Birth0Death
第一五話 過去の幻
「す、すごい・・・」
半ば呆然と、てっぺんの見えない巨木を見上げて、マルはつぶやいた。
原初の森とは、こういうものかもしれない。
朝だというのに暗い。木々が光りを遮っているのだ。
地面は深い緑に覆われている。苔むし、ところどころ羊歯が垂れ下がる。
見たこともない花々が赤に、青に仄かに輝き、ところどころで色を添える。
ここだけ、まるで別世界である。実際その通りなのだが。
この森の長たる、セカイジュへ向けて、マルとクラウスは歩き始めた。
幻の森とともに呼び出された霧は、徐々にその濃さを濃くしていった。
無言で歩くマルとクラウス。
彼らは、草を踏み分け進む。その足音だけが、しばらく続いた。
と。
ふいにマルたちの足音とは別の音が聞こえてきた。
何かに抗う、子どもの声。
ぼんやりと、黒いシルエットが霧の中に浮かぶ。
「やだ、やだっ、怖いよ」
女の子の声だ。
「どうした、マル?」
ふいに立ち止まったマルに、クラウスは振りかえった。
クラウスの目にうつるマルは、今にも倒れそうなほどに青い。
「マルッ!?」
「・・・・・・だれかが・・・よんでる・・・・・・」
「マルっ!!!!!?」
「うわぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!!」
静かな森にマルの絶叫が響き渡った。
☆ ☆ ☆
「いってくる」
「あなた、どうしても行くの?」
パパの背中を追って、ママが心配そうに声をかける。
・・・パパ?ママ?
マルは自分の中に誰かの精神が入って来ることに気がついた。
ここは、城だ。
昔住んでいたライン城のように明るい城とは違い、厳格で重々しい雰囲気の城。
目線が低いため、窓から外の景色は見えない。ただ、どんよりと暗い空だけが見える。
「この地を守るのが王の仕事。不振なものには私が立ち向かおう」
精悍な戦士、いや"パパ"が、赤いマントを翻し、去っていく。
その背中を心配そうに追う"ママ"の黒い美しい髪だけが、妙に輝いて見えた。
目の前の映像が揺れて、消えていく。
「ママッ、ママッ!!」
吹き飛ばされた“ママ”に駆け寄る。
「いったいどうしたというの、あなた!?」
「この力、この力だ・・・・」
巨大で醜い魔物。赤いマントだけが、あのときと同じ。
パパじゃない。この魔物はパパじゃない。
・・・・違う。この人いや、この魔物が、さっきの赤いマントの"パパ"だ。
マルはそうつぶやいた。
映像が揺らぎ、変化していく。
「ドラド、頼むわね」
「はっ、わかりました」
逞しい背中。こころなしか、クラウスに似ている。
また揺らぎがはじまる。
「彼まで魔物化したなんて・・・」
頭をかかえる“ママ”。あの美しい髪ももう、くすんでいる。
窓の外はやはり暗い空。
一体なんだこの頭に入ってくるイメージは?
マルの疑問に答えてくれる者はいない。
「ママ、私、行ってくる。パパを助けに行く」
「だめよ、危険だわっ」
「大丈夫。私も強いから!!」
「なら、これを・・・」
揺らぐ。
なんて、なんていやな空気なんだ!!?
マルは感じた。誰かの経験。
すべてを捻じ曲げる、淀んだ、霧の気配を。
「いや、いやっ!!苦しいっ」
マルの中の“誰か”はとっさに盾で顔を守った。
――壊せ
「いやっ!!」
――すべて壊せ
映像の揺らぎ。
「ルドルドルドルドうるせーーっ!!」
パパッ!!
あれは、兄さんッ!?
魔王に向っていく兄の姿が、“誰か”の視界を通して見える。
揺らぎが激しくなっていく。
魔王が傷だらけで倒れている。ぴくりとも動かない。
赤いマントも、ボロボロだ。
「許さない。お前を」
――壊せ
視界が涙で曇る。
「――ッ!!な、なんて力だ」
「この子の力こそ、魔王・・・!!」
だめだっ、兄さんを殺すなッ!!
“誰か”に向って、マルは必死で呼びかけた。
「クッ・・・・!!!」
苦しい。頭が痛い。
バッツはその隙に剣を振りかざす。
――斬られた。
マルにもその衝撃が伝わる。
「・・・・生きてくれ、我が娘よ・・・・・・・」
ふいに、魔王の魔法が“誰か”の体に駆け巡った。
目を開けた"誰か"が見たのは、星空だった。
「・・・・ここは・・・・、あのヴァースたちは、どこに・・・・」
魔王の城から遠く離れた草原。
朝日の向こうに、巨大な木が見える。
体中が痛む。マルにもその痛みが伝わってくる。
再び揺らぐ。
「誰ですか?あなたは?」
穏やかな声。ここは森・・・?
