RainbowBird
優
第4章 港町〜4〜
レッジは思いっきり家の扉を開いた。
「ワーパさんを放しなさ〜い!!」
かなりの大声を部屋中に響かせる。
ドスのきいた声…でなく、耳に響く、高い、高い声だ。
それこそオペラ歌手なみである。
部屋の中には黒革ジャン二人とルスト、そして椅子に座らされている男がいた。
男は黒革ジャンに押さえ込まれている。
我に返るのが一番早かったのは、椅子に座らされた、ワーパだった。
黒革ジャンの隙をついてワーパは立ち上がり、まるでアクション映画のように二人にパンチを浴びせた。
黒革ジャンはやはり不意打ちに弱い。
ルストは拳銃をかまえる。
その前にロイは現れ、見事なタックルを決めた。
さすがに農作業で鍛えた体。
そのタックルはそこそこ強く、ルストは思わずよろける。
「逃げるぞ!」
「もちろん」
奇襲隊のごときレッジたちはワーパを先頭にとっとと逃げ出した。
どん尻をいくラレアはさっと振り向き、追いかけてくるルストたちにむけてきらめく粉をふりかけた。
すると、たちまち、ルストたちの動きが鈍くなる。
まるで見えない何かに押さえ込まれているように、懸命に足を動かしても進めないでいる。
「なにしてるの、あの人たち」
「すごいでしょう。だてに人間と妖精のハーフじゃないんですからね」
ラレア、おおいばり。
「そんなことより逃げようよ」
レッジはとりあえずラレアに言った。
「ん、それじゃあ行きましょ」
一同は、逃げ出した。
その後ろ姿をルストは皮肉な笑いを浮かべて見ていた。
「そういえば、君たちは?」
「あの、あたしはレッジです。こっちはロイ。それと…」
「ラレアは知ってるよ」
ワーパはにっこり笑った。
小麦色の顔に真っ白な歯が見える。
ワーパは大きい。
ラレアですら彼の肩までしかないほどである。
小柄なレッジと並ぶともう親子?と言えそうなくらいだ。実際の年齢はラレアよりほんの少し上ぐらい。
白地に青のストライプのTシャツに紺色のズボン姿。
ワーパはマッチョで陽気な(?)海の男なのである。
「あのね、レッジたちは『白い衣の女の人』に頼まれて、レインボーバードの羽根を『女神の塔』のラーネッドのところに届けようとしているの」
「彼女はどうしたんだ?!」
「彼女?『白い衣の女の人』ことだか?」
「そうだ。羽根を………君に託したのか」
ワーパはしばらくレッジを見つめていた。ワーパの緑の瞳は驚くほど澄んでいる。
レッジはその瞳を無邪気に見返した。
「そうか、たいへんだな。レッジ。オレは船を出さねばならない、かな」
「お願いします」
「わかったよ。まかせときな。つれてってやるよ、『女神の塔に』」
―――――船着場は船乗りの平屋のすぐ近くにある。
そこは倉庫も近い。
ロイにとってはとても、嫌な場所である。
もう、夜もかなりふけて、辺りは涼しい風がふいていた。
なんだか寂しいとレッジは感じていた。
青、灰色、紺――寒そうな色がその場を支配している。
「なんか寂しいところだね」
レッジはロイにささやいた。
「ん、港ってそんなもんだと思うがの」
ロイは小声で答えた。
「ところでワーパさん、あの黒革ジャン集団やらルストやらに何されてたんですか?」
「拷も…いや、質問されていたんだ。他の妖精仲間の居場所を知ってるだろうって」
ワーパはレッジにみつめられて思わず目をそらして言葉をかえた。
「妖精、か。なんでルストは妖精をねらうのかな。『力』もってるから?」
「そうだろうな。実際には妖精は弱い。オレなんて、海の水がないと生きていけない。海水魚と同じさ。そんな風に妖精はまわりの環境に左右されやすいんだ。だから『力』を持って生まれてきた、とオレは思うぞ」
ワーパはまっすぐ夜の闇を見据えていた。
「ときどき、妖精の『力』を恐れて、"分散させねばならぬ"とかって、言う人いるけど、無理なのよね。『力』の集結ってのは」
「なんで?」
