Birth0Death

第二〇話 星々の孤独


その頃。

エンディッド平原の近くの山に、三人の旅人が歩いていた。

一人は女、二人は男。

 

そう、サティ、サッサ、そしてアクトクの三人である。

 

「もう今晩中には着きそうね」

「もうちょっと歩くと、エンディッド平原が見えるぜ〜」

三人はマルを取り返すため、エンディッド平原に向っていた。

いや、正確にはクラウス・エル・ドラドを追っていた。

「あんなデスのせいで、あいつが連れ去られるなんてッ!!!」

思い出すたびに腹が立つのだろう。これでなんど同じような内容のことをサッサは叫んだだろう。

「サッサもサティさんも、マルくんが、もとのマルくんだなんて思わないことだぜ。絶対操られているから〜。たぶん“魔王は悪くない”とか、言うと思うぜ〜」

アクトクはにやにや笑いながら二人に呼びかける。

「うるせぇッ!!!」

サッサは思わずアクトクを一喝していた。

 

サッサがまだ幼い頃。

ライン城下は魔物の軍団に襲われた。

サッサの家は焼かれ、家族はみんな殺された。しかも、妹はサッサの目の前で殺された。

そんな軍をよこした“魔王”が悪くないはずがない。

将軍ドラドの息子、クラウスがマルに近づいたのも、何かの策略に違いない。

 

サッサは唇を噛み締めて、山道を無言で突き進んだ。登りがかなりきつい。サッサの額に汗が浮かぶ。

前を歩くサティがふいに足を止めた。

「何かしらあれっ!?」

木々の間から見えるのはエンディッド平原。

だが、その中央に何か、光り輝く空間ができている。

 

「幻の森ッ!!」

「幻の森が消えて行くとこみたいだなっ。こりゃま〜たいへんだな〜」

眉間にしわをよせ、真剣な様子のサッサ。それとは対照的に、アクトクはのん気な口調でいう。

そうこうしているうちに光が消えていく。

「光が、消える・・・?」

「あの光が天をつらぬいた場所に、マルくんがいるに違いない」

「アクトク。自信たっぷりだなッ!!」

ばんっ、と背中をたたかれて、アクトクはとってもいやそうな顔をした。

「さぁ、行くぜッ!!!」

サッサの気合いの声は、いつもと同じような調子で言われたもの。

だが、その声を発した表情は、いつもと全然違う。憎しみとか怒りとか。そうしたものに押し流されそうな、そんな表情。

苦しげで、痛々しい。

 

アクトクは、先頭を歩きだしたサッサを、やはり皮肉な笑みを浮かべて見ていた。その表情はこころなしか、満足げ、だった。

 

  ☆    ☆    ☆

 

「そろそろ、三時間だな・・・」

クラウスがぽつりともらす。

七色の輝きは、やがてセカイジュのまわりにも近づいてきていた。

まるで太陽が、沈み行くかのように、森がデスへと沈んでいく。

「ジュカともお別れ、か」

「そうだね」

セカイジュを見上げるロナにマルはうなずく。

ますます、光は強まる。

やがて、光が全てを包みこみ、幻の森は静かに消えていった。

 

 

「うっわーー!!懐かしいっ!!ロナやロナ〜っ!!夢やろうか?ああ、痛くない〜やっぱ夢なんやッ」

「ララ〜、痛いってば」

ベタなことをいいながら、マルのほっぺをつねるは、偉大なる召喚士ララ。

幻の森を召喚したのだから、“偉大”とつけても調度良い。

が、そう呼ぶにはあまりに小さい。なんといっても妖精だから。

そんな彼女も、いつもよりいっそう飛びまわっている。前日テレポートをし、今日は召喚と、非戦闘員にはきつい日々だったろうに。

「ララ、マルをいじめちゃだめ」

ロナも、マルやクラウスと話すときとは違ってララに対しては、随分と優しいしゃべり方だ。

「でも、ほんま、無事やってんな。良かった〜」

「ありがとう。ララ」

「お、素直やん、どうしたん?」

「私はもともと素直」

「うっそでぇ〜っ」

ララの笑い声に、あたりは和やかムードに包まれる。

 

