54本の白い筋
すべてが平行に、夜空を飾る
そして、それらは高度を下げる
海面すれすれに
衝撃波が海面を泡立てる
だが、それを見る者は無い
ただ淡々と、それらは飛び続けるのみ…
機械により制御された、機械
命令を達するまで、あと5分…
CRAZY ROAD
第七話
『曙光』
「ふは〜っ、冗談じゃねーぜ? 味方にあんなバケモンみてーな大砲で撃たれちゃよ?」
クレーンで引き上げられた掃海艇が、舷側に収容されておよそ30分後。
乗員も、元の持ち場に戻っている。
ちなみに、掃海艇には原子炉炉心安定維持用のレーザー発振器が積まれていた。
ながとの二番核融合炉が分解されていたのは判っており、恐らくそこから取り外し、何らかの目的のために持ち去ろうとしたのだろう。
「威嚇のつもりで撃ったのだ。余はそこまで野蛮ではない」
「それより、一部屋血の海だったぞ。誰がやったんだ?」
答える狂と、反対に聞く鷲村。
「それを聞くんじゃねーよ」
苦笑いする龍世と、気を利かせる龍二。
「それよっか、お前、誰だよ」
月明かりうっすらの下、鷲村を指差す龍二。
まあ、暗いので殆ど見えないわけだが。
「私か?」
「そーだよ」
一息つく鷲村。
何かあるのだろうか。
だが、すぐに口を開く。わしむら テレサ みなさん よろしく
「鷲村天烈鎖だ。魅那惨、夜露死苦」…
しばしの静寂が辺りを包む。
「テレサ? に、似合わねぇ…」
「わ、悪かったな!」
「それと…え〜と…女?」
龍二が、何か躊躇うかのように口を開く。
「そーだ」
鷲村に歩み寄る龍二の横で、納得している狂。
そういえば細めの顔立ちをしていたな、などと。
「信じらんねぇ。確かめてやるぜ」
言うが早いか、いきなり股間に手を伸ばす龍二。
「!うわっ!!?」
「ホントだ。付いてねーや…って」
――!?
ジャキッ
「な、なに物騒なモン出してんだ! わかった、落ち着け! オレが悪…」
ドワォォォン!!
「うわぁぁぁあああああああああああ!!」
「待てやコラ、エロガッパァ―――っ!! 潰れたトマトにしてやるぜぇ―――っ!!」
「…」
「お似合いですね〜」
ダッシュで逃げる龍二と、ショットガンを撃ちまくりつつ追いかける鷲村。
それを見て呆れる狂と、のどかに感想を述べる龍世。
「…余には、危険人物が増えたようにしか見えないが…」
丁度その時、電気が復旧したようで、甲板にも僅かに窓から照明の光が届く。
「一応、艦橋に戻りましょうか」
「そうだな」
そうして、二人は艦橋に向かうのだった。
戦艦ながと前檣楼基部・司令塔。
照明無き室内は、既に死傷者が運び出され、無数の計器が淡い光を放つ、いつもの姿を取り戻している。
しかし、そこは緊迫した雰囲気に包まれていた。
54の輝点が、まっすぐこの艦目掛けて突っ込んでくるのである。
距離は約100km。
対空捜索レーダーのライブラリによれば、99.86%の確率で、88式地対艦誘導弾であるという。
「ミサイルの標的データ解除を?」
真剣な面もちで尋ねる狂。
仮に全弾命中としても、この艦は沈まない。
しかし、死傷者多数は避けられないだろう。
なんとしても、阻止しなければならない。
「数が多すぎて、間に合いません」
「司令部に問い合わせて、自爆させてもらう…という方法はどうですか?」
「信用されませんでした。まだ敵に制圧されていると思っているようです」
「…ロックダウン半径は?」
「原子炉二基では、いずれにせよ退避は不可能です」
室内の全員が考える。
「スタンダード改はどうです?」
兵員の一人が、やおら口を開く。
スタンダード改は高性能対空ミサイルだ。
「ミサイル迎撃兵器じゃないんだ。こんな小さな目標相手に、ロックできない…」
再び、気まずい沈黙。
「…気化弾だ」
唐突に、狂が口を開く。
皆が注目する。
「主砲の弾種にあったはず。これで一定範囲を火の玉にしてしまえば、叩き落とせるのではないか…?」
『それだ!!』
司令塔内に、大きな声が響き渡った…。
ちなみに気化弾とは、可燃性液体燃料を込めた弾丸である。
爆発の第一段階で、これをエアロゾルの形にして散布。
第二段階で、撒き散らされたこれに引火、広範囲を火炎地獄に叩き込む兵器だ。
酸素を奪って燃やし尽くすそれの威力は想像を絶すると言う。
対地攻撃用として開発された物だが、一部では使用禁止措置さえ執られているという、極めて強力な兵器だ…。
「主砲、斉射用意。弾種気化弾。目標、接近中の対艦ミサイル」
『了解』
再び旋回する巨大な鉄の箱。
