Birth0Death
第十六話 キマイラ
「まいったゼ、迷子だゼ、どうするよ、僕ーーッ!!」
サッサ化しても迷子は迷子。ひとり叫ぶ青年、マル。
彼は今、とことん迷子中。
真っ白だった霧はいつのまにやら見事に晴れている。
「セカイジュはどこなんだーージュカってどこなんだーーーってか、クラウス、どこいったんだ――ッ!!!」
マルの叫びは幻の森に飲み込まれて、消えていく。
不安だ。はてしなく。
だが、なぜかしら少しだけ、懐かしいようなそんな気もしていた。
「・・・ああ、三時間動かず待とうかな・・・」
ふっ、と足をとめ、ぼーーっとする。
三時間なんてあっという間。
“悪魔の扉”はまた次の機会に・・・。
「・・・な〜んてわけにもいかない、か」
ははは、と一人弱々しく笑う。
しんっと静まり返る森に、マルはごくりと唾を飲みこんだ。
「マルっ!?マル!!!?」
その頃。
クラウスはさすがに顔色を変えてマルを探していた。
セカイジュの場所は近い。近いというのに、肝心のマルがいない。
「マルっ!!」
マルマルマルマル言っていたら、まるで、犬でも呼んでいるかのような気分になってきたのは内緒だ。
がさがさと、音をたててクラウスは羊歯の群生を越えて、少し高くなっている場所へ向う。
「・・・ついていないな」
そこはビンゴで、ヴァースでは、とくに狂暴な魔物、キングアナコンダの巣だった。
しかもばっちり臨戦体制。
長く巨大なぬめった体をおこし、長い舌がチロチロ揺れる。
ヘビ科の魔物が鋭い赤い目で睨みつけていた。
そう、この森にも魔物が住みついていたのだ。タクスがいた頃はいなかったというのに。
しかも、デスの者でなくヴァースの者。
おそらく、ロナを魔王にせんとした者の仕業だろう。デスで、ロナを救い出す者がないようにおかれた魔物。
クラウスはあの弓矢を引いて、静かに狙いを定めた。
一方、マルも必死の形相で後ずさっていた。
こちらは野獣の中でも、もっとも狂暴だといわれている、キマイラが目の前にいるのだ。
キマイラは自然に生息するものではなく、ヴァースに住まう数々の魔物や野獣を賭け合わせて造られた、人工の魔物だ。
「く、来るなああアッ!!」
ひっくり返った裏声。その声が微妙にララの声に似ている。
マルは自分が随分と高音を出せることを知った。
いわゆる一つの大発見。
などといっている場合ではない。
勢いをつけてキマイラが向ってきた。
キマイラはその巨大な鋭い爪で、マルの肩をひっかく。
「うわっ・・・!!!」
キマイラにとってはひっかく程度でも、マルにとっては引き裂かれたのと同じこと。
吹っ飛ばされて、巨木の根に腰をうちつけた。
引き裂かれた肩からは、血が吹き出る。
「ううっ・・・」
キマイラはまるでからかっているかのように、そして、遊んでいるかのように、ゆっくりと近づいてくる。
このままではやられる。
ふっ、とマルは頭の中が冷えていくのを感じた。
死を覚悟したのではない。
逆に、いつになく、冷静になっていく。
自分の得意なことをすればいいんだ。
無意識のうちにマルは、水晶を握り締めていた。
落ちついて、目を閉じる。
キマイラは突然目を閉じた獲物に、きょとんとした表情を見せた。
一時、沈黙が流れる。
動かないマルにキマイラは鋭い歯をみせて、食らいつこうとした。
そのとき。
輝く砂が辺りを包む。キマイラのまぶたにも、その砂がまかれる。
ふらっ、とよろけた魔物は、静かに寝息を立て始めた。
「・・・・・・・・・ふーっ」
目を開けてみると、キマイラが寝ている。
「僕ってもしかして、サンドマン?」
どうやら助かったようだ。
魔物を起さないようにそうっ、とその場を立ち去る。
「あっぶなかった〜」
マルは必死に歩きはじめた。
いっこうにセカイジュらしき木は見えてこない。
肩の傷もじんじん痛む。
マントを丁寧にちょこっと切り裂き、一応止血はした。
が、まだ痛い。
「このまま、歩いてもなぁ・・・まいったな、占ってみようか・・・・」
辺りに細心の注意を払ってみる。
魔物の気配はない。
程よく、小さな岩がある。その岩に腰を下ろして、マルは水晶をのぞき込んだ。
「・・・見えるかな〜」
水晶にぼんやりと、映像がうつしだされる。
「あっ、なんだこれっ!!!やばっ!!!」
マルの焦りは遅すぎた。
いつもと違い、水晶には奇妙な渦があらわれている。
まるで、郵便配達の転送を行うときのように。
水晶に心だけがすいこまれて行く。
マルの意識は、水晶玉に映し出された時間へと、移動していった。
タクスの部屋!!
マル「え〜っと、すごいことになってるな・・・こっち」
青空版タクスの部屋はじまりはじまり〜(笑)
タクス「あああ〜っ、血まみれマルくん、いらっしゃい♪」
マル「うんーっ、血が足りないんだよ〜。痛くて痛くてしかたがない〜(T_T)」
タクス「聞いてませんから♪ついでに、こっちでも、そのままいてくださいね〜♪次回の本編で治られても困りますから♪」
マル「(オ・・・オニや。この人オニや・・・・しかもウレシそう)」
タクス「いやあ、主人公なんてやるもんじゃありませんね〜♪痛そう♪いや〜私もね、治せるのですけれどね〜♪治すわけにはいきませんからね〜♪」
マル「せめてここにいる間ぐらい治してくれても・・・・」
タクス「ああ、本編に帰るときにもう一度怪我をしてもらう、と。それでもいいですけれど(包丁装備でニヤリ)」
マル「・・・・・・・・いや、いいです。(怪我、倍にされそう・・・いや、下手すると、こ、殺されそうだ・・・)」
タクス「と・こ・ろ・で。次回の題、見ました?」
マル「え、どうしたんだい??」
タクス「ほ〜ら♪」
マル、原稿を見る。
マル「・・・げ。なんだよ、これ」
タクス「フフフ♪主人公たるマルくんがなせなかったことを、この私がなしましたっ、みなさんっ!!」
マル「みなさんってダレだよ」
タクス「やはり、この物語の影の主人公はこの私、タクス・キョウ・トウゲンなのですねっ!!」
マル「ある意味そ〜かも(泣)」
そうこうしてる間にタクス、早着替え(笑)
タクス「とうとうきました。この私、優美で華麗な眉目秀麗な仙人っ、タクス・キョウ・トウゲンの本編正式デビュー!!」
マル「次回、タクスさんがほんっのちょこっとだけ登場。第17話『ロナとタクス』・・・・ふっ」
タクス「・・・・マルくん、原稿はちゃんと読んでください」
マル「やだ」
タクス「・・・・・おひ(^_^;)」