ギアローがどこかへと出かけた後、古津矢九牙がN・Mのトビウオの前ヒレを見て不思議そうにしている。
「あの・・・何か変でしょうか?」
「そりゃー、天使の羽がトビウオの前ヒレになっちゃう人がまともな分けないもんね☆」
「うう・・・ひどいです・・・」
「・・・プラフィス、お前どう思う?」
するとすう、と黒髪から金髪へ、メガネが消去され、耳が伸び、そして後ろ神を結んでいるひもがゆるんだ。
「これは明らかに魔法効果を強化するための生態系としか思えませんね。私には劣りますが」
「戦闘用ってことね♪」
「え? でも私、このカッコで強くなったとは思えないのですが・・・」
ピルピルと、前ヒレを動かしながら言う。
「それでは肉体に直接関係する力ではないのでしょう。おそらく魔法力の強化、もしくは特殊な能力使用のきっかけとなるものでしょうね。」
「ふ〜ん♪」
キイナが言う。
「よく見てみると、その力は十分、神に対抗できる力がだと思います。早く目覚めさせることですね」
そう言うと前髪をかき上げる。
「う〜ん、剣術だけじゃ不足って訳ですね・・・って、私、神様に何かしましたか?」
何だか涙目で訴えかけるN・M。プラフィスはにっこりと笑いかけて吐き捨てる。
「そうですよ、あなたは神に見放されたのです」
「・・・いやあああああああああ!」
「もう遅いよ♪」
キイナの追い討ち。
「ああ、何で私はいつもこういう面倒なことにしょっちゅう巻き込まれてしまうのかしら?」
「あ、今回が初めてじゃないんだ♪」
「今まで邪神の討伐が3回、大きな裏組織を壊滅させることが5回、邪悪な魔法使いを倒したことが4回。全部巻き込まれてしかたなくやったのですが・・・」
「・・・これは、ギアローさんもとんでもない拾い物をしたものですね」
N・Mの実績を聞いてさすがのプラフィスも驚かずに入られない。N・Mの顔から嘘が感じられないので余計だ。
「ねー、私は何かそういう特殊な力はないの?」
キイナが聞く。プラフィスはじっとキイナを見ると口を開いた。
「あなたは伝説のトレジャーハンターの技が使える才能がありますね。そのうち開眼するでしょう」
「わー、楽しみ☆」
「もう用はないですね、それでは戻らせて頂きますよ」
そう言うと金髪が黒髪に、メガネが出現し、耳が縮み、後ろ髪を結んでいたひもがきつく締められる。
「どうやら終わったようだな」
「便利だね〜、プラフィス♪」
キイナがご機嫌になって言う。
「あいつ、本当はN・Mに興味があっただけで、あんたを見たのはただのついでだからな。そう何度も話が聞けると思わない方がいい」
「別にそんなこといってないよ☆ まあいいや、N・Mちゃん、プール入ろ♪」
「は、はい!」
こうしてキイナとN・Mはまたプールに入っていった。
古津矢九牙はそれをほほえましく見ていた。
「さて、ギアローがまだ神に接触できるわけがないからな、今日はこの快適な部屋でぐうたらしてくか」
そう言って山積みにされていたフルーツをひとつ取ると、それを食べ始めた。
そして一言。
「・・・まずい」
・・・何食べたのだろう?
キイナとN・Mはえんえんとプールで遊んでいた。長いすべり台などもあり、遊ぶ道具には困らない。
特にキイナは動き回っていたのだが、何か関知し、その動きを止めた。
「どうしたんです?」
N・Mが聞くが、キイナは手で黙ってというと、聞き耳をする。やはりおかしい。物音が遠ざかっていく。それは覗き魔の足音ではなく、本当につい先程まで聞こえていた生活の音が遠ざかっていくのだ。
「・・・N・Mちゃん、何か起きそうだよ♪」
「えっ・・・」
突然そのようなことを言われても・・・と困惑していると、キイナは後ろに飛びさった。
そしてキイナのいた場所に雷が落ちてきた。
「あっ・・・」
その上なりは明らかに魔法によるものだ。自分たちはいったい誰に襲われているのだろうか?
