RainbowBird

第4章 港町〜1〜



 港町の駅に着いたときレッジはなにか嫌な予感がしていた。
 
港町はもう夕日の光に包み込まれている。
駅のホームは首都のそれに比べてずっと小さなものだ。しかしホームにはたくさんの人々が降り立っていた。そして、それぞれが自分の行き先に向かって歩いている。やがて、ホームはレッジとロイだけになっていた。
 
「レッジ、いくべ?」
 さっきから、立ち尽くしているレッジに痺れを切らして、ロイは促した。

 「なんか、いや〜な予感するな。ま、いいや。うん、ともかく外に出よう」


 港は町の南に広がっている。駅があるのは町の一番北。北から南へ、町は広がっている。…らしい。

 「丘ってどれだべな」

 「骨董屋さんのお友達の家だよね。どこにあるんだろう。あと、シルバー教授の書いてくれた紹介状にある、ワ−パって人の家も捜さないとね」

 「んだな。まあ、まずは丘を捜すべさ」

 「うん、そうしよう」

 レッジとロイは駅の構内にある案内板の前にいた。地図によると丘はどうやら町の南東にあるようである。港の近く、のようだ。
南がどちらかなぞ、レッジたちにはわからなかったがとりあえず駅から出ることにした。
 駅は白色の石でできた、昔の建造物をそのまま改築したものである。ところどころに立派な柱が立っていた。柱ももちろん石でできている。ただ、残念なことに柱はスプレーの落書きだらけだった。
 改札口は人でごった返している。子どもを連れているお母さんや、出稼ぎに行こうとしているのか家族に見送られている男、大工風の男や商人風の老人など、様々な人々が行き来している。改札口の上では電光掲示板が次ぎの汽車の時間を告げていた。ごくあたりまえの、混雑した駅である。
 
 「あたし、この駅きらいだな」
 
 レッジはこの駅に対して普通ではない空気を感じていた。レッジの動物的カンである。
 
 「どうしたんだべ、レッジ」
 
 「なんだか、いやな空気なんだよね、まあ行こう」
 
 「あ、ちょっと待ってくんろ。切符ねぇ」
 
 ロイがダウンのポケットを探している間、レッジは辺りを見まわした。改札口には紺色の制服を着た駅員たちが立っている。どの駅員も同じような紺色の帽子を目深にかぶっている。行く人行く人の切符を切り、来る人来る人の切符を受け取っていた。

 駅員のなかで金のバッチを胸につけた男がいた。その男は特に偉そうだ。他の駅員と違って、帽子はかぶっていない。その猫背の男がちょっと合図すると、駅員がさっと男に駆け寄ってきた。なにかをぼそぼそつぶやいている。すると、無表情だった駅員の表情が、さっと、厳しいものに変わり、どこかへ駆けていってしまった。
 金バッチの男は若くもなく、年老いているわけでもない。ただ、とかしつけられた灰色の髪が妙に年老いて見えた。
 
 「ロイ、見た?」
 
 「あん、何をだ?」
 ロイはようやく見つけた切符を片手に、顔を上げた。
 
 「あ、見てないのね。ほら、あの、改札口の左端によりかかってる人」
 
 「あのおっちゃんがどうかしたんか?」
 
 「なんだかすっごく、恐いや。あんな冷たそうな人はじめてみたよ」

 「そうだべかぁ?」

 「えー。冷たそうだよ。ね、早くこんなとこ、出よう。」
 
 レッジはさっさと改札を抜けた。
 
 ロイはレッジに言われてなんとなく男に目をやった。ふと、金バッチの男と目があう。しかし向こうは無表情で目をそらした。ただ、一瞬あってしまったその目は記憶に残るほど冷たいものだった。あまりに残酷であまりに輝きのない瞳だった。

 そして、ロイはその目をみるのは、はじめてではないと感じていた。彼に会うのは、はじめてではないと。


 何事もなく改札を抜けたレッジとロイは駅の広場にいた。広場の天井はとても高い。真ん中には噴水があり、そのまわりには白いベンチもある。さらに、花壇とはいかなくとも花壇のように立派な鉢植もばっちり並んでいた。広場はまさに室内公園だ。
 
