Birth0Death

第一三話 離散のあと


 

その頃。

 

「・・・・・で?ここはどこなんだ〜ッ!!!」

マルは叫んでいた。

 

クラウスに右手首をつかまれて、眩しい白い光に覆われて。

目を開けるとだだっぴろい草原にいた。

 

「もしかして、ここってエンディッド平原ちゃうの?」

「え・・・あっさりついたのかい?・・・ってか、ララってば、テレポートできたのか?はじめからそれで行けば良かったのに〜」

マルの口調は現実逃避ぎみである。

「それは無理や。うち・・・・・・力、使いすぎ・・・・・・」

突然羽の動きを止めてララが落下する。慌ててクラウスはその手にララをキャッチしていた。

「すまない・・・また・・・」

「・・・・ええよ。ごめん、うち、ちょっと・・・・寝るわ」

クラウスの手の上で、ララはじょじょに意識を失っていった。

どうやら彼女の魔力を超えた魔法を使ったようだ。

テレポートといえば人の命石を一つまるまる犠牲にして、ようやくできるぐらい強力な魔法だ。

それをララは命石なしで行ったのだから、負担は恐ろしく大きかった。

 

「・・・ララもデスなのか?」

「ララは召喚士。デスとヴァースの混血だそうだ」

そう、彼女は召喚士。

だからこそ、命石なしで魔法を使える。いや、厳密には己の命を削り、命石がわりにしている。

だからだろうか、召喚士の一族は逆に、長寿なのだ。

「だそうだ…って」

「俺も詳しくは聞いていない。火、熾すぞ」

「え?あ、ああ」

 

マルは慌てて枯葉を集め始めた。

クラウスは片手で器用に、茶色のマントを脱ぐと、眠るララをそっとそれで包みこんだ。

そして、彼も枯葉のまわりの草を取り除き、焚き火の準備をはじめた。

 

☆   ☆   ☆

 

焚き火の準備を終えた頃には、辺りはすっかり暗闇になっていた。

すでに、ここは沈黙に包まれている。

スジからだいぶ遠いのだろう。街の気配すら感じない。

やがて、熾した焚き火が、徐々に勢いを増していく。

 

 

ぱちぱちと、ぱちぱちと、まわりの静けさとは無関係に炎は燃える。

 

 

「・・・・サティもサッサも、なんであんな風になったんだ?」

 

炎を見つめながらマルはつぶやく。

 

「オレはデスだからな」

 

クラウスも火を見つめたまま微動だにしない。赤い炎が彼の顔を照らしていた。

 

「デスって言ってもクラウスのさ、空気は淀んでいないじゃないか」

「淀む?」

ちらりと、彼の目がマルを見据えた。

「あのボーダーの悪魔の空気は淀んでいた。・・・・・・・・・・・・・・・さっきのサッサも」

淀み。そうあの濁った空気は淀んでいた。

「空気・・・そうか、オーラみたいなものが見えるんだな、お前」

「オーラ、ね。まあ、似たようなもんかなあ。人の未来とか、その人の空気とか見えるんだ」

マルは静かにうなずいた。

そう。

マルはクラウスをデスとか、そういう意味では恐れてはいない。

いうなれば、ラインで待つ、職場のボス、カリンを恐れるようなノリでクラウスを恐れていただけだ。

ボーダーの悪魔に感じた恐怖などは、クラウスに感じる必要はないと確信している。

例え、彼がデスであっても。

 

それなのに。

 

再び訪れた沈黙の中、マルは一人、頭を振った。

何かを打ち消すように。

 

 

「お前でも、勇者の血が見られるんだな」

 

ふいに、クラウスは言う。そして、ふっ、とため息をついた。

マントに包まって眠るララを起さない様に、そっと膝の上に置く。マントごと。

「占いだけ、だから勇者にはなれそうもないけど、ね」

「勇者になれなくとも構うまい?」

「まあね・・・クラウスもそうだろ?親父さんが将軍でも、“出来損ない”の自分には関係ない?」

「まあな」

ふっ、と場の空気が和んだ。そんな場合ではないのに。

 

炎は燃え続ける。ときに強く、ときに弱く。

マル、クラウス、そしてララに熱を与えながら。

火の安らぎを与えながら。

 

「な、“悪魔の扉”の向こうには、何があるんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

マルの疑問にクラウスはしばし沈黙する。

 

 

「・・・・・・ロナがいる」

ようやく来た答え。

「ロナ?」

 

 

「ああ、ロナ。魔王の子」

 

 

「何ーーーッ!!」

サッサなみの叫びが響く。

 

「静かに。ララが起きる」

クラウスに睨まれて慌てて口をつぐむ。

「おいおいおいおい。やっぱり魔王なのかよッ!?」

思わずサッサ化が進むマルである。

「だが、彼女もまだ狂ってはいないらしい」

「狂う?」

「おかしいんだ。デス人はヴァースに来ると狂う。魔物化を平気でするようになる」

「え?普通はしないのか?」

 

