RainbowBird

第2章 隣り町



 隣り町は小さな小さな町だった。それでも田舎者のレッジとロイには大都会…とまではいかなくとも、十分"街"ではあった。ここから首都への汽車が出る。急ぎの旅であるはずなのに、二人とも誘惑には勝てなかった。

 「やっぱり、非常食とかって必要よね。…市場ってやつ見てみたいし」
 一番の理由はそれだった。

  小さな町の小さな市場は、それでも、田舎者二人組を驚かせるには十分だった。
 
 お昼どきの市場には町中の人々が集まっていた。おいしそうな果物を売る店や、新鮮な野菜を売る店、生きのいい魚を売る店、湯気をたてて通行人の気をそそるスープを売る屋台そして日常の品々を置く店などもある。
 
 「よーし!!買い物しなきゃ」
 
 レッジはとってもはりきっている。
 
 「レッジ、お金、使いすぎちゃいかんぞい」
 
 ロイは思わずレッジをたしなめていた。ともかく二人は人々の波の中を果敢に進んでいった。

 「あ、あれ」
 
 レッジが驚いて足を止めた。そこは骨董屋だった。
 
 「ん、どした?…あ、ありゃ」
 
 薄汚れたショウウィンドウに一枚の羽根が飾られている。その羽根は台座の上で黄色いライトを浴びて七色に光って見えた。
 
 「虹の鳥の羽根じゃないの!なんでここにも?」
 
 「んだなぁ。貴重品ってわけでね〜のかの」
 
 「あたしたちが持ってるのと一緒だよねぇ」
 
 レッジはかばんから羽根を取り出してふたつをみくらべた。
 
 「んー、微妙に違うような気がする」
 
 「ホンとだなぁ」
 
 レッジの手のひらの上で虹の鳥の羽根は輝いていた。
 
 いつのまに、か道ゆく人は足を止め、きらめく羽根を不思議そうに見ている。二人のまわりにはなんとなく、人だかりができてしまった。
 
 「お、おい、レッジ」
 「ん?あ、な、なんか…ロイ、中はいろっか?」
 「んだな」
 
 二人はともかく店の中に入った。店は薄暗く、埃っぽい匂いがしていた。品物もロクなものがない。
 
 「客か?…なんだ、ガキどもか」
 低い、低い声がした。
 
 骨董屋は人相の悪い、体格のがっちりした男だった。
 奥のほうで木箱に座り、わずかな光りを受けている。
 
 禿げあがった頭と、僅かに残っている横の巻毛にはほんの少し、愛嬌があった。が、しかし、黒い沼のような、それでいて、鋭い目はいかにも怖い人という感じがした。その目でレッジたちを睨んでいる。レッジは内心しまったと思った。

 でも、人は見かけで決めちゃ駄目よね。と自分に言い聞かせていた。それでも…

 「あ、え〜と、まちがえました」

 レッジはロイの服のそでを引っ張ってその店を抜け出した。

 「なんだべ、あの羽根のこと聞くと思ってたんだけんど」

 「うん。そう思ってたんだけどね。あの人怖そうだったし…」

 「うんうん。触らぬ神に祟りなし、だ」

 「さあ、気を取り直して買い物の続きしようよ」

 「おう!!」

 二人は骨董屋をあとにした。店の主人はドアの隙間から二人を見送っていた。
 
 買い物も一段落ついて、レッジとロイは市場の屋台で'お茶'していた。屋台は市場のなかでも一際目立つ。白いテーブルと椅子、それに深緑のパラソル。そこは屋台といってもハイカラなカフェだった。

 様々なものを買って満足した二人はのんびり座っていた。二人の買ったものは、いるものもいらないものも、すべて麻袋の中だ。おかげで荷物はとても少ない。

 「んー!おいしい。ね、ロイ」

 「んだ。うんめぇな。でもよ、そろそろ行ったほうがよかないか」

 ロイはふっと我に返って飲んでいたコーヒーをテーブルにおいた。
 
 「そういえば汽車の時間、見なくっちゃ」
 ついでレッジも我に返った。
 「ようし、駅、いくべ?」
 
 「うん!!」
 
 二人は元気に立ち上がってカフェをでた。

 その時胡散臭い連中がカフェに近づきつつあった。いかにもカフェに似合わない、カフェにはきそうにない連中である。ロイは連中に気がつき、嫌な予感がしていた。
 
 四〜五人いるだろうか。みんな黒の革ジャンらしきものを羽織っている。
 どの男も暴力的な目つきで、辺りを見まわしている。その中の一人などナイフをもてあそびながら歩いている。どの男も目つきは悪く、目は合わせたくない感じの人たちだ。骨董屋とはまた違った感じの、「恐そうな人たち」である。
 