「N・Mちゃん♪ 私たちの武器を持ってきて☆ それまで私は時間稼ぎするから♪」
N・Mはうなずくと、すぐにプールから出て、階段を下りていった。
さすが今までとんでもないことに巻き込まれた少女なだけあって、その反応も相当早い。
「さてと♪ 本当は魔法で応戦したいところだけど☆ あのへんなのに効くかな☆」
そして空を見ると、昆虫を連想させる形をしたものが飛んでいる。色もいろいろあった。その先に銃口があり、そこから雷を発射するようだ。その背後に同じようなものが更に複数飛んでいる。しばらくよけていると、だんだんとその集団は固まってきた。
「これは格好の的だね♪」
キイナはそういうと、雷をよけながら唱える。
「『アイスガ』!」
氷の結晶が発生し、それが固まり、そして敵をその中に封じ込め、ダメージを与える。魔法がかかり終ると敵は蚊のように落ちていった。
「うう・・・疲れた☆」
敵を全滅させたことを確認すると、ひざをついた。
「う〜ん、やっぱり判断謝ったかな〜☆ ものすごく疲れたよ♪」
「キイナさん! ・・・あれ?」
「おや? 終わっていたようだな」
古津矢九牙とN・Mがやって来た。
「遅〜い、N・Mちゃん♪」
口調こそ何か楽しそうだが、ものすごく疲れているように見えた。
「お前、何使ったんだ?」
「きゅ〜きょくのこおりまほ〜☆ あ〜♪」
そういうとキイナは倒れた。
「キイナさん!?」
「大丈夫だ。おそらく魔法を使い過ぎたのだろう」
確かにキイナは魔法を使っていたが、それはたったひとつだけということは知らない。
「フィス、何か感じれるか?」
しばらく待つ九牙だが、プラフィスからの返事はない。
「あいつめ、いったいなにさぼっているんだ・・・」
そこまで言うと、考古学者の勘というか、危険を察知し、急いで飛びのいた。
だがその選択は不正解だった。
「九牙さん! ああ! 九牙さんが光に・・・!」
「しまった! フィス! いないのか!」
そう言うまでに全身が光にはまろうとしていた・・・が、次の瞬間鏡のごとく、光が大きな音を立てて壊れた。
「・・・? ああ、この『覇光のお守り』が・・・」
と、胸のポケットからお守りを出した。
「すでに神を敵としてみた時の対策を古代から研究していたというのか?」
前髪をかき上げながら言う。
「今度はなんか・・・大きいのが来ましたよ」
N・Mが言う。今度は何か巨大な鳥がやって来た。赤と白の鮮やかな模様をして、首が長く、その後ろ側から頭のてっぺんにかけて長い毛が生えている。その毛は青色だ。
鳥はケエーッと鳴くと、雷があたり一体にまき散らされた。古津矢九牙とN・Mはよけることに成功したが、そのせいでキイナが直撃を食らってしまった。
「きゃっ!」
気絶していたキイナだが、今の電撃で回復した。
「キイナさん!」
「・・・ひどいな♪ 誰もかばってくれないなんて☆」
少しこげながらも軽口を聞くキイナ。 それを聞いた九牙は安心する。
「あの鳥を何とかすればいいようだな。私が相手しよう。お前たち二人では荷が重い」
そう言って鳥に向かって銃を抜き、目にもとまらぬ速さで撃った。どうやら鳥は攻撃専門らしく、よけることはしなかった。だがダメージはそれほど見られない。
「・・・タフな鳥って嫌いだ。ズーには以前相当てこずったんでな」
そしてプールの水を見ると、撃ちながら呪文を唱え始めた。
地に近きに住まう水の精霊よ
その力
長き太き牙となれ
「『アクエリアタスク』!」
やはりというか、水が弱点だったらしく、今度は少しよろめいた。
鳥も危ないと思ったのか、口を開け、その先に電撃の玉を作る。
「くっ! 『アクエリアファング』!」
九牙は力をふりしぼってたくさんの『牙』を作り、撃ち続けた。だが今度は何かフィールドのようなものが張ってあるようで、『牙』はすべて直前に消えてしまう。
そうこうしているうちに、電撃の玉は発射された。
「まずい!」
この位置、この広さでは仲間おろか、自分すら危うい。プラフィスなら何か手があるかもしれなかったが、なぜか出てこない。
だがこれは意外な方法で解決された。 ナイフが飛び、電撃はそこに集中し、鳥に命中したのだ。それでも爆風によって三人は少々ダメージを受けるが。
「いったい何が・・・」
「ごめんね〜♪ じっとしているのは耐えられない質なの☆」
ナイフを投げたのはキイナらしい。 だが鳥には聞いた様子はなく、雷に帯びていたため回復してしまっているようだ。
