折り重なって響き渡る、重低音
全身に伝わる、心地よい振動
心洗い流すかの如く駆ける、烈風
美しいクロームシルバー
そいつは、二台のベンツを露払いに、アスファルトを征く
街並みが風と共に流れ去っていく
男はさらにスピードを上げ、疾走する
スピードメーターの針がぐんぐん上がり、150を越す
日本国某所・鶴井川町の午前8時
日常的な出来事だ…
CRAZY ROAD
第一話
『宗像龍二現る』
黒いマシンがブレーキ音を立て、停止する。
白のダブルなど着込んだ男は、マシンを降り、うまそうに葉巻を一服。
そして、おもむろに目の前の建物に歩き出す。見慣れたプレートを一瞥する男。
“私立鶴井川高等学校”
男はニヤリと笑い、門へと足を進める。
「行ってらっしゃいやし!」
「ご苦労様です!」
「お気を付けて!」「おう、迎えはいらねーぜ」
背中に浴びせられる“構成員”の声に、振り向きもせず、余裕たっぷりに応える男。
むなかた りゅうじ
宗像 龍二。宗像会会長の子息にして、ここ、私立鶴井川高等学校に通う18歳の生徒である。
逆立てた短い金髪は、もちろん染めたもの。身長は並で、170cm強といったところか。
「私はお願いしますね」
二台のベンツの内、後方に停められた物から、もう一人、長い茶髪の女が現れ、龍二とは逆の要求を発する。
むなかた たつよ
宗像 龍世。龍二の双子の姉だ。
白のワンピースとカーディガン。それに柔和な表情。身長こそ同じくらいだが、およそ龍二とは正反対の印象を受けるだろう。
とてもではないが、組長の娘だなどとは想像出来ない。
茶髪とて、これは天然であって、染めたものではないのだ。
「わかりやした!」
「では、失礼します!」黒塗りのベンツはすぐに発進していく。
「オレのストームタイガーでいいんじゃねーのか?」
龍二が口を開く。
「駄目ですよ。だって龍二くん、いつも時間通りに帰らないじゃないですか」
「ん? ああ、そーか」
連れだって門を過ぎ、校舎に向かう二人。改めて、双子にも、それどころか、1%でも同じ血が流れているようにさえ見えない。
そこで、二人の目の前、校門の角から、一人の男が現れる。
「おはよう。相変わらず美しいね、龍世君。どうかな? 余と共に気ままな空中散歩など如何かな? ストライク・イーグル(※)のタンデムシートなどは、なかなか快適なのだが…」 (※ストライク・イーグル: 米軍F−15E戦闘爆撃機の愛称)
「え〜と…」
にこやかな中に、困った表情を見せる龍世。そんな中、龍二は懐を探る。
パァン!
乾いた轟音。
男の頭部から、霧のような鮮血が舞い散る。そして、龍二の右手に握られた、黒くて冷たい物から、白煙がのぼっている。
「朝っぱらから人のアネキナンパしてんじゃねーぜ? なあ、狂」
「おっと、これは失礼したな。ところで、今日はトカレフか? 龍二君」
さくらい きょう
頭を撃たれた――しかし平然としている男の名は、桜井 狂。長い黒髪と、同じく黒のズボン、ジャケット、ロングコート。
その上、なかなかに妖しい表情だ。ちょっと近寄りがたい。その上に撃たれて平気とあっては、最早人間ではない。
桜井航空技術研究所所長の次男坊で、彼もまた、航空機設計手を目指している。
ために、授業中は常に航空工学の本を読んでいるという、かなり異常な生徒だ。
デザートイーグル
「おうよ、D.E.は反動がデカすぎるからな」「まあ、それは仕方あるまい」
撃たれたことなどお構いなく、語り始める二人。それと、さっきと同じくにこにこしている龍世。
いつもの三人組、といったところか。その通り。もろヤクザな龍二はともかく、龍世に近付く人間も、狂を除けばそう多くない。
「ところでFF7だけどよ、究極召喚獣ってのはどこにあんだ? 見つかんねーんだよ、いくら探しても」
「ああ、アレは…地図に載ってないからな。たしか…」
かなり古くなった名作の話について…。だが、それはある粗野な声によって遮られた。
「コラ、龍二!! お前、また学校に銃持ってきたのか!」
背の高い男(推定教師)が、三人の前に立ちはだかる。
「るせーっ、リーゼント! 弾いたろかコラァ!」 (※弾く: 銃で撃つこと)
「だとーーッ! 教師撃てるもんなら撃ってみやがれ!!」
「上等だコラァ〜〜〜〜っ!! 今すぐ蜂の巣に…」
「ごめんなさいっ!」
ゴッ!
