Birth0Death

第十七話 ロナとタクス


 

夜、だろうか。

 

「ああ〜はね返してしまったっ!!だ、大丈夫ですか?」

間の抜けた叫びが森に響く。

マルはふわふわと、漂うように男を見ていた。

男は一人の少女に話しかけている。マルには気がついていない。

いや、マルはそこには存在していないのだ。

ただ、この場面を見ている、傍観者。

 

「クッ・・・・・」

少女は男を睨みつけた。

「もう、おやめなさい。あなたのお命を頂戴するつもりはないんですから」

温和そうな雰囲気の男が、それこそおっとりと言い放つ。

ついさっきまで戦っていた相手。いや、今でも少女の殺意は失せていない。

男は魔王すら慌てさせたその攻撃を、息も乱さず避けきってみせた。

 

魔王の子であるはずの彼女。

最も力のある者の一人に数えられていた。父である魔王を超えるほどの。

そんな彼女をもってしても傷つけられなかった。

相手はただ困ったように笑って、そして避けるだけ。攻撃すらしてこなかった。

まるで小さな子どもの相手をする大人のような、そんな戦いだった。

 

なぜか、マルにはこれらのことがわかった。

森の幻が教えてくれたのかもしれない。

 

最も得意とする、爆発魔法すらはね返えされ、その結果、彼女は彼の足元に無様に倒れている。

「立てますか?」

男は、殺意を持って攻撃してきた彼女に手をさしのべた。

屈辱感と恐怖を感じ、彼女はそれでも相手を睨みつける。

立つだけの体力すらも残っていないのに、彼女の瞳は今尚、ギラギラと輝いていた。

傷ついた獣のようで、それでいて、命の光に満ちている。

 

「お前は何者だ?」

 

「私ですか?私はタクス。タクス・キョウ・トウゲン。え〜っと、一応賢者と呼ばれる職についてます。偉そうな名前をいただいちゃって、私としま
しては困りものなのですよ。ああ、それはどうでもいいことですね。う〜ん、まあ、ええっと。研究好きだから学者とも名乗れるんですよ。ん〜それで、出身が召喚の村でもあるんで召喚士とも。ま、まあ、ひっくるめて仙人ってとこですかねぇ〜」

 

タクス!?

この人が、タクス・・・。

 

少し伸びぎみ白髪、髪質が柔らかいためか、風になびいて色々な方向に向いている。

少したれ気味の青い瞳、それは優しそうで穏やかな目。

口元にも、笑みを浮かべている。

 

仙人のとぼけた物言いに少女はしばし呆れたような表情を浮かべる。

そんな彼女に仙人、タクスは、悪びれた様子もなくにっこりと笑いかける。

一見、白髪のせいか、年老いて見えるが、その顔や声は意外に若い。

睨みつける彼女の視線に答える目は、澄みきっている。そう、まるで少年のように。

 

「私をどうするつもりだ?」

 

「どうするって言われましてもねぇ」

タクスは本当に困ったというように眉間にしわをよせた。

「そもそもこの森、幻の森は私が気楽な隠居生活を送るために作り上げた場所なんですよ〜。"悪魔がえり"も解かれたことだし、のんびり余生を過ごそうと思ったんですけどね。そこによもやまさか、魔王の子であるあなたが現れるとは思いませんでしたよ、ハッハッハ〜」

笑いごとではないのに、タクスは豪快に笑っていた。

「なぜ知っている?」

「はい?ああ、あなたが魔王の子だってことですか?有名じゃないですか♪」

 

そう。

ヴァースに来てから“パパ”の城での日々。

彼女の力は“パパ”やドラドが求めてやまないものだった。

魔物たちの訓練を任され、いつしかその力の噂は、一部のヴァース人にさえ伝わった。

“恐ろしい魔王の子”の話が。

 

「そういえば、あなたはどうして、ずぅぅっとヒトとしての姿を保っていらっしゃるのですか?」

タスクにとってはなんら意味を含んだ質問ではない。ただ素朴な疑問として聞いたのだ。

クラウスも言っていた。

 

ヴァースに来たデスの民はなぜかみな、魔物化し、残酷さを増す。と。

 

しかし、彼女は今も美しい黒い少女の姿を保ったままだ。

ばっさりと思いきりよく斬られた、短い黒髪。それは“ママ”と同様美しく輝く。

 

そうか、彼女がロナなんだ・・・。

 

マルは呆然と彼女を見た。

 

背中の翼や異常にとがった耳、つりあがった紅い目。ヴァース人とは明かに違う姿。

その表情は気高く、それでいて弱々しい。彼女は何か、寂しそうな空気を持っていた。

 

仙人の発した素朴な疑問こそ、少女にとっては大きな意味を持つ質問。

 

「我々とて、あんな姿に好んでなるわけではない」

「へ?」

タクスは間の抜けた声で聞き返した。

「デスでは、あの姿になるのは、本当に力が必要なときだけだ」

タクスは何かを考えているようだ。しきりに顎をさする。

「なのに、こっちでは、みなあの姿が当然といわんばかりになる」

「何かに、理性を狂わされているのですかね?」

「・・・そうかもしれない。我々はヴァースへの道を“滅びの穴”と呼んでいた」

「“滅びの穴”・・・それがデスの方々を狂わせる原因ですね。おそらく」

「私も、ひどく頭が痛む。この痛みから開放されたとき、私も魔物となるのだろう」

なげやりに言って、少女はうつむいた。

彼女の不安がマルにもじかに伝わってきた。タクスにも伝わっていたのだろうか。

無意識に傷ついた腕をさする。

もとより黒っぽい肌。そこから流れる血は青く、彼女がヴァースの民でないことをはっきりと表していた。

 