 「あ、あの、なにか?」

 目の前にそんな男たちが立ちはだかって、レッジはさすがに怯えた。ロイは言うまでもなく。

 「お嬢ちゃん、虹の鳥の羽根、持っているらしいね」

 一行のボスらしき男が言った。この男が一番大きく、一番筋肉質で一番強そうである。

 「え、えええと」

 レッジは思わずどもっていた。な、なんか、あやしい人たちに絡まれてるよう、どうしよう。逃げなきゃ!!

 「ロイッ!!」
 レッジは思いきり大声でロイを呼ぶ。

 「おいよ!!」

 レッジの大声に驚いた男たちは一瞬たじろいだ。そのすきに二人は逃げ出した。無論、男たちは追いかけてくる。

 二人は走った。二人とももともとかけっこは得意だ。幼い頃は村でいつも走り回っていた。市場を抜け、二人はいつのまにやら、民家の続く裏の袋小路に来ていた。

 赤いレンガの家々がつづく。走る二人。

 「やばい、追いつかれそう」
 「どうすっべ?!」

 男たちが距離を縮めてきている。

 レッジを、『守ラナキャ』いかんのに。俺は…。ロイは唇を噛み締めて走った。
 ふたりが角を曲がった時だった。すぐ近くのドアが開いた。

 「入れ!!はやく」

 二人は何も考えるひまもなく開かれたドアへ飛び込んだ。ドアはすばやく閉じられた。
男たちはそのまま、家を通りすぎたようだ。

 「た、助かった〜…お!?あんたさんは!!」

 「おっかない、骨董屋さん!!」

 レッジは言ってから口を押さえた。暗くて顔をよく見えないが、そのいかつい姿はおっかない骨董屋にまちがいない。しかしどうやら今は笑っているようだった。
 
 「おっかない、か。こりゃいいな」
 
 「あ、ええっと、し、失礼しました。あ、それと、助けていただいてありがとうございます」
 
 とりあえずレッジはお礼を言った。
 
 「ここではなんだ。こっち来い」
 
 骨董屋は客間に通してくれた。落ち着いた雰囲気の部屋で、壁紙は群青色の花模様。明りはショウウィンドウの中で虹の鳥の羽根を照らしていたものと同様、黄色っぽい色をしている。
 
 「まあすわれ」

  二人は緑色のシックなソファに腰をおろした。
 
 「お前ら、レインボーバードの羽根、持っているな」
 
 「レインボー?」
 
 「虹の鳥のことだ。持っているだろ?」
 
 「え、ええ。まぁ」
 骨董屋のにらみにあっさり負けているレッジだった。
 
 「妖精の麻袋にブラッドルビー、その上レインボーバードの羽根か。お前ら妖精…?ではなさそうだな」
 
 「確かに俺たちゃ妖精じゃあねぇ」
 ロイは素直に答えた。
 
 「じゃあ何者だ?」
 骨董屋の唐突な質問にどう答えればいいのか。レッジとロイは困って顔を見合わせた。と、骨董屋は続けて語りだした。
 
 「妖精の袋麻もブラッドルビーも今は妖精の間でさえほとんど伝わっていない代物だ。妖精自体も数はたいへん少ないが。しかも本物のレインボーバードの羽根持っているんだろ?なぜだ」
 
 「へ、虹の鳥の羽根ににせものなんてあるの?」
 レッジは驚いた。
 
 「そうだ。店に飾ってあるものはにせものだ。それより、答えろ。なぜだ」
 
 「なぜって言われても…」
 とりあえず、レッジは『天使のような白い衣の女の人』のはなしをした。
 
 「白い衣の女…か。妖精?それとも別のものか」
 骨董屋はその話しを聞いて物思いにふけった。
 
 「ところで俺たち、駅で汽車に乗らんといかんのやけど…首都に行って、レッジの兄貴のこと聞かんといかんで」
 と、骨董屋の考え事を押し破って、ロイは聞いてみた。
 
 「首都か。港町の近くだな。そうだ、レインボーバードの羽根を持っていることあまり人に言うんじゃないぞ。最近、妖精を狙った事件が増えている。おそらく妖精の『力』を良く思わない人々の仕業だろう」
 