「今日は、昨日と同じとこで、野宿しようか?」

マルは提案した。確かに、そんな準備をはじめてもいい。なんといっても、もう日は暮れ始めている。

「そうだな。これからのことも話さなくては」

クラウスはさっそく焚き火の準備をはじめた。ロナはというと、その側に座りこんでいる。マルはその隣り。

ロナは目覚めたばかりだし、マルは怪我人。

ということで、今回、クラウスは野宿準備に大活躍である。

 

 

 

「焚き火っていいね」

 

クラウスのとってきた果実や魚で軽い食事をとったあと。

一同、焚き火を囲んで、ぼーっとしていた。

夜の空気は冷え込んでくるが、焚き火のまわりは温かい。

 

「そうだね」

ロナのつぶやきに、遅れてマルが返事をする。

「これから、どうするか決めねばな」

クラウスは薪を火にくべながら、つぶやいた。

「“無の水”について調べる、か」

“無の水”のことはどこにいけばわかるのか。

マルはせっせと頭をひねって考える。が、なにも出てこない。

「タクスはもういない。だが、どこかに何か残してくれているかもしれない。それも探さなきゃ」

「それは当てのないものだな」

ロナの言葉にクラウスはすぐさま返す。

「あとは一年前、ロナを魔王にしようとした奴を探らなあかんな」

「それは勝手に近づいてくるだろう。ロナを魔王にする目的はわからないがな」

クラウスの言い分は最もだ。

「どれも、わからないことばっかりだね」

マルはため息をついた。

と、突然クラウスがばっ、と顔を上げた。

「そういえば、マルはついてきてくれるのか?」

「おいおいおいおい〜。僕、こっから一人で帰るのは無理、だよ?」

威張って言うようなことではない。だが、マルの思いはそれだけではなかった。

 

・・・・・・・・・それに、僕はロナを助けたい。

 

その言葉は心の中でだけ言っていた。なぜかって?もちろん、照れるから。

 

☆    ☆    ☆

 

エンディッド平原の真ん中で、焚き火が燃えている。

「ともかく、明日はエンディッド平原から一番近い町にいってさ、旅の道具を揃えようよ」

わからないことが多すぎるから。まずは目先のことからやっつける。これは基本。なんの基本かは知らないが。

「そうだな・・・」

マルの提案にクラウスはうなずいた。うなずいたはいいが、クラウスが暗い。いや、彼が暗いのはもともとだ。

だが、さらに暗い空気を背負っている。思いだし笑いならぬ、思いだし落ちこみである。

 

町から半ば逃げるようにしてテレポートをしなければ、旅の道具もばっちり手許にあっただろう。

旅の仲間もあと二人。うるさいのと、策士なのがいただろう。

 

「あ、サッサとサティにはさ、ごちゃごちゃしたこと、全部終えて、ラインに帰ったら言っとくよ。大丈夫、わかってくれるって」

フォローのようなフォローでないようなマルの言葉に、クラウスはますます沈みこんだ。

「サッサ?サティ?」

ロナが不思議そうに首をかしげる。

「僕の同郷の友さ」

マルはいつもタックルしてくる、勇者志望の魔法使いや、いつもお宝をとりあげたり、策を練っている下宿の若女将の話しを聞かせた。

今、ここではあまりにかけ離れすぎていて、現実ではないようなそんな気分にすらなる。

ラインにいるときには、ごく当たり前だった情景。まだたった四日前のこと。この四日間でどれほど自分の生活が変わってしまったことか。

その変化を実感して、マルは思わず頭がくらくらしてきた。

 

こんな激しい変化は、ライン城を出て、あの大層な名前を捨てたとき――マル・スカイブルーになったとき――以来だ。

いや、もっと正確に言うと、父と母が命がけで結界を張った日。あの日以来だ。

 

幼かった自分。

魔王の軍、ドラド将軍率いる魔王軍が、ラインを侵攻した日。

兄の手をぎゅっと握って、城から出ていく父と母の背を見ていた。

見上げた兄の表情は、思い出せない。

いや、マルはそのときのことをほとんど覚えていない。それ以前のことも。そのすぐ後のことも。

 

