Rainbow Bird

第12章 白い町 〜1〜


 

陸がどんどん近づいてくる。
飛行艇はゆっくりと高度を下げていく。

やがて、それは丘の上に降り立った。
辿りついたその場所は小さな白い、丘だった。

 

ここは、鳥の尾とよばれるに相応しい、縦長の島。おまけによく似た形の島が三つも並んでいるのだ。

 

「ね、これ以上行けないの?ホワイトウィンドで」

女神の塔のある島はこの隣の島である。

「・・・・・限界に挑戦しろって?」

「うん」

レッジはあっさりにっこり笑って答える。ジィンクはにっこり笑みに返す笑みも浮かばない。

「えっと・・・・・・燃料が足りねーんだ」

ジィンクの言葉が嘘であることは、ロイにはよくわかっていた。

なんといっても飛行艇を動かす力は『力』なのだから。

が、ジィンクのためにも口を閉ざしてあげた。

「じゃ、買って来ないとね♪」

ラレアにあっさり言われて、ジィンクはどうも限界に挑戦するはめになってしまった。

と、いうことで、一行は丘をくだる。

 

「・・・・・・・あれ?」

誰もいない。道には人っ子一人いないのである。

「ね、ねぇ・・・・・ここって、人、いるはずだよね?」

ホワイトウィンドにあった、この地方の地図を広げながら、レッジは不安を感じていた。これは、燃料どころの話ではない。
ここは温暖な気候のため、住みよい国として有名な地域なはず。

だが、だれもいない。

「・・・・・ま、また、戦っとるんけ?」

レッジの不安はロイが代弁してくれた。
まったく、物音一つしない。

町の建物はどれも真っ白。石膏を塗った壁が続いている。

真青な空と家々の白、そのコントラストを写した写真が教科書に載るような、そんな土地であることは確かだが・・・。
その有名な白壁が、ところどころ剥がれて、灰色の壁が見え隠れしている。

その上、ここは、人がいなさすぎる。

 

と、そのとき。

 

一匹の真っ黒いバケモノが、レッジたちの前に姿を現した。
バケモノは二足歩行をしていはいるが、人ではない。
とんがった耳、裂けんばかりの口からは鋭いキバがみえる。そこから粘着力のある唾液が垂れ続けている。

バケモノの目は牛の目と同じく、白目部分がほとんど全くと言っていいほどない。

だが、牛の目よりもよっぽどどす黒い瞳をしている。

 

「あれって・・・・」

ロイは何かに気がついたようだ。

「うそでしょっ!!!」

が、ラレアの一言で一瞬止まっていた時が動き出した。

 

うそではないことは、バケモノのその見かけよりもずっと敏捷な動きにより、はっきりと思い知らされた。
鋭い爪と、牙をむいて、飛びかかってくる。

ジィンクは咄嗟に、手榴弾を投げつけた。

 

―――――グオオオォオオォオ――――

 

咆哮が響き渡る。どうやら効いているようだ。バケモノの動きが鈍った。

どうやら、不意打ちに弱いようだ。

「今だッ!!」

ジィンクがサーベルを片手にバケモノに斬りかかろうとした、その時。レッジはジィンクのそでをひっぱった。

「な、何だよ?!」

「こういうときは逃げるに限る」

レッジの有無を言わさぬ意見にジィンクはいつのまにやら、従っていたのだった。

 

 

灰色の雲が辺りを覆っている。
レッジたちは追いかけてくるバケモノから必死で逃げる。

「なんか、はあ、いつぞやと、はぁ、似たような場面」

デジャブーではない。黒革ジャン集団に追いかけられた時のあのノリである。

「・・・・ってかあいつ、げ!!“ら”になってっべ!?」

ロイがさっとふりむくと、バケモノが複数になっているのが目に入った。

どれも黒い巨大な狼のようなバケモノ。

「うう〜〜あいつら、黒革ジャンの気配さもっとるんだ」

「え!?な、なんで?!」

「わっかんねべ」

「その黒革ジャンってなんだよ!?」

ジィンクは振りかえり再び爆弾を投げつける。

またも、連中は動きを鈍らせた。この調子だと、逃げきれそうだ。

 