「オレみたいな、海の妖精の『力』は火の妖精の『力』と反発し合って、ともに『力』の威力を消してしまうんだ」
「なるほど」
レッジは納得していた。
船着場には小型船がいくつか並んでいた。
小型船の中で少し大きめなのワーパの船だ。
船に近づいたとき、ワーパはフッ、と足をとめた。
「どうしたの?」
後ろを歩いていたレッジも足を止める。
「なんだか海の空気が、いつもと違うんだ」
ワーパは辺りをうかがっている。
レッジもロイもとりあえずつられて辺りを見まわしてみた。海の波の音が聞こえているだけだ。
船は静かに海に浮かんでいる。どこがいつもと違うのだろう。
レッジやロイにはさっぱりわからない。
「なんなのかしら、なんか、やばい?」
ラレアも不穏な空気を読み取っていた。
「いや、大丈夫、行こう」
ワーパを先頭にレッジ、ロイ、ラレアはこそこそと船に向かった。
船と陸を渡している板まで辿り着いた。
板の下の海はそれはそれは暗いものだった。
ロイは思わず身震いしていた。
ロイはおそらく夜の海を大嫌いになってしまうだろう。
甲板からのぞいてもやはり海は暗い。
「こわいか?」
「こ、怖くなんかねぇ」
「お!?」
「な、なんだべ!?」
ロイは飛び上がって驚いた。
「救命ボートしまい忘れてた」
「な、なあんだ」
ロイの心臓はまだどきどきしている。
甲板には二つの救命ボートが無造作に置かれていた。
青いボートと黄色いボート。ほかには縄やら錨の予備やらが転がっている。
ワーパはあまり几帳面ではなさそうだ。
「なにもないよね?」
「船は、な」
一応無事に操縦室に乗り込み、ワーパは舵を握りしめた。
なにごとも今は起こっていない。ワーパはそれでも緊張している。
その緊張がまわりにも漂い、レッジは固唾をのんでいた。
「行くぞ」
船はゆっくりと大海原へ向かって動き始めた。
ワーパは海の波を読み、その上に船をのせる『力』を持つ。海の妖精は天性の船乗りだ。
ときには波をあやつることもあるが、自然の波を読む方が楽だという。
波をあやつるにはそれなりに強い『力』が必要なのだ。
「大丈夫みたいね、良かったわ」
ラレアは操縦室の窓から外の様子をみている。
「安心するのはまだ早い」
ワーパの舵を握る手に力が入った。
―――――ゴオオオオオオ……ゴオオオオオオオ
激しい海鳴りの音が辺りに響く。
「うそ!!!なにあれ」
レッジは港を指差した。
それは、海の底から現れた。
怪物だ。
小さな島、一つ分はありそうな、巨大な怪物。
変色し、黒っぽくなった、海藻が幾重にも巻きついた化け物。
港の船をこなごなにしながら、それはゆっくりと向かってくる。
巨大蓑に目がついたみたいな姿だ。
そして、その目は赤く光り、なおかつ、残酷なものだった。
「あれは、なんなのよ!?」
―イカセハセン、ヨウセイドモメ―
「あの声はルスト!?で、でも感じる。あれは『力』だべ。妖精の『力』の集結体?」
「ええっ!!集結しないんじゃないの?」
「話しはあとだ、来るぞ」
怪物は船に近づく。
「ラレア、舵を頼む。レッジ、ロイ何かにしっかりつかまっておくんだ、いいな」
「ワーパ、どこ行くのっ!?」
ラレアの声を残してワーパは操縦室を出ていった。
―ヨウセイドモナゾ、ケシテヤル―
怪物の声はまさしくルストのものだった。手らしきものをのばしてきている。
「ちょっと、あれって、ワーパさんじゃないの!?」
暗い海に黄色い救命ボートは妙に目立つ。
手漕ぎとは思えないほどのスピードで救命ボートは船を離れ、怪物の方へ進んでいる。
「レッジ、かばんを麻袋に入れといたほうがよさそうだべ、ほれ」
「う、うん」
口を開いた麻袋に黒い鞄を近づけた。
麻袋は一瞬、鞄サイズに大きくなり、鞄を飲みこんだ。
そして再び小さくなった。
「二人とも、しっかりつかまって」
ラレアの声とともに、それは起こった。
ワーパの乗る救命ボートを中心に激しい荒波が起こり出したのだ。
巨大な化け物をひっくりかえすほどの。