 広場にもたくさんの人がいる。それぞれがそれぞれの目的の為に動いていた。噴水は人々の待ち合わせ場所になっているようだ。

 「な、なんか変だったな、あの男。首都じゃあんな恐そうな奴おらんかったべ」

 「骨董屋さんも恐かったけど、冷たくはなかったもんね」

 「うんうん。でもなあ、あんの、金バッチの奴。見覚えあるんだわ」

 「金バッチか。って、ちょ、ちょっと、ロイ、あれってまさか!!」
 レッジの指す方から走ってきたのはあまりに目立つ集団。あの、「隣町」の黒革ジャン集団である。入口らしいところから、集団は駆けこんで来て、おそらくレッジたちのことを捜しているようだ。

 「に、逃げるべ!!」

 「うん!!」
 二人は駆け出した。全力疾走で。脱兎のごとくに。
 走ったのが悪かったのか、黒革ジャン集団はすぐにふたりに気がつき、追いかけてくる。前より数がこころなしか増えている。

 港町に出た二人は行き先も何もあったものではない。駅周辺は隣町や首都の町並みと似た、赤いレンガ造りの建物が並んでいる。背の高いそれらの建物の間にある細い細い路地をふたりは駆けた。石畳に足音が響き渡る。レッジのブーツの音やロイのスニーカーの音それに駆けて来る黒革ジャンたちの黒革ブーツの音。

 辺りはすでに薄暗い。裏路地というと余計に薄暗く感じる。そんなことはおかまいなし、と、いうよりかまっている暇もなく走りつづける。角を曲がるたび、同じような景色が目に入る。暗い路地、端にあるごみため、だれぞやの家の裏口。

 男たちはいつまでも追ってくる。
 「駄目だべ、これじゃ、埒があかんざ!」

 「どうしよう!!」
 前は骨董屋がいてくれたが今回は誰もいない。
 
 今度こそ、俺がレッジを『守ラナキャ』!!
 
 ロイは自分に言い聞かせた。走りながら首から下げている麻袋をはずす。そしてロイはそれを握り締めた。
 
 「レッジ、次にごみためあったらその陰に隠れるざ!!」
 
 「う、うん。わかった」
 レッジは息を切らしながら答えた。
 
 角を曲がると、また、ごみためがあった。
 大きなごみバケツが無造作に並んでいる。
 
 「あんなかへ!!」
 
 「うん!!」
 
 先に、レッジはごみための陰にしゃがみこんだ。ロイは素早くレッジに麻袋を握らせる。
 
 「ロ、ロイ!?」
 レッジは驚いてロイを見上げた。
 
 「レッジ、これ持って、丘の店いけ。俺もあとで行くかんな」
 耳元で囁き、ロイは駆け出した。麦藁帽子が夜の闇に妙に浮いて見える。レッジと一緒のときよりもよっぽど早いスピードでロイは駆けていった。男たちが通りすぎるまでレッジは身を縮めているしかなかった。男たちはレッジに気が付かずに通りすぎていった。
 
 「…ロイ、丘の店ってどっちにあるのよ!!!」 
 レッジは見知らぬ町で一人になった。
 
 とにかく明るい、表通りに出た。ここは居酒屋の建ち並ぶ、夜の歓楽街だ。レッジはまたも人ごみの中にいた。途方にくれたレッジはあてもなく歩いていた。
 
 あたし、家出娘みたいだ。…まったく、ロイってば。でも、大丈夫かな。…人の心配してる場合じゃないわ。どこに行けば丘に着くのかな。…あ、そういえば地図あったんだ。
 
 レッジはしばし混乱したのち、冷静になって、ポケットから紹介状を引っ張り出した。
 シルバー教授の書いてくれた地図はわかりにくいが、丘の店の場所も描いてあった。わかりにくい地図の中で唯一わかったのは、丘の店は飲み屋街の近くにあるらしいということだった。いつのまにかレッジたちはずいぶんと南に来ていたのであった。
 
 これなら行ける。酒場の明りで地図を見ていたレッジは思った。と、いうわけでレッジは歩き始めた。南東と思われる方向、港の方に。
 


 そのころロイも港近くに来ていた。もうすぐ、町を抜け、倉庫や舟のドックのある、港
についてしまう。丘が南にあることをロイはばっちり覚えていた。さすがのロイでも路地の道順は覚えていない。しかし、だいたいどの辺りにいるかはわかっていた。ロイの頭の中には駅で見た、この町の地図がきっちり刻み込まれているのであった。丘はもっと南東にあったはずだと、ロイはわかっていた。