幻の森。
声の主の、顔は見えない。
「!!くるなっ!!」
“誰か”は“彼”を恐れていた。
近づいてくる、“彼”を。
「おい、マル!?」
揺さぶられて目が覚めた。
「な、なんだったんだ・・・・今の・・・・」
マルは頭を振って、意識を戻した。
さきほど、頭に入ってきたイメージはいつもの占いと同じような感じのもの。
だが、それよりもずっとずっと濃いものだった。
「どうしたんだ、マル?」
クラウスの声に、マルはただうなずく。
「先へ、行こう」
森に漂う霧はその濃さをいよいよ増していく。
ほんのちょっと前を歩いているはずのクラウスの姿すらかき消すぐらいに。
「なんかさ、夢みてたんだ」
「夢だと?」
話している間にも霧は濃くなっていく。
「さっきさ。魔王も見た。ドラド将軍も」
「父上まで?」
「黒髪の“ママ”にも会った」
水気が髪を濡らすほどに充満している。
「お前、母親のことママと呼んでいたのか?」
ちょっと冷たい視線を受けた気がした。
「うっ。まあ、でも僕の母じゃなくって、“誰か”のお母さんさ」
「“誰か”?誰だ?」
「たぶん、ロナさんだと思う。ロナさんの見た、経験したできごとが、この森の幻にとけ込んでいるんだ、と思う」
マルの勝手な解釈ではあるが、間違えはないだろう、という自信があった。
「また、もしかしたらそういうものがあるのかも。僕はたぶん、そういうのを、拾っちゃうんだ」
クラウスからの返事はない。
「?あれ?クラウス??」
一寸先は真っ白。
「・・・ま、さ、か♪」
歌っても無駄である。マルは見事、迷子になった。
タクスの部屋!!
タクス「ああ〜、なんという出番・・・(T_T)これじゃ、出たかどうかもわからな〜い(T_T)」
魔王「よいではないか、私なぞ、赤マント装備なのだぞっ!!」
タクス「ああ、あなたは“パパ”さんこと、前魔王さんっ!」
ドラド将軍「わしもいるぞ」
タクス「ああ〜、クラウスのパパさんまでっ!!」
ドラド将軍「ドラド将軍とよんでくれたまえ」
タクス「(長い名前だなぁ・・・←怖くて言えない)あなた方は故人なのですよね〜、デスの方ですし・・・(甦る、セミの悲劇←第六話、タクスの部屋参照)」
魔王「今は魔物化しとらんぞ」
タクス「(・・・今は?今はって、何―っ!!)ま、まあ折角いらしたのですから、なんぞお話していってください」
魔王「随分となげやりではないかね?」
ドラド将軍「所詮わしらは一回きりだとでも言うのではないか?」
魔王「ぬわにっ!!そうなのかっ!?お前は・・・(怒)」
タクス「ギャー!!半分魔物化しないで下さい〜ッ。ってか、あなたが魔物化したら、ホントにシャレになりません〜(T_T)(魔王だしっ)」
魔王「お前、この私を侮辱するのかっ!!」
タクス「だああー!違いますよぅ〜。ああ、私は命の危機にさらされているのでしょうかっ!」
魔王「フン。冗談だ」
タクス「(び、びっくりした〜)あの〜、魔王様、将軍様?」
ドラド将軍「なんだ?」
タクス「今回の本編出演のご感想でも・・・」
魔王&ドラド将軍「「やはり王妃は美しいっ!!」」
タクス「おお〜、見事なハモりですね」
魔王&ドラド将軍「!!!?」
魔王「将軍よ、貴様、どういうつもりだっ!!お前のごときがわが王妃の美しさを評するとはっ!」
ドラド将軍「お言葉ですが我が王よ、王の留守中に王妃をお支えしたわしにも、王妃を褒め称える資格はありまするっ!!」
魔王「なにーっ!!王妃は我が妻なのだぞっ!」
ドラド将軍「その大切な方をほっぽいて、単身赴任なんぞした王に、王妃様を語る資格はございませぬっ!」
タクス「(・・・・・・・いやなよ・か・ん♪)」
魔王「な、な・・なにをーっ!!グォー―ッ!!!!!」
魔物化魔王、君臨!!
魔王の咆哮がタクスの部屋に響き渡る。
ドラド将軍「王、王よ、我が思いを押さえることなぞできませぬ―っ!!ガォー――ッ!!!!!!」
魔物軍総司令官、ドラド将軍、君臨ッ!!
タクス「ああ〜セットが壊されていく〜(T_T)・・・・次回、第十六話「キマイラ」マルくんが活躍するそ〜ですよ〜。お楽しみに〜、ぎゃ、ぎゃああああ」
「ごぉわッ―――!!!」
「がぉわッ―――!!!」