まるで、急に嵐が来たかのように港のそばの海域は荒れ狂った。
荒れ狂う海に化け物――ルストの姿すらもう見えない。
レッジたちを乗せた、その船のまわりのみ、かろうじて、静かな海を保っている。
「ワーパ…」
ラレアは呟いた。
次の瞬間、激しい爆音とともに目の前に大海原が開かれた。
と、ともにもの激しい『力』が舵に伝わってくる。
激しく船は揺れる。
ラレアは歯を食いしばって舵を握った。
「ワーパさん、ワーパさんは!!」
船の窓から見える港は、逆巻く波の『嵐』に覆われている。
「まて、レッジいくんじゃねぇざ」
ロイは甲板へ向かおうとしたレッジを止めた。
「いいか、俺が行く。レッジは虹の鳥の羽根を届けなきゃいけない。俺はレッジを『守ラナキャ』いけないんだ」
レッジの両肩をつかみ,ロイは真剣な表情で言った。
「わかった」
ロイのまっすぐな目をみて、レッジはそう言うしかなかった。
「大丈夫だ、すぐ戻る」
そう言い残してロイは甲板に出ていった。
ロイは何とかもう一つの青い救命ボートのあるところに辿り着くと、それを流した。
骨董屋にもらった、波の砂をふりまいて。
「いってくろ。ワーパのところに。ワーパを助けて港に戻れ」
ロイはボートに静かな声で命令した。
承知したというように青い救命ボートはわずかに青く輝いている。
そして、荒れ狂う海の上を飛んでいるかのようにスムーズに流れ、消えていった。
「きっと、これで大丈夫なハズだべ」
ロイは自分に言い聞かせていた。
「ロイ、ワーパさんは!?」
レッジは真っ青になって手すりにつかまりながらも、ロイの目をじっとみつめた。
「ワーパのもとに、波の砂で救命ボートを送った」
ふらふらしながらロイは一番近くの手すりにしがみついた。そのときふたたび揺れが激しくなりだした。
「それならきっと、ワーパさんも助かったよね」
激しい揺れの中、レッジは叫んだ。
「んだ!!」
ロイも懸命に叫び返した。
ラレアは舵に半ば抱きつくようにしながら考えていた。
この大波は海の妖精に伝わる禁断の『力』。
ワーパはもう……。波の揺れにワーパを思い、ラレアは目を閉じた。
――なんで、なんで妖精なんだろう。わたしもワーパも。殺されてしまった、たくさんの妖精たちも……――
(つづく)
ご挨拶
ワーパさん、出てきて、いきなりお亡くなりになるとは…。しかも、ペンギンぢゃなくて、マッチョマンだし…。
はっ、どうも、優です。
♪港町〜〜ラララ〜港町♪
ようやく港町、脱出しました〜。
怪物でました〜。ルスト ザ 怪物。(なぜ、ザ!?)なんだか、ほんとに悪役チック★
ワーパさん、お亡くなりになりました…?いいえ、きっと生きてるはず。と思う。なんたって、『Rainbow Bard』だし。(どういう理由や)
……やっぱり、ドロドロ童話です。
登場人物紹介
ワーパ(25)
マッチョで陽気な船乗りだったのに…。
アクション映画のようなパンチのできる人だったのに…。
♪一緒に〜『めが塔』行こうって〜
たくさんアクションしようって〜
約束し〜たじゃない〜あなた〜約束し〜た〜じゃ〜ない〜〜♪
レッジ、心のウタ。
(注:めが塔=『女神の塔』)
次から舞台となる大陸が変わります。鳥の?大陸。ええっと、どこやったけ?(爆)
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言はリニューアル中につきお休みです(核爆)。
・・・っていうのはやはしダメか。
あーい、第四章終了〜。いきなり逃亡劇から始まって、最後も逃げ回ってましたね〜
てゆーか怪獣。いや海獣?
ともあれ、なんかまた謎々〜そういえば、黒革ジャン軍団も謎ですねぃ。
次なる大陸で、その謎は明かされるのでしょうか?
しかし、最後の
――なんで、なんで妖精なんだろう。わたしもワーパも。殺されてしまった、たくさんの妖精たちも……――
にはぐっと来ましたぜぃ。うぃ。
→NEXT STORY
第五章 海原