Rainbow Bird
優
第13章 洞窟
水に飛びこむ。
あの避難所の隠し部屋へ入っていくような感覚。
重い纏わりつくような空気の中をゆっくりと掻き分けていく。実際にはそう長い時間ではないのだが。
辿りついた先には、海岸が広がっていた。岩場の続く海岸線である。
昼間なのに空は暗く、重い。
絶壁が続き、奇岩が立ち並ぶ。岩には亀裂が走り、そこへ打ちつける波は白い飛沫をあげていた。
「・・・・こ、ここは!?」
もし、この場に誰かがいたら、人が生えてきたことに、とても驚くだろう。
植物のようににょきにょきと一行は這い出てきたのだ。
「見えますか?あれが、女神の塔のある島です」
サラが指差す方には、赤いオーロラが見えた。空から陸地にまで続いている。
「あの結界を越えると、あるのね」
「ええ」
ラレアの問いにサラは短く答えた。
「で?洞窟っていうのはどこにあるの?」
「洞窟は、こちらです」
サラはさくさく崖のぎりぎりのところへ向かう。
絶壁の向こうは荒れ狂う海である。
「ちょっと待てー!!?そっちって海じゃないのかッ!?」
とくに水が苦手なジィンクは、叫びをあげた。
「大丈夫ですよ、洞窟の入り口は崖にあるだけですから」
サラは簡単にいったが、洞窟の入口のありかを知ったレッジ、ロイ、ジィンクは真青になった。
「なんだこれ―――ッ!?」
叫びたくもなる。なぜなら、入り口は絶壁の中間にぽっかり空いた穴だったから。
ほとんど90度に近い崖。その壁のような岩場の一部に暗い影がある。
サラの言うには、そこが入り口だとか。
「どうやって入るの?」
足場なんてものはあったもんじゃない。
「それはもちろん、ロープで、ですよ」
サラは当たり前のことのように言いきった。
そういうわけで、ジィンクはロープの準備を行う。冒険家なだけあって、そういうことは得意である。
ただ、まさか苦手とする海を真下に、ロープの準備を行うはめになるとは。彼はため息を、どうにかこうにか飲みこんでいた。
「じゃ、行きましょう」
サラはロープを伝って降りていく。
「私、こういうの得意なのよね」
ラレアもあっさり降りていく。
残された三人。
「ジィンク先行ってくんろ」
「い、いやあ、お前先行けよ」
譲り合うロイとジィンク。
「これ、かなり怖いよ・・・・」
レッジは崖の下を覗きこむ。
寒々とした海が白い波飛沫をあげている。
「レッジ!!早くおいで〜。すごいわよ!!」
ラレアが呼んでいる。
「んー・・・わかった。あたし行く!」
レッジはロープに手をかけた。
岩に足をつき、少しずつ降りていく。手に汗をかき、今にもすべりそうだ。
それでもなんとか、洞窟の入り口に辿りついた。
「こ、怖かった」
「で?男二人はまだなわけね?」
ラレアは飽きれて眉を上げた。
結局、ロイ、ジィンクの順で洞窟の入口に辿りついたのだった。
仄かに青い光を放つ、不思議な岩の通路が続く。通路というより岩の階段である。
自然にできたものとは思えない。その階段が上がったり下がったり続いている。
「ジィンクってばなさけないわね」
「しょうがねぇだろ、怖いものは怖いんだ!」
さっきのことをラレアに笑われて、ジィンクは子供のようにふくれていた。
サラは二人を見ながら微笑んでいる。
ロイとレッジはそのあとに続いた。
洞窟はその入り口からは考えられないほど広い。
通路自体は狭いのだが、階段が長く続く。
上がったと思ったら下がって、どういう洞窟なのか、ここは。
「空間が歪んでいるのです。結界内に進入するために」
レッジの疑問に答えるように、サラは言った。
仄かに青く輝いていた壁は今は、鈍い紅色の輝きをはなっていた。