その後が強烈すぎたせいかもしれない。

 

兄の宣言。

王政を廃止し、ライン城は公共の場とする。

我々兄弟は城下に移り住み、来るべき魔王との戦いに備える。

実際に備えていたのはバッツだけ。

マルはというと、バッツの陰に隠れておとなしく、目立たないように生活していた。

“俺たちはもう、王子でもなんでもない。ましてやルドの末裔とか、そういうのは関係ない。俺はな、ただ倒したいだけなんだ。魔王を”

 

兄が語った言葉に偽りはなかった。

 

ただ、倒したその魔王すら、何者かに利用された同情されるべき人だっただけ。

考えれば考えるほど、気分が重くなる。

 

「ちょっとちょっと、なんやねんっ、折角ロナが戻ってきたんや、二人ともそんな暗くならんといてや〜」

いつしか、マルまでくら〜くなっていたのであった。

 

「やっぱりさ・・・」

 

ぽつりとロナがつぶやく。マルもクラウスもロナに注目した。

「夜空って、キレイだね」

唐突にロナは言い出す。言葉につられて、マルも空を見上げる。

ここが広い広い平原だからだろう。ラインの町から見たよりも、空がずっと大きく感じられる。

遮るものが何もない。町の明かりなんてものもない。ただある光は焚き火だけ。

だからだろう。空に瞬く星々は哀しいほどに輝きを見せる。白、紅、青・・・。命石の輝きにも似た、その粒が空に奥行きをもたせる。

「キレイで・・・悲しい」

 

孤独。

星々の孤独。それはロナが感じ続けた孤独に似ていた。

だが、今はマルがいる。クラウスやララもいる。漂いつづけた孤独から、再び地上に帰ってきたのだ。

 

・・・・・・タクスはもういないけれど。

 

 

「あ!!流れ星やんっ!!」

 

ふいに、ララが声をあげた。

「へ?どこどこっ!?」

マルも夢中になって探す。

「俺も見えた・・・」

ちゃっかり見えたらしいクラウスは、ちょっと嬉しそうである。

 

「あ〜っ!!またや!!」

 

「えっ!また見逃した・・・」

「また見えた」

「私も見たい」

孤独とか、寂しさとか。そういうことは言い出したらきりがない。

軽く頭を振り、ロナも、マルたちと同じく、流れ星を探し始めた。

いつしか、マルもロナも、流れ星探しに熱中していた。しまいにはその場にあお向けに寝転んで星空を見つめつづけた。

星空はやがて暗闇に変わり、彼らは深い眠りについていた。

 

怪我の痛みや、旅の疲れが一気に彼を眠りの世界につれていったのだろう。


タクス「いやあ、ロナっ、ようこそっvvささっ、君の大好きなオレンジペコーと、アーモンドケーキですよ♪」

ロナ「わあ、アリガト、タクス(にっこり微笑む)」

ララ「なーんや、裏ありありやな、タクス」

タクス「うわっ、ララまでいたのですかっ!!」

ララ「・・・・・・すみませんなぁ」

ロナ「なんだか久しぶりね。タクスとララと私・・・」

ララ「せやな・・・」

タクス「ええ・・・」

哀愁を秘めた、ほのぼのとしたときが流れる。

ロナ「懐かしい・・・。私のもう一つの家族・・・もう一人のパパとママ・・・」

ララ「へ?」

タクス「ああっ!?」

タクス、凍りつく。ララ声なく笑う。

タクス「ロナ、一つ、お伺いしたいのですが、私のことを今、なんと?」

ロナ「(きょとんと首を傾けて)もう一人のお父さま・・・」

ララ「哀れなやっちゃ、タクス (笑)」

ロナ「どうしたの、タクス??」

タクス石化中。

ララ「いいんや、ロナ。ほっとき、ほっとき。さて。次回は第二十一話 「誤解」久々に姐さんと少年が活躍や!!

ロナ「タクス・・・??」

やっぱり石化中。


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