一触即発の状態から、いきなり響く不愉快な調子の衝撃音。
後頭部にしたたか入った手刀に、意識を奪われる龍二。
「すいませ〜ん、後藤先生。毎日毎日」
手刀を叩き込んだ張本人・龍世は、自らが失神させた龍二を片手で抱えつつ、相変わらずにこにこして男に謝る。
「いや、気にすんな。いつもの事だし、お前のせいじゃない」
その脇で、意味もなくポーズを付けている狂。鏡など出して、一人悦に入っている。
しかし、そんな事はどうでもよい。
ごとう まさし
後藤先生とは、龍世の目の前に居る後藤将志の事だ。龍二が叫んだとおり、茶髪でリーゼント。グラサンもよく似合う、およそ教師には見えない男だが、生徒の評判は上々である。
担当教科は社会(歴史)で、龍二・龍世の3−5を担任として受け持つ。
体育教師の間違いじゃねーのか、とは龍二談だが、これを言うと激怒するのである。
「オラ、狂。お前もさっさと入れ。そろそろ始まっぞ」
ちなみに、狂は3−4所属。
「そうだな…。さて、龍二君のストームタイガーだが…」
「気安く触んじゃねーぜ?」
失神時間:38秒。
普通ではないが、ストームタイガーという言葉に反応して、ぱっちりと目を覚ます龍二。
そう、彼のバイクの名はストームタイガー。
ハーレー系のバイクなのだが、最早改造のしすぎ(エンジンまで交換している)で、原型は留めていない。
この名前とて、龍二が勝手に名付けたものであるからして、正規の車種名ではない。
その代わり、最高速度280km/hなどという常識外れのスーパー・パワーを誇る。ただし、排気量その他は未計測に付き不明。完全に違法である。ナンバープレートさえ無い。
ちなみにサイドカー付きだが、これは通称“銃座”。
25mm単装機関砲の旋回射撃装置が取り付けられているという、極めて物騒なシロモノだ。
本人曰く、カーチェイスでヘリに監視されたとき、撃ち落とすためだという。まあ、機関砲の方は、今日のところは搭載していないが。
「じゃあ、先に行っとけや。オレはコイツを停めてくるからよ」
言われるまま、去っていく二人。
後藤はもう居ない。
龍二もまた、二台分のバイク置き場をストームタイガーで占拠して、己の教室へと向かった…。
みなさん おはよう
「魅那惨、雄覇妖!」1時限目・国語。
15分ほど遅れて現れ、挨拶で授業を一時妨げる龍二。葉巻を吹かしながらである。
やれやれと教師が溜息をつく中、窓際最後列席…すなわち“龍二要塞”へと足を運ぶ龍二。
どっかりとソファーに腰掛ける…そう、ソファーに。
それどころではない。
この男の席は、机からして樫で出来た立派な物で、その上にはテレビ、PS2、マンガ・エロ本の山、電子レンジ、メガホン、銃弾(!?)、冷蔵庫、その他諸々が堆積しているのである。
そう、そこで生活できるくらいの勢いだ。龍二要塞と言われる所以である。
「じゃ、後は頼むぜ龍世〜」
「いつも言ってますけど〜、頼むって言われても困りますよ」
隣の席は龍世。
しかし、困った顔の彼女を見ることなく、龍二は眠りに落ちていった…。
2、3限目も睡眠で過ごし、4限目・数学の途中。
「エンターテインメントだ。それしかねえ」
突然響く声に、教室中が一瞬注目するも、すぐに授業再開。
一方、PS2を起動し、FF7の続きを始める龍二。
「え〜と、今日もヘッドホンでお願いしますね」
釘を刺す龍世。
「たまには…いや、わかったよ」
龍世の顔はにこやかに笑っているし、心の中もそうだろうが、どうしても逆らえない龍二。
それもそのハズで、武道と名の付く物を殆ど総舐めにしている龍世がその気になれば、対等の条件で勝てる奴は居ない。
“反則大帝龍二”といえども、身内、しかも女に対して本気は出せないわけで、従わざるを得ないのだ。まあ、本気でも勝ち目は薄いが。
だがしかし、そのお陰で龍二が授業に与える影響は、最小限に抑えられていると言えるだろう。
そして、龍世の干渉は滅多にないわけであり、龍二の方もあまり気になってはいない。
数分後。
「ちきしょ〜っ! 何がエメラルドビッグバンだぁ〜っ!! ぶっ壊してや…」
「静かにしてくださいね」
ドガッ!
