12年前のあの日・・・・・・・。

このヴァースの地に、魔物が溢れた。
“悪魔がえり”
誰がつけたのかは知らない。
何十年、何百年かに一度起こる現象。
地下世界―――― デスから わいてくる魔物たち。
大地は荒れ果て、人々は絶望の日々を送る。

僕は・・・。
勇者の血を引いている。
なのに。
安全な町から出ようとはしなかった。

どれだけ成長しても。どれだけ、期待されても。
僕は魔王を退治しようなんて、思えなかった。

誰かが魔物をやっつけてくれる。
そう信じて、布団をかぶって震えているしかなかったんだ。

けど。

僕には見えていた。
その、“誰か”
魔物を倒す、勇敢な“誰か”

そう、あれは・・・・・・・兄さん。


Birth0Death

第一話 勇者の弟くん




永久凍土のこの地。
空は暗黒に覆われ、稲妻は来る者に容赦なく襲いかかる。

海に面した絶壁。
重々しい巨石をいくつも用いて、荘厳な城が建っている。
闇に包まれた暗く、淀んだ場所。
魔王城。

この最上階に位置する王座の間。
この場所で今、まさに戦いは始まろうとしていた。

「お前たちが全ての元凶か!」
強い光を持った、青い目。
そして、瞳と同じく青い髪。
精悍な青年は臆することなく、目の前の“悪”を睨みつける。
「う。こいつ、やな匂いする」
「なんだテメェは?!」
王座のわきに控える魔物たちは、口々に言う。
「お前らに名乗る必要はない!」
凛とした声で青年は言いきる。
「この匂い・・・勇者か!勇者ルドか!」

その一言に、青年――バッツの額に青筋が走った。
剣を握る手に力が入る。

「ば、バッツ落ちつけ!」
東方の衣を纏ったたくましい男が、バッツをなだめる。
「ここで冷静さを欠いてはなりません」
ゆったりとしたベージュのローブを纏った、深緑の髪の少女は丁寧な口調で諭す。

「やはりルドの血か。・・・・・・ルドの血もそろそろ滅びていい頃だとは思わないか?」
バッツの様子をだまだまと見ていた王座の魔物が、声を発した。
挑発するかのような口調で。

赤いマントをはためかせ、王座に座する魔物が立ち上がる。
他を圧倒する空気を持つ魔物。
そう、彼こそ魔王。“悪魔がえり”の魔王だ。

「うるせー。ルドだろうとルドでなかろうと、俺には関係ない。俺はバッツ、バッツ・スカイブルーだ!!」
青年はそう宣言し、剣で魔王を指す。
「俺たちは、お前を倒す!!!」

「ふん、生意気なやつめ!!!!」
「はらわたを引きずり出してくれるわッ!!!」
手下の魔物どもが奇声を発する。

「フッフッフ・・・・ルドの命石、さぞかし美しかろう。」
舌なめずりをする魔王の様子に、バッツの怒りが頂点に達した。

「ルドルドルドルドうるせーーー!!俺は俺だっ!!!!!」
バッツは剣を振りかざし、魔王へと向っていく。


彼は、この日から英雄になった。
一族の仲間入りをした。
ルドの血を引く者として・・・・・・。

☆    ☆    ☆

「・・・・はああ。また兄さんの夢か」

朝である。つい先ごろまで見ていた夢を思い出し、彼はため息をついた。

彼はマル。
マル・スカイブルー。

気の良さそうな穏やかな青い目と、兄と同じ青い髪を持つ青年。

彼も勇者の一族である。
一族には、違いないのだが。
いかんせん彼は兄、バッツと違って臆病者。
自分でも勇者の血が混じってるなんて、信じられない。
そもそも勇者ルドというのは、今から500年以上も前の人物だというのに。


「おはよー」
半ば寝ぼけて挨拶をする。頭の中は今日の夢のことが巡る。
勇者だってさ、勇者。
ため息がまた、出そうになる。

「あら、おはよう、勇者の弟くん」
マルの呼び名はいつもこれ。ま、事実は事実。
「やだなあ、その呼び方」
事実とわかっていても眉をひそめたくなる呼び名である。

食堂のテーブルには今日もちょっとこげめのついた食パンが置かれている。
マルは半ば無意識で、そのパンをかじり出す。

目の前でにこやかにお茶を飲む女性、サティ・ビブール。
彼女はマルが下宿しているラック荘の管理人さんかつ、幼馴染だ。
まあ、どちらかというと、幼馴染なのは兄のバッツ。マルにとっては姉のような人。
実際、父母が亡くなった10年前から、マルやバッツは、ラック荘で世話になっていた。

