「最新の状況はどうだ」

 

日本海艦隊司令部へ、一本の電話が入る

 

「新しい情報はありません」

 

中年の通信兵が答える

 

「…そうか。わかった」

 

男は電話を置き、考え込む

 

「撃っても沈まない。特殊部隊を送り込もうにも、対空射撃は熾烈なものになるだろうし…」

 

「ジャミングはどうですか?」

 

もう一人、別の男の声

 

「無駄だ。アレの兵装にはすべてECCM機能がある…」

 

男は頭を抱え、椅子に座り込んだ

 

 

すべては、この戦艦のことだった

 

何事もなく佇んでいるように見える、巨大なフネ

 

しかし、その内部で、状況は着々と変化していた…

 


CRAZY ROAD

第五話
『炎』


 

「ゴホッゴホッ!」
「が、ガスマス…ゲホッ!」
例の物を吸い込み、大変なことになっている者が約二名。
何者かの足音が響く。

 

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」

 

「お前はもう死んでいる…」
龍二のパクリ攻撃をまともに喰らって、昏倒する二人。
「ケッケッケ。よっしゃ、マシンガン頂き」
龍二が仕留めた敵の数、これで16。
マシンガン14挺と、手榴弾4発、ガスマスクに防弾チョッキ。
マシンガンは弾倉だけ外して持ち運んでいる。
いずれも正攻法ではない。
実に多彩なブービートラップに嵌めた結果だ。
“反則大帝龍二”とは、あながち嘘ではないのだろう…。

「おっ?」
走る龍二の視界に、また人影。
咄嗟に隠れ、様子を見る。

どうも、変だ。
しかも、引っかかる点がある。
「おい…」
警戒しながら、近付く龍二。
明らかに、奴等とは違う。
黒装束でもなければ、マシンガンを持っているわけでもない。
物騒な物と言えば…二本差し。

「おい、アネキ」
安心して、その背中に声を掛ける龍二。

返答が無い。
「なー、どうしたんだ、おい? 返事しろよー」
相変わらず返答がない。
しかし、毅然として佇んでいるように見える。
人違いか…?と思いつつ、正面に回ってみて、龍二は聞いた。
「…スー……スー…」
そう、安らかな寝息を。
そして、その顔は間違いなく双子の姉・龍世である。
「た…」

 

「立ったまんま寝てんじゃねーよー!!」

 

だだっ広い艦内に、龍二の叫びが響き渡るのだった…。

 

 

 

 

「これで全員ですか?」
シーキングの操縦席から、例によって黒ずくめの男が訊く。
それもローターの回転音と、エンジンの咆吼により掻き消されがちだ。
「いや、向こうで交戦中だ。掃海艇という手もあるが…」
答える男。
考える様子だが、口調からして幾らか階級が上なのだろう。
そこへ、無線が入る。
『リーダー、こっちは私が食い止めるから、そっちは先に行けよ』
他のメンバーの軍隊調とは違った言葉遣い。
そういう声が無線から響く。
「鷲村か。わかった頼む。あと一隊を収容したら飛ぶぞ」
甲板上を、バタバタと走ってくる数名を指し、指示する男。
「了解」
ヘリ飛行甲板は既に展張されている。
いつでも飛べる体勢だ…。

「ほら、さっさと戻れ!」
ゆっくりと歩いてくるヤツを正面に捉え、周りの連中に指示する者一名。
「了解」
一人で防ぐという行為に対し、何の感情も感ぜられない返事が、承諾を伝える。
そして、キビキビとそれを実行していく。
指示を出した者は、その態度に心中舌打ちしつつ、連装ショットガンを構える。
相手は避けるつもりがないらしい。
一瞬迷う。
誰も、殺人を望むわけではない。
だが、引き金を引く。
二回。
派手な砲声が続けざまに響き、砲身が交互に火を噴く。
「クックックッ…」
相手は仰け反るも、妖しげな笑みを浮かべ、なおも歩いてくる。
「防弾チョッキにしても、バケモンが…」
次発発射準備を整えつつ、呟く。
如何に防弾チョッキを着けていたとしても、近距離でショットガン二発を喰らってなお立っていることは、不可能のハズだ。
しかし…。
さらに二発、火を噴く。
反動が強烈だ。
だが、その分だけの威力はある。
ようやく相手が後ろへ倒れる。
撃ったヤツは無線を取り出す。
「こちら鷲村。始末したけど…私は掃海艇に向かうぞ」
『了解』
いつでもショットガンを撃てるようにして、無線を切るヤツが、鷲村という者だった…。

 

 

 

 

「眠いです」
「だーっ、その話はすんな! オレだって眠てぇよ!」
まあ、だからといって、あんな状況の中、立ったまま寝ているのもどうかと思われるが
前檣楼外部の階段を使い、司令塔を目指す二人。
カンカンカンという、金属音を残して。
司令塔は割と低い場所にある。
装甲防御の兼ね合いがあるためだ。
防空指揮所と光学射撃装置、レーダー関連が頂部にあるのだ。
地図を広げつつ、先行する龍世。
龍二は地図などロクに読めないから、どうしてもそうなる。

