寒々しい朝の空気

 

「せいっ!」

 

静寂を破る掛け声と、風切り音

 

そして、斜めに瞬く銀の閃光

 

美しい曲線を描くそれに沿って、物体が斜めにずれ、やがて上部が音も無く落下する

 

まきわら斬り

 

一般に、そう言われているものだ

 

その人物…宗像龍世は、伝家の宝刀・村正を鞘に収め、立ち去る

 

これもまた、いつもの出来事だった…

 

 


CRAZY ROAD

第二話
The battleship


 

「ほ〜ぅ、族追っかけてトカレフ撃ちまくって、全員まとめてバイクで引きずり回したっちゅ〜んじゃな?」

「ま、まあな」

その頃、宗像城城内・通称“主の間”。

いや、実際には別に城ではない。

ごく普通の住居として登録されているのだが、如何せん外見が天守閣である…ということだ。

たった一つの、しかし大きな窓から朝日が射す中、机を挟み、ソファーに腰掛けている男が二名。

片方は龍二。

                                   むなかた  ごんべえ
もう片方は、その父…すなわち会長・宗像 権兵衛だ。

まだ40に入ったばかりだが、白髪が目立つ。苦労の多い人生だったのだろう。だがその分、落ち着きと自信があると言えるか。

「まあええ。俺も昔はお前くらい暴れたもんじゃ。しかし気ぃ付けろや。お前も完全無敵じゃねぇぞ?」

「…ああ、わかったよ」

内心安堵する龍二。

この親父、機嫌が悪いと平気で息子に銃を突き付けたりするのである。いつかは本気で狙い撃ちにされたこともある。

殆どの面で出来た人間の龍世とは違い、彼は何度も権兵衛を怒らせてきただけに、緊張も相当なのだった…。

「よし。…それより、話があるんじゃ」

茶を一杯すする権兵衛。その動作一つにも、大物の貫禄が見て取れるだろう。

「何だよ?」

権兵衛は茶碗を置き、おもむろに口を開いた。

「式典に出てくれんか? 港でやっとる…」

「なんだ? 式典? 何かあってんのか?」

「招待状が来たんじゃ。今日あるんだが、今日は桜井さんとこと打ち合わせなんじゃ。俺の代わりに出てくれんか? すぐ終わるんだが、時間がかち合っとんのじゃ」

あくまで普通の感じで喋る権兵衛だが、それには、逆らいがたい雰囲気がある。まあ、俗に言う“無言の威圧感”だ。

ところで、宗像城城内には、レーザー発振器の製造設備があり、これに関係して桜井航研と取引があるのである。

正確に言うと、この取引が宗像会の一番大きな収入源だ。

「学校サボれて嬉しいだろ? ああ、桜井さんとこの狂坊ちゃんも呼ばれとるようじゃから、いつもの三人で行ってみてくれや」

短くなった葉巻を揉み消し、言い終える権兵衛。

「まあ…いいけどな」

行き当たりばったりで生きている龍二。今日も予定は無く、安請け合いする。暇つぶしが出来て良い感じか? などと考えて。

ちなみに、龍二には例の威圧感は効いていない。怖いのは撃たれることだけ。慣れとは恐ろしいものである。

「で、会場はどこだ?」

「“ながと”。でかいフネじゃ。行きゃすぐにわかる」

そう言って、招待状を手渡す権兵衛だった…。

 

 

 

 

クロガネ
黒金の城。

圧倒的存在感。

己の小ささを嫌でも思い知らせる、信じがたい巨体。

そんな場所に、二人は着いていた。

「よっくこんなモンが水に浮いてるよな。だろ、オイ? つーかよ、戦艦だなんて聞いてねーぞ」

ストームタイガーを押して、辺りを見回す龍二。

信じられねー、何時の間にこんなモン造ったんだよ。それが感想だ。

「う〜ん、そうですね」

同感する龍世。苦笑いが浮かんでいる。驚きというよりは、呆れというべきか。

二人が居るのは艦首側上甲板。

取り敢えず、目の前に巨大な物体が見える。

楽に25mプール三つ分くらいはありそうな巨大な箱から、4本のこれまた大きな…30m近くある筒が伸びている…。

そう、いわゆる“主砲”…壱式五十四口径五十一糎四連装砲だ。

最大射程距離は68kmに達し、その砲弾重量は2トンを超す…史上最強の艦載砲だ。

同じ物がもう一つ、その後方に、一段高くなって搭載されている。

そのさらに後方に、黒光りする、誇大妄想的とも言える程の塔。

日本戦艦の巨大な前檣楼は、大和型の完成から60年以上経過した今も、なお受け継がれているらしい。

海面上の高さ73mのそれには重装甲が施され、イージス・システムの他、指揮系統が集中している…。

「…というわけだが、解ってくれたかな? まあ、兵装のメインは主砲ではなくミサイルなのだが…」

解説を終え、二人に振り返る桜井狂。

「まあ…な」

強さに憧れんのはわかるけどよ…やりすぎじゃねーのか? 幾ら掛かってんだ?