彼女はちょっとつりあがった目と、形のよい鼻、面長の顔をしている。
どちらかといえばキツめな美人。そう、確かに彼女は美人と分類されるべき容姿をしている。
長いウェーブのかかった赤毛をひとまとめにしているのだが、耳の横にさらりと垂れる髪がちょっと色っぽい。
「な〜にしょぼんとしてるのよ、事実は事実でしょ?」
にやにやと、人の悪い笑みを浮かべている。その口元さえも美しい。
「そうなんだけどさ」
「なによ?僕は僕として見て欲しいんだ!!とか、甘ったれたこと言うんじゃないでしょうね?」
図星である。

有名人の兄を持ってみればわかるだろうが、そういう人の弟はつらい。
や、少なくともマルの場合はとてもつらい。
なんといっても兄は英雄なのだ。
しかも、マルの一族は勇者の血族ということで、尚わけが悪い。
一族でルドだけが勇者だったわけではない。
ルドの血を受け継いだという意識が強い為か、英雄的行動を率先して行う。
それがマルの家族の系図。
ますます、マルの肩身は狭まるばかり。

「しっかしあれよねぇ」
サティはマルの落ちこみなんぞおかまいなく、話を続ける。紅茶なんぞを飲みながら。
「バッツも気ままよね。“悪魔がえり”を解いたっていうのに、全然故郷に帰らないんだもの。もう、3年よ?」 
なぜだか魔王を倒すことを「“悪魔がえり”を解く」という。
昔からの言葉だ。
そう、マルの兄バッツは3年前、ヴァースの民全員の悲願だった魔王討伐を成し遂げた。
しかし、彼は帰らない。
「兄さんらしいけどね。強い強い冒険家。」
マルはしたり顔でうなずく。
「そうよね、あいつはそういうやつよ。あの時だってそうだったし・・・・・」
ふいにサティの目に翳りが浮かぶ。
彼女は、無意識のうちに右手のバングルをいじっていた。
シルバーに、小さな緑色の命石のついたバングルだ。
「サティ?」
「それに比べて弟は・・・・・」
「うっ、ごほっごほっ!!み、水みずっ!!!!」
思わずむせてしまった。
遠い目してバッツの話していたというのに、急にマルの話に戻されてしまった。
「あんたもさぁ、修行とかしてみたら?一応、勇者の血族なんでしょ?」
紅茶をすすりながら、サティは言う。
「僕だってさ、修行しようとしたこともあったんだよ」
そうなのだ、ラック荘に来てから、マルだって修行を試みたことがあった。
「そ〜いえばそうよね、腹筋128回でぎっくり腰になったんだっけ?」
「う・・・・93回、だよ」
「そうだっけ、ははは〜」
少しだけ、慰めの気持ちのこもったその笑顔に、マルは苦笑を返すしかなかった。

マル・スカイブルーは剣術もだめ、魔法は攻撃系も回復系も全くダメ。
得意なものといったら、眠りの呪文と占いのみ。
とりあえず、まがりなりにも得意分野があるというのは救いだ。
・・・・・・と思いたいところである。
ま、兄さんのおかげで平和な世の中になったし。きっともう、戦いはもういらない、はず。
そう言って自分を慰める勇者の弟ここにあり、である。

「ま、あんたにしかできないこともあるんじゃないの?」
「そ〜かなあ」
サティに言われて素直に考える。
まあ、僕は僕なりにいい感じの毎日を送ってはいるかな。
「そそ。がんばれ、郵便配達人!!」
「事務員だってば」
そう、マルは郵便局の中で、事務員を務めている。
兄は冒険家だけれども、彼は実に堅実な、なおかつ勇者の血族らしくない職についている。
「ともかく、仕事がんばろっと」
一気に紅茶を飲み干し、マルは身支度の為、いったん部屋へと向かった。

ラック荘はちょっと古びた味のある建物。
マル以外にも、とっても特徴ある人たちが暮らしている。
それぞれの個室があり、食堂があり、そして談話室がある。
マルの部屋はラック荘の南に位置し、日当たりは良好。青と黒と白で統一し、ごくごくシンプル。
ほとんど家具はないけれど、背の低いテーブルには水晶玉が置かれている。

マルの数少ない特技の一つ。占い。
これも一応、勇者の血族だけがなせるという“奇跡”のうちの一つに入るのかもしれない。
光をうけて水晶玉が、きらめきを発している。

ちょっと、見てみようかな。
ふいに、そんな気分になる。
こういうときの占いは、見るぞ見るぞ!と思ってみるときの占いよりもはっきりと見える。

マルは水晶をのぞき込んだ。
ぴかぴかに磨かれ、滑らかな表面に、輝きが見える。と、頭の中に霞がかかったような、感覚に陥る。
目の前がぼんやりし、それでいて、水晶の中の一点に意識が集中していく。