鳩尾への一撃で昏倒する龍二。
お守りをやらされる龍世は大変だ…と言うとそうでもない。
18年も付き合った仲で、既にそういう役回りが固定されていて、本人には気にもならないのである。
そんな調子で時は流れ、6限目・歴史。あの後藤将志の授業。
「…そういうわけで、長篠の戦いは…。龍二ッ! 俺の話聞いてんのか、お前は!!」
他の教師とは違い、彼は龍二のやることにケチを付けてくる。
無鉄砲とも言うが、龍二のことを、ヤクザの息子としてではなく、一個人として扱っている唯一の教師だとも言える。
「聞いてねえ、って言ったら感謝してくれるか?」
「…ナメんなよ」
「おお、なんだ? やんのか!? 上等だ!」
まあ、ただの喧嘩友達(教師と生徒にも関わらず)とも言えそうだが。
一気に険悪な空気が教室に漂い始める。
「やめてくださいよ〜、二人とも」
「ん…ああ…。ちっ、お預けだ、龍二」
「勝手にしろや」
が、それも一言で収まるのだった。
とは言え、挑発的に葉巻を吹かす龍二と、顔中に血管を浮かせて授業を続ける後藤。
一触即発なのは、いつものことだ。お陰で他の生徒はビビリまくりである。一応二人とも、関係ない奴には手を出さない、主義なのだが。
それでもいつもは何とか無事に済むのだが、その日は星の運行が悪かった(謎)。
“一触”は、外部から現れた。
響き渡るエンジン音は、ストームタイガーとは違う。
「るせーっ、族!! 鉄パイプで脳ミソぶちまけんぞ、ああ!?」
三階の窓から身を乗り出し、メガホン片手に、教師とは思えない言葉で怒鳴る後藤。
ただでさえ爆発寸前だったせいか、いつもよりキレるのが早い。
「うるせー、殺すぞ!」
「文句あんのか、センコー!」
「テメーこそ脳ミソぶちまけんぞ!?」帰ってくる罵声。
「テメーらぁ…」
「駄目だぜ、後藤。あーゆーのを相手にする方法を…オレが見せてやる」
今にも窓から飛び降りて、襲い掛かっていきそうな後藤に対し、静かな一声。
「ああ?」
「こりゃ教師の仕事じゃねーだろ。あんたは歴史教えてりゃいいんだよ」
そんなセリフを吐き、ニヤリと笑う龍二。
「おい?」
こちらも少々ストレスが溜まっていた模様で、危険な笑みである。
「人殺しは駄目ですよ?」
「じゃあ、死なねー程度に遊んでやる」
龍二が飛び降りた。
三階から。
誰も見向きもしない。いつものことだ。
そして、直後に響き渡る、銃声と怒声と奇声と、エンジン音。
ドウン、ドウ、ドウ、ドウ…
「派威流怒雷婆ァ〜〜!!」
「ぎゃああああああああ!!」
ガシャーン バリバリバリ
パァンパァン
「覚悟せいやコラァ〜〜〜!!」
ドウン、ズギャギャギャギャギャ
…
そんな中、数分時が固まる。
…
「おし、続き行くぞ。斉藤、129ページの5行目から」
そして、学校は平和を取り戻していった…。
あとがき
え〜、
神…いや、新シリーズ『クレイジー・ロード』です。これは(前略)というわけです。
基本的に明るめな(中略)。
最終的に(後略)となります。
これからも桜華狂咲をどうか御贔屓に!
では。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
えーっと。
いいんだろかコレ(汗)。
いっやー、ものすごぶっとんでますねー。バイオレンスですねー。
てゆか、反則大帝龍二って、思わず“ヒキョーの○橋”を連想してしまいそうな(笑)。
ういっす。これからもご贔屓にしますよーっ♪