 「え、そうなんだ」
 
 「知らないのか。妖精は昔からよくねらわれていたが最近急にそんな事件がふえだしたんだ。レインボーバードといえば『力』を、妖精を作り出したもの、という言い伝えがある。その羽根なんだろ」
 
 「この羽根が…」
 レッジは虹の鳥の羽根をかばんからだしてしげしげと見つめた。たかがきらきら光る羽根である。
 
「妖精…お兄ちゃんは学院で妖精の『力』研究してた…。この羽根ってなにか関係あるんだろうな、お兄ちゃんの研究に。」
 レッジは独り言のように呟いた。

 「妖精は『力』のせいでよく誤解される…。」
 骨董屋も呟き、うつむいた。

 「え、あなたも妖精なんですか?」

 「わしは…妖精ではない。だが………」
 骨董屋は暖炉の上に目を向けた。そこには写真たてがあり、古ぼけた写真には一人の女性が写っていた。
 レッジは骨董屋の、音なきため息を聞いたように思えた。


 「…ところでお前ら、汽車に乗るんだよな?確か、夕方は四時五分に出るはずだぜ。お前らのことが知れ渡らないうちに行ったほうがいい」
 
 「四時五分!?あと十五分しかないじゃない!!」

 「大丈夫。駅はすぐそばだ。案内しよう。一応荷物は全部麻袋に入れろ」
 言われたとおり麻袋にしまい、二人は身軽になった。
 
 「そうだ、これをやろう。きっといつか役に立つかもしれん」
 
 骨董屋はロイに小壜を手渡した。中には青い砂が入っていた。青といっても水色になったり、真っ青になったり、ダークブルーになったり、さらには透明に近いほど透けてしまったり様々に変化する、波の砂だった。
 
 「これは?」
 
 「知り合いの船乗りにもらったものだ。ボートにまいて行きたいところを言えば勝手につれていってくれる」
 
 「すげ〜」
 
 「ただ、手漕ぎボートかゴムボートほどの大きさじゃないとムリだがな。しかも距離は3キロ以内」
 
 「あんますごくねぇべ」
 がっかりしたロイだったが、とりあえずもらっておいた。そして骨董屋とともに、駅に向かった。
 
 駅は骨董屋の自宅の表玄関から出てすぐのところにあった。この国唯一の鉄道会社が運営をすべて請け負っている。この国はまあるい島国だ。路線は沿岸線を環状に走るものが一つとそれにドッキングする、内陸ようの路線がいくつか出ている。
 
 その駅は少し大きめで、いくつかあるホームは巨大な一つの、紺色のアーケードでおおわれていた。
 一番ホームに深緑の汽車が来ている。
 
 「あれだ、あれに乗れば首都に行く」
 
 駅の入り口で骨董屋は言った。
 「あ、ありがとうございます。え〜と、そういえば名前、まだでしたよね。あたし、レッジです。こっちがロイ。ほんとうにありがとうございました。え〜と」
 
 「わしは骨董屋でいいぜ。『おっかない』な。そうそう、もし、こまったことがあったら、港町の丘の店、訪ねるといい。変わったことにはなんでも首つっこみたがる奴がいるから」
 
 「はぁ」
 
 「じゃ、気をつけて、な」
 
 「ほんにどうも」
 骨董屋と別れて二人は改札に向かった。

と、ロイは不意に肩をつかまれた。
 「な、なにすっべ!?あぁ!!お前らさっきの…」

 あの、チンピラ連中が柱の影から現れた。にやついて、レッジとロイをとりかこむ。
ロイの肩をつかんだ男はあの、ボスらしきやつだ。つかんだままはなさない。
 
 「虹の鳥の羽根はどこだ」
 
 どうやらこいつらは麻袋のこと、知らんのだな。そう思ったロイは安心した。 
 「おまんらにゃ、わかりゃせんわ」
 
 「あんだとぉ?!」
 ボスに顔面を殴られたロイはレッジの足元まで吹っ飛んだ。
 
 「ロイ!!大丈夫!?」
 
 「いってぇ〜、なにすっだ!!」
 ロイはボスに向かい、叫ぶように言った。その声のせいか、ボスのパンチのせいか人が群れてきた。
 
 「ち、場所かえるぞ、連れていけ」
 
 「へい」
 汽車の発車ベルがなり始めている。チンピラたちは二人のうでを強引に引っ張る。

 「おい、お前ら、やめろッ!」

 骨董屋がレッジたちの腕をつかんでいたチンピラに体当たりした。チンピラどもは不意打ちに弱いのか、驚いて二人の腕を放した。その隙を見逃さず、二人は脱兎のごとく改札を通りぬけた。
 