紅い町が見える。
燃えるような、赤い町。
見たこともない景色。その赤にコントラストをなすような青い髪。
・・・・・・なんだ、兄さんか。
ったく。時間の無駄だった。

マルは兄と同じように青い、その髪にクシを入れ、そのまま部屋を後にした。

☆    ☆    ☆

「よう、勇者の弟くん!」
談話室を横切ったとき、ふいに声をかけられた。
「まぁ〜たその呼び方・・・」
「ハッハッハ、まあいいではないか」
豪快に笑う男が一人。彼はゴンドラ。
部屋の中だというのに鎧を身につけ、兜もばっちりかぶっている。さすがに盾と剣は近くの壁にたてかけてあるが。
ゴンドラは、町の外に現れる魔物を倒す、傭兵というか、用心棒とういうか。
“悪魔がえり”は済んだとはいえ、まだまだ魔物は出てくる。
ただ、結界のおかげでラインの町の中には魔物はいない。
「今度、また剣術教えてやろうか?」
うう、会う度にこれだよ。
僕が勇者の血族だからって、素質があると思いこんでる。
ないってば、そんなもん。
マルは心の叫びを押しこめて、作り笑いをこさえた。
「は、はい、また今度」
とにかく、もうぎっくり腰はごめんなのである。
「そうか、じゃあ、また今度!」
にかっ、と爽やかな笑顔で返されてしまった。
ああ、ちょっと罪悪感。

なにはともあれ、ラック荘を出た。
とたんに青い空が目に映る。思わず目を細めずにはいられないほどに、眩しい。
ライン城下は今日もいい天気だ。
マルは空をあおいでめいいっぱい息を吸いこんだ。そして吐き出す・・・・。

「勇者弟ッ!!」

「ぐはっ!!ごほっごほっ!!!!」
またむせた。
朝からついていない。
むせたこともついてないが、こいつに逢った事もついてない。
にかっ、と笑う爽やか少年。いや、爽やかを通り越してうるさい少年サッサ。

サッサ・マサナリ
いつものごとく、マルに強烈タックルをしかけてくる。
やわらかそうな茶色の髪に青のバンダナを巻いて、でかすぎる青い目をぎらぎらさせて、マルに挑みかかってくるのである。
勇者志望の魔法使い。と言うと変な感じもするが、まさにその通りなのだ。

ヴァースでは、魔法は命石を媒介に行われる。
命石とは“デスの者がヴァースの者を壊したときに”零れ落ちる魂の結晶。
ごくごく小さな宝石のようなもの、それを身につけて念ずる。すると魔法が生まれるのである。
だから、サッサのような少年も使おうと思えば使えない事もない。それが命石魔法。
もちろん、魔法の種類によって得意不得意がある。
例えばマルは眠りを引き起こすような命石魔法が得意とか、サッサは炎の命石魔法が得意とか。

「ふふふ。前回はお前の兄に奪われたがな、この次こそは、俺が勇者だ!!!」
サッサはこの町で一番の野心家かつ一番勇敢な少年なはず。少なくともマルよりも心意気の面では勇者である。
「はいはい。僕はいいからがんばってくれよ、未来の勇者様」
「ちぃいっ〜〜!!張り合いのねぇやつッ!!!」
はりあわんでいい、はりあわんで。

サッサを適当にあしらい、マルは職場へと足を進める。

「おはよう、マル!」
「ああ!!おはよう、ルリちゃん!!!」
今度は嬉しい出会いだ。目の前に立つのは憧れの、ルリちゃんである。
彼女はかわいい。紫色のふわりとした髪の毛が特徴的な、ちょっとぽっちゃり系の女の子。
美人と言うよりあくまでかわいいのだ、彼女は。万屋の看板娘。
ちなみにマルは19歳、ルリちゃんは17歳。
マルは調度いい年齢だと思っている。いや、何がって?まあ、いろいろと。
マルは思わずにこにこ、というよりにやにやしてしまった。

「よぅよぅ勇者の弟!!」
と。随分とドスの利いた声が背後から聞こえてきた。
強面の髭親父。
この世の七不思議にも入りそうだが、彼がルリちゃんのお父上。ライン随一の万屋さんの店主。
商人だというのに、そのなりはまるで海賊。彼のご先祖様はまさに海賊職だった。

