Rainbow Bird
優
第14章 雪原〜1〜
「うわっ!!眩しい!!!」
続いているのは一面の銀世界。
洞窟を出た先は、雪山だった。
急な斜面。どこにも樹木らしいものはない。
「女神の塔だわ!」
ラレアの言う通り。遥か彼方に、ぼんやりと空に突き刺さりそうな物体が見える。
だいぶ高いところであるはずなのに、さらに高いところまで塔は続いている。
「あれが・・・・・」
「きれえな塔だべ」
黄金の光が、雪の銀に輝く。
「しっかし寒いわね」
ラレアのいうとおり。辺りはものすごく寒い。息も凍りそうだ。
「なんだってこんなに寒いんだべ?ここって南の島だっちゅうのに」
「ほんとだね・・・・変だ」
同じ緯度にある隣の島はわりあい暖かく、乾燥していたというのに。
いくら山の上といっても、下のほうまで真っ白。
雪でうめ尽くされている。普通ならあるはずの樹木もなかった。
「・・・・ルストのせいかしら」
「かもね」
「な、あれ、村じゃねぇべか?」
ロイが指差す方に建物らしきものが集まっているのが見えた。
「こういうところにも、村があるのね・・・・・」
ラレアはなにやら考えている。
「行ってみようよ」
「んだべ!!」
「ちょっと待って。準備しないと!」
「へ?準備??」
「遭難する気?」
ラレアの言葉に返事のできないレッジ&ロイだった。
ラレアが取り出したのは、二本の小さな香水壜。中味は橙色の油。
「太陽の油。私の雑貨屋で一番の品よ。これをふりかければ、寒さなんてヘッチャラ」
「すごいね!!」
橙色の油は、何もしていなくても、ふつふつと沸騰しているように見える。
ひと壜ずつ、レッジとロイに手渡す。
「さ、しっかりと、塗っとくのよ」
ラレアに言われた通り、冬、手にあかぎれの薬を塗る要領で、しっかりと塗っておいた。
仄かに温かい。
「ラレアの分は?」
「ん。ない」
「え!!?ラレア大丈夫なの?」
「もっちろん!」
自信たっぷりに答えるラレア。その自信はニセモノだったけれど。
太陽の油の威力はすばらしい。
レッジもロイもちっとも寒くない。
やっぱ寒いわ。ちょこっとでもぬっときゃよかった。
油は二人分しかなかった。その結果が、やせ我慢のラレアである。
どのぐらい歩いた頃だろう。
長い時間歩いたように感じていたが、一向に村が近づく気配はない。
だが振りかえると洞窟の出口は見えない。
一応は進んでいるようだ。
足元は一歩一歩、歩く度に深々と埋まっていく。
「あ!!光った!!!」
ふっと顔を上げたとき、レッジはふもとの村の付近で激しい光が起こったのを見た。
「え!?なんだべ??」
ロイが顔を上げると、煙が上がっているのが見えた。
「一体なにかしら・・・・・・」
ラレアは寒さに凍えながら言った。
と、そのとき。
光に巻き起こされたのか、大地が揺れ始めた。
地震だ。
かなり激しい。レッジたちのもとにも、その激しさは伝わってきた。
「う、うそっ!?」
動こうにも動けない。それほどひどい揺れ。
「やばいかも・・・・・」
ラレアは気がついた。
この急な雪山で地震が起こったら・・・・・。
ゴオオオオオオオ・・・・・・・
地響きが聞こえる。徐々に大きく近づく音。
「雪崩だわっ!!」
なすすべもなく、レッジたちは雪の猛威に巻き込まれていった。
「レッジ!ラレア!!」
ロイは咄嗟にレッジの手をつかむ。だが、ラレアの手は伸ばされることはなかった。
暗闇がレッジを包む。
――― レッジ、レッジ・・・・。
「だあれ?」
――― あたし、リマインド。
「リマ・・・インド?」
――― 『女神』と呼ばれてる者。
「『女神』さま!?」
――― やっとはっきり話せるね。あたしのお願いを聞いて。
「『女神』さまの?」
――― 虹の鳥は望んでないの。
「何を?」
――― 解放してあげて。虹の鳥を。
「どういうこと?」
――― いまならまだ間に合うから!!『銀河』の方はあたしに任せて!
