第2章 動き出す運命



東京都千代田区、大日本連合国の首都であるこの地に全ての政治の中心である総相府。此処に日本の最高権力者である総相を始め多くの閣僚が集まっていた。そして、閣僚会議室に総相をはじめ各省庁の大臣、防衛軍代表、自治政府代表の面々が無言の面持ちでその場に座り何かを待っているようであった。

「失礼します!」

 背広を着た側近と思われる男がドアを勢いよく開け、閣僚会議室へと入ってきた。皆は彼が来るのを待っていたのか、全員が彼に顔を向けた。そして側近は総相内閣官房長官の元に行き、手にしている報告書を渡す。

「総相閣下、政府専用機に搭乗している外相からです。中国共産党計画経済派との交渉は失敗したと・・・」

 官房長官のこの言葉に周りの空気は一気に沈んだ。言い様の無い重い空気が漂う。

「総相、もはや我が国最大の危機です。特級防衛権発動を!」

 安保府の最高責任者である安保府総監は発言する。特級防衛権とは戦略兵器使用に対しての防衛権であり、戦防軍による戦略兵器に対する国家防衛と共に有効抑止を容認するものである。

「待ってください!特級防衛権の発動は・・・」

 厚生労働相が特級防衛権の発動に躊躇する。

「何を言っているのだ!今は一刻を争う時なのだぞ!!詰らん事で躊躇している場では無い!!」

 特級防衛権の発動を躊躇する声に安保府総監は反発の声を上げる。

「政府直属部隊の特殊部隊は使えないのかね?戦略ミサイル軍司令部を奇襲し、戦略ミサイルを無効化すると・・・」

 法務相が訊く。

「作戦にはまだ時間が掛かります!15時間以内の作戦開始は不可能であると。仮に奇襲に成功したとして戦略ミサイルを無効化出来ると言う保証はありません」

 防衛相は答える。

「それでは、万策が尽きたと?」

「いえ、現在我が防衛軍は戦略防衛軍を始め、航空防衛軍、海上防衛軍、陸上防衛軍がミサイル警戒活動を展開中です。戦防軍は各種ミサイル迎撃ミサイルとミサイル迎撃機、空防軍は要撃戦闘機、海防軍はイージス艦、陸防軍は自走型の対空レールガンなど、何れも戦略ミサイルに対し有効な迎撃能力を持っています」

「それで、中国からの攻撃を完全に防げるのかね?」

 防衛軍全権代表である統合幕僚議長の説明に総務相が疑問を投げかける。

「およそ、70%の確立で迎撃が可能でしょう。中距離弾道ミサイルであれば迎撃率はかなり高いです」

「では残りの30%は、我が国に落ちる可能性があると言うことかね?それがもし核兵器であれば・・・」

「多くの国民の生命を危機に晒すことになりかねん!」

 総務相に続き厚生労働相が答えると、周囲にざわめきが聞こえてくる。

「ですから、安保府は特級防衛権の発動を要請しているのです!総相、もはや時間はありません。ご決断を!!」

 安保府総監は総相に詰め寄る。それに対し総相は腕を組んで深く考え込む。

「総相閣下、私も安保府総監を支持します。国民の安全を考えれば特級防衛権の発動はやむなしと考えています」

 総相の横に座る総相補佐官の1人が総相に耳打ちをして特級防衛権発動を支持すると共に防衛権発動を要請する。

 総相は黙ったままであった。腕を組み何かを深く考えている。やがて、何かを決意したのか、腕組を解いた。

「特別防衛権の発動を命じます。戦略防衛軍に特別防衛権に基づく軍事行動を取る事を命じる。しかし、特別防衛権による有効抑止に基づく攻撃は総相である私の判断を得てからのものとする」

 総相は特別防衛権の発動を命じた。それに対し安保府総監は一礼をして答える。

「防衛相、統幕議長。もしも我が国が核攻撃を受けるとしたら、まず何処を攻撃目標とするのかね?」

「はい、我々の予測ではまず軍事拠点となっている沖縄と九州、北海道が攻撃の目標となるでしょう。沖縄と九州は華南地方と華北地方のキーストーンとなり、北海道は中国東北部においての拠点となります」

 統合幕僚議長が総相の問いに答える。

「東京は狙ってこないのかね?」

 総務相が訊く。

「はい、それは交渉の相手が無くなるからです。しかし、我々は万一の事を考えて、それなりの措置を取らなければなりません」

「御門皇国代表、皇室関係者の避難の方は?」

「はい、陛下を始め皇室の人間は、全て宮内庁が設けているシェルターへの避難を何時でもできます。問題はありません」

 総相の言葉に御門皇国の代表が答える。

「総相閣下、我々も避難措置を取った方が宜しいのでは?」

 官房長官が言う。

「避難?何処に避難すれば良いのかね?例え避難したとしても核戦争後の世界に何があると言うのだね?」

 総相が答える。その言葉に官房長官は言葉を失った。

「それよりも国民への対応だ。まだこの事実を国民には公表していない。これをどうするか?」

「まずはマスコミ対策です。この事実を国民に公表し・・・」

 総相の言葉に総務相が答える。

「おいおい、核攻撃の危機に晒されている事を易々と国民に明らかにできるか?」

 厚生労働相が言う。

「そうです。此処で核攻撃の事実を下手に公表すれば、国内で混乱が起きます。当然、経済への影響も出ます!」

 経済産業相がそれに続く。

「不安からくる国民の暴動略奪が起きます。事は慎重に運ぶべきであります」

 治安相が核攻撃の危機と言う脅威が国民に不安を与え、暴動などの行為に走らせてしまうと言う。まさにその通りである。

「しかし何れはこの事実を国民に明かさなければなりません。総相閣下どうなされるおつもりで?」

 防衛相が訊く。

「仰るとおり、何時までもこの事実を国民に公表しない訳にも行くまい。しかしそれによる国民の不安、そして其処からくる大きな混乱は避けたい」

「では、此処は核攻撃と言う部分は外して、攻撃が予想される地域に対しては"中国から大規模な攻撃が予測される"と言う事で事を進めれば?」

 総相の言葉に補佐官が答える。

「しかし、万一中国が核攻撃を行えばその場合はどうするのだ?」

「その場合は仕方がありません。覚悟をするべきであると。まあ、各住宅ブランドではシェルター付の住宅が売れていますし、公共のシェルター施設、民間企業でもシェルターを構えている所もありますから、ある程度は生き残るでしょう」

 補佐役は答える。実に無責任な発言である。

「それに我々は"最も効率の良い核抑止力"を持っています。それを交渉で示せば・・・」

 補佐役は言葉を続けた。

「・・・分かった。それで行こう。閣議の後、すぐに会見をする事にしよう。すぐに総相内閣広報室に会見の準備とスピーチを」

「分かりました。広報室の広報官に伝えておきます」

 総相の命令に官房長官は答えた。

「総相、今後攻撃が予想される地域に関してですが、今後は何らかの避難措置などを行うべきです。攻撃が予測される沖縄、九州、北海道に関しては非常事態宣言もしくは警戒活動による避難措置や交通規制を行う事を許可して頂きたい」