「しまった、追え!!」
 
 あとを追おうとするチンピラどもを骨董屋は必死で押さえ込んでいる。殺到するファンをおさえる警備員のごとくに。

 「行け!!わしなら大丈夫だ」

 「でも…」

 「はやく!!」
 骨董屋は投げつけるように叫んだ。

 レッジとロイは走った。二人が乗りこむのと汽車のドアが閉じたのはほぼ同時だった。
 
 ロイはその場でしゃがみこんで息を整えている。レッジは息切れしながらも改札に目をやった。汽車は走り始めた。ホームが、それに町並みが流れていく。
 
 レッジは突然くすくす笑いだした。
 
 「どうしたんだ?」
 
 「骨董屋さん、大丈夫みたい」
 
 「そうなんか?」
 
 最後に見えた骨董屋、それはチンピラのボスを小さい子かなにかのように、げんこつで叩いている姿だった。あの調子なら大丈夫。それにあのチンピラはやはり、不意打ちに弱いようだ。汽車が走り去るのを放心状態で見送っていた。レッジはざまあみろ〜という気分になった。
 
 「ロイ、さっきの、大丈夫?」
 
 「ああ、大丈夫だ。さ、レッジ、座席さいくべ」
 
 木製の扉を開け、客車に入る。二人がけの座席が進行方向に向かっていくつも並んでいる。近くに空席を見つけ、二人は座った。
 
 「荷物ないと怪しいよ。出して」
 
 「…どうやって出すんだ?」
 
 「そう言えば、知らない」
 
 麻袋は袋の口に物を近づければ吸い込むように物を中に入れることができる。しかし、出すにはどうすればよいか。
 
 「ど、どうすっべ?」
 
 「お金はお母さんが非常用にって胸ポケットに縫い付けてくれたのがあるからなんとかなるけど、肝心の羽根がその中じゃ…ま、首都に着いてから考えようよ」
 
 なんとものんきなレッジであった。
 
 揺れる汽車の中で、二人は駅弁を食べている。
 鶏のテリヤキをしゃきしゃきレタスに巻いて、口の中にほうりこむ。ピリッと辛い焼き飯もよい味を出している。などと駅弁を味わい、うたたねをした。
 
 なんとものんびりした、優雅な汽車の旅であった。
(つづく)


 ご挨拶
 は、はずかしーーー。
 こ、ここまで恥ずかしいとは、思いもよりませんでした。はああ。しまった…かも。やっぱり、わたしはお馬鹿だったのね。はああ。もう、ばかばかばか。わたしったら、お馬鹿さん♪(←壊れております。)
 
 どうも、夢見るドリーマー(繰り返してるし。)優です。
 こんなものを読んでくださる、きさくな方がいらっしゃるのでしょうか。…いらっしゃると信じて、アリガトウをいいたいです!!!ありがとう!!!!

 しかし、ワルモノ=黒革ジャンと、思いこんでいたあの頃が懐かしく思われます。なんの影響なんでしょう?誰か、教えてください〜〜。
 …で、どうして、こう、食べ物が多く登場するのでしょう?あの頃のわたしに聞いてください。
…わたしの愛読書が『大草原の小さな家』シリーズだったからなのでしょうか…?でも、きっと、もうすぐ、レッジやロイも戦ったりすることに…なるのかなあ。どうなんでしょ?
 やけにクエスチョンマークの多い、ご挨拶でした。以上。


登場人物

骨董屋さん
 名前はないの〜。なぜなのかしら。つけてよ、自分〜〜。
 …そういえば、町やら国にも、名前、つけてない〜〜。
 ま、それはいいんです〜。

黒革ジャンのみなさん。
 悪役なの。ゲームで言ったら雑魚さん方。
 みんな、おそろいなのはご愛嬌??


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜

 

恥ずかしくないですよー。面白いですよー。
うーと、面白かったです。上手くいえないけれど。

なんかね。
えーと。
「楽しい」物語です。

なんていうかな。
昔に読んだ世界名作劇場みたいな雰囲気で。なんかワクワクしてきます〜

「楽しく」読みやすいですしね。

さてさて、汽車に乗ったお二人さん。
ここからどこに進むのか―・・・? 次回も楽しみですよ。

 


INDEX

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第三章 首都