 しかし黒革ジャン集団はあいかわらず追ってくる。

 「畜生、このままじゃいかんべ。どう逃げりゃええんだ」
 ロイはひとりごとを呟きながらも、懸命に逃げつづけていた。港の倉庫なら隠れるところがあるかも。そう思ったのが運の尽きだ。ロイはもうすぐ、裏路地を抜けようとしている。人々の住む家はもう、なくなろうとしているのだった。

    ☆           ☆           ☆

 「ここが、丘の店?」
 レッジは丘の上にある、一軒の店の前にいた。店の前にはいたがレッジは目を疑った。この丘に、ここ以外に店はない。他にあるのは松林と丘から見える灯台の光り、そして真っ暗な海ぐらいである。

 その店はこぢんまりとしたかわいらしい丸太小屋だった。窓には白地に青い花柄のカーテンがかっている。中からもれる、暖かな、黄色い光りでカーテンの模様が浮き上がっている。レンガの煙突からは焼き菓子の香りの煙が空に向かって流れている。庭にはライラックの木や綺麗に整えられた花壇などもあった。

 レッジの想像していたものと全く違う。とてもあの、骨董屋の知り合いの店とは思えない。

 「ともかく、会ってみよう」
 レッジは自分に言い聞かせた。そして丘の店の戸を叩いた。その戸にはいかにも手作りらしいリースがかけてある。

 「は〜い」 
 中から澄んだ高い声が聞こえた。続いて近づいてくる足音。レッジはあ、やっぱり間違えたかも…と後悔していた。

 そして戸が開かれた。
 「はい?あら、伯父様じゃないのね」

 中から現れたのは美しい女性だった。レッジは生まれてはじめて混じりっけのない金髪の人を見た。まさに純粋(?)。腰近くまである緩くウェーブのかかった金の髪だ。部屋の光りを受けてますます輝いている。

 「なにかようかしら?お店はもう閉めちゃったんだけど」
 ピンクの花柄のワンピースに白いレースのエプロン。少女趣味な女性である。口調も優しく、レッジはますます不安になった。店、間違えた?と。

 とりあえず用件だけでも言ってみようとレッジは話しはじめた。
 「あの、ここは骨董屋さん…じゃないですよね。なんの店なんですか?」

 「ここは雑貨屋だけど。でもどうしたの、なにかお困りごと?」
 どうやらあっているような気がした。骨董屋の言うとおりなんにでも首を突っ込みたがるようである。

 「ええ、これなんですけど」
 レッジは首から下げていた麻袋をはずして彼女に見せた。

 「あら、これって妖精の麻袋じゃないの。なぜ、あなたが?」

 「もらったんです」
 レッジはややこしい説明は全部抜きにして答えた。フクロウレルのことを話すのはたいへんだ。

 「あぁら、そうなの」
 なぜか雑貨屋のお姉さんはあきれたように言った。なににあきれたのだろう。

 「あの、それで、麻袋の中にものを入れる方法はわかるんですけど、出し方がわからないんです」

 「なるほどね。そうねここじゃなんだし、どうぞ、はいって」

 「え、いいんですか?」

 「もちろん」

 「じゃあ、お邪魔します」
 レッジはともかく、お姉さんのあとにつづいた。

 店の中はますます乙女乙女している。部屋を照らす優しい光りはランプによるものだ。

 部屋の中央には大きな楕円形のテーブルがおいてある。青いギンガムチェックのテーブルクロスをかけたテーブルの上には様々なかわいいものが並んでいる。まわりの棚にもお洒落な食器などが並んでいた。
 
 「かわいいお店ですね」
 
 「そうでしょ、うふ。ありがとう。あ、わたし、ラレアっていうの。よろしくね」
 
 「あ、あたし、レッジです」
 慌ててレッジも、自己紹介をしたのであった。
 
 ラレアは実に不思議な、紫の瞳を持っている。行動の一つ一つが舞っているような感じだ。彼女の肌は白いというより透明。ほっそりとした顎の逆三角型の顔、薄い唇はほんのりピンク。つんとしたかわいらしい鼻。背は高く、それでも雰囲気はかわいらしい。しかしかわいらしくても大人だなと、思わせる空気も持っていた。
 