 安保府総監は攻撃が予測される地域に対する防衛措置を総相に要請する。

「待ってください。避難などの措置は賛成ですが交通規制を行うのは反対です。現在、沖縄、九州、北海道の空の交通を閉鎖しています。さらに交通規制を行えばその避難さえも出来なくなります。特に沖縄は完全に孤立する事になります」

「国土交通相の言うとおりです。また、物資などの輸送が出来なくなり物資不足なども予想されます!」

 国土交通相と経済産業相が反対の声を上げる。

「では防衛軍を動員すればよいでしょう。沖縄には海上防衛軍の輸送艦が停泊していますし、航空防衛軍の輸送機も使えばよい。また民間船舶を挑発して使用すればよい。海の手段に問わず、避難目的に限定しての航空機の運行を再開し、沖縄に残っている民間機等も利用する。それで十分に避難措置は可能です」

「・・・宜しい。安保府総監の提案を許可します。防衛軍に沖縄に在住、または滞在している全ての国民を避難させる様に!」

 総相は安保府総監の要請を許可した。

「諸君、我々は今、危機的状況にある。おそらく戦後、いや日本始まって以来の危機である。この危機を乗り越える為には我々は冷静かつ高度な判断を下さねばならない。私は諸君等の行動に期待する。この危機を打破する為に全智全霊を使ってそれぞれの判断を下して欲しい」

 総相は閣議に集まった者達に言った。誰もが表情を固くして総相の言葉を受け止めた。



 この日、沖縄は何時もの朝を迎えていた。人々は朝起きると同時に仕事、学校へと行く支度をして出かける、平凡な一日の始まりでもある。

 沖縄国際空港は人で溢れ返っていた。各航空会社のフロントには多くの人が詰め掛け、慌しい雰囲気となっている。

「お知らせします。午前の沖縄発の国内便及び国際便は全て欠航になっています。また午後の便も運行を見合せています。お客様には大変申し訳ありませんが・・・」

 空港にアナウンスが流れる。電光表示板には国内便と国際便の全てに欠航の文字が表示されている。

「申し訳ありません。昨日の夜から沖縄を始め東シナ海と九州上空は飛行禁止とされており航空機の運行を行うことは出来ないのです」

 フロントの女性職員が申し訳なさそうに答える。その言葉に誰もが溜息をつくばかりであった。

「カナ!帰りの飛行機は取れた?」

 声を出すのはいかにもコギャル風の格好をしている高校生ぐらいの茶髪の少女である。声の先には彼女と同じ年齢の少女がやって来る。その姿も彼女よりかはマシであるが、やはり今時の女子高生を思わせる姿である。

「ダメダメ、全く取れなかったよ。むしろ、飛行機自体が飛んでいないみたい」

「チョ〜最悪!明日には運行を回復するって言っていたのに!!」

 この二人、帰りの飛行機が取れなくてムカついている様である。因みにこの二人は有名バンドのおっかけで昨日行われた沖縄でのライブからの帰りであったが、飛行機の運行が停止されて立ち往生しているのである。

「そんでどうするの?カナ?」

「あたしに言われたってそんな事分かるわけ無いでしょ!とりあえず此処にいるしかないのでは?」

「じゃあ、ショッピングモールに行こうか。色々買い物してさ!」

 茶髪の少女は能天気そうな声で言う。それを聞いたもう1人は呆れ顔で深く溜息をついた。

「なんでこう、能天気なのかしら・・・」

 と彼女は思った。

 因みに二人は同じ学校の同級生であり、中学時代からの友人である。そして茶髪の少女の名前は西田 ひとみ。もう1人が川島 佳奈美である。


「まいったね。これじゃあ東京に帰れないな・・・」

 困り顔で電光表示板に目を向ける30代後半の男性。彼の名は桐谷 守、小説作家である。彼は本来"綾小路 竜之介"というペンネームで純文学を執筆しているが、それと同時に桐谷 純と言うペンネームで第2次世界大戦から現代戦までの架空戦記、ファンタジー小説、果てはちょっとアヤしい恋愛小説を始めとしたライトノベルまで多種多様なジャンルを執筆している人物である。

「先生、こんな時に取材に来るなんてやっぱり不味かったのでは無いですか?」

 桐谷に半分、涙声に成りながらの言葉で言う。一人の女性。彼女は三島 美津子。桐谷が現在契約している書籍メーカーの小説編集部に勤務し、桐谷の小説の担当をしている。

「やはり、小説の中でも実戦的な雰囲気を表したいじゃない。今はまさに取材のチャンスだよ。より実戦的な部隊を取材する。このような機会は滅多に無い。まさに絶好のチャンスだよ。それに君も早く取材を終えて小説の執筆に入ってほしいのだろう?」

「そうですけど、こんな時に取材に来ることは無いでしょう・・・」

「泣き言を言ってもしょうがないよ。実際に今書いている小説は亡国が沖縄に侵攻する事で始まっているし・・・」

「呑気な事を言わないでください!」

 三島が桐谷に詰め寄る。無理は無い三島はこれまでに桐谷にどれほど手痛い目に合わされたか。そもそも彼女が桐谷の担当に就いたのは2年前、入社して間も無かった彼女は念願の仕事をまっとうしようと強い意気込みで兼ねてからの希望であった書籍メーカーの編集者として就職した。そして最初の仕事として、桐谷の担当を任された。しかし、それが運の尽きであった。

 この桐谷という小説家、とにかく曲者な人物で、担当イジメが好きで、締め切りは守らない(実際はワザと締め切りを破っている)居留守は使う、締切日には何処かに逃げる等々、過去に何度も多くの編集者がその被害にあい、各出版メーカーの編集者のブラックリストに載るほどである。そして三島もその惨い担当イジメの被害にあい、手痛い目に合わされて現在に至っているのである。

 ちなみに桐谷が現在、執筆している小説は軍事政権が支配する東南アジアの軍事国家が東アジアに軍事侵攻を開始し、日本、韓国、台湾の3国がそれに立ち向かう現代戦の架空戦記小説である。そして桐谷と三島が嘉手納にやってきたのは小説の中で最前線となる沖縄を取材する為である。

「はいはい、これも締め切りに間に合わせる為に早く来たのでしょう。今度、リミットブレイク(締め切り破り)をしたら玄関前で"首を吊ってやる"って脅しを掛けたからじゃないの?」