返事も上の空で、いろいろと、多少的外れな感想を頭に浮かべる龍二。まあしかし、強さに憧れるということは、人間の本質的な傾向の一つではある。

それと、他人が大きな力を持つという事への恐怖…。これが物事をややこしくすることは、往々にしてあるわけだが。

「それより、何時の間に現れたんですか?」

いつも通りの微笑みを浮かべ、質問をする龍世。

「まあ、細かいことだ。それより君たちこそ、何をしに来たのかな?」

龍世の突っ込みに軽く答え、代わりに質問する狂。話をすり替える狙いもあるらしい。

「親父の代行だぜ。式典に出ろってよ」

「ああ、なるほど。…ところで、ストームタイガーは向こうに停めてくれ」

そう言って、艦尾側を指差す狂。しかし、は? と首を傾げる龍二。

「ヘリの格納庫がある」

ああ、と納得し、龍二は再び動き出す…。

「ところで、その二本差しは何なのかな?」

「え? あれ? あはは…そのまま持ってきちゃったみたいですね」

笑って答える龍世。その様子からして、腰に差しているのを忘れていたらしい。

しかし二本差しというと、少し語弊がある。なぜなら、両方とも太刀級の長さがあるからだ。その片方が、朝振っていた村正。もう片方は直剣で、菊花丸という…。

「日本刀など持って、よく乗れたものだ…」

この艦の警備はザルか? という、もっともな疑問を浮かべる狂。

「おう、それよ、それ。なんか本名出したら、何でも持ち込んでいいって言われたぜ? どうなってんだ?」

「余に言われても、わからんよ。君のような危険人物に対して、“何を持ち込んでもいい”など、正気ではない」

肩をすくめる狂。むしろ、こっちが聞きたいね、といったところか。

実際は、日本海艦隊(“ながと”が所属している)司令長官と、宗像権兵衛との間に付き合いがあり、上からの特別な計らいがあったわけだが。

「うるせぇ! テメーに言われたかねーよ! また弾くぞ、コラ!?」

「をっと、これは失礼したな(妖笑)」

勿論三人の知るところではなく、そこでオチが付いて、三人はバイク置き場経由で、艦尾側の仮設会場へと向かうのだった…。

 

 

 

というわけでありまして、在日米軍の大幅縮小の代替条件として、この艦の建造維持が必要と…

「ねむてぇよ…」

演説の続くこと二時間。そう、二時間。こと龍二には、耐え難い苦痛だ。既に睡眠の相が現れて1時間と55分である。

それでも寝ないのは何故か。

答え:不明。

本人すら理解していないのである。

アネキでさえ寝てんのに、なんでこのオレ様が眠れねーんだ?

自慢じゃねーけど、オレぁ、演説なんて1分以上起きてられた経験ねーんだぜ?

という具合に。

まあ、今回の例外とて、あと2分で終わってしまうのだったが…。

 

 

 

「それでは以上です。間もなく勤務を再開しますので、取り敢えず艦内にお戻り下さい」

もう夕刻だ。

臨席者の三割が寝ている状況で、響き渡る乗員の声。

「んあ? やっと終わりやがったか…」

さほど大きな声など響いていない。声に限らず、特に変わった音は無い。

“以上です”という言葉に反応し、目を覚ました龍二の視界に、紅に染まった見渡す限りの大水塊が飛び込んでくる。

「…日帰りじゃねーのか? なんだよオイ? 周り海じゃねーか。聞いてねーぞ?」

誰にともなく聞く龍二。狼狽しているのは、誰が見ても明らかだ。理由は簡単なもので、着替えがないという事だけだが。

「あれ? 知らなかったんですか? 親善訪問でウラジオストクまで行くんですよ、このフネ」

「裏磁汚巣屠苦だぁ――――っ!? おい、待て! 聞いてねーぞ!?」

絶叫する龍二の声が、虚しく黄昏時の空に響き渡る。何人かが馬鹿でも見るように龍二を見ているが、今の彼には関係ない。

「復路と向こうの停泊期間を合わせて、ざっと2週間だ。まあ、頑張りたまえ」

所詮他人事だ、と言わんばかりの狂。いや、文字通り他人事だと考えているはずである。

そんな事などお構いなしに、ルビーのような美しい夕陽は、西の水平線に没しかけている。

「だ、騙しやがったのか…!? 嵌められたのか…オレは…!?」

そして、夕陽に向けて一つの咆吼が木霊した…。

 

ぶっ殺してやんぜ、クソ親父ィ――っ!!

