Rainbow Bird
優
第8章 〜基地2〜
時は少し戻る。
「フォーマー、行くの?」
『避難所』の混乱はようやく落ちついてきていた。フォーマーは背を向けて、ブーツのひもを結んでいる。
「ああ」
相変わらず、背を向けたままだ。
「皆はなんて?」
ルーシーは、近くの木箱に腰を下ろした。辺りには武器が整然と並んでいる。
「思いは同じだ。もう、戦いを終わらせる。終わらせる為の戦いだ」
フォーマ―はもくもくと、銃やサーベルの準備をしている。
「終わらせる為の・・・。『政府軍』にたてつくの?」
「・・・もしも、『反乱軍』が我々を認めないのならば、『反乱軍』とも戦うことになるかもな」
「そう。やはり、はじめるのね?」
「違う」
フォーマーは振り向いて、ルーシーの瞳を見つめた。
「終わらせるんだ」
フォーマーはそう言い残して、去っていった。
沈黙と、ルーシーだけが、そこに残った。囁くような声で、彼女は唄いはじめた。
「―― この花も
その花も
ありのまま
色美しく ―― 」
この地に伝わる子守唄が、辺りに寂しく響く。
「―― あの人も
この人も
ありのままに ・・・」
ルーシーは、歌うのをやめた。
「・・・終わりのない苦しみも、あるのよ」
ルーシーは、つぶやくと、さっと立ちあがった。と、激痛が胸をしめつける。
―― くっ・・・また・・・・・・ ―――
おぼつかない足取りで、ふらふらと、ルーシーは歩き、はじめた。
☆ ☆ ☆
レッジ、ロイ、それにジィンク。三人は無言のまま走っていた。薄暗く、灰色の壁に覆われた基地。
幸い、もう兵士にあうことはなかった。あの、広間までは。
そこは、突然あらわれた。だだっ広い空間。見事なまでの正方形の広間。
その中央に、見事な石像がたっている。長身の女性の石像。今まで動いていたかのような・・・。
「…ラレア?ラレア!!」
それは、石化したラレアだった。
「ひどいなあ。石化かよ。風の妖精に。・・・このねえちゃんも、そもそもこんなところに来るなんて、無茶だけどよ」
「来たな、人間ども」
美しい声に似つかわしくない、荒い言葉使いが聞こえる。
三人は声に反応して、バッと、背後に目を向けた。
ばっちり、『反乱軍』の兵士に入り口を包囲されてしまっていた。
「・・・やばくない?あたしたち・・・」
兵士たちがレッジたちを囲むように円陣を縮める。
「うっ、こいつら、水の妖精かよ・・・。気持ち悪くなってきた・・・」
「大丈夫だべか?!」
ジィンクの顔色が悪い。と、円陣の中から、一人の女性がレッジたちの前に出てきた。
「人間と、妖精か。」
先ほどの美しい声だ。
「げ・・・ア、ア、アリス!!」
ジィンクはどもりながら叫んだ。
妖精軍特有の緑の軍服に身を包んだ、目つきのきつい女性。それがアリス。
面影はあるものの、あの写真のアリスとは別人に見える。
「あなたがアリス?!ラレアになにをしたの!?」
レッジは臆することなく、アリスに挑みかかった。
「人間に味方するなぞ、妖精の恥だ!!人間、そして、そこの妖精、お前たちも、この基地の一部となってしまえ。」
アリスはきつく言いはなった。瞳が赤茶色に燃えている。
アリスが右手を振り上げると、レッジ、ロイ、それにジィンクの足が徐々に石化し始める。
アリスの『力』は他の妖精より、さらに強い。あがなえない『力』だ。
他の妖精たちは虚ろな目をして三人を見ている。
「くそッ。どうするよ、これは」
「石になんのはイヤだベ」
ロイとジィンクが叫んでいる時、ひとり静かにうつむく者がいる。
それは、レッジ。
「・・・アリス、あなたはなにをしたいの?・・・同じじゃない!!この国の、政府の人達と!!!」
レッジはキッと、顔を上げて、アリスの目をまっすぐ見据えて、言い放つ。
「なんだと?」
アリスは静かに聞き返した。
「あなたは、ひどい人なんだっ!!」
レッジはさらに続けて言った。そのオペラ歌手なみの大声が、広間中に響き渡る。
しばし、石化の『力』の手を止め、アリスは低い声でつぶやいた。
「お前のような人間に、なにがわかる?」
アリスの目も虚ろだった。
再び、レッジたちの石化が進む。
足元から、ゆっくりと感覚が消えていく。動こうとしても動けない。
「待て!!!」
広場の入り口に一つの影ができた。
「誰だ!?」
今度はアリスや、『反乱軍』の面々が、バッと振り返る。
「・・・兄さん。生きていたのね」
レッジからアリスの顔は見えない。しかし、容易にその顔が、驚きに満ちているだろうことはわかる。
「・・・アリス」
フォーマーは、ゆっくりとアリスに近づく。ゆっくりと、左手を掲げて。
「兄さん、な・・・なにを?」
フォーマーの『力』が辺りに満ちる。
「ん?あらぁ?私、なんでこ〜んなとこにいるの〜?」