 やれやれな面持ちで三島を見る桐谷であった。どうやら、この2人それはそれで結構気があっている様である。


「申し訳ありません。ただいま航空機の運行は行っていないのですよ。それに運行が再開しても東京行きの便が取れるかどうか・・・」

「そうですか・・・」

 フロントの女性職員の言葉に10代後半の少年はがっくりと肩を落とし、とぼとぼとその場を後にした。

「お兄ちゃん、どうだった?」

 1人の少女が声を掛けると一斉に十人近くの少女達が彼の元に駆け寄った。

「駄目だった。飛行機自体が運航していないのだって」

 その言葉に少女達は暗い顔をする。それを見た彼は何とかしようと考える。

「今、飛行機は飛んでいないけど午後からは飛ぶかもしれないよ。だからそれまで空港のショッピングモールへ遊びに行こうよ」

「それはいいですわ、お兄様!すぐに行きましょう。すぐに・・・」

 彼の言葉に薄い茶色の髪で後ろ髪を二つに束ねた少女が彼の腕を手に取る。

「あっ、咲耶たんずるい!ヒナもおにいたまと一緒にお買い物に行く」

 少女達の中で一番背の小さい子が彼女に続き、彼の腕を掴む。

「そうですね。此処は兄君さまと一緒にお買い物を・・・」

「お買い物へ行こう、お兄ちゃん」

 少女達は一斉にお買い物へ行こうと言った。明るい笑顔を浮かべる彼女達に彼は一安心して少女達に笑顔を浮かべた。



 沖縄県那覇市、沖縄の中で一番賑わっている街である。今日も朝早くから多くのビジネスマンが街を歩き、商店の店主は早々と店を開ける。何時も通りの光景である。10年前までは日本に置いて最大の失業率を出し、街から活気も消えかけていたが現在、沖縄は特区に指定されアジア経済のキーストーンとなっている。その為、沖縄には多くの日本企業や日系企業、アジア系企業などが進出して経済的な潤いを見せている。また幾つかの製造業も進出し、新しい観光産業も確立し沖縄独自の経済システムが確立している。

 ビルが立ち並ぶオフィス街、その一つに設けられている日本の新興財閥系企業のビルのすぐ近くに一台のワゴン車が停められている。窓にカーテンが敷かれ車内の様子を伺う事が出来ない。そのカーテンの隙間から新興財閥のビルを見つめる不気味な人の姿があった。

「おい、どうだ?まだ奴等は来ていないのか?」

 窓から様子を見る人物に声を掛ける男。車内には4,5人の男達が乗っているようである。

「まだ来ていない。だがもうすぐだ!もうすぐあの財閥と日系大企業との大きな取引が行われる。各企業のトップがあそこで顔合わせをするはずだ!」

 窓から様子を見る男は答える。その時であった。そのビルの前に何台かの高級車が止まる。そして高級車からは立派な黒色の背広を付けた男達が姿を現し、さらに40代後半を思わせる中年の男性が車から出てくる。

「おい来たぞ!」

 男は叫んだ。

「よし、では始めるとするぞ!布告の花火の準備をしろ!その後、全員で押し掛けるぞ!!」

「OK,分かった」

「今日こそはこれまで琉球人民が受けてきた数々の抑圧の怨念を晴らしてやる!帝国主義者め!!」

 車にいる男達はごそごそと何かを取り出す。そして、白いヘルメットを被り、タオルで覆面し、片手に何処から手に入れたのかAK−74自動小銃を構えた。

「よし、花火をあげろ!!」

 男が言うと、1人が何処に隠していたのかRPG−7対戦車ロケットランチャーを取り出し、車の窓を開け、目標としているビルにあわせる。

 その直後、RPG−7の対戦車ロケット弾は白煙と共に発射され、瞬く間に目標のビルへと向かい、入り口前に命中し炸裂した。その瞬間、凄まじい爆音と衝撃が周囲に響き渡る。

 その後、何人かの男達がワゴン車から飛び出し、おもむろにAK−74を乱射する。自動小銃から響く、銃弾の連射音と共にマズルフラッシュが光る。そして周囲からは多くの悲鳴が響く。

 男達は目標としている新興財閥のビルへと突入し、周囲に向かって乱射し続ける。ロケット弾によって既に何人かの人間が衝撃で絶命し、中には首が吹っ飛んだ遺体が横たわっている。AK−74から放たれる銃弾に多くの人があたり、苦しそうにその場に倒れこむ。中には当たり所が悪かったのか。そのまま地面に倒れ、絶命してしまう者もいた。悲鳴に包まれる周囲に対し男達は気に留めることも無くAK−74を乱射し続ける。

「死ね!ヤマトンチュウ(日本人)ども!琉球人の怒りを思い知れ!!」

「日本帝国主義者に死を!琉球人民に真なる解放を!!」

 男達は叫びながら周囲に銃弾を撃ち込んでいく。彼等は沖縄独立を掲げ、数々のテロ活動を行う反政府テロ組織のメンバーであった。

 一方、黒い背広をつけた男達は護身用に持っていた拳銃で彼等に応戦する。どうやら彼等はボディガードのようである。周囲は銃撃戦となり双方とも銃弾が飛び回る何とも凄まじい光景が広がっていた。

テロ組織のメンバーの男一人が持っていたAK−74が弾を撃ち尽くしたのか、すぐにマガジンを取り出し、弾を撃ち尽くしたマガジンをその場に捨てて取り替える。その間をボディガードの1人は見逃さず持っていた拳銃を発砲、弾は数発命中し男は苦痛に声を上げてその場に倒れこむ。

「畜生、やりやがったな!!」

 テロ組織のメンバーはそのボディガードに向けて一斉に弾を撃ち込む。その後、サブマシンガンを持った警備員達がその場に駆けつけ、テロ組織のメンバーに向けて一斉に発砲、この時、1人の男がサブマシンガンから撃ち込まれる弾の直撃を受けてその倍に倒れた。男は即死であった。

「引き上げるぞ!官憲まで来るとやばい事になる!!」

 男の一人が叫ぶとテロ組織のメンバーはAK−74を撃ちながら、その場を後にする。何とか全員が外に出ると一斉に走り出し、ワゴン車へと戻る。

「すぐに車を出せ!さっさとズラかるぞ!!」

 ワゴン車を発進させようとした時、サイレンの音を鳴らしパトカーが3台駆けつけてきた。パトカーから警官が一斉に降り出し、警察用拳銃であるニューナンブを構える。

「武装犯に告ぐ!直ちに武器を捨てて両手を上げなさい!!」

「うるせえ!これでも食らえ!!」

 男の一人が警官に向けて手榴弾を投げ込む。それに気付いたのか警官たちはその場から一目散に離れる。手榴弾はパトカーのすぐ傍に落ちて爆発する。この爆発でパトカー一台が吹き飛んだ。

「今だ!行け!!」

 テロ組織のメンバーが乗ったワゴン車が急発進し、そのままパトカー押しのけその場から逃走する。それを阻止しようと警官がワゴン車に向けて発砲するもワゴン車はそのまま逃走して行った。


 所変わって那覇市の大通り、大通りの道路は酷く渋滞していた。彼方此方からクラクションとドライバーの罵声が聞こえてくる。そんな中、一台のタクシーが渋滞に巻き込まれ立ち往生していた。

「まだ動かないのかね?」

 タクシーに乗っている乗客がドライバーに苦情を言う。

「まだ動きそうに無いですね。パトカーのサイレンが聞こえてくると言うことは何かあったのでしょう。多分、大きな交通事故かテロ事件でしょう。此処じゃ日常茶飯事ですけどね」

「テロ事件が日常茶飯事であると?」

「お客さん、見たからに観光客だから知らないのも無理は無いね。沖縄ではテロ事件が1週間に数回は起きているのですよ。他にもアジア系マフィアの利権絡みの抗争等、色々ですよ。まあ、沖縄の人間にとってはもう慣れていますがね・・・」