デス人は魔物化を極端に嫌う。

好んで醜い姿になりたがる者がいるだろうか。

デスでもヴァースでも美的感覚は同じである。

それに。

あの力はヴァースにおける命石。

それ以上に必殺技扱いなのだ。

 

そんな話をマルはクラウスから聞いた。

クラウスの話を落ちついて聞けるヴァース人はマルしかいないかもしれない。

 

「セミもそうだ。こっちへ来る前は残酷なところなど、少しもなかったのに・・・・」

仲の良かった乳母兄弟の姿が目に浮かぶ。クラウスはうつむいた。

ララは使った力がよっぽど負担となったのだろう、いっこうに目覚める気配がない。

「セミ・・・あのボーダーの悪魔・・・あの竜のことだよな?」

「あれは魔物化の姿だ」

 

「なんでクラウスは平気なんだ?」

マルの何気ない質問は、クラウスに暗い影を落とした。

「・・・・・・・・・クラウス?」

 

 

「・・・・・・・・なかった。俺には生まれつき、魔物の姿がなかった」

「それで“出来損ない”だったのか」

クラウスは無言でうなずいた。

 

「ロナも今は魔物化していない。彼女には魔物化の姿があるはずだが、まだ、狂っていない」

「なんでだ?なんで、そのロナって子は平気だったんだ?」

「それは、わからない。俺はそこまで親しかったわけじゃないから。ララの方がよく知ってるだろう。彼女が助けを求めてきたからな」

「へ?じゃあなんでクラウスまで、そんながんばって助けようとしてるんだ?」

クラウスは視線を炎に向けた。

 

「ララとタクスの頼みだ」

「タクス?」

「タクス・キョウ・トウゲン。幻の森をつくった仙人。二人がいなかったら俺はここにはいない」

「ジュカの仙人って人?」

「ああ。俺を拾ってくださった方だ。ララの知り合いでな」

 

 

クラウスは11年前、父、ドラド将軍とともにヴァースに来た。

ドラド将軍やその軍隊はヴァースに来た途端、狂ったという。情け容赦なく、ヴァースを破壊しだしたのだ。

その行動についていけなくなったクラウスは、軍を逃げ出した。

そんなクラウスをタクスが拾ったらしい。

「いろいろあったんだな、クラウスも」

 

「・・・まあな」

 

クラウスは今も覚えている。

逃亡したクラウスを追い詰めた兵士たち。

逃げ場はもうなかった。

魔物化した父が、兵士とともに現れ、目の前に立った。

 

―――出来損ないは殺せ!!―――

 

・・・・父の言葉だった。

殺される。

いや、殺された、と思った。

ララがいなかったら、確実に殺されていただろう。

今日のように、テレポートで、タクスのもとへ連れて行ってくれたのだ。

 

「・・・タクスか」

僕に、そのロナって子を託したのかもしれない。ふと、そんなとりとめのない考えがマルの頭に浮かんだ。

「ロナを“悪魔の扉”に封じたのはタクスだ」

「な、なんでだ?!」

「・・・・・・・・守りきれなかったんだそうだ。タクスも彼女を。ララだけが、どうにか逃げてきた」

「バッツ兄さんが魔王を倒した後だね?」

「ああ。」

 

 

訪れる沈黙。赤く輝く炎は、ゆらめきと熱を発し続ける。

 

 

「マルは・・・・マルは来てくれるのか?」

マルは深々と、息を吸いこみ、吐き出した。青い前髪が揺れる。

「開けるかどうか、わからないけど、ともかくその扉の前までは行くよ。ま、それに開けられるかどうかってのもあるけど」

マルは弱々しく笑う。

「勇者の血を引く者ならば、開けられるだろう」

 

はじまりはカリンの脅しだった。自分で旅立ちを決めたわけじゃない。

だが、今はクラウスやララを信じたい。

サッサやサティはあんな暗い目でクラウスや、ララの目的を拒絶した。

だがマルは、自分の見ている、いや、感じている淀まぬ空気、清い空気を信じようと決めたのだった。

 

「あとはララ次第、だな」

小さな召喚士は、眠り続けていた。安心しきったような、穏やかな表情を浮かべて。

「じゃあ、お前も、もう寝ろ」

「えっと・・・・」

「見張りは俺がやる」

クラウスは背負った弓矢を出してきて、手入れをはじめた。まだ、手には慣れていない、真新しい弓矢を。

「ああ、ありがとう」

マルはクラウスの眉間のしわには、やはりびびりながら、ちゃっかり眠りについた。

クラウスは難しい顔をしながら、一人もくもくと、弓矢の手入れを続けていた。

 

☆       ☆      ☆

 

 