 「はい、どうぞ。すわって」
 どこぞから出してきた丸いすに腰をかけてお茶を飲む。
 
 「で?えーっと、麻袋に入れたものの出し方、だったわよね?」
 
 「はい。どうやればいいんですか?」
 
 「えとね、出したいものの名前を言えばいいのよ」
 
 「は?」
 思わずレッジは聞き返してしまった。
 
 「なんて単純な、って、思ったでしょ。まあどんな問題でも解けてしまえば意外と簡単なものなのよ。色々試したんでしょ?」
 
 「はぁ。麻袋から物だそうと、袋叩いたり振ったりしたけど」
 
 「ねぇ、仮にも妖精の道具よ?せめて呪文あるかも…とかって考えてよね。まったく。最近の若い子は」
 若いお姉さんにあきれられた。実はみかけよりラレアは年をくっているのかもと、密かに思うレッジであった。
 
 「やってみていいですか」
 
 「ええ、どうぞ」
 
 「ええっと、あたしのかばん、出てきて」
 麻袋の口が勝手に開き、黒い、布の袋型かばんがちゃんと出てきた。
 
 「こりゃすごいわ。あ、中もちゃんと入ってる」
 レッジはなかみを確かめた。きちんと虹の鳥の羽根も入っている。
 
 「あ、そうだ。あの、もうすぐ連れが来ると思うんで待たせてもらっていいですか?」
 
 「ええいいわよ。もうすぐ伯父様も来る頃だし」
 
 「伯父様がいらっしゃるんですか。じゃあお邪魔なのでは…」
 
 「いいのよ。伯父様もきっと喜ぶわ」
 何を喜ぶのだろう。ともかく、ロイを待つレッジであった。ロイはきっと来る。レッジはのんきに待っていた。

(つづく)


ご挨拶
  ♪港町〜ああ、港町〜〜♪
 どうも、優です。
 港町です。港町には悪者がつきものです!!?(なんだか勘違い)と、いうことで、黒革さん方、再び登場!!です。がんばれ悪者さん。逃げろ、ロイ!!なごめ、レッジ?というわけです。(どういうこっちゃ)
 
 なんちゃって魔法ではありませんが、なんちゃってアイテムがいくつか出てきています。ちょっと紹介。
◎ 虹の鳥の羽根…………キラキラと、七色に輝く羽根。懐中電灯代わりに…(使うな〜)きっと、  
           大事なアイテムなはず。

◎ 麻袋……………………なんでも入る、某猫型ロボットさんのお道具みたい(爆)。でも、出し
           たい物の名前いうだけでいいから、掃除いらず。首飾り状になっていて、
           今はレッジがしている。なかには、寝袋やら、食料やら、コンロやら、
           ガスボンベやら、ガスマスク(!?)が入っている。気がする。
 
◎フクロウレルの羽根…迷惑千万ジジイの羽根。みんなの石化を解く為に!使用。もうない。
 
◎ ブラッドルビー………ロイのおじいちゃんの贈り物。かなり可愛いペンダント。レッジのお気
           に入り。血のように赤いルビー。内部から赤黒い光が仄かにわき上がっ
           て見える…といいな(謎)。
 
◎ 波の砂の小壜…………骨董屋さんからの贈り物。青くて綺麗らしい。ボートにふりかけると、
           勝手に進んでくれる。便利便利。でもちと、せこい。三キロ限定。小型
           ボートじゃないとダメ。でも、デートに最適?

                  贈り物、多すぎ。たまには自分の手で、稼ぎなさい!? 

登場人物

ラレア(20)
 少女趣味なお人。でも、レースはそこまで好きじゃないらしい。
紫の瞳と、金色の髪、スラリと細くて、背が高い。色白。む〜〜。なんだかなあ。
な、お人。
 なんにでも、首を突っ込みたがる、お節介なお姉さん。

    次はロイが逃げてます。


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜

 

魔法の麻袋。
作者様は「ドラえもんのポケット」だそですが、オイラは「キンカクギンカクのひょうたん」だったり(なんでだ)。
・・・それじゃ逆か(自滅)。

それはさて置き。

さてさて別れてしまいましたね、主人公二人。
ああ、やはり愛し合うものは分かれ逝く運命なんだね〜・・・って、ちゃう?(笑)

次回はロイ君の逃走劇?
ほのぼのレッジは、「早くこいこいロイロイ〜♪」とか言いながら待ってるんだろーなー(そうか?)


INDEX

→NEXT STORY
第四章 港町〜2〜