ここは雪山のふもと・・・

ギアローは妙な感覚に気づき、魔法を放つ。

それはファイガの火球のようだが、当たった直後はブリザドの様に素早く炎が空へと消えていった。

「ほほう、雪に紛れた私を見つけることができたか」

どこからともなく聞こえてきた声に驚くN・Mと権兵衛。

九牙はそれを聞いて耳を澄まし、気配を感じると飛び上がって自分の足下を打った。

「くくく・・・ここまでできるやつなら姿を現しても楽しませてくれるだろう・・・」

そう言うと、位置的にはギアローの向いている側の木のてっぺんに現れた。

権兵衛とN・Mから見ると背後の木、ということになる。

ちなみに九牙はくるくる回転しながら、その向い側の木のてっぺんに着地した。

幸い、正面を向いていたので不意打ちを受けることはなかった。

その姿は人間に近いが、全身が青系統の色で、瞳がなく、口もないが高い鼻を持っていた。

なおかつ、その体には胸部がブイ字になっている全身鎧鎧のようなものを装着しており、細みで冷気が放たれていた。

「貴様ら、アンキダクス派の人間か、それともクロドリス派の人間か、それともスフィラリウスのように中立派か?」

四人は突如言われて、混乱する。

だが、権兵衛以外はスフィラリウスの名前を知っていた(ギアローはすっかり忘れているが)ので、返答した。

「悪いが、それ以外の、神に反逆する者たちだ。お前たちのやっていることは無意味だと判断したからな」

と、九牙がまず適当に話してみた。

すると、興味が湧いたようで、精一杯の笑みを目で表した。

「おもしろい。我々を倒そうというのか。良かろう。この雪の神、フィフレイドの人間の考えをはるかに越えた力を見せつけよう」

と、言うが、その直後に六面体の炎の檻がフィフレイドを囲んだ。

「長話なんざ興味ない。とっとと消えな」

ギアローがそう言うと、六面体のおりはふくらんだかと思うと、その空間を飲み込んだ。

・・・と思ったが。

「・・・ちっ、雪のバリアで防いだか」

と、球体の吹雪を発生させたフィフレイド。

ギアローの強力な魔法も効かず、平然としている。

「私の雪はその程度の炎では消えないぞ?」

「くっ!」

九牙は銃口をフィフレイドに向けて、撃った。

しかし、その雪ではじかれてしまう。

「そんなものが通用すると思ったいたのか?」

そう言うと、フィフレイドは雪のバリアを九牙の方へと撃ち出した。

「しま・・・」

最後まで言えず、九牙は吹き飛ぶ。

そしてはるか上空から落ちていくが、N・Mの懐中時計のチェーンが絡みつき、軌道を変えて、権兵衛がキャッチした。

フィフレイドはその様子をじっと見ていた。

「・・・つ、強い」

九牙はそれだけ言うと、権兵衛の腕の中で気を失った。

「九牙さん!」

「九牙! しっかりせんか!」

N・Mと権兵衛は九牙を呼びかけるが、返事はない。

「貴様ら! そんな暇はないぞ!」

そう言ってギアローはすぐさま火球を多量に作り出す。

「N・M! 同じことをしろ!」

「は、はい!」

ギアローの命令に反射的に従ったN・M。

背中の羽を飛び魚の前ビレにすると、ひとまずギアローと同じ行動をとる。

「何をするつもりだ?」

フィフレイドが余裕たっぷりに見る。

「これは雪のバリアでは通用しないぞ! N・M! 放て!」

「は、はい!」

N・Mはすぐさま火球を放つ。

その直後、同じくギアローも放った。

「無駄なことを・・・」

先程と同じく、雪のバリアを発生させるフィフレイド。

だが、今度は違った。

「!」

炎はバリアを通り抜けてフィフレイドに命中する。

これは、N・Mが放った火球で開いた一瞬の隙にギアローの火球が侵入するというものだ。

フィフレイドは驚いてはいたが、焦りつつも次から次へとやって来る炎を手刀で斬った。

だが、その腕は少し溶けていたのだ。

「やるな・・・!!」

フィフレイドが視線を落とした瞬間に聞こえた号音。

 