「それは本当なのかッ!!?」

「サッサ、落ちついて」

サティは立ちあがったサッサの腕をひっぱって、どうにか落ちつかせた。

ここはあの宿屋の酒場。アクトクの言葉を信じた町の人々は、すでに解散していた。

「悪魔の扉の向こうには、魔王の子が潜んでいる?バッツ・・・勇者との戦いでついた傷を癒すために?」

「ああ、そうさ。タクスっていう仙人がそいつに荷担して、魔王の子をかくまったのさ〜」

アクトクはぐびぐびと、黒ビールを飲み干した。サティは難しい顔でその様子を見ている。

「なぜ、あなたがそんなことを知っているの?」

「・・・旅の大商人を甘く見てもらっちゃ困るね〜」

「おい、サティ、やばいじゃねぇかッ!!?マル、さらわれちまったしよッ!!」

「そうだな〜」

アクトクはジョッキの陰でニヤリと笑う。

 

「もしかしたら、魔王の子に操られて、正気じゃなくなってしまうかもな〜」

 

「なにッ!!!」

「落ちついて、サッサ!!」

またも、襟首をつかみかかり、サッサはサティにとめられた。

「アクトク、クラウスたちはエンディッド平原に向うはずよ。そこで幻の森を呼び出すってララが言っていた。あの子は召喚士だっていうから・・・」

「幻の森ねぇ。そっから出てきた魔王の子、ん〜次期魔王、その場で倒せば、マルくんを救えるんじゃないかな〜」

ま、魔王を倒すのは君たちには絶対無理だけどね。アクトクは心の中でつぶやいた。

「そうかッ!!!おい、お前もこいよッ!!!目指すはやっぱりエンディット平原だッ!!」

「わかったわかった」

サッサの言葉にアクトクは苦笑を浮かべていた。


タクスの部屋

マル「さて、タクスの部屋、はじまりはじまり〜・・・なんだけど……」

睨み合う、クラウスとタクス。

マル「前回からずーっと、この体制だったの?」

クラウス&タクス、こわばった体をマルに向け、うなずく。

マル「(うわーっ、こわいよ 汗)」

アクトク「なんだ、なさけね〜やつらだぜ」

マル「げ。あんたはアクトク・・・」

アクトク「は〜ははは♪本編では世話になったな!」

マル「いや、あんまり関わってないよ、ってか関わりたくないっていうか・・・」

タクス「ああっ!?波乱万丈のアクトクさんではありませんかッ!?クラウスのプロフィールなんぞより、よっぽどおもしろい

クラウス「(・・・なんぞっていわれた)」

アクトク「フッ。タクスさんよ〜、オレ様のプロフィールより、あんたのプロフィールの方が知りたいねぇ。オレは」

マル「あ〜そういえば、そうだよな〜。ようやく今回、本編に名前もあがったことだし」

タクス「おおっ、私としたことがッ!!そんな大事なことを忘れていましたっ!!」

タクス早着替え・・・・・・「いや、着替えなくっていいから」

マルに止められしぶしぶ戻る。

タクス「ま、どうせもうすぐ、私の大・活・躍ですし〜♪」

アクトク「(汗 ほ、星なんてとばしてやがる・・・)そこで今回はタクスさんのプロフィール紹介ってことでいいんじゃないか〜?」

クラウス「ああ。そうだな」

マル「うん、知りたいな、僕も」

アクトク「だろだろ〜♪」

タクス「!!!そ、そんな、ハズカシィーーーー!!!」

マル「おいこら、そんなに恥ずかしい資料なのか、それはっ!?」

タクス「うっ、そ、それは・・・」

アクトク「フフン。それは見れば分かるぜ♪ほれ」

タクス「だっ!?いつのまにー!!?」

アクトク「大商人アクトクさまをなめるな♪」

アクトク、手もとのプロフィールをちらりと見る。

アクトク「・・・・・・・・・・・・・・・・ブッ」

タクス「ぎゃ、ぎゃああああ・・・・み、みるなぁ〜」

マル「(アクトク、吹き出してる・・・吹き出してるよ!?)な、なあ、あれって、そんなにすごいのか?」

クラウス「・・・・・・ああ。それはもう」

アクトク「ほれほれ〜返してほしかったら取り返してみな〜♪」

タクス「ぎゃーっ、返してくださいよぅ〜(T_T)(T_T)(T_T)」

鬼ごっこ状態のタクス&アクトク。

クラウス「・・・ん?なんか飛んできたぞ?」

マル「どれどれ・・・カラオケの十八番・・・モーニング娘・・?こ、これタクスさんの・・・??」

クラウス「・・・・・・・・・・。」

マル「・・・・・・・・・・。」

マル「な、なあタクスって男だよな?」

クラウス「・・・ああ。見かけは若いがかなりの高齢な男性だ」

クラウス「・・・・・・・・・・・。」

マル「・・・・・・・・・・・。」

「・・・そろそろ次回予告いっとくか」

「・・・そうだね。次回は第14話「召喚のとき」本編ではとうとう幻の森にはいって、ジュカを目指します」

「ええいっ、炎の舞い!!!

「あらら。プロフィールが燃えちまった〜」


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