 ドライバーの言葉に乗客は呆然とした。

 この日の沖縄は何時通りの朝を迎えていた。



 海上防衛軍第4航空機動艦隊は沖縄近海へと展開した。本来なら沖縄を抜け、東シナ海から南シナ海へと展開するはずであったが、昨夜に通達された新たな命令を受けて東シナ海に展開する事となった。

「以上は無いか?」

 艦隊旗艦である空母"神龍"のCICに朝食を済ませた東郷が入ってくる。それに答えたのが艦長の早河であった。

「はっ、今のところ以上はありません。第二艦隊と合同で中国からの航空機、ミサイル等の警戒を行っていますが、偵察機1機すら捕捉していないとの事です」

 早河の言葉に東郷は「そうか」と答え、自分専用の椅子に座った。

「まあ、制空権は完全に我々が掌握しています。それを考えれば中国軍も迂闊には攻撃してこないでしょう」

「確かに。しかし向こうは核攻撃を仕掛けてくるかもしれない、総監部では攻撃の対象となるのはアジアに置いての重要拠点となる沖縄とする可能性が高いと言っている。油断は出来んぞ」

「そういえば、さっきから戦防軍の弾道ミサイル迎撃機が沖縄周辺と九州一帯を飛行しているそうですよ。それに聞いた話ではどうも政府による中国との交渉は上手く言ってないようで・・・」

「まあ、核攻撃を受ければ日本は一溜りも無い。我々の防御にも限界がある。此処は政府の連中に頑張ってもらわないと」

 そう言って東郷は溜息をついた。

「司令、艦長、総監部より新たな通達です!」

 CICのクルーの1人が総監部の通達を受信し、内容が書かれた電文を持ってくる。

「・・・第4艦隊はこれより2時間後に航空機部隊を出動させ、沖縄をはじめ東シナ海一帯の防衛任務に当たれ。なお、任務遂行時に沖縄からの避難民を乗せた輸送機を本土までエスコートするように。これは大掛かりな任務だな・・・」

 内容を読んだ東郷は苦笑いをして答える。

「どうなさるおつもりで?」

「命令を受けた以上、それを遂行しなければならない。すぐに全員を此処に集めろ!それから航空部隊の出動準備だ。各僚艦に第二種警戒態勢を敷くように伝えろ!!」

「了解しました。各僚艦に通達!これより第二種警戒態勢に入ると!!」

 早河の言葉に通信士が「アイ・サー」と答えて、各僚艦に第二種警戒態勢に入ることを通達する。

「各員に告ぐ、第二種警戒態勢!各員に告ぐ、第二種警戒態勢!」

 艦内に第二種警戒態勢の放送がなされるとクルー達は慌しく艦内を走り回る。

「各僚艦も警戒態勢を整えました。これより本艦とデータリンクを開始します!」

 この声に東郷は黙って頷いた。

「東郷海将殿、何かあったのですか?」

 CICに山本と篠塚、そして第4艦隊航空群司令の鹿山 創一一等海佐が駆けつけてくる。

「新たな命令が来た。内容はこの通りだ」

 そう言って山本達に命令内容が書かれた電文を見せる。

「さて、鹿山一佐。航空部隊の出撃にはどれ位の時間が掛かる?」

「はい、艦載機の飛行甲板への搬出、武装の装填を考えますと、40分位は掛かります」

「分かった。ではすぐに艦載機の準備だ。武装は空対空装備、何れの機体も何時でも飛び出せるようにしておけ。それから、AWACSと要撃戦闘機を5機出撃させろ!空中警戒の為だ!」

「はっ、早速出動準備に入ります!」

 鹿山は敬礼をして答えた。

突然の慌しくなり、物々しい雰囲気がCICに漂い始めていた。



 同じ頃、台湾は台北空港に1機の大型機があった。大型機は主翼と垂直尾翼に日の丸と機体は白色と中心には赤い線で塗装され"CONFEDERATE GREAT JAPAN"と書かれた機体、それは大日本連合国の政府専用機であるJM−2000改超音速旅客機である。

 政府専用機の機内では40代の女性が政府専用機に搭乗している記者達に対し記者会見を行っていた。内容は今後の中国に対する軍事作戦と中国政府に対する政策、UPO間への政策に関することであった。

 特に記者たちの間では中国に対する対応をどうするのかと言う質問が多かった。特に日朝新聞の記者は鋭く質問する。それに対しその女性は冷静に淡々と答えていた。

 彼女の名は水嶋 香奈子。日本政府の現内閣で外務大臣を務めている。彼女は何に影響されたかは定かではないが、彼女は10年前に議員初当選後、政界入りし、海外政策を中心に活動し、やがて彼女の政策分野である外交を大きく買われ、外務大臣となった。彼女は一流の大学を出た高級官僚とも言える身なりで、あからさまにお堅い政治家としての雰囲気を出している。その為か40代前半である彼女は以外にも若作りで未だに30代前半の人間ではないかと疑うほどである。

 そして今回、彼女はUPO各国との外相会談を行う為、シンガポールを訪問していた。会談の内容は中国に対する事であった。そして彼女は、現政権からモットーとしている"Noと言える日本外交"を押し通し、日本としての主張を通している。