力もぬける、間抜けな声。ラレアの石化が解けた。石化しつつあった他の三人も、石化が解除されていく。
「な、なんだと。くっ・・・・・・もう一度、石に・・・」
「やめろ。アリス」
フォーマーは静かに言った。
「お前たちのしていることは、政府のしていることと、なんら、かわらない。その対象が人か、妖精かということが、
違うだけだ」
「でも、それは・・・」
「村のため・・・だろう?だが、お前たち、『反乱軍』の行動は・・・」
フォーマーの後から、ぞくぞくと自衛団のメンバーが入ってきた。人間と妖精でつくられた自衛団。
「人間!?人間がいる!!!」
自衛団に人間がいることを見て取って、アリスは叫んだ。
「レッジ。それにラレアのおお暴れのおかげで、隙ができた。礼を言う」
「フォーマー?自衛団つれてきちゃダメじゃないっ!!」
ラレアは思わず、フォーマーを叱った。
「政府の思うつぼだぜ?!」
ジィンクも続ける。
「・・・『自衛団』?」
「すまない。だが、このままでは駄目なんだ。・・・アリス」
フォーマーはアリスをじっと見据えた。
アリスは掲げた右腕を、静かに下ろした。
「私は、いや、我々は、今まで、自衛団として、人間からも妖精からも逃げてきた。ここにいるものは皆同じだ。妖
精も、人間もない。『故郷なきもの』だ」
「『故郷なきもの』・・・私たちと同じ」
アリスは無意識のうちにフォーマーの言葉を繰り返す。
「人間を恨むのではなく、人間も妖精も生きられる地にするためならば、我々は戦う。・・・我々は今まで逃げ
ること、隠れることに徹してきた。だが、これからは・・・」
「兄さん・・・。」
アリスとフォーマーはお互いに、「にらみ合う」といった感じで見つめあった。
「私はもう、戻れない。今更、人間となんて手を組めない」
アリスはきっ、と自衛団の『人間』を睨みつけた。
「そうか・・・ならば我々とお前たちは敵同士だ」
「待って!!」
レッジは叫ぶ。
「今更、なんてこと、ないよ。アリスとフォーマー、ううん。ここにいる人たちはみんな、思ってることは同じはずだ
よ」
「そうだぜ。アリス。この国だって、人間も妖精も、一緒に暮らしていけるはずなんだ」
ジィンクも続ける。
「んだ。人殺しなんて・・・誰もしたくないことなハズだべ。」
ロイもうつむいて言った。
「それは・・・。」
アリスは感慨深げにつぶやく。他の『反乱軍』兵士たちもざわめき始めた。
と、その時、それは起こった。
「な。なに!?」
突然の地震。それとともに、天井や辺りの壁が、黒く、茶色く、そして、銀色に輝き出した。
レッジは慌てて、近くにいた、ラレアにつかまった。
「なんなの!?」
ラレアはジィンクに尋ねる。
「『灰』だ!!!政府軍がこの場所に!!!?」
「この場所が知れてしまったのか!?やはり、やはりお前たちが!!!!」
アリスは口惜しげに唇を噛み締め、自衛団を睨みつける。
「ちがう、我々ではない!!」
フォーマーは誤解を解こうと必死に言った。
「全員、すみやかに退避!!」
アリスは反乱軍に指示を出した。
「だめです!!完全に包囲されています!」
「ええ〜!!!逃げられないの!?私たちも!?なんてこと!!!!!!」
ラレアの気が抜けるような声が響いている。その間にも、基地はだんだんその姿を地上に現していく。
挨拶
どうも。優です。
すみません。パクリました。子守唄。
『クレヨン王国新十二ヶ月の旅』(講談社 青い鳥文庫 作 福永令三)より。
でも、あれ、子守唄じゃない気がする・・・ま、いっか。
ところで、主人公(わ、主人公だってさ)レッジたちの方はといいますと、ドジやってます。
ラレアさんはその前に、すでにドジやってたみたいです。なんや、強引です。ま、お約束。
で、アリスあっさり登場。どうでもいいんですけど、石化しかけのときって、どういう感覚に
なるんやろう?ちょっと憧れます。
さて、次回は『政府軍』も出てきます。出てくる・・・と思います。一応、包囲しちゃってるし。
ま、がんばれ。って感じです。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
「終わらせるんだ」
・・・・うわ、すっごくカッコいいしっ! もぉ、フォーマーさん最高すぎますよぅ。
しかし石化ですか。石化といえば以前にもありましたねぇ。とか思い出しました。
妖精、で力の強い人なら誰でも使えうる魔法みたいなモンなんでしょうか?
あと、気になるのがルーシーさん!
子守唄の意味と、ルーシーさんの言葉の意味がとっても気になりますですっ!
しかも、突然の政府軍の襲来。
がんばれ、ってそんな無責任なー(笑)。
くくぅ、次回どうなるのか激しく楽しみですよぅッ。