だがそれでも全滅するよりはましだ。 更に驚くことに、遺跡で見つけた『牙』が鳥に向かって使用してされているではないか。
いったい誰が、と振り向くと、『牙』の使用者はN・Mだ。
「魔力の変換方法が難しいですが・・・やって見せます。九牙さん、援護は任せて下さい」
「・・・わかった」
どうして『牙』が使えるかは聞かず、そう言うと遺跡で入手した魔法でボウガンを取り出し、水色の矢を取り出した。
「銃は攻撃力と命中精度と連射性にすぐれているのだが、こういうやつはやっぱり矢の方が効きそうだな」
そう言うと、『牙』と共に矢を発射する。それに重ねるようにN・Mの『牙』が使われた。鳥は再び電撃の玉を口を開けて作り始めている。
「ごめんね〜♪ チャンスは見逃さない質なの☆」
ナイフはボウガンよりも早く、鳥ののどに達し、かなり大きなダメージを負わせた。
そして矢は鳥を貫く。
「やったか!?」
鳥はけたたましい泣き声を発した後、プールに突っ込んでいった。
「終わった☆」
キイナが喜ぶ。
「良かった・・・!?」
N・Mが胸をなで下ろしたところ、電撃の玉が複数出てくる。
「バカな・・・!」
そして鳥は水中からとは思えないほど鋭く飛び上がり、そして羽を羽ばたかせると、羽が電撃の玉と共に落ちてきた。
「ぐあっ!」
「きゃぁ!」
「ぐうっ!」
口から出すよりは小さい電撃の玉だが、量が多いので先程よりもやっかいだ。キイナも投げても投げても切りがなく、ついにナイフがなくなってしまった。
もちろん九牙は水色の矢で応戦したり、N・Mは電撃の玉に向かって『アクエリアファング』を連射し、少しでもダメージを抑えている。
「N・M! 電撃の玉には『ジオファング』を使え!」
「何です〜、それ!」
N・Mは応戦に忙しく、何かおかしい言葉で返すが、これで九牙はすべてを悟った。
(なるほど、この子はただ私のまねをしているだけなのだな。よし!)
「N・M! 見ていろ!」
大地に住まう土の精霊よ
その力
鋭き牙となれ
「『ジオタスク』!」
そう唱えると、鳥に向かって土属性の魔法の矢が飛んでいった。その間にあった電撃の玉はすべてかき消しながら鳥に命中する。ダメージこそ水属性の時に劣るが、それなりのダメージは与えている。
「わかりました! えい!」
どうも形がいびつでスピードはないが、とりあえずは電撃の玉をかき消せるだけの魔力はこもっている。
「ようし、九牙さん! この玉は私に任せて、後は・・・!?」
電撃の玉を消すのに夢中になって体当たりをしてくる鳥にはまったく気がつかなかった。その上直撃しただけでなく、すれ違いざまに電撃の玉をいくつかばらまいていった。
「ああっ!」
「許せ!」
九牙はN・Mに向かって『ジオファング』を放った。
N・Mに直撃したのはもちろんだが、電撃の玉をすべてかき消していた。
「あ、ありがとうございます・・・」
「フン、ギアローがいればもっと楽に行けそうだったのに・・・」
九牙はすでにプラフィスを助けの手としてみるのをあきらめて、今はギアローに祈った。
だがもちろんギアローは来るはずがない。 だが代わりに・・・
「あうっ・・・」
「キイナさん!」
羽をカッターにし、体中を切り刻まれたキイナは、先程アイスガを使ったこともあって体力に限界が来た。
「ごめんね〜☆ 私が一番乗りみたい・・・」
そう言うと、不意に体の傷が癒えた。だが気は失っている。代わりに本能が体を支配した。
鳥にとって、最悪のタイミングだった。 とどめと言わんばかりに体当たりをしかけたのだ。
だが体当たりは空を切り、電撃の玉も何もないところにはなっていた。
「あ・・・あれは!」
「キイナさん、すごいです!」
キイナの手にしていたメイジマッシャーは分身を残しながら移動しているキイナの手によって、鳥を切り裂いた。そしてついに鳥は絶命した。
キイナはそのまま本当に気を失い、倒れてしまった。
「・・・あれはいったい・・・」
「・・・フィスの言っていた伝説の奥義か・・・?」
九牙はこのパーティーの潜在能力の高さに驚いていた。
それと、なぜキイナは突然回復したのか・・・謎が残る。 だがただ三人は気づいていなかっただけだ。
体にターバンを巻つけているものの存在を・・・
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