Birth0Death
第十話 サッサの理由
港町、スジ。
市場には魚介類や、外海から運ばれてくる珍しい品々が所狭しと並ぶ。
見たこともない文様の絨毯や、陶器。命石のアクセサリー。
"悪魔がえり"の爪痕も、今はもうほとんど見られない。
民家には、漁の網が乾かしてあったり、魚が乾してあったり。それだけでも珍しい。
町を行き来する人々も、多種多様。はなやかな衣裳を纏い、それぞれがそれぞれの目的に向かって歩いている。
「海がいいッ!!!」
サッサ少年の熱烈なる叫び。
「おいおい」
マルは苦笑いを浮かべながらツッコむ。
「海が見える宿ッ!!これっきゃないだろッ!!!」
マルのツッコミを気にする様子もなくサッサは熱弁を振るう。
「・・・・俺も、海がいい」
サッサの熱い要望とクラウスの静かなる要望で、宿は海岸のすぐそばの宿になってしまった。
エンディッド平原へ向うならもっと陸の近くの方がいいのに。
☆ ☆ ☆
「ふう」
ベッドに腰掛ける。布団がふわふわだ。
同室のサッサはすでに海に遊びに行ってしまった。サティとララはお買い物。二人は馬が合うのだろう妙に仲良しだ。
クラウスもどこかへふらりと出ていってしまった。今日もまた剣の稽古をしてもらおうかと思っていたのに。
ボーダーの“悪魔”と戦ってから、ほんのちょっと前向きになったマルだった。
ラインを出てから三日目。
たった三日だが、なんだか自分がほんの少しだけ逞しくなったような気になる。
マルはベッドに横になってしみじみと自分の手を見た。なんの変哲もない手。
これから。
エンディッド平原へ向って、幻の森に入って、悪魔の扉を開く。そこにとらわれのお姫様がいるらしい。
・・・・変な旅だ。
ここまで来るのにすでにおかしな旅をしている気もしないでもない。
「そういや、久々に占いでもしよっかな」
自分の手を見つめながらふいに、マルは思いついた。
かばんから水晶を取り出す。
何が見えるかな・・・・・・。
青い目が見える。
真剣に睨みつけてくる。ちょっと涙目になっていて。
険しい表情。
青い目と対称的な赤いペンダント。
握り締めて、炎を呼び起こす。
「サ、サッサ!!?」
ふいに水晶からイメージが消えた。
サッサが自分に向って魔法を?
あれはふざけて、って雰囲気じゃなかった。
悲壮感の漂う顔で、そう、殺そうとしていた。
誰を?
僕を?いや、まさか。
マルは今見た占いの像を消そうとするように、首を振って立ち上がった。
きっと気のせい。
あのサッサがそんなことをするはずがない。うんうん。
マルは自分を納得させた。無理やり。
「ああ〜もうっ、海だな、海ッ!!!」
サッサのごとくにひとり叫んで、マルは部屋を飛び出した。
☆ ☆ ☆
宿を出るとほんの少し歩けば、すぐに浜辺に出る。
「お、マルッ!!!テメェも来たかッ!!!!」
「げ・・・・サッサ」
水晶玉で見たあの瞳の面影は全くない。
潔いほどの真剣な青い目だ。
「海はいいよなッ!!」
「・・・まあねぇ」
はじめて見たのだから、どう言っていいのやら。
青い海が広がっている。水平線は空と混じり、どこまでも続く。
「海はな、夢を叶える力があるんだってよッ!!!」
そういうと、水平線に向ってサッサが叫び出した。
「勇者になりたい勇者になりたい勇者になりたーいッ!!!!」
ただでさえ、声の大きいサッサ。そのサッサの絶叫に、宿から泊り客が何事かと、のぞいている。
「わわ、や、やめろよ恥ずかしい」
「んだよ、お前もやってみろよッ?!」
嬉しそうに、サッサは笑う。マルは、誤魔化し笑いを浮かべる。
「だいたい、なんでそんなに勇者になりたいんだ?」
また夢を叫ばれちゃかなわない。こう思ったマルはサッサの興味を余所にやるべく、聞いてみた。
「・・・・・・・オレが勇者になりたいワケ、か」
ふいに表情に翳りを浮かべる。サッサは無言で浜辺を歩き始めた。しかたなくマルもついて行く。
なぜか二人で浜辺を歩く。
ちょっと虚しい。それとは関係なく、サッサにいつもの元気がない。
何かを考えているふうで、表情が暗い。
「さ、サッサ、僕なにか、悪いこと聞いた?」
謝ろうかと思ったところへサッサが真剣な表情で振りかえった。
「この命石、誰だと思う?」
サッサは首から下げていたペンダントをにぎりしめた。関節が白く浮き出るほど強く強く。
いつも戦うときに使っているあの、紅い命石のペンダントだ。
わからない。
マルは無言で首を振る。
今のサッサにはその答えはどちらでもよかったのかもしれない。再び、浜辺を歩き出した。
「オレさ、妹、いたんだ」
「妹?」
「ああ。マルがまだ城にいた頃は、な」
マルが城にいた頃・・・。
マルはその頃の城下のことをほとんど何も知らない。当時ですら何も知らなかった。