“碧雲”だ。

 

見ると、九牙は雪の上に降ろされ、権兵衛はリモコンで碧雲を操っていた。

碧雲に搭載されている99式2号4型20ミリ機銃。

分速470発発射される弾丸は、雪のバリアを貫通して直接フィフレイドにダメージを与えた。

先程、ギアローの与えたダメージよりもはるかに大きい。

「ぐうぅ!」

フィフレイドはバランスを崩し適から落ち、雪の中に埋まる。

それを見たギアローは頭に血管が浮き出る。

「逃がさん!」

ギアローは走り、右手でフィフレイドの首をつかむと、手元で爆発が起きた。

更にもう片方の手でつるし上げると、再び手元で爆発が起きる。

そして・・・

「くらいやがれぇ!」

伏せ字にした方がいいのではないかというセリフを吐きながら右手に炎を発生させ、思いっきり薙ぐギアロー。

先程の権兵衛の攻撃よりもダメージは明らかにうえだ。

「勝った!」

ギアローが叫ぶ。

神を倒したのか? と思う人もいるが、実は、単にダメージ量で権兵衛に勝ったというだけだった。

N・Mと権兵衛は喜びに満ちたが、フィフレイドは空中に飛び上がった。

「N・M! 九牙を回復しろ!」

「は、はい!」

ギアローに命令されて、つい忘れていた九牙の回復。

すぐさま回復させた。

「くっ・・・戦況は・・・?」

「さっきギアローさんと権兵衛さんの攻撃でフィフレイドがダメージを負ったところです」

手早く戦況報告するN・M。

どうやらギアローに命令されていたから、それになれてきてしまった様である。

「・・・ここは私じゃ役に立てないな・・・フィス」

そう言うとすぐさまその身体的特徴が変わる。

「やはり私じゃないとどうしようもないようですね」

そう言うと、すぐさま星流の槍を取り出す。

そして飛び上がると、木のてっぺんに立った。

「おい! 曲者!」

プラフィスは下をむくと、何かを受け取った。

 

烈火だ。

 