ルリパパの横にはいつものように、見習い商人エンドウがついている。
「おはようございます、勇者の弟くん」
彼はきっとマルのライバル。
本心はさっぱりわからないが、いつもルリちゃんの一番近くにいる男。
けれど、礼儀ただしいからマルの方が、まごついてしまうのだ。
彼の祖先はおそらく、僧だろう。物腰の丁寧さが今も、受け継がれている。

ラインの住人は今の職の影に、かつての祖先の職を背負っている。
そもそも、ラインの住人の祖先というのは、かつての勇者、ルドの仲間たち。

五百年前、世界に、突如現れた大魔王。
魔王は無を味方につけ、次々に光を奪った。
無を飲みこみ、魔王は絶大なる力を手に入れたのだ。
やがて、世界は闇に包まれた・・・。

そんな中、一人の青年が剣を取り、旅立つ。
青年は“奇跡”の力で襲い来る魔物どもを蹴散らした。
そして、はじまりとおわりの大地で、とうとう大魔王すら倒してしまった。

それがマルとバッツのご先祖様、勇者ルド、である。

その旅に参加したのが、ルドの仲間たちと呼ばれるものたちだった。
大魔王と渡り合ったのだから、ルドの仲間たちの力というのも、相当なものだっただろう。
そのようなご先祖を持っているだけあって、ラインの住人は、祖先を大切にする。
さらに、勇者とか魔王討伐の旅とかに、この町の人々は人一倍敏感だったりするのである。
ようは、この土地の人間は、冒険好きな気質が強いということだ。


「ね、ね、今度さ、占ってくれない?」
ルリちゃんがマルを見上げていった。
ああ、この身長差。
理想だ。
マルは思わずうっとりする。
いうまでもなく、マルは背が高い方ではない。
密かにモデル体型といわれているサティ、彼女と並ぶとマルの方が小さいぐらいだ。
「もちろんさ。なんでもこい、だよ」
僕の特技はそれぐらいだけどね。と、マルが心の中で自嘲したのはいうまでもない。
ちょっと後ろ向きな勇者弟であった。


ラインは今日も平和。

戦いを終えたルドは町をつくった。それがこの地、ライン。
今も町の中心には、勇者ルドのお墓がある。
美しい花々に囲まれた平和の象徴のような場所だ。
そのわきを通りぬけ、白い建物――宿屋のわきを越える。
ちなみにこの宿屋も、経営はルリの父がしている。さすが万屋。

さらに進むと、いつもの通りに出る。
まっすぐに城へ続く道。
白っぽい灰色の石畳をすたすたと歩く。

はじめてこの道を通ったのは十年前。
父と母を亡くし、兄とともに城を出たとき。
兄が、王となることを放棄したとき。

それ以前のことは、霧がかかったように、おぼろげな記憶しかない。いや、おぼろげな記憶すらない。
おそらく、王子様だったりしたのだろうけれど。
まったく、覚えていない。
覚えていたら、僕にも、もう少し気品というやつが出るのだろうか。

・・・・などと、マルがぼんやり考えている間にも時間は過ぎていく。
このままいくと遅刻である。
やばいやばいやばい!!
マルは大慌てでライン城の城門を駆け抜けた。

ヴァースでも、最も美しい城。それがライン城。
大理石を使った城壁は、今もその白さを保っている。
窓にはめられたステンドグラスが、朝の光を浴びて輝く。
どこよりも、明るい平和な城である。

幼い頃、マルはこの城に住んでいたのだが、今ではライン城は公共の建物となっている。

現在、ライン城の一階部分は、今やマルの勤める郵便局となっていた。
二階は役所、三階は図書館と、それぞれ公共の施設となっている。

「やあ、おはよう。マルくん♪」
にこやかに待っている紫色のオーラを持つ男。
彼は郵便局の局長。いわゆるボスというやつだ。名前はカリン。
水色の長髪、青いつり目の男。一応、スマートな美男子である。
年齢は全くもってわからない。見た目だけは27〜8といったところか。
その笑顔にもかかわらず、なにか、威圧感に近いものを漂わせている。

「お、おはようございます」
「今何時かな?」
「え、ええっと・・・・」
時計を見る。
その一瞬の間、全身に悪寒がかけぬけた。
一気にまわりの温度が低下する。空気が歪み、電流が走る。
巨大な目の幻がちっぽけなマルを睨みつける、そんな気配。