「ちょ、ちょっと??」
――― もう、準備はしてるの。
「え、なに?どういうことかわかんないよ〜っ!?」
――― だからお願い、ここまで来て!はやく!!!
・・・・・・ レッジ、レッジ!!!
「レッジ!!」
「・・・・・う、うーん・・・・」
「レッジ!!大丈夫だべか!?」
視界の中にぼんやりと輪郭が浮かんでくる。
「ロイ・・・・??」
レッジを見下ろすロイの心配そうな顔が、目に入った。
「あれっ!?ここは!!?」
起きあがると、体の節々が痛む。
南国の草を集めた屋根、薄い木製の壁、そして土間・・・・。
ここは、この雪に覆われた大地にはふさわしくない様相をしていた。
「村だべ。人はだあれもいなかった。俺たちゃ、なだれに巻きこまれたんだども『盾』で防いだんだべ」
雪崩を防いだあと、ロイはレッジをおぶって、ここまで降りてきたのだ。
「そっか・・・・」
『盾』を使った。『力』を使ったことでロイはうつむいてしまった。
どうしても忘れられないようだ。あのとき死なせてしまった兵士のことを。
「ロイ、ありがと」
「うん」
土間の中央にあるくぼみに火を起してある。
パチパチと焚き火の音が静かに響いた。
「あれ?ラレアは??」
目が慣れてきて気がついた。ラレアがいない。
「それが・・・・・雪崩に巻き込まれちまって」
ロイはうつむいた。
「うそ・・・・・!!?」
「うそじゃねぇ」
沈黙。
「・・・・・けど、ラレアなら、大丈夫だよ」
レッジは不思議と自信を持って言った。
自分を安心させるように。
「んだな・・・・・・」
実際、彼女は無事だったりする。
「伯父様、何故こんなところに?!」
「いいではないか!かわいい姪御を助けられたのじゃ、文句もあるまい」
「伯父様、今どこへ向かっているの?!」
女神の搭がだんだん遠のいていく。
「『運命の輪』をまわさにゃならん。わしは『愚者』だからな」
「なにをおっしゃっているの?」
「ラレアよ、何もかもが壊れるよりも、何も壊れない方がよいとおもわんか?」
伯父の言葉の意味がさっぱりわからないラレアだった。
ちんぷんかんぷんなラレアを背中に乗せて、フクロウレルは別の場所、鳥の尾の、最後の島へと向かっていた。
これから起こるであろうことを見越して。
夜はふけて行く。
「ね、ロイ」
「んだべ?」
炎の赤い光が二人を照らす。
「お兄ちゃんさ、何をしようとしてるのかな」
「俺にはわっかんねべ」
「あたしはさ、何をすればいいのかな」
――― 知らない間に、世界は動いてる。あたしは何ができるんだろう・・・・・。
レッジは静かに目を閉じた。
世界の鼓動が聞こえたような気がした。
翌朝。
「レッジ、レッジ起きろッ!!はよ起きてくろ!!」
切羽詰ったようなロイの声。小さくしかし、切迫したような雰囲気だ。
「・・・・・・・なに〜?眠いよー」
眠い目をこすってなんとかこじ開ける。
ロイの押さえた声と違って、レッジの声は普通。なので大きく聞こえる。
「しっ・・・!ほれ、見てみろ」
ロイはこっそりと家の隙間から、外の様子をうかがうように促した。
「・・・・・・なにあれ?」
家の中は暗いが、外は相変わらず銀世界。
しかし、そこここに影がうつされている。
真っ白な雪の上に、影のみが動き回っているのである。実体はない。
しかも一体ではない。大量の影があてどなくさまよっている。
「あれは、嫌な予感がすっべ」