「撃ち漏らした分は、ファランクス2の出番だな」
誰にともなく、呟く狂。
「よく解りませんが、上手く行きそうなんですよね?」
心配げに聞く龍世。
とは言っても、柔らかい表情に恐怖の色はない。
「多分…な」
答える狂。
しばし、時が流れる。
張り詰めた緊張の中で。
『一番主砲塔、発砲準備ヨシ』
『同じく二番、ヨシ』
「総員音と閃光に備えよ! 斉射!!」
この夜、二回目となる51cm主砲の一斉射撃。
仰角27度で火を噴く8つの砲身。
甲板と砲身を焼き焦がさんばかりの爆煙が、海面をも泡立てる。
超自然現象を思わせる轟音が、すべてを圧する。
彼我の距離、既に約30000m。
主砲なら、必中距離。
だが、高速で移動するミサイルに対してどうなるか、誰にも判らない…。
緊張の時。
一秒が、一分にも、一時間にさえ感じられる。
皆の顔に、冷や汗が滲む。
司令塔は重装甲だ。
従って、彼らが死ぬことは無いのだが…。
近くで見れば壮観な眺めだ。
いや、凄絶な眺めだろう。
ながとの乗員乗客には、想像することしかできない。
気化弾8発の炸裂――
「輝点残り10…いや、6発撃ち漏らしました!」
安堵の息が聞こえる。
「気を抜く場合ではないぞ。まだ6発“も”残っているのだ。次を」
穏やかながら、厳しい言葉を放つ狂。
「わかってますよ。ファランクス2、起動する。 主砲、次弾装填して発射用意!」
さっきから指揮を執っている男の声。
先任士官。
襲撃の際は、自室で寝ていて無事だったそうである。
同僚に死なれた直後で、よくやっているな。
…とは、狂の感想だ。
「9時の方向、距離6000m。間もなくファランクス2の有効射程に入ります」
主砲の装填は間に合わなかったようだ。
初代ファランクスは、高性能20mm機関銃とも呼ばれていた物で、ミサイル迎撃用の全自動機関銃。
これのレーダー及び射撃系統を一新した物が、ファランクス2。
その能力は、初代の1.5〜2倍に相当するという。
「撃て、一発も通すな!」
ロックオンを示す警告音を聞くと同時に、命令が下る。
機関銃は、M61A1長砲身20mmバルカン砲。
それが片舷四基、毎秒100発で弾丸を弾き出す。
響き渡る、耳障りな騒音。
一発を撃ち抜く。
そして、次…。
これが、最後の手段――。
「しかし、危ないところだった」
タクシーの中、助手席の狂が呟く。
「何がだ?」
後方から鷲村の声。
いまさらながら、飾り気の欠片も無い声とセリフ。
「いや、三式一型重SSMだが、アレは巡航ミサイルにもなりうる兵器なのでな、少々心配していたのだ」
そう、四種もの誘導方式を持つこのミサイル、地上目標を標的とすることも可能なのだ。
しかも、超音速飛行・射程2300km・弾頭重量5.5トンとあっては、トマホーク以上の凶悪ミサイルに他ならない。
もっとも、そんな事は公表されていないのだが。
「へ〜…。ま、あの組織はそんなのには興味なかった、ってことだろ」
他人事な雰囲気を漂わせている鷲村。
その隣で、にこにこしている龍世。
「ところで、どうするんですか?」
その龍世が、口を開く。
「何が?」
「だから、テレサさんの居場所ですよ」
「あ〜、名字で呼んでくれ。調子悪い」
ポンポンと自分の頭を叩く鷲村。
「たしかに、イメージではないな」
「…燃やすぞ」
しかし、よほど気にしているらしい。
「宗像城は取材陣が来るだろう。とすると、うちで匿った方が良いだろうな。広大な敷地で部屋も多い」
抗議(恐喝?)の声を置いて、本題に戻す狂。
ほとぼりが冷めるまでは、桜井航研内に匿っておくつもりらしい。
鷲村本人も文句はないようで、ふんふんと頷いている。
礼を言わないのは、さっきの狂の発言によるものだろう。
そんなこんなで、タクシーは走り去る…。
「ちょちょいのちょいって感じよ。ま、この天上天下唯我独尊世界最強宗像龍二閣下を敵に回したのが、運の尽きってヤツ? ガハハハハハ!!」
港に詰め掛けた報道陣と、調子に乗りまくりな龍二。
その背後から、旭日が顔を出す。
長い長い夜の、それが終わりだった…。
あとがき
個人的に、長かった…。
実際は大した量でもないんですがね。
つーか、バトルももう当分いいですが、兵器ネタもいい加減飽きました(苦笑)。
さて、二章序盤は学園シーンも戻ってくるでしょう。
(…また少し兵器ネタが出て来ますが…まあ、メインを張ることは少ないでしょう…)
では、充電期間の後、また会いましょう。
今後も『呉威爺・狼怒』、夜露死苦!