「今後の中国政策として、日本政府は今後どのような対処を行うのですか?」

「日本政府としては、今後も多国籍軍が行っている軍事作戦を継続すると同時に、中国政府に対して国連が提案する停戦協議に応じるように外交を通じて要請します」

 記者の質問に対して冷静な口で答える其処には女性ながら政治家として誇りがあった。

 そして記者会見が終わると水嶋はやれやれと言う面持ちで執務室のデスクに座った。

「1回目の交渉は失敗した。何とか次の交渉の約束には漕ぎ着けたけど、果たして上手く行くのか・・・」

 そう言って溜息をつく水嶋。彼女にかなり重いプレッシャーが掛かっていた。

「次の交渉を逃せば・・・」

 彼女が呟いた時、執務室のドアからノックの音がする。「入って宜しい」と声を掛けると背広姿の外相補佐が入ってきた。

「外相、」

「分かったわ。東京への到着時間は?」

「およそ、1時間30分から2時間です。フライトコースによって到着時間が違ってくるかもしれません」

「分かりました。では離陸後は何か事が起きない限り此処には入らないでください。次の交渉の準備と執務の整理を行いますので」

「分かりました。それから、日本大使館からですが、邦人を何人か保護しているそうです。それで、東京まで彼等を乗せて欲しいと要請が?」

「どういう事なの?」

「えっと、彼等は卒業旅行に来ていたのですが、今回台湾で起きた反日系勢力のテロ騒動に巻き込まれ大使館に駆け込んできたのです。何れも高校生だそうです」

「全員がまだ学生な訳?どうしてこんな時に・・・」

 補佐官の言葉に思わず困惑する。しかし大きく息を吸って自分を落ち着かせると再び補佐官に顔を向ける。

「分かりました。彼等の搭乗を許可します。それでその学生達はまだ大使館にいるの?」

「はい、今現在大使館の方に身を寄せています」

「では、すぐに大使館から此処に連れてきなさい。彼等が到着後に離陸してください」

「分かりました。あと大使館関係者も避難の為に搭乗する事になっています。今後は台湾への攻撃が予想されるとの事で・・・」

「分かったわ・・・」

 水嶋が答えると補佐官は一礼をして執務を出た。その後、彼女は大きく溜息をついて事の成り行きを見守るしかなかった。



 東シナ海へ展開した第4航空機動艦隊から出撃した4機の要撃戦闘機と1機のAWACSは東シナ海一帯の偵察飛行を行っていた。目的は中国からの本土攻撃への警戒であった。

「スカイアイより「神龍」へ。現在、艦隊から北へ100kmの空域を飛行中。飛行に関して問題無し。また中国からの飛行物体も無し、以上」

 AWACSからの報告はすぐに"神龍"のCICに入る。そしてその報告を東郷は静かに聞き、しばらく考える。

「鹿山一佐、AWACSと護衛の戦闘機は後どれくらい飛べる?」

「はい、AWACSの航続距離と護衛の要撃戦闘機の能力から考えてあと一時間は飛行可能です。パイロットの疲労も考慮に入れての事です」

 東郷の問いに答える航空群司令の鹿山。

「そうか、確かAWACSはもう1機あったはずだな?それを交代要員として飛ばす。AWACSのパイロットと護衛の戦闘機のパイロットに待機命令をだせ!」

「分かりました」

 鹿山は答える。

「3時の方角より飛行物体の反応あり。数はおよそ10機から15機!!」

 突如、AWACSからの緊急報告が入る。

「こちらのレーダーで、飛行物体は捉えているか?」

「いえ、"神龍"のレーダーには探知されていません!」

 東郷が叫ぶとレーダー士はレーダー士が答える。

「僚艦のレーダーは?イージス艦のレーダーはどうなっている?」

「現在調査中です。あっ、イージス艦からの報告です。僚艦"長門"がAWACSが報告してきた飛行物体を捉えました。他のイージス艦も次々と捉えています。これよりデータをリンクします!!」

 メインスクリーンにAWACSとイージス艦のレーダーが捉えたデータを表示する。

「飛行物体の解析を急げ!!」

 東郷が指示を出すと「アイ・サー」の言葉が返ってくる。すぐに数々のデータを照合し飛行物体の正体を突き止める。

「AWACSからの報告です。飛行物体は「An−224"アントノフ"」と判明。所属は航空防衛軍の第3輸送航空団と民間協力のものです」

 最初に正体を突き止めたのは飛行物体を最初に捕捉したAWACSであった。すぐにメインスクリーンに表示されているレーダー映像に映る「UNKNOUN」も文字が友軍機のコードへと切り替わる。

「何だ、味方か・・・」

 報告を聞いた東郷は安堵の息をついた。

「どうやら、沖縄に向かっている部隊のようですね。そう言えば、政府は攻撃が最も予想される九州や沖縄などに対し、民間人の為に輸送機を派遣させたそうです。中には民間機もあるようです」

 鹿山は東郷に言う。

「なるほど。それであのアントノフは沖縄へと向かっている訳だ」

「はい、空防軍では開戦当初から邦人救出を目的にロシアから大型輸送機をレンタルしているようです。既に何回も作戦に使われているそうです」

「ほう、我が国とは敵対関係にあるロシアがよくレンタルに応じたものだな・・・」

「ロシアは依然として貧乏ですから。今日と明日の問題に四苦八苦、とにかく経済の為にあらゆる手段を使って外貨を稼いでいるようです。まあ、ロシアにとって敵国とはいえ、大金を得る良い機会だったのでしょう。だから軍民合わせてかなりの数の輸送機のレンタルに応じたのですよ」

「まあ、ロシアの現状から考えればそうなってもおかしくは無いな。しかし空防軍の輸送機でも避難活動は十分に出来るはずでは?」

「空防軍の輸送機は軍事作戦で手が一杯なのです。そこで何処からか大型輸送機を手配する事で、主に邦人救出などの任務に回しているのです。また、民間の輸送関連の企業も物資や人員の輸送で儲けていますし・・・」

 鹿山が答えると東郷は苦笑いをして「そうか」と答えた。



 沖縄国際空港の航空管制室と管制タワーでは騒然としていた。昨日から続く飛行禁止令に対する対処や東シナ海を飛行する旅客機で此処への着陸を余儀なくされる旅客機への対応、既に満杯になっている空港に駐機する旅客機への対応などに職員は右往左往して今起きている事態の対応をしていた。

 航空管制室に航空防衛軍からの通達が入った。1時間以内に沖縄にある全ての空港に本土から派遣された輸送機が着陸する。そして沖縄にいる人々の避難のための輸送を開始すると言うものであった。

 この通達の後、奄美大島の空港から輸送機の編隊を確認したとの報告を受けた。数はおよそ10機前後と伝えられた。そして、管制室のレーダーにも輸送機の編隊を捉えたのであった。

「チーフ!空防軍の輸送機を捉えました。この分だと数十分後に沖縄に到達します!」

 1人の航空管制官が責任者であるチーフに声を掛ける。

「約数十分か。此処の滑走路は使えるのか?」

「はい、使えます!」

「チーフ、ジャカルタ発の日本航空803便が此処への着陸を要請しています!」

「一体どうしたのだ?」

「燃料が切れかけているそうです。先まで東シナ海への飛行が制限され、空中で足止めを受けていたそうです」

「後どれぐらいまで飛べるのだ?」

「はい、あと1時間少しは飛べるそうです」

「それなら他の空港へ回せるはずだろう?もう此処は満室で受け入れ出来るかどうか。もうすぐ空防の輸送機も着陸するし・・・」

「この先に何があるか分からないので此処に着陸させて欲しいとの事です。乗客の安全を考えての事だそうで・・・」

「仕方が無い、着陸を許可する!JAL803便の誘導を行え!!」

「チーフ!本土の管制室からの連絡です!!」

「今度は何だ?」

 チーフは舌打ちをして答える。

「台北より政府専用機が飛ぶそうです。それで、本土空域に到達するまで誘導を行えと」

「こんな忙しい時に・・・」

 チーフは再び舌打ちをして答えた。

"沖縄国際空港完成室へ。こちらは航空防衛軍特別輸送航空隊、応答を願います"

 管制室に輸送機編隊からの通信が入る。

「こちら沖縄管制室、どうぞ・・・」

"あと1時間後にそちらに着陸する。受け入れ準備を行って欲しい。それから我々の他にも第2陣がやって来る。だから空港は第2陣の輸送部隊が着陸できる態勢を取ってもらいたい"