いや、当時の城のことさえ覚えていないのだから、当然といえば当然である。
「2つ違いの妹でさ。いっつもお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってさ」
いつもうるさいほどに明るいサッサの表情に翳りが浮かんだまんまだ。
「よく、勇者ごっこしてさ。あいつはお姫様やってさ。オレは勇者で」
サッサはふっ、と寂しそうな、それでいて、大人びた表情をみせた。
「不謹慎だけどさ、よく勇者ルドのお墓で遊んでた」
あの場所はキレイな花が沢山咲くもんな。
マルは声に出さずにうなずく。
「あの日、なんだってあんな所に行ったんだろうな、オレたち」
ぼそりとつぶやく。
「え?」
思わずマルは聞き返した。
「死んだんだよ。殺されたんだ。魔物に。勇者ルドの墓の前だっていうのに!!」
ぶつけるようにサッサは言った。――魔王の軍のライン侵攻。それがあったからこそ、マルの父母も結界となって町を守ったのだ。――
ここにも、その被害者がいた。
「だから・・・」
「ああ。そのとき、この命石を手に入れた。この命石のおかげで、オレの命は助かったんだ」
ふいに足をとめたサッサは、うつむいたまま、彼らしくない皮肉な口調で言った。
風がひとすじ吹き過ぎていく。
「守れなかった妹のためにもオレは勇者になろうと決めたんだ」
「そっか・・・・・」
こんな近くにも“悪魔がえり”の傷跡があった。それは目に見えない傷だけれど。ずっと、サッサの背負っていたもの。
マルには何も言うことなんて、できなかった。
何を言っていいのかわからない。
「サッサはさ、十分勇者だよ」
「だといいんだけどな」
ふいに見せた笑顔が、マルには妙に大人っぽく感じられた。
魔王のライン侵攻をマルは、知らない。
覚えていない。記憶がない。そう言ったら、サッサは驚くだろうか。
あのとき、僕はどこにいたんだろう。
父さんと母さんの背中は覚えてる。見送ったんだ。
だけど、それだけ。
二人はそれぞれ、自分の考え事にひたりながら、浜辺を歩いた。
二人が歩くたび、浜辺の砂がきゅっ、きゅっ、と鳴っていた。
☆ ☆ ☆
しばらくして……。
「??見ろよ、あれッ!!!」
「ん?」
マルはサッサに言われて、岩壁の方を見上げた。
サッサが指した先にはクラウスが佇んでいる。
「何やってんだろ?あんな岩場の先端で」
「行ってみようぜッ!!!」
マルもちょっと気になったのは言うまでもない。だが、それよりも、場の雰囲気が変わったことに少しほっとしていた。
タクスの部屋!!
タクス「さてさてさてーっ!やってきましたよぅ、大ハリキリのタクス・キョウ・トウゲン デース!!いってみましょう、タクスの部屋ーっ!!!」
マル「妙にはりきってるよな」
サッサ「本編に出られないからなッ!こいつ。(← 一応こそこそ)」
タクス「そんな一応がつくようなコソコソ話じゃ、聞こえますよぅ」
サッサ「くぅ、タクスやるなッ!!さすが仙人ッ!!」
タクス「はーははは、そうでしょうそうでしょう♪」
マル「(アホや・・・この人たち、アホや・・・)」
タクス「マールーくん。」
マル「あ、ああ、ごめんごめん。別世界行ってたよ」
タクス「まったく、主人公だからって、こっちで手ぇ抜いていいわけじゃないんですよっ!!」
マル「ああ、やっぱりこっちだと風当たりがきつい〜」
サッサ「いや、どっちでもだッ!(笑)」
マル「笑いながらひっどいこというなよぅ〜(泣)」
タクス「サッサくんはマルくんには強いんですね」
サッサ「おうよ。とても三つも上には思えねぇゼ、こいつッ!!」
マル「(こいつ呼ばわり・・・泣)」
タクス「え!?三つですと!?」
サッサ「おぅ。オレは16、マルは19」
タクス「・・・・・・・・・・なに―ッ!!?」
マル「(び、びっくりした〜)どうしたんだよ、タクスさん?」
タクス「サッサくんは18歳ではなかったのですかっ!?」
サッサ「あ〜?オレは16だぜ?プロフィール、間違ってるんじゃねぇか?」
タクス「ぬわにーっ!!この天才探偵タクス・キョウ・トウゲンが、Birth0Deathのキャラクタープロフィールを調査し間違えるはずがないっ(T_T)」
マル「天才探偵って・・・(汗)」
サッサ「こいつ、いつのまに探偵になったんだッ!?」
マル「さ、さあ(汗)・・・・ってか、いつまで泣いてんだよ〜タクスさんー」
タクス「私のプライドはぼろぼろさっ、くそうくそう、覚えてろ―ッ!!」
マル「あ〜こらこらこら・・・・行っちゃった」
サッサ「フッ、次回第十一話「翳り」本編は超シリアスだぜッ!」
マル「・・・ポーズまで決めてるよこの人。実はこれ、言うの好きなのね(汗)」