「貴様ならもっとマシに使えるだろうからな! 壊すなよ!」

そう言うと、N・Mの協力ではるか上空に飛ぶ。

先程の懐中時計で、人を持ち上げるようにしたのだ。

そしてその降りた先は碧雲の操縦席。

「・・・わかりました。時が来たら使いましょう」

そう言って烈火を魔法でしまうプラフィス。

ちょうどその時、ギアローも木のてっぺんに立った。

それはプラフィスよりも高い木であったことは、言うまでもない。

「くくくっ・・・今のはきつかったぞ・・・!」

そう言うと、雪のバリアを発生させ、ギアローに向かってはなった。

ギアローは余裕の表情でバリアに向かって手をかざすが、それが当たる直前にプラフィスが切り裂いていった。

ギアローは手を下ろし、プラフィスの背中を見る。というか睨む。

「よ・け・い・な・こ・と・を〜〜〜!」

自分よりも目立たれ、怒るギアロー。

それはフィフレイドは眼中にないといった感じだ。

「やるようだが・・・これならどうだ!」

そう言って、今度は連続で吹雪のバリアが飛んでくる。

プラフィスもさすがにすべてを切り裂くことはできないと判断し、槍先で軌道を変えることにした。

しかし、余りにも大量に来るので、できるだけ避けていたN・Mのところにそのバリアが飛んでいった。

「しまった!」

「きゃあああ!」

N・Mは叫び声を上げる。

そして当たると思った瞬間、思い掛けないことが起きた。

ギアローがN・Mの前に立つと、防御してその攻撃を防いだのだ。

「!!」

これには二人とも驚いていた。

とりあえず、プラフィスは瞬間的に驚いただけだが。

「大丈夫か? N・M」

「は、はい・・・」

思いもよらず、やさしい言葉をかけられて、茫然とするN・M。

もちろん、これも目立つためにしていたことだったのだが・・・

「おらおら、神様よぉ、敵は地上からだけじゃねえぜ!」

そう言ったのは権兵衛だが、風のせいでフィフレイドには届いていない。

だが、再び碧雲の機銃が火を噴く。

何発か当たるが、それで攻撃をやめて更に上空に移動した。

「逃さねえ!」

『待て! 権兵衛!』

プラフィスは権兵衛の頭に直接語りかけたが、もう遅い。

すでにフィフレイドに向かってほぼ直角に追っているのだ。

そして再び攻撃を仕掛けようとするが、今度は勝手が違った。

再び連続してバリアで攻撃をしてきたのだ。

ひとまず、弾丸はそれを貫通してフィフレイドに命中するも、空中でも自由自在というわけではない碧雲はそうは行かなかった。

直撃を受け、左翼がもぎ取られてしまう。

「しまった!」

すぐさま緊急用のボタンを押し、離脱する。

だが、敵はその瞬間を逃がさなかった。

「雪の中で後悔するがいい!」

高度は500メートル。

パラシュートを開く権兵衛だが、その上に大量の雪が覆いかぶさる。

これではパラシュートはあっても意味がない。

しかも、どういうわけか雪はへばりついているのだ。

「うわあああ!」

「権兵衛!」

プラフィスは救出しようとするが、突然の吹雪に吹き飛ばされてしまう。

ひとまず、宙返りして他の木に着地するも、更に吹雪で吹き飛ばされてしまった。

「くっ、まずい!」

これでは、目立とうとしているギアローでも救出は難しいだろう。

案の定、飛び立ったギアローだが、すぐさま同じ結果になった。

権兵衛は局地的・・・というのはおかしいが・・・な吹雪の影響も受けず、重力に従ってまっすぐ落ちていっていた。

「どわぁ〜!」

そう叫びながらギアローはぶざまに吹き飛ばされていた。

もはや救出は間に合わない。

レビデトをかけようにも距離があり過ぎる。

ギアローに吹き飛ばされた時は助かったが、今回は死、あるのみだ。

が、

ここでまたN・Mの懐中時計が役に立つ。

思いっきり横に重力をそらされ、落下速度が落ちる。

そして権兵衛は深い雪に埋もれて助かった。

「・・・こやつを忘れていたな」

そう言うと、フィフレイドはN・Mに手をかざす。

「まずい!」

今度こそ、本当にまずい。

この距離では確実に間に合わない。

ギアローが瞬間移動でもできればいいが、できたとしても今はふてくされてやろうとはしない。

だが、またもや意外なことが起こったのだ。

N・Mは槍を作り出すと、バリアを弾いたのだ。

「!!」

「私だって・・・戦える!」

そう言うと、フィフレイドに向かって跳躍した。

「おまえでは無理だ」

そう言って、今度はたくさんの雪玉で攻撃する。

これは防ぎようがなく、直撃を受けて落ちていく。

だが、今度はプラフィスの救出が間に合った。

「もうあなたの勝手にはさせませんよ」

「ふん・・・?」

何か上空から落ちてくる。

碧雲だ。

「碧雲! おい、曲者! あれを助けてやってくれ!」

「助けろ、といわれましても・・・」

と、困った表情になるプラフィス。

あれだけ重そうなものを、果たしてどう助けろというのか。

「ふん、我が片付けるものではないな」

『そうだ! なぜならおまえが片付けられるのだからな!』

突如頭に響く言葉。

ギアローだ。

「何!? どこだ! どこにいる!?」

と、碧雲は相変わらず落ちていく。

権兵衛は悲痛な面持ちだが、他のものにとってはギアローの居場所の方が知りたい。

そして・・・

「終わりだ!」

突如碧雲の操縦席から出てきたギアロー。

直前だった。

頭を捕まれ、その手は熱く感じられた。

「ばかな・・・我が負けるのか!?」

「ほう、負けを認めたか。なら死にな!」

そして真っ赤に焼けたギアローの手はフィフレイドを粉々にした。

 

 

 
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