Birth0Death
第十九話 ルドの時代のやり方
ロナにいいとこみせたいけど・・・。ちらりとキマイラを見るとそれはそれは狂暴で・・・。
生命の危機かもしれない。
「くっそッ!!倒してやるぜッ!!」
とりあえず、サッサ化してみる。
「・・・いや・・・・・・こわい・・・・・」
「なっ!?」
魔王よりも力を持つはずの少女が怯えている。
思わずマルは背後のロナを見る。
と、彼女はマルの剣を凝視して、青ざめていた。自らをぎゅっと、掻き抱いて震えている。
「ろ、ロナ?」
「・・・・いやっ・・・・・・・・・」
涙目にさえなっている。
「えっと・・・」
「マルっ!!剣をしまえっ!!」
余所見をしている間に、キマイラの鋭い爪は、マルの目の前に迫っていた。
が、獣の喉もとを弓矢が貫いていた。
「クラウス!!」
「マル、剣をしまうんだ」
「え?あ、ああ」
鞘に剣をしまい、ロナの方に向き直る。
震える肩をそっと支える。
「ロナ、ロナ!!大丈夫か?!」
「ごめん・・・・・・・・・」
うつむいたまま、か細い声が聞こえた。
彼女は呼吸を整えている。
目を閉じて、じっ、と。
「…ロナ?」
マルはロナの顔をのぞきこむ。
「・・・だい、じょうぶ」
赤い瞳はまだ少し怯えの色が残っている。
それに声は少し震えている。
だが、もうさっきのような壊れかかった表情は見せていない。
もう一度、ゆっくりと目を閉じて、そして開く。
「ごめん、もう、大丈夫」
だいぶ、しっかりしてきたようだ。
ロナはふいっ、と、マルのもとを離れると、すでに息絶えているであろうキマイラに近づいていった。
「ロ、ロナ?」
突然のロナの行動に、マルは呆気に取られた。
だんっ!!
キマイラに近づいたロナは、右手を高く振り上げ、一気に振り下ろした。
それだけで、キマイラは命石へと変わっていく。
デスが、ヴァースを壊すとき
命石ができる。
マルが、その瞬間を目の当たりにしたのはこれが、はじめてだった。
「ロナ・・・」
「・・・・はい」
「おっとと」
ロナが投げた命石をマルはどうにかこうにかキャッチした。
獣にぴったりな茶色の命石。
魔法として引き出される力は恐らく、土の力だろう。
いつぞや、サッサがボーダーで使ったあの雷の力と同じく、使えるのは一度きりのもろい命石だ。
「昔はこうしてデスとヴァースが協力していたらしいの」
「昔?」
「ルドの時代」
ルドが倒した魔王は、デスの者じゃなかったのか。
・・・・・・そうかもしれないな。
妙に納得する素直なマルである。
そのころには、まだ、“滅びの穴”はなかったのかもしれない。
そうマルは思った。
「久しぶりだな、ロナ」
クラウスは矢を回収して、マルたちのもとに駆け寄ってきた。
「クラウス??あなたも助けに来てくれたの?」
「ああ、まあ、ララに頼まれたから」
結構本人も必死だったくせに、素直じゃないクラウスである。
「ララも無事?よかった・・・」
ロナは明かにほっとしていた。
「マル、お前、怪我しているのか」
感動の、とはいかなかったが、ロナとの再会を果たしたクラウスは今度はマルに向き直る。
「ああ、まあ、大丈夫。ロナが手当してくれたし」
とても大丈夫には見えない顔色だが、マルはにこやかに笑って見せた。
「すまない」
「いや、クラウスが謝ることじゃないって」
妙に殊勝なマルだった。
「それにマル、“悪魔の扉”開けてくれたのか?」
「あ、ああ。クラウスいなくなっちゃうし。セカイジュについちゃうしでさ、もう、なんていうか、流れって感じだね」
ははは〜、と笑う。
もう、なんというか、ただただ、触れてしまったのだ。“悪魔の扉”に。
「すまない」
再度、クラウスは眉間にしわを寄せて頭を下げる。
「いやいや。なんだろな、僕、ロナの過去とか見ちゃったみたいでさ」
「過去・・・どういうことだ?」
マルはクラウスに幻の森で見た、数々の“幻”について語った。
「ま、それでロナは悪い人じゃないって思って」
「私が悪い人なはずがないわ」
妙な自信でロナは言いきる。
「やはりお前もルドの血筋なのだな・・・」
少し複雑な表情を浮かべながらクラウスはつぶやく。彼はこれでも一応、マルに感心しているようだ。
「それよかさっきは、一体どうしたんだ?」
マルはロナに向き直った。
「・・・ごめん。久しぶりに、刃物を見たから・・・」
「刃物?」
「昔、斬られて以来、苦手になった」
「へ?」
ロナはうつむいてしまった。
斬られたってもしかして、あのとき、兄さんに斬られた、あれじゃん!?