「ここ、ですね」
扉の前に立つ龍世。
「おい、ちょっと休…」
肩で息をしながら、のたのたと付いてくる龍二。
気付かないのか、扉を開ける龍世。
鍵は掛かっていなかったらしい。
目の前に広がるのは、狭い廊下。
「左側三番目のハズです」
「だから…ハァハァ…」
まあ、高さ30m分の階段を全力疾走しておいて、息一つ切らさない方がおかしいだろう。
しかし、なおも龍世は進む。
「…あれ? どうしたんですか?」
扉に手を掛けた龍世が、ようやく龍二の疲れに気付く。
「どーしたじゃねーよ…。少し休ませてくれ」
「…一刻を争いますし、一人でやりますね」
おい待て、という龍二の静止より早く、再び菊花丸で鍵を破壊して、侵入する龍世だった。

掌底、裏拳、肘、峰打ち。
侵入から1秒以内に放たれた4発の攻撃は、4人を即座に戦闘不能にする。
残るは一人。
「くそ…」
至近距離で、マシンガンの照準が合う。
僅かに眉を動かす龍世。
響き渡る銃声。
ただし、一発。
「よくも人のアネキに銃口向けてくれたよなぁ、オイ。この宗像龍二様がたっぷりとキョーイクしてやるぜ? コラ」
煙を上げるパイソンを構え、キケンな笑みを浮かべている龍二。
別にシスコンというわけでもないのだが。
「またですか?」
にこやかに突っ込む龍世だが、なんとなくそのやりとりは恐ろしい。
いずれにせよ、あっさりと司令塔は奪回されてしまったのだった…。

 

 

 

 

「綺麗な星空だ…。それほどまでに、余を祝福してくれるのか…」
甲板に仰向け。
ついでに、己の血を辺りに撒き散らしている狂。
『こちら鷲村。始末したけど…私は掃海艇に向かうぞ』
雅な気分に浸っていた狂だったが、そんな声で現実を思い出す。
紅月を肩に、完全な健康体で立ち上がる狂。

「誰を始末したというのかな?」
「わぁっ!?」
相手の背後から紅月を突き付ける狂と、跳び上がって驚く相手。
「鷲村というそうだな」
「…そうだ」
不死身か、この野郎は。
鷲村の頭に、そういう諦めにも似た呆れが浮かぶ。
いや、実際諦めざるを得ないだろう。
ショットガンを4発も撃ち込まれて死なないヤツが相手では…。
「殺さないのか?」
訊いてくる鷲村。
狂は割と身長が高いのだが、こいつも同じくらい。
暗くてよくわからないが、髪はロン毛らしい。
やや低めの声だ。
「美しい星空に免じて、というのは冗談だが」
一旦区切る狂。
「重要参考人として事情聴取出来そうだからな」
ロマンもへったくれもない。
そんな本音をズバリと言い放つ狂。
「そうか。いや、寝返ってもいい気分さ…」
「ほぅ?」
しんみりとした口調で、意外な事を言い出す鷲村。
空を見ていた狂も、顔を向けて反応する。
と、今まで響いていた爆音が大きくなり、ヘリが艦上構造物の合間から姿を現す。
「…形で表してくれたら信用するが?」
何故かと訊くつもりだったのだが、急遽冗談に差し替え、ヘリを指差す狂。
あくまで冗談だ。
が。
「ふふ…そうか」
意味ありげに笑う鷲村。
表情はよくわからないが、これも同様だろう。
ヘリの方へ手を翳す。
「魔法でも撃つのかな?」
冗談をさらに重ねる狂。
「似たようなものだ」
が、意外な返答だ。
眉を動かす狂。
「フレイムナーガ」
突然だった。
落ち着いた声と同時に、辺りがいきなり明るくなる。
巨大な火箭が、鷲村の掌から現れ、幅も、長さも爆発的に膨張しつつ、夜空を焦がして突き進む。
さながら、炎の竜と言ったところか。
ヘリを巻き込む。
外板を融解させ、すぐに燃料に引火。
一瞬のことだ。
ところで狂は見た。
炎に照らされた鷲村の顔を。
割と線の細めな、整った顔立ちだったが、憎しみの色が、僅かながら、はっきりと読みとれたのだ。
何かあるようだな…。
狂は一人、そう思っていた…。

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

鷲村登場!

実は結構気に入りです。

クックックッ…ヤツに関係したシナリオ上の設定も多いですし。

しかし、今回は連中の目的もはっきりするはずだったのに、長くなってしまった。

ま、急がずに行きますか。

では〜。


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜


・・・くぁ。
はぁ・・・やっぱ、バトルが楽しくてカッコいいなぁ・・・
バトルシーンが苦手な自分としては、かなりの尊敬ですよぅ。


さてさて、鷲村。
まー、あの三人に対抗するなら、魔法だかESPだかの一つでも使えませんとね(笑)。


ところで、龍世さん。
あああっ、寝惚けキャラって好きなんですよおおおっ!
てゆか萌えッ! 立ったまま寝る! サイコーです、ナイスです、もーバッチリベリグーッ!


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