「ち・こ・く♪だね♪」
いやな汗が額から浮き出ているのが自分でもわかる。
ああ、また、この人に魔法をかけられたのかも。
「さ♪しごとしごと」
カリンは町一番の魔術師、でもある。
もしかすると、大陸一の、いや、世界一の魔術師かもしれない。
お仕事で失敗をするとカリンは無言で魔法を使う、こともあるとの噂だ。
・・・・・・・マルは寿命が縮まった。
「おはようございます」
マルが遅刻の罰として、妙な魔法をかけられていても、なんら動ずることなく仕事をこなす娘、アンズ。
「おはよう、アンズちゃん」
彼女は受付担当である。
とともに、回復魔法も使える僧侶の子孫だったりする。
眼鏡の向こうの黒い瞳はいつも夢を見ているような、とらえどころのない色をしている。
ちょっとくせのある黒髪は肩までできり揃えられている。いわゆるおかっぱヘア。
この髪型のせいか、ちょっと幼い印象を与えている。
「今日も一日がんばりましょうね♪」

この職場に魔法使いが多いのはちゃんとわけがある。
受付からは見えないちょっと奥まった部屋。
その中央に描かれた不思議な文様。
青や緑や赤や茶色の砂で描かれたそれは、単体でも魔力を帯びている。
テレポート。
この世界の郵便を支える重要なシステム。主な都市を繋ぐ転送の魔方陣である。
古・・・・ルドの時代から培われてきた過去の遺産。
風、空間、時間。それらのものを左右する。
とくに、人の行き来のテレポートは、人の命石一つを犠牲にするぐらい、高等な命石魔法なのだ。
そこに描かれた文様は、命石の砂でつくられていた。
昔は人の行き来もこれで行っていたらしい。が、今ではそこまでの力はこの文様に残されていない。
現在はもっぱら郵便に用いられている。

そして、この郵便方法に不可欠なのが魔法使い、というわけなのだ。

☆    ☆    ☆

「孫からのォ、荷物が届いておるはずなんじゃがのォ〜」
「お名前よろしいですか?」
アンズは営業用スマイルでおばあさんに尋ねる。
「ウメですじゃ」
「少々お待ちください。マルさん、確認お願いします」
「はいはい、ええっと、ちょっと待ってね。たぶん、ついてるはずだよ」
マルは手許のリストを調べた。
確かにウメの名前は載っている。
「ええっとっと」

荷物の山の中から、小包を探し出す。
どんなに山になっていても、マルは目当ての荷物をあっさり見つける。
マルの占い能力はこういうときにも、ちょっと役に立ったりするのである。

「お待たせしました」
「はい、ありがとよ」
おばあさんはにこやかに帰っていった。マルはリストにきっちりチェックを入れる。


「次の方〜」
長身で、緑の長髪の男が受け付けに立った。恐ろしく直髪だ。
肌は白く、整った高い鼻と、澄んだ黄緑の瞳を持ち、目元の涼しい、ハンサムな容貌である。
その耳は非常に特徴的。天を指さんばかりに尖った耳なのだ。
茶色のマントを羽織り、独特の麻でできた簡素な服を着ている。
どことなく、民俗衣裳を思わせるデザインの服である。
どこの国の人かはわからない。
だが、馴染みのある姿とは言い難い。この辺りでは珍しい容貌の人物だ。

男の表情は、眉間に皺を寄せて、いかにも深刻そうである。

マルはとてつもなく、いやな予感がした。


次回予告!!

タクス「さてさてはじまりました。Birth0Death 第一話 勇者の弟くん!めでたいですね、うれしいですね♪」

マル「あんただれ?」

タクス「うわっ、ひどいですね!地味地味主人公、マル・スカイブルーくん」

マル「(ムカッ)で、あんただれ?」

タクス「うわー、マルくん、本編と性格変わってますって。怖い顔して迫らないでくださいよぅ。私はタクス・キョウ・トウゲンといいまして、仙人なんですぅ〜」

マル「で、そのキョウ・トウゲンさんは、なんだってここにいるんだ?」

タクス「(キャーこの人、まだ無表情だよ 泣)ううっ、聞いてくれます?私は本編であまりにも出番が少ないのです」

マル「・・・・・・はあ」

タクス「でもでも、作者のを背負っちゃっているのですー!それが災いして(何ッ!?)本編でなく、こちらで活躍することになったのですっ」

マル「へー。本編では活躍しないんだ♪(←うれしそう)」

タクス「ひ、ひどい・・・そこを強調しますかーっ(T_T)」

マル「うわーっ、大の男が鼻水流して泣くな〜っ」タクス「マルくーん〜」

マル「うわーっ、人の服で鼻水ふくなーっ!折角こっちじゃクールに決めてたのにっ〜!

ええいっ、次回は緑髪の男の意外な用件っ!?第二話「勇者弟への依頼」お楽しみに〜!!」

タクス「ああ〜それ、私のセリフ〜(T_T)」


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