マルは心の中で叫ぶ。
いや、もしかしなくてもバッツのせいである。
「剣みるくらいは平気だったのに。なんだか、マルが剣構えてるの見たら・・・怖かった」
また瞳が涙目に変わってきている。
バッツに斬られたときの、そのバッツの姿と、マルの姿が重なったのだろう。
腕前こそまったく違え、青い髪は同じだ。
それになんといっても兄弟。一応似ているところもあるのだろう。
「ロナは、剣を向けられるのに弱い。世界一の剣術使いだったというのに」
そもそも、ロナは魔王城で魔物たちに剣術を教えていたのだ。
そのロナが剣にトラウマを抱くようになったからこそ、クラウスはジュカを出て、放浪の旅に出たらしい。
そりゃ、刃物恐怖症の者の目の前で剣術修行に励むわけにもいかない。
「そうだったんだ・・・ごめん」
「なぜ、マルが謝るの?」
ロナは不思議そうな表情を浮かべた。
もしかして、バッツが僕の兄だって、知らない?
もしかしなくても、マルがバッツの弟だと、ロナにわかるだろうか。いやわかるまい。
「ともかくロナ、これをお前はこれを使え」
クラウスはスジで購入していた、ロッドをロナに手渡した。
「あと、マルは剣を使うな」
「使うなもなにも使えないけどね。ところでロナ。さっきの質問だけど・・・」
「“滅びの穴”を誰が作り出しているかはわからない。だけど、タクスは原因が液体だということをつきとめたの」
「液体?」
「ルドの伝説にある、無の水」
無の水。
ルドの時代の大魔王が、自らの力を高める為に創り出したもの。
はじまりとおわりの大地より生み出された、無を具現化したもの。
そんな伝説が残っている。
「そんなの伝説じゃないのか?」
「伝説の中に真実が眠っている・・・ってタクスはよく言ってた」
ロナはふっ、と寂しげな表情を浮かべた。
「“滅びの穴”の原理は召喚と変わらないみたい。ただ、開いた穴に気化した無の水・・・無の霧かな、を込めた、それが“滅びの穴”の正体」
それで魔物化したのだ、デス人は。
「誰が、なんのためにそんなことをしたんだろう・・・」
「ロナ、お前はもう大丈夫なのか?無意識で、魔物化することはないのだろうな」
クラウスが鋭く聞いた。
「私は大丈夫。セカイジュの中にいたおかげで、浄化された」
そう、セカイジュはララが呼び出すまで、デスにあった。
だから、狂気は浄化されたのだろう。
「・・・ただ」
「ただ?」
ふいに口篭もるロナに、クラウスは聞き返した。
「私が悪魔の扉の中に入った日。ジュカは襲われたの」
「そう、だったな。」
クラウスも頷く。彼もそのときの話しをララから聞いていたのだろう。
「きっと、あの日襲ってきたのが・・・」
“滅びの穴”をつくりだした張本人。
そして。
「たぶん、私を魔王にしたがっている奴」
「そいつが“悪魔がえり”の原因だなッ!!」
さすがのマルもサッサ並みに熱くなる。
世の中にはなんて奴がいるのだろうか。
「私は魔物化したり、パパ・・・父のように残酷になったりしたくない」
「それは俺もわかる」
クラウスはうなずいた。
そうか、この二人の大切な人たちはみんな、変貌したんだ・・・。
マルは呆然とこの話を聞いていた。
と、辺りがぼんやりと七色に輝き始めた。
タクスの部屋♪
タクス「ああ〜!!せっかく本編でカッコイイ私ですのにー!!」
クラウス「いや、かっこよくないだろう」
タクス「ク・ラ・ウ・ス〜〜〜(呪)」
クラウス「う、うそだ、うそだぞ。カッコイイカッコイイ(汗)」
タクス「そうですよね、私はかっこいいのです(納得)なのになのに・・・・・・・・・・・・・・」
クラウス「??・・・ああ、そういうことか。第二話のタクスの部屋・・・・・いや、あの頃は次回予告だったか、その解答が出たな」
タクス「あの私を燃え尽きさせた伏字ですか?」
クラウス、深深とうなずく。
クラウス「『だって、あんた本編で…』」
タクス「いうなー。それ以上言わないでくださいーーそ、そんなことよりロナですよ、ロナっ!!ロナはいらっしゃらないんですか(怒)」
クラウス「ロナはマルのキズ、看てるからな」
タクス「ああ〜すっかり忘れていましたが、マルくん血まみれマルくんだったのですねっ」
クラウス「ロナ、怒ってたぞ。タクスの部屋で治してくれればいいのにって」
タクス「ああ〜ロナっ、それはそれはできないのです〜(T_T)(T_T)(T_T)許してください〜。ロ〜ナ〜」
クラウス「わかったから、叫ぶな。・・・しっかしお前、ロナと二年近く暮らしていたのだろう?」
タクス「ええ、まあ(T_T)」
クラウス「・・・・・何もなかったのか?」
タクス「(T_T)(T_T)(T_T)(T_T)聞いてくれます?うちにはね、あの、ララがいたんですよぅ」
クラウス「・・・あ。そういえばそうだったな(笑)」
タクス「笑いごとではありませんっ、しかも相手はあの、天然いいえ、天然を通り越して天空のロナですよ?」
クラウス「お前も苦労したんだな」
ぽすっ、と肩を叩く。
タクス「うう(T_T)(T_T)(T_T)」
クラウス「さて。次回は第二〇話「星々の孤独」・・・ロナの思い、だな」
タクス「わーっ、クラウス、勝手に終わらせないで下さいよぅ〜(T_T)」