しばらく進むと、突然洞窟が広々となった。
「ちょっと休憩するか?」
先頭を歩いていたジィンクは、ラレアの具合が悪いのに気がついて言った。
そういえば、ここは風が全然吹いていない。
「いいかしら?」
ラレアはレッジに尋ねる。
「もちろんだよ」
ジィンクが言うまで気がつかなかった。ラレアの顔色が悪いことに。
「風、起しましょう」
「いいわよ、そんな」
サラはラレアが止める前にさくさく自分の腕にナイフをつきたて・・・・
「ちょーーっと待った!!」
「なんですか?レッジ」
「これ、使って」
レッジは首から下げていたブラッドルビーをはずして、サラに手渡した。
「ブラッドルビー?なんて密度の濃い・・・・!!」
「それがあれば、血流さなくてすむんでしょ?あげる。貰い物だけど」
「いいのですか!?」
レッジもロイもうなずく。『力』の使い方を知るものがもってこそ、意味があると考えたから。
「では改めて」
サラはブラッドルビーに祈りをこめた。
風が吹き、ラレアは本当に心地よさそうに目を閉じた。
「ありがとう、いい感じだわ」
ラレアは立ちあがった。
「なんだ?」
「休憩なら、休憩らしく、休憩しなきゃ」
元気になったラレアは、さっそく休憩の準備をはじめた。
レッジに言って、キャンプ用の鍋だのコンロだのを出させる。
あっという間に、コンソメベースの野菜スープをつくって、皆に渡す。
「おいしい〜」
「でしょ。こういうときこそ、しっかり食べなきゃね」
ラレアは得意げ。
ラレアだけでなく、全員元気を取り戻し立ちあがった。
「さ、行こう!!」
今度はレッジが先頭になり、長い階段をのぼりはじめた。
どれだけ上ったり下ったりした頃だろう。
辺りの壁は虹色に輝いている。
「きれいだね」
「んだな」
レッジもロイも、皆も辺りに見とれている。
「女神の塔から『力』が漏れ出しているのかしら・・・・・」
サラだけはどうも、研究者じみた見方である。
――― レッジ
「え?」
「どうしたんだべ?!レッジ?!」
レッジが突然立ち止まった。
「声が聞こえる?」
――― お願い。
「なんだろ?」
レッジは耳を傾けた。
――― 彼は、・・・・・・壊し・・・・・たく・・・・・・ないって。
「彼?」
――― ・・・・・虹の・・・・・・鳥。
「どうしたの?レッジ」
ラレアに揺さぶられてようやく、我に帰った。
「あ、ううん。なんでもない」
途切れ途切れの声は、妙にレッジの耳に残っていた。
――― 壊したく、ない。
壊す?虹の鳥が?一体なんのことを言っているのだろう。
「おい、やばいぜこりゃ」
考えごとをしかけたレッジを現実に引き戻したのは、ジィンクの声だった。
目の前には暗闇が続いている。紫の闇が。
どこが道かもわからない。
「これは・・・・・・どうなっているの?洞窟が、壊されている?」
「『力』の暴走ですね」
サラは静かにうなずいた。
闇に飲みこまれる、それは五感の全てを奪われるに等しい行為。自分の居場所がわからなくなるのだから。
「闇には光です。光よ、闇を振り払え!!」
ブラッドルビーに祈る。
光が溢れ、闇を振り払った。
「サラ、すごいー!!」
「そんな、たいしたことありませんよ」
レッジの絶賛にサラは照れて頬を染めた。
闇の『力』を越えると、次に現れたのは藍色の、音の『力』だった。
「うわッ!!み、耳が痛い・・・・・・」
最初は小さな美しい音だったのが、だんだんと超音波になっていく。
「こういうときは、調和するのがいいですね」
サラも音の『力』を生み出す。
超音波とあわさって、やがて美しいメロディーとなった。
音の次は氷。青い氷が洞窟を覆う。
「オレの出番か!!」