「出てみる?外へ」
「んだな。ここにおってもしかたねぇ」
ロイはうなずいた。
レッジとロイはこそこそと、建物の外に出た。途端、影に囲まれる。
「やっぱやな予感してたんだべ」
影がレッジとロイに覆い被さるように、実体を帯びてきた。
「やべっ!伏せてくんろ!!」
『力』がロイの手に伝わってくる。
「うん!!」
レッジは慌てて伏せる。ロイは『盾』で影の攻撃を防ぎつつ『剣』で影を貫く。
『剣』に貫かれた影たちは音もなく消えていく。
ロイは剣術など教わったこともない。しかし、影をなぎ倒していく様子はいっぱしの剣士である。
あっというまに、レッジらを囲んだ影を倒してしまった。
「ロイって強かったんだね?!」
「いや、俺しらね・・・・。『剣』が勝手に動いてくれたんだべ」
「そうか。君は『ナイト』となったのか」
「え!?」
慌てて振りかえる。
「久しぶりだな、ロイくん」
「だれ?」
「・・・・・これは、ルスト!!!」
ロイは一目見て感じた、これはルストだと。
いや、一目見たとき、ルストだなどとはわからなかった。ただ、数多くの『力』の気配の中に、確かにルストのものがあった。
それほど、その姿は変貌していた。
海の巨大なバケモノとなっていたときとは、また違ったバケモノ。
白一色の体。
姿は人に近い。だが、足は一本しかない。
そして、その背には天使の翼のような真っ白な、いや、銀に近い白の翼があった。
目は金色に輝き、とがった耳を持つ。
ずっと宙に浮いたまま、レッジたちを見下ろしていた。
「レッジか」
金色の目からその表情は読み取ることができない。
「ルスト、おめぇにレッジは指一本ふれさせねぇ」
ロイは背にレッジをかばい、『剣』を構えた。
レッジはどうすることもできない。
「あたしはあなたにレインボーバードの羽根を渡す気はないからね!」
ただ、大声で叫ぶ以外には。
「もう、必要ない。だが、それをラーネッドのもとに届けさせるわけにはいかない。いや、お前を女神の塔へ行かせるわけにはいかない」
ルストは左手をゆっくり天に向かって上げた。
「あ・・・?」
両肩を捕まれるような感覚。
「レッジっ!!」
レッジが宙に浮かぶ。
見えない十字架に磔にされるように、レッジは動けなくなった。
「レッジを放せッ!!」
ロイは『剣』を振るう。その『剣』を腕で受け、ルストはつぶやいた。
「まだ、『力』が足りない」
はね返されたロイは、地面に叩きつけられた。
「あ!!ロイっ!!ちょっと、放してよッ!!!ロイ、大丈夫!!?」
レッジのおとくいの大声が響く。
「・・・・・君たちは、本当のことが知りたくないか?」
「え?」
辺りが闇に包まれ、高いところにいたはずのレッジもルストも、ロイと同じ高さに降りてきた。
いや、ロイも宙に浮いているのか。
「本当のことを知りたいだろう?」
その言葉に、レッジは抵抗することを忘れてしまった。
わからないことが、多すぎるから。
「ロイくん、君の記憶に残っているはずだ。事実が」
「俺の記憶、だべか・・・?」
「思い出すがいい」
ルストの左手にしたがって、ロイは目を閉じる。
挨拶
さて。
とうとう、ラストダンジョン目の前状態。
それでもレッジのレベルはあいかわらず1っぽい(笑)
弱〜〜〜!!
さらにラレア姐さん脱落(違)
そしてラスボス候補その一、ルストの参上であります。
次回は、引っ張りに引っ張った、ロイの過去が明らかに〜!!