばよいものを」
サッサ「アクトク、口調が悪代官だぜッ・・・」
サティ「この二人、悪人属性だわ(笑)」
アクトク「オレの名前も戻ったところで、次回予告だぜ〜♪次回第二十二話「交錯する者たち」マルのアニキ登場でますますマルの主人公の座が危うく・・・?ってこれ以上悪化すんのかよあいつ(笑)」
タクス「そうなんですよ、かわいそうですね〜(笑)」
アクトク「ほんとだな!!!カカカカカ」
タクス「クァクァクァクァ」
サティ「なんか・・・・この二人の笑い方、いや」
サッサ「だなッ・・・・・」