「・・・・・・あなたはどうやってヴァースに?」

「父を追って、自ら“滅びの穴”に飛びこんだ。その際浄化の魔法を使い、この盾をつかったのだが・・・無駄だったようだな」

左手の盾を見せる。盾は鏡のように磨かれ、魔法をはね返す力を持つようだ。

少女は口惜しさに唇を噛み締めた。今もずきずきと頭が痛む。

 

反対にタクスの口には人の悪そうな笑みが浮かんでいた。

 

「これはいい。決めました!!!」

 

「は?」

突然の宣言に魔の国の王女は、その威厳をひっこめたような、間の抜けた返事をした。

「あなたも、ここで暮らしましょう!!!」

「それは捕虜として、ということ・・・か?」

「いえいえ!!」

慌ててタクスは首を振る。

「あなたの話を聞いていたら、なんだかその、“滅びの穴”に裏があるような気がしてきました」 

 

“滅びの穴”に裏?

マルと少女の考えが重なった。

 

「その研究をするためにも、あなたの協力が必要なんです!!」

タクスの言葉に少女は無言になった。

確かにこの仙人と自称する男、実力は相当なものだ。だが、ヴァース人を信じていいのか?

 

「フッフッフ。私の手にかかればそんな謎ぐらいあっという間に解いて見せますよ♪いやあ、クラウスはなんだかんだ言っても、異質なデス人ですしね〜。ついでに、研究対象にはなってくれそうもなかったし〜、なんて言ってるとマッドサイエンティストみたいですね、私、クァックァックァ」

タクスの笑い方がマッドサイエンティストと化している。

 

こんな得体の知れない男と一緒にいて、私は安心して暮らせるのか。

少女は別の意味で不安になったようだった。

 

「・・・・ところで、あなたのお名前は?」

 

バッと顔を上げる。タクスの青い目が少女の紅い目をしっかりと捕らえている。

呆れるほどののんびりした口調、ふざけたような物言い。

しかしその目は何かしら、真剣なものを含んでいた。沈黙とともに二人は見つめあう。

 

風が森の木々を揺らし、少女の闇夜より暗い髪をも揺らす。

見つめあうというよりも睨み合う、その間の静寂。

 

 

“パパ”はもういない・・・。

 

 

魔王の名。

 

 

ヴァース人は知らない。

デス人も、その名を恐れて、呼ぶことはない。

だが、彼女は知っている。

 

 

魔王の名。

 

 

“パパ”はいない・・・。

だから、私が"パパ"の名前を継がなくちゃ。

 

 

この人、魔王の名を継ぐつもりなんだ・・・。

でも、それは王になるためじゃない。

マルは幻の中の彼女の気持ちに驚いていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・ロンガルフ。ロンガルフ・ノン・オンリエド」

 

目をそらし、ぼそりと言ったその答えに、時が再び動き出した。

 

 

「ロンガルフさんですか。長いですねぇ」

そう言ったタクスの声に、さきほどの真剣さは見られない。

「うん。決めました。ロンガルフさん。略してロナさん!よろしくお願いしますね?」

全然、略になってないじゃん!!

マルとロナの心のツッコミが重なる。

 

「さて。じゃ、行きますよ」

「行く?どこへ・・・・・」

「あ、そうそう」

質問には答えずに、タクスは振りかえる。

 

「あなた、その口調疲れませんか?無理しなくてもいいですよ」

 

「うっ・・・」

思わず後ずさる。

ばれていた。王女風の口調を心がけていたのに。

そんな思いがマルにも伝わってきた。

 

にっこり笑うタクスに、食えない相手と出会ってしまったものだ、と、この時ロナは悟ったようだった。

 

「じゃ、行きましょうか♪」

 


タクスの部屋!!

サッサ「ち―ッ!!あいつまだ、あっち(本編)から帰ってこねーのかよッ!!」

サティ「まあまあ。私たちしばらくあっちで出番ないから、ここのセットの修理、頼まれたんじゃないの」

サッサ「・・・って、力仕事は全部オレかよッ!!」

サティ「あら、私は設計頼まれたんですもの♪」

サッサ「く・・・・くぅー(泣)」

サティ「けど、また“て○この部屋”風じゃつまらないわね」

サッサ「(ニヤリ)おぅ、それならコレ、どーだ?」

サティ「ふーん。確かにお花はあるし、ゲストが座る場所もあるわね(ニヤリ)」

サッサ「じゃ、早速、そういう方向で行くぜ(ニヤリ)」

ガターンゴトーンと、セットづくりが進む。

サティ「ついでだから、こんどから、このサングラス、してもらおうかしら。タクスさんに」

サッサ「カツラはできねぇなあ、あいつ(笑)(←カツラなのかっ!?)」

サティ「ああ、タクスさんのあの頭、すでにカツラだからね〜」

サッサ「!!!?(な、何ーっ!!)」

サティ「いやあね、嘘よ嘘」

サッサ「さてっ、完成だぜッ!!」

“笑っていい○も”風セット、完成。

サッサ「フーッ!!見事だなッ!!」

サティ「そうね♪華やかさが出て、よかったわ♪」

サッサ「脱徹○の部屋ッ!」

サティ「・・・でも、ココであの人、寝起きするのかしら」

サッサ「・・・・さん○のまんまにしときゃ良かったな」

サティ「!?(←今、気がついた)・・・・さて、次回は第十八話『勇者の子孫と魔王の子』ヒロインがとうとう登場よ!!

サッサ「なんだよ、今の間」

サティ「・・・って、私はヒロインじゃないのねー!」

サッサ「ま、まあ、鞭装備だし(汗)(・・・で、あの間は何なんだ――ッ!?)」


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