「了解しました。着陸までに滑走路を空けます」

 この言葉の後、輸送航空隊との通信を終えた。

「と言うことです。チーフ・・・」

 通信を行った管制官がチーフに言う。

「全く、唯でさえ空港が旅客機で溢れかえっているのに・・・」

 チーフは舌打ちをして答えた。



「輸送航空隊が間もなく沖縄へと入ります」

 輸送航空隊の動きを監視していた第四航空機動艦隊の空母"神龍"。CICのレーダーは輸送航空隊を捉えていた。

「とりあえず第1陣は無事に到着できそうだな・・・」

 東郷は安堵の息を付く。

「第2陣の方は2時間後に東シナ海に到達する予定です。あと、台湾から政府専用機が間もなく飛び立ちます。そちらの方も警戒しなくてはなりません」

「やれやれ、忙しい一日になりそうだな・・・」

 山本の言葉に東郷は溜息をついて答えた。

「東郷海将、警戒飛行中の航空部隊が帰還を要請しています」

「ふむ、これ以上彼等に任務を続行させるのは無理があるな・・・」

「東郷海将殿、もうすぐ政府専用機が離陸します。もうしばらく任務に就かせては?」

 山本はこのまま任務を続けさせる事を提案する。

「燃料の問題と人員の疲労の問題がある。これ以上、彼等に任務を続けされる訳にもいかん。待機している部隊に直ちに出動させ、警戒任務を交代させる」

「・・・分かりました。海将殿の命令に従います」

 山本が答えると東郷は小さく頷いた。

「現在、待機中のパイロットは飛行甲板にて各機に搭乗、離陸準備が完了次第離陸!帰還機は交代の飛行部隊が警戒飛行に入ったのを確認の後に帰投!」

 東郷の命令の後、パイロット達の待機室に出動命令が通達されると待機していたパイロット達が一斉に待機室を飛び出し、飛行甲板へと全速力で駆けて行った。



 沖縄市のオフィス街、其処に多数のパトカーが集まり、多くの警察官や刑事、さらには鑑識の人間が集まっていた。

 彼等は今朝起きた無差別銃撃事件の現場検証などの捜査に集まっていた。警察官は現場周囲の警備を、刑事の鑑識の人間は現場の中で周辺に散乱している遺留品などを調べていた。

「兜山警部補、本庁(沖縄警察本部)より連絡です」

「本庁から?一体どうしたのだ?」

 地面に顔を近づけ、真剣な面持ちで遺留品を探すいかにも刑事風の身形で体つきの良い中年の男。そこに制服姿の警察官が敬礼をして通達を言う。

「自分は連絡を聞く権限はありませんので。自分のパトカーから本庁に繋いでください。パトカーへは自分が案内します」

「分かった。すぐに本庁からの連絡を聞く」

 兜山は答えると、警官の後に付いて彼のパトカーへと向かった。

「はい、兜山です・・・」

 パトカーにつくと彼はパトカーに搭載されている無線機を手に取り、本庁へと連絡を取る。

 パトカーを通して本庁とやり取りする兜山、話が終わって無線機を置くと深い溜息をついた。

「あの、どうかしましたか?」

 兜山の様子を見た警官は心配そうに訊く。

「いや、大丈夫だ。ちょっと場所を移動する事になった。これから沖縄国際空港へと行って空港警備をする事になった。現場に戻るのなら私の部下にそう伝えて欲しい」

「分かりました。現場の刑事達には自分が伝えます。所で何故空港に?」

 敬礼をして警官、そして何故空港へと赴くのかを訊く。

「何でも、これから沖縄市民の避難活動を始めるそうだ。そして空港に避難用の輸送機がやって来る。それに避難民を乗せて本土へ避難させるつもりらしい。そこで、我々が避難民を安全に輸送機に乗れるように空港を警備すると言うことだ。本土への避難や空港に避難用の輸送機が来ることはすでにマスコミが報道しているそうだし」

「そうでありますか。では、自分はそろそろ現場に戻ります。警部補も新たな任務を頑張ってください」

 警官が言うと兜山は「ありがとう」と答え、自分の車へと駆けつける。そして素早くエンジンを掛け、現場から沖縄国際空港へと向けた。



 沖縄国際空港は騒然としていた。沖縄市民の避難を促す報道が沖縄中に報じられ、本土へと避難する人間が空港へと押し掛けていた。空港内は人で埋め尽くされ、空港警察と係員が必死で空港に押し掛けた人々を誘導していた。

「お知らせします。安保府と国土交通省は避難目的による航空機の運行の再開を決定し、これより通常の旅客機の運行を再開します」

 空港内のアナウンスに人々は歓声を上げる。あちらこちらで安堵の声が聞こえてくる。

「これにより、本土への避難用のチャーター機の他、民間機による本土への避難移送を開始します。本土へ行かれる方はこれより各航空会社カウンターにて搭乗徹続きを開始しますので各航空会社のカウンターへ赴いてください」

 この放送の後、人々は各航空会社へのカウンターへと押し掛ける。それを空港警察と係員が制止し、混乱が起きないようにする。

「やれやれ、何とか東京に戻れそうだな・・・」

 小説家の桐谷は空港待合室のソファーで寛いでいた。先のアナウンスを聞いて一息ついていた。因みに彼に同行した編集の三島は本土へ帰るための航空機の搭乗手続きの為に行かされているのであった。

「先生、帰りの飛行機が取れました・・・」

 桐谷の元にハアハアと荒い息遣いで駆けつけて来るのは担当の三島である。

「羽田までの便、今から2時間後です」

「そうですか、これで何とか帰れそうですね」

 そう言って、桐谷は安堵の息をついて、そのまま、ソファーで横になる。

「先生、何しているのですか?こんな所で・・・」

「あと2時間あるのだから、此処でゆっくり休みましょう・・・」

 そう言って桐谷はあくびをしてそのまま眠りだした。その姿に三島は唯深い溜息をついて呆れ果てた。

「お兄様、帰りの飛行機が取れたのは本当なのですか?」

「うん、何とか皆、同じ飛行機で帰れそうだよ。2時間後の飛行機だよ」

 同じく、帰りの飛行機が取れずに空港で立ち往生していた大人数の兄妹の一行があったが、何とか帰りの飛行機がとれ、妹達は大喜びではしゃいでいた。

「カナ、帰りの飛行機はどうだった?」

 有名バンドを追っかけて沖縄までやって来たお気楽女子高生、西田 ひとみと川島 佳奈美は空港の日本航空のフロントで帰りの便のチケットを取っていた。フロントには川島が赴いていた。西田がいるとややこしくなるから、彼女はフロントの前で待っているようにと彼女に言われ、フロントの前でボーっとしていた。

 しばらくすると、川島が西田の元に戻ってくる。西田は「どうだった?」と訊くと、彼女はVサインをして答える。

「と言うことは帰りの飛行機が取れたんだね?」

「1時間後の飛行機よ」

 帰りの飛行機が取れたことに喜ぶ西田、川島もやれやれと安堵の息をついた。

「ところでさ、朝よりも空港にいる人達が多くない?」

 西田はきょろきょろと辺りを伺う。

「沖縄の人達が本土へ避難するために此処に押しかけているそうなの。ちょっと前に避難目的の飛行機の運行再開と同時に沖縄からの避難勧告が出されたそうよ」

「そんな中、あたし達は東京へ帰るための飛行機がとれた。これって、超ラッキーな感じじゃない」

「ひとみ、前世紀末のコギャル語を使わないの。なんでも此処の人たちの避難には軍隊の飛行機が使われるそうよ。そしてあたし達、観光客や外からの人達は普通の飛行機で、そういう風になっているらしいわ。だから、突然飛行機の運航が再開されたのよ」