ここだけはジィンクが張りきる。
巻き起こる炎。みるみる氷が溶けていく。
が、ジィンクは水に弱い。
「わりぃ、ちょっと気分が・・・・」
「しょうがないですね」
サラは飽きれてジィンクを支える。そして、炎の『力』を巻き起こした。
水は蒸発して、そして青を乗り越えた。
氷の次は風、風の次は光、そして熱、炎・・・・。
紫、藍、青、緑、黄、橙、赤。
七色の『力』が試練のように、レッジたちに立ちはだかる。
しかし、サラの『力』はオールマイティー。
ブラッドルビーを持ったサラのおかげで、乗り越えられそうだ。
しかし使えば使うほど、サラの顔色が悪くなっていく。
炎を越えたとき、目の前に広がったのは闇だった。
「戻って来ちゃった!?」
レッジは驚いて声をあげる。
「まさか・・・・・・」
ラレアも青ざめた。
「もう一度、払ってみましょう」
サラは再び光の『力』を使う。もう、最初に闇を払ったほどの勢いはないけれど。
闇が消え去ったあと、続いているのはやはり、見覚えのあるような、ないような洞窟。
しばらく歩くと、再び音が聞こえてきた。洞窟の壁は藍色・・・・・。
「ループ?」
「まさか・・・・・」
再び、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の『力』を乗り越えて、闇に返ってきてしまった。
「やはりループみたいですね。『力』の」
サラの顔色は今や、真青。これ以上『力』を使うのは苦しいだろう。
と、ロイはぽつりとつぶやいた。
「・・・・・・あれを使えばいいと思うんだべ」
「あれ?」
ごそごそと、なにやら取り出す。
それは小壜。
「あ!!!」
レッジは声をあげた。
小壜の中味は紫色の灰。
妖精が亡くなるときに、作ることのできる灰。
『力』を打ち破ることのできる灰である。
「ロイ、いいのか?」
無言でうなずき、ロイは中味を闇に向かって空けた。
闇が晴れていくに従って、向こうに光が見える。
出口だ。
闇だけでなく、惑わしの『力』さえも振り払った。
「さあ、行こう!!」
レッジは元気に皆に呼びかけた。
「待って下さい。私が行けるのはここまで、です」
「そんな!!」
「町に戻ってババの手伝いをしないと」
青い顔で、サラは言う。
「そっか・・・・・けど、戻れるの!?」
「大丈夫」
レッジはサラの青い顔をみて、心配になった。ブラッドルビーがあるとはいえ、『力』の使い過ぎだ。
「おいおい、オレもサラについていくぜ」
「え?」
ジィンクはサラの肩に手をおいた。ジィンクを不思議そうに見上げるサラ。
「オレ、あんたにまだ、いいとこ全然見せてないからな」
にかっ、と笑うジィンク。
「それなら安心だべな」
「そうだね!サラ、ババによろしくって伝えてね!」
ジィンクの、意外に頼りになりそうな様子に、レッジとロイは安心した。
「・・・・・・別の意味で不安だけどね」
ジィンクの微妙な表情に、ラレアはこっそり付け加えずにいられなかった。
サラとジィンク、二人と別れ、レッジたちは中央の尾の島へと、向かった。
最後の決戦の舞台に・・・・・。
挨拶
はい、あっさりすっきりブラッドルビーとおさらばです。
いやあ、そこまで重要アイテムなつもりじゃなかったのよね、これ(爆)
便利グッズその3ぐらい・・・・・・。
まあ、ゲットした場所には重要性があったりなかったり。その辺はもう、すぐに明かになります(笑)
と、いうことで展開はやすぎるぞコラ―っ!!って感じに進みます。いいんでしょか、ね〜?(けどさ、RPGのラストってそういう感じだし、ま、いっか♪)
次回から、ラストステージ!!真実はすべて解き明かされる?!・・・・かもしれない。