「あと7分」

 

速度を落とす海の要塞

 

「1番炉心温度、安全水準を下回りました」

 

惰性でなおも進みつつ、僅かに進路が左へずれる

 

「安全装置1番から12番まで全基解除」

 

やがて、完全に静止する

 

「作業を開始します」

 

ダークグレー一色に塗り固められた、島の如き艦体

 

「1番外壁、取り外します」

 

巨大な主砲塔が、今は静かに静止している

 

それらは月光の下、鈍く輝いていた…

 


CRAZY ROAD

第四話
『月下狂奏曲』


 

「あ〜コラ、そろそろ吐こーぜ? お名前は何だ?」
「…」
壁に沿って縛り付けられた男が二人。
顔中、あざ、こぶ、傷だらけだ。
どのくらい殴られたか、容易に想像が付くだろう。
事実、二人の意識は飛びかかっていた。
そして、龍二の声も聞こえているか定かではない…。
二人に背を向けて立ち上がり、葉巻を一服吹かす龍二。
「オレぁ、短気なんだよ」
「ぎゃあっ!?」
ナイフ一閃。
それは片方の左脚を貫き、大出血を起こさせる。
「言う気があんのかねーのか!? ねーなら片方は死んでもらってもいーんだぜ!?」
もう片方の口にトカレフの銃口を突っ込み、脅す龍二。
そんな中だった。


『全員に告ぐ。“ながと”は現時刻を以て、我々の支配下に入った。
『元乗員、及び来賓は、速やかに武器を捨て、投降せよ。従わぬ場合、命の保証はしない。繰り返す…


ニヤリと笑みを浮かべる龍二。
「ククク…」
異常な表情の龍二に、更なる恐怖心を抱く二人。
「オレ様がヒーローになる千載一遇のチャンスだぜ!! どこの誰だか知らねーけど、感謝すんぜ、バカヤロウ!!」
そして、彼は嬉々とした表情で壊れかかった扉をぶっ飛ばし、神速で駆けていった。
安堵する二名。
しかし、キケンな置き土産を見つけてしまう。

『スタン・グレネイド』

次の瞬間、二人の意識は途絶えた…。






『作業終了まであと5分ほど掛かります』
黒服・覆面の男が、無線を受ける。
「わかった。ヘリと掃海艇の方はどうなっている?」
ながとは800トン級掃海艇を搭載しているのだ。
『シーキング一機は間もなく離陸可能に。掃海艇はあと10分ほど掛かります』
「そうか…急がせろ」
男は無線を切る。
そして、スナイパーライフルを手に、何処へか歩いていった…。






「…」
歩いていた。
「………」
いや、この場合は…
「…ここはどこなんでしょう?」
そう、龍世は迷っていた。
地図が見当たらない。
たとえあっても、照明の落ちた廊下でそれを発見・判読するのは、非常に困難なはずだ。
取り敢えず、目の前に扉が見える。
大きな両開きの扉。
押してみる龍世。
「…」
開かない。
力一杯押してみる。
「………」
開かない。
菊花丸を抜く龍世。
「ていっ!」
鍵穴に対して垂直に向いた菊花丸が、僅かにぶれる。
それからは想像も付かない、大きな金属音。
鍵穴のあった場所には、菊花丸の断面とまったく同じ形をした穴が開いている。
完全に垂直に突きを撃てば、菊花丸の耐久性ならば、鋼鉄を十分貫通できる。
無論、相当な技量が必要であり…むしろ神業に近い。
これを称して『強甲破点突き』と呼んでいるのは、FFかぶれの狂と龍二だ。
菊花丸を収め、再度押す龍世。
簡単に開く。
「お」
入ろうとして、しかしその瞬間に後ずさる龍世。
無数の弾痕が、開かれた扉に残される。
室内は照明がついており、明るい。
3人の全身黒装束(マシンガン付き)と、その後方に多数の来賓らしき人々。
「おとなしく武器を捨てろ。さもなくば、彼らの中から無作為に一人殺す」
無機質な声が、機械的に響く。
銃に刀で当たるのか? とかいう馬鹿にした感じは無い。
プロだ。
「人質を取るのは卑怯ですよ?」
対し、普段とまったく変わらない調子で応答する龍世。
「早く捨てろ」
まったく同じ意を繰り返す声。
村正に手を掛け、走る龍世。

――!

「これで対等ですね? 武器を捨ててください」
三人の目がそれを確認し、脳からの指示が反射神経を伝わるより早く、その内の一人に村正を突き付け、要求する龍世。
5mという距離を、相手に反応すらさせずに移動し、一人の首に刀を突き付ける。
残る二人の驚愕の表情は、しかし、マスクに遮られ、見ることは出来ない。

ズガガガガガガガガガ!