「そのアイデアを考えた人って、けっこう頭良いじゃん・・・」

「ひとみよりかはね・・・」

「そうそう、あたしよりバカな人間はまずいないね・・・」

「認めてどうする・・・」

 はしゃぐ西田に川島は呆れた表情で溜息をついた。

 このように、空港内では航空機の運行が限定的に再開し、本土へ戻れる事を知った人々の声が彼方此方で見られた。


 それから30分後、沖縄国際空港には新たに何台もののパトカーと機動隊員を乗せた護送車が到着した。彼等は本庁からの増援で、空港警備の為に駆けつけてきたのであった。先頭を切った一般車による警察車両が空港のゲート前で止まり、それに他のパトカーや護送車が続いて止まる。そして先頭を切った車からは兜山警部補が降りてくる。

「よし、機動隊の第1班と第2班は空港内の警備だ。第3班と第4班は滑走路の警備だ。俺はこれから空港内を警備する機動隊員と共に空港内の警備を行う。その上で現場指揮はこの俺が直接行う。良いな!!」

 兜山が引き連れてきた者達に叫ぶ。全員が了解と答え、すばやく動き出した。

「兜山だ。今、空港に着いた。これより警備活動に入る」

 兜山は無線で本庁へと連絡を取る。本庁からは「了解」の返答が帰ってくる。

「それから、あのテロ事件に関してはどうなった?」

「その件ですが、実行犯と思われる犯人グループが見つかりました。不審な車が沖縄中央道で発見され、駆けつけた警官隊と銃撃戦の末、2人を逮捕し残りは射殺されたと言うことです」

「了解した・・・」

 そう言って兜山は無線を切った。此処に駆けつける前にいた事件現場と事件が気になっていたようである。

 無線を置いた兜山は自分に与えられた職務を行うべく、足早に空港内へと入っていった。



 内戦が続く中国、その西部奥地、まだ開発が行き届いていないのか、其処には深い山々があり、緑が続いていた。しかし、その静かな土地から其処から轟音と共に幾つもののミサイルが放たれた。

 放たれたのは射程が5000km以上ある中距離弾道ミサイルであった。目標は日本、発射された弾道ミサイルは日本の主要都市、軍事目標に向けて天高く飛翔して行った。

「ミサイル探知!その数は10!!いや、20近くはあります!!」

「なんだと!!」

 東京は市々谷、旧防衛庁のビルに設けられた国家安全保障府の地下にある国家戦略司令室。中国から発射された弾道ミサイルを日本のDSP衛星(ミサイル探知衛星)が捕捉し、その情報を戦略司令室の戦略防衛システムに送られる。そして世界地図が映し出されている大型スクリーンとその周りを囲むように幾つもの小型スクリーンには中国大陸から日本列島を映し出し、また発射されたミサイルのデータなどが表示される。

「ミサイル特定!中国の戦略ミサイル軍の中距離弾道ミサイルDF−51「東風51」と判明しました。最大射程距離は5000km〜8000km、戦略核弾頭を搭載しています!!」

「なんだと・・・」

 報告を聞いた日本防衛軍は統合幕僚議長の斉藤は言葉を失った。

「統幕議長!これは明らかに我が国に対する核攻撃です。どうか、戦略防衛の発動を!!」

 戦略防衛軍の戦略幕僚長の石原 規夫一等戦将が斉藤に言う。

「待て、それには総相の命令が必要だ。おい、この情報は総相府にも送られているのか?」

「はい、総相府並びに防衛相、外務省、総務省をはじめ、各防衛軍総監部にも送られています!!」

「分かった。ミサイルが本土着弾までの時間は?」

「約20分〜30分です!!」

「全防衛軍に通達!これより我が防衛軍は陸海空戦の四軍の総力を持って弾道ミサイルの迎撃に当たる。各防衛軍はこの任務に全力を注いで遂行し、成功させろと!!」

 斉藤は全防衛軍への通達命令を命じた。

 命令を命じた後、戦略司令室は騒然となった。彼方此方で戦略司令室の職員達の声が響き渡った。


 同じ頃、総相府の地下では、総相並びに総監官房の閣僚面々が地下に設けられている作戦司令室で中国から発射された弾道ミサイルの情報が表示されている大型ディスプレイに目を向けていた。全員が緊迫した表情であった。

「総相閣下、もはやこれは我が国への戦略兵器に対する攻撃です。戦略防衛の発動を!!」

 この声に総相は何かを決意したのか、ゆっくりと口を開いた。

「戦略防衛の発動を許可する。全防衛軍は総力を持って、これを迎撃、さらに戦略防衛と有効抑止に基づき、我が国の戦略兵器による反撃を命じる」

 総相の決断に周囲は騒然とした。そして、通信機器を手に取った職員が安保府、防衛省、各防衛軍へと戦略防衛の発動を通達する。そして戦防軍こと戦略防衛軍には戦略防衛に基づく、戦略兵器での反撃を命じた。

「まさか、こんな事になろうとは・・・」

 総相は小さく呟いて、大きな溜息と重苦しい感覚に包まれた。


 東シナ海に展開している第四航空機動艦隊は騒然としていた。中国からの弾道ミサイル発射に対して、ミサイルの迎撃命令、戦略防衛が発動され、各艦とも弾道ミサイルの迎撃体制を敷いた。

 東郷は艦橋から、長距離ミサイルを爆装した要撃戦闘機が電磁カタパルトによって次々と離陸していく様子を険しい表情で見守っていた。

「東郷海将殿、各僚艦とも対空誘導弾の発射準備が完了しました。間もなく、弾道ミサイルは東シナ海へと達します。その一部は沖縄に達するそうです」

「命令を通達する!長距離対空ミサイル搭載の駆逐艦、巡洋艦は直ちにミサイルを発射せよと!!」

 山本の言葉に東郷は顔を向けずに山本に命令を伝える。

「了解しました!!」

 山本は答え、CICにミサイル発射命令を出し、そして各僚艦へとミサイル発射が指示された。

 それから1分足らずに長距離対空ミサイル搭載の駆逐艦、巡洋艦から一斉にミサイルが放たれた。放たれたミサイルは「一〇式長距離対空誘導弾」いわゆる米軍のスタンダード対空ミサイルのコピーで、航空機と弾道ミサイル迎撃を目的に造られた長距離対空ミサイルである。

 ミサイルは各発射艦である駆逐艦、巡洋艦のVLSから最大10発の数で空に放たれ、白い帯と共に飛翔していく。

「東郷海将殿、発射されたミサイルは核爆弾なのでしょうか?」

「そうでない事を願おう・・・」

 山本の言葉に東郷は呟くような声で答えた。二人の表情はとても険しいものであった。

 第四航空機動艦隊が弾道ミサイルの迎撃の為に発射した対空ミサイルが目標へと飛翔する中、戦略防衛軍所属の空中レーザー迎撃機が出動し、レーザーを発射しようとする。その情報はすぐに第四航空機動艦隊へと伝えられた。