 

 

 

 

 

 

 


後書き

ふ〜っ、なんだか予定は未定を地で行くような状況に(爆)。

今回まで学園のシーンだったハズなんだが…。龍二の暴走も無いしなぁ…。

まあいいか、次で急展開だから(をい)。

それから、設定資料の一部を公開。当分はこれが舞台となります。

 

 

原子力イージスミサイル戦艦『ながと』

  海上自衛隊の誇る、世界最大の海上兵器。
  防御能力を最重要視していて、その上で走・攻のバランスを取っている。
  また、高度に自動化されており、乗員数は割と少なく、その分居住性が良い。艦隊旗艦設備あり。
  そのあまりに強大な戦力より、周辺諸国へ与えた衝撃は極めて大きかった…。

  全長:450m 全幅:52m 基準排水量:42万6000トン
  機関:核融合ギアード蒸気タービン6基(原子炉3基)
  軸数/馬力:8枚羽根スクリュー6軸/96万馬力
  速力/航続力:最大36ノット(≒67km/h)/27ノットで84万海里(155万4千km)
  乗員:1844名
  装備:

  ・1式54口径51cm4連装砲×2
   >主砲。射程68kmを誇る、史上最大の艦載砲。艦首側に2基、背負式で搭載されている。
   >侵略国の部隊が上陸した場合、それを海上から叩くために搭載。
   >1分間に4回一斉射撃可能。砲弾は800発。弾頭は多種多様だが、当然核は無い。

  ・ファランクス×8
   >20mmバルカン砲とレーダーを組み合わせた全自動対空射撃装置。
   >敵の対艦ミサイルから自艦を守るためにある。艦の高い位置に8カ所搭載。射程距離5200m。

  ・227mm30連装ロケット砲×1 
   >射程62km。目的は主砲と同じ。艦尾側の甲板上に、無造作に装備されている。弾は150発搭載

  ・零式三型重SSM
   >VLS(後述)から発射可能の、高性能SSM(艦船から発射され、艦船を標的とするミサイル)。
   >射程2300km、炸薬重量(火薬量)5.5トン、飛行速度マッハ1.5の巨大ミサイル。
   >誘導方式は標的と遠距離では慣性航行(速度、方位、経過時間から現在地を算出する)、
   >その後、アクティヴレーダー誘導(レーダー電波による誘導)、
   >最終的に赤外線(熱に反応)・CCD映像参照(船を画像で識別)誘導で命中する。
   >言うまでもなく、侵略国の艦船を攻撃するための兵器。
   >24発同時発射能力がある。
   >この艦の存在意義とも言える兵装で、その性能は厳秘に保たれている。無論、核弾頭は無い。180発搭載。

  ・SM−2J“スタンダード改”SAM
   >VLSから発射可能の、長射程SAM(艦船から発射され、航空機を狙うミサイル)。
   >射程200km、速度最大マッハ5。慣性航行及びセミアクティヴレーダー・最終段階で赤外線誘導方式。
   >イージスシステム(後述)により、36目標に向けて同時に発射・追跡可能。720発搭載。

  ・VLS(ヴァーティカル・ローンチング・システム:垂直発射装置)×36
   >船体に垂直に埋め込まれたミサイル発射装置。艦尾側に、碁盤の目状に配置されている。
   >筒状のそれは、蓋の部分だけが甲板に露出する形になり、装甲防御がやりやすい。
   >また、多少の設定変更により、容易に異なった種類のミサイルを発射出来る能力を持つ。

  ・対空捜索レーダー×2
   >航空機及びミサイルを発見する。有効半径250km

  ・対海上/地形追跡レーダー×1
   >艦船、陸地を発見する。有効半径60km

  ・対潜ソナー×2
   >潜水艦を発見する。有効半径10〜80km(海水の状況により、大きく変動する)

  ・イージスシステム×1(+予備1)
   >レーダー、コンピュータ等を組み合わせ、多数の目標を追跡しつつ、
   >その内の複数を選び出し、ミサイル等を振り分けることが出来るシステム。
   >ながとのイージスシステムの性能は、厳秘に保たれている。

  ・対潜ヘリSH−3“シーキング”×6
   >潜水艦狩りはヘリコプターに任せている。海難救助も兼ねる。


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はうっ。
くはー、くはー、はうううううううっ(身悶え中)(←やべーって)

あうーあうー。
そりゃ確かにキッチリと兵器等の説明を入れてくれといいましたが。
ここまで書いてくれるとわっ!

とゆーか、すごく良いッ、良さすぎッ。ブラボーッ!(大興奮)
昔っから、スゴイゾ僕らの秘密兵器♪ とかゆーノリが大好きだったんですよぅっ!
ファンタジーの必殺剣、とか究極魔法、とかと同等に好っきゃねんっ!

零式三型重SSMだとかVLSとかイージスシステムとかぁっ!
この設定見てるだけでマジ興奮。はうううううっ♪
いやいや本気で、ご飯三杯はカルイね!(びっ、とか親指立てッ)

あぅあぅ・・・もぉ、どしてくれよかってレヴェルッ。
これからも頑張って、こー、漢の浪漫を触発させるような兵器を出してくださいいいっ!



・・・あ、肝心の物語のコト、なにもいってねぇや(殴)。


INDEX

NEXT STORY