僅かの間を置いて、二人のマシンガンが、容赦なく龍世と仲間を狙う。
悲鳴を上げ、全身から血を噴きつつ、絶命する男。

ドッ!

ガッ!

そして、続けざまに二つの音が響き渡り、マシンガンの発砲音が止む。
左アッパーと、手加減した峰打ち。
いずれも腹を直撃。
相変わらず、視覚によって判別不能の速度だ。
最後に、味方に撃たれた男に対し、一礼する龍世。
そんな時、遠くで一つの爆発音が轟いた…。






「ぎゃっ!」
「ま、まきびしか!?」
「くそ、姑息な手を…!」
そんな声を後目に、とにかく走る龍二。
「ぶぅわはははは!! オレ様に追いつけると思うなよ、バーカ!」
ついでに、調子に乗って後ろに言い捨てる。
「誰がバカだ」
「…」
しかし、頭に硬い物を突き付けられ、固まってしまう。
「その拳銃を貰おうか」
「…けっ!」
銃を投げつける龍二。
「ポケットから手を出せ」
「へいへい、そりゃご丁寧に…とか言っちゃったりして!?」
などと言いつつ、龍二は不敵な笑みを浮かべている。
男は顔をしかめるが、理解しがたいといったところか。

ボンッ!

突然何かが龍二の手で破裂する。
すかさずマスクとゴーグルをセットする龍二。
粉塵が舞い散り、視界を塞ぐ。
「え、煙幕…ぐ、ゴホッゴホッ!」
胡椒だ、チョークだ、あるいは理科準備室から盗んできた、正体不明の化学物質やら。
それらをノリで固め、火薬の周りにごってり塗りつけた物体。
いざというときのスタン・グレネイド予備軍だ。
そんな物の粉塵が体に入ったとして、ロクな事が起こるはずがない。
龍二の予想はバッチリ当たっていた。
男は既に泡を吹き、痙攣さえしている。
「ケッケッケ、バーカ。オレに逆らうヤツは皆こういう末期を辿るんだよ」
さらに十数個の同じ物体を弄びつつ、捨て台詞を置いて、走り出す龍二。
そんな彼の耳に、遠方からの爆発音が入ってきた…。






「99対戦車誘導弾は、誘導目標が無い場合は直進するのだよ…クックックッ…(妖笑)」
黒い筒を下ろし、妖しい笑みを浮かべているのは、他ならぬ桜井狂。
彼の居る後甲板上では、小規模な火災が発生している。
甲板上に可燃物は無いため、放っておけばすぐに鎮火するだろう。
物の燃える音に混じり、再び銃声が響き渡り、彼を狙う。
「クックックッ…そっちか…」
銃声の方向へ、再び筒を構える狂。
それを確認し、数名が脱兎の如く逃げ出す。
「ジ・エンド」
筒から物体が放たれる。
オレンジ色の炎と、白い煙を曳くロケット弾が。
直後、第二艦橋の左舷方向、甲板上で爆発。
一瞬閃光が走り、次の瞬間には赤熱した煙がキノコ状に上昇していく。
飛び散る破片。
人影が一つ、海に投げ出される。
そして、銃声は止む。
「さて、ダブル宗像が心配だな。早めに合流したいところだが…」
弾が切れたランチャーを捨て、何処へか去る狂だった…。

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

ふぅ〜、強いですね、主役級三人衆は(まあ、普通の意味で強いのは一人だけかも。残りは卑怯だし)。

今回はまだ三者三様に暴れているだけです。

ストーリーに絡んでくるのは、次からですな(謎笑)

しかし、やはりこういった型式の方が書きやすい。うむ、やっぱりこの形で行こう。

では、桜華狂咲でした〜。


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜


・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・ふうっ。

一分で読み終えてしまったこの虚脱感を言い表すにはどうしたらよいだろうとか謎不明。
てゆーか、面白い小説ってある意味罪悪だよなー、つい一気にすぱっと読み終えて、続きを読みたくなる。
常習性のある麻薬なんかと似たようなもんだ―――って、前にも言ったな。

あ、これオフレコね。
こんなの作者に聞かれて「だったらつまらなくしてやろうか? あぁ?」とか言われたら困るし。

・・・へ? 生放送? し、しまったぁぁぁぁ!?



なにやってんだか。

それはともかく、ろうふぁみりあです。
やーやー面白かったですよう♪

主役級三人無敵。
つーても、三者三様の強さがあってすっげー楽しませてもらいましたっ。

龍二君は色々と手数が豊富で、龍世サンは超人的で、狂クンは・・・まあ邪悪で(なにがだ)。


ううううっ、次回が楽しみでっ。
さーてさてどーなるんだこれからぁっ!?


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