「間もなく、戦防軍のレーザー迎撃機が目標との迎撃可能距離内へと入ります。我が方の対空ミサイルの攻撃の後にレーザーを発射します」

「第二航空機動艦隊より入電!第二航空機動艦隊も第四航空機動艦隊に続いて対空ミサイルを発射したそうです!!」

「発射した対空ミサイルを確認しました!!」

 空母「神龍」のCIC内は騒然としていた。其処に東郷と山本が艦橋からCICへと戻ってくる。

「状況は?」

「はっ、戦防軍のレーダー迎撃機が出動し、迎撃可能距離内へと達しました。そして第二航空機動艦隊も対空ミサイルを発射し目標の迎撃を始めました。そして戦防軍の迎撃機はこの攻撃の後にレーザーによる迎撃を行います」

 東郷の言葉に主席幕僚の篠塚が答える。

「第二艦隊より入電、第二艦隊も対空ミサイルを発射しましたと報告が・・・」

「了解した・・・」

 東郷が答え、CICで騒然としたやり取りが行われている中、CICに政治士官の面々が駆け込んできた。

「一体何があったのですか?!!」

 野党派遣の政治士官、井上 多賀子が東郷に迫る。

「お静かに願います」

 騒然とする政治士官達に一喝する東郷。

「先ほど、中国から日本に向けて弾道ミサイルが発射されました。現在、我が海上防衛軍はこれを全力で持って迎撃に当たっています。また陸防、空防、戦防も同様に弾道ミサイルの迎撃に当たっています」

 東郷のこの言葉に再び騒然とする政治士官達、そして騒然とする中、与党派遣の政治士官、神田であった。

「それで、その弾道ミサイルには核弾頭は搭載されているのかね?」

「不明です。しかし、搭載されていても、搭載されていなくても、我々は全力を持って迎撃するまでです」

「ちょっと、不明と言うのはどう言う事なのだ?これでは、今後の対応をどう考えて取って行けばよいのだ?」

 東郷の言葉に外務省審議官の陣内 敬二が詰め寄る。

「対応は唯一つです。攻撃を全力で持って迎撃し、後に取るべき行動を取る!」

「核弾頭搭載と非搭載とでは、我々が取る行動に大きな違いが・・・」

 東郷と陣内の口論が続く中、CICのクルーの一人が叫んだ。

「間もなく、我が方が発射した対空誘導弾が目標へと到達します!!」

 この言葉に全員がメインスクリーンに目を向けた。スクリーンには弾道ミサイルの位置と対空ミサイルの位置が映し出され、いよいよ双方がぶつかり合おうとしていた。

"頼む、成功してくれ・・・"

 東郷は心の中で深く願った。


 弾道ミサイルは限界高度まで飛行し、いよいよ目標へと向けて落下しようとしていた。そして、第四航空機動艦隊から発射された対空ミサイルは目標の弾道ミサイルに向けて飛翔していく。双方が衝突する場所は東シナ海の遥か上空であった。

「目標、間もなく海防軍第四航空機動艦隊が発射したミサイルと衝突します!!」

「各員、衝撃の備え、警戒態勢を続行!目標の残存を確認すれば直ちにレーザーを発射する!!」

 東シナ海を飛行する戦防軍の空中レーザー迎撃機は迫り来る中国の弾道ミサイルとそれを迎撃する対空ミサイルを追跡していた。もしも、対空ミサイルの攻撃が外れればすぐに迎撃する為である。迎撃機に乗っている誰もが息を呑んだ。

 そして、次の瞬間、迎撃機のレーダーが弾道ミサイルと対空ミサイルの反応が交わった。これは双方のミサイルが接触した事を意味していた。

「衝撃に備えよ!!」

 それを見た機長が思わず叫んだ。

 中国から発射された弾道ミサイルはマッハ3近くの速度で飛翔するミサイルと接触した。幾つかの対空ミサイルは弾道ミサイルを掠めた。だが、1発の対空ミサイルが弾道ミサイルと接触した。その瞬間、爆発共に凄まじい閃光が空一面に広がった。


 同時刻、東シナ海に展開している第四航空機動艦隊、ここでも艦隊から発射された対空ミサイルが命中した事を確認した。

「ミサイル命中!!」

 この声の直後であった。東郷達がいるCICが突然、グラグラと揺れだす。まるで空母が何らかの力で揺さぶられているようであった。その直後、艦橋からの通信が入る。

「艦橋です。凄まじい衝撃が、うわあ、空が・・・!!」

 艦橋からの通信はと途中で途切れる。

「おい、どうしたのだ?!おい?!!」

 東郷は必死で呼びかける。この瞬間、空母"神龍"をはじめとする第四航空機動艦隊は突如、凄まじい閃光に包まれた。その瞬間、船体が何らかの衝撃によって更に大きく揺さぶられる。

「これはきっと核爆発だ!全てのシステムをオフにしろ、電波障害の被害を出来る限り抑えるのだ!!」

「すでにやっています!!」

 東郷の命令にすぐに返答が帰ってきた。CICの周りを見回すと、CICのコンピューターが砂嵐を出し、バチバチと今にもショートしそうな音を立てている。それでも、何とか全てのシステムをオフにして被害を最小限へと押さえこむ。

 東郷が周囲を見回しているその時であった。一瞬ではあるが凄まじい衝撃が空母を襲い艦内は激しく揺れる。衝撃は震度5以上の地震の衝撃であった。

「全員、衝撃に備えるのだ!!」

 東郷が声を上げたその時、その彼自身が足を取られ、床へと転倒。激しく頭をぶつけた。意識が朦朧としていく東郷の頭の中、彼は何とかして正気を保ち、立ち上がろうとするが、結局は朦朧とする意識の中、そのまま気を失った。


「機長!アレを?!!」

 弾道ミサイルを迎撃する為に上がったレーザー迎撃機群も第四航空機動艦隊同様、凄まじい閃光に包まれる。

「衝撃にそな・・・」

 機長が言葉を発している中、機体は閃光に包まれた。


「何だ、これは!!」

 沖縄国際空港では本土へと避難する避難民が防衛軍の輸送機に乗り避難しようとする。その最中、空一面に眩い閃光が覆い、周囲をも包んでいく。

「何なのだ?これは?!!」

 手を使って閃光から目を守る作家の桐谷。その横では両手で顔を隠し地面に伏せる担当の三島。

「何なのよ、これ〜」

「いや〜ん」

 女子高生の川島と西田、突然の閃光にコギャル風な声で叫ぶ。

「一体何が起きたのだ?」

 空港の警備を行っていた兜山警部補。

 空一面に広がった閃光はやがて周りにいる人間をも飲み込み、全てを光で包んでいく。その場にいた人間はやがて意識を失っていく感覚に襲われ、意識が遠のいていった。

 この時、何が起きたのか?は一部の人間を除き誰も知らなかった。しかし、同時に彼等が想像を絶する事が起きていようとは誰も思ってはいなかった。それを知る事になるのはまだ先の話である。


第2章 完



INDEX

NEXT STORY