ひたすら続いていた白い壁の建物の一つに逃げこむ。レッジらはもはや、とんずらのプロである。
建物にもはや扉はない。朽ち果ててしまったようだ。

息を潜める。どうにか黒いバケモノをやりすごした。

 

「レッジ、ロイ、黒革ジャンってなんのことだよ?」

レッジは自分たちの故郷―――鳥の心臓にあたる島で、出会ってしまった、ルストたちの話をした。

隣町や港町で出くわした集団。その親玉ルスト。彼は妖精になみなみならぬ憎しみを持っていて・・・・

「ルストってハンスみたいな奴だな」

「どういう理由であんなに妖精を嫌うのかしら」

ラレアのつぶやきは沈黙に変わった。

 

「と、ともかく、女神の塔に向かわないと」

「どうやって?」

どうやって・・・・町には黒いバケモノが溢れ、人々はいない。

女神の塔のある島―――三つの鳥の尾の、中央の島へ向かうすべは、あるのだろうか。

「そういえば、この島ってさ確か妖精学というか、「力」の研究が熱心で、その施設もあったはずよ。そこに行ってみるってのはどう?たぶん、女神の塔への道のりも聞けると思うわ・・・・・・人がいればの話だけど」

ラレアは終わりの方をつぶやくようにつけたした。

「それってほれ、あの中央の巨大なドームのことだべか?」

確かに町の中央には町中の建物と同じ真っ白な、しかし町中のどの建物よりも巨大なドームが見える。
ラレアの提案で、一行は『力』を研究しているという、研究施設へ向かうことにした。

バケモノに悟られないように。

 

☆     ☆     ☆

 

ドームの中はやはり白かった。天井がものすごく高く、白い壁は光を吸収しているため、明るい。
だだっぴろい広間のちょうど中央に、祭壇のようなものが置かれている。その上に黄金の聖杯が捧げられている。

聖杯は天井からさす日光を受けて神秘的な輝きを見せている。

レッジはこのような雰囲気の部屋を見たことがあった。
学院の妖精学教授、シルバーの娘サラの部屋である。

ここも、やはり誰もいない。

「誰もいない町なのかな、何か、起こったのかな」

レッジが囁くと、その声に反応したかのように、黄金の聖杯が輝き出した。

「何!?何事!!?」

・・・・・・輝きがやむと、そこには一人の少女が。

「サラだっ!?」

「サラです。ロイ、もうっ、何度言わせるんですか?レッジ、お久しぶりですね」

可憐な少女、サラがそこには立っていた。つい昨日あったかのように冷静だ。

「あら、サラちゃん」

「やはり、ラレアさんも一緒にいらしたんですね」

サラはにこやかに微笑む。

「で、なんでサラがこんなところに?」

「ババの手伝いに来ているのです。ロイたちはもう、女神の塔にレインボーバードの羽根を届けたのですか?」

「いや、それがまだだんべ・・・・・」

ロイはいたずらを叱られたときのようにうつむいた。

「え?何をしていらしたんですか?それに、こちらの方は?」

サラはちらりとジィンクに目を向けた。

「オレはジィンク。飛行艇のパイロット兼冒険家だ!」

ジィンクは聞かれもしない事まで、ご丁寧に解説したのだった。

「はじめまして、ジィンクさん」

サラはにっこり微笑む。

「ジィンクでいいぜ、サラ」

ジィンクはここにいたるまでの道のり――鳥の頭の大陸でのこと――を詳しく聞かせた。

「そうだったの・・・・大変だったのですね。レッジ、ロイ」

感慨深げに二人を見つめる。

「ね、それはともかく、ここ、どうなってるの!?女神の塔近いんでしょ?」

「てっきり、もうレインボーバードの羽根、届けたのかと思っていました。だから、こういうことになっているのかと」

一人怪訝そうにしているサラ。

「え?!どういうことよ?」

レッジは思わず説明を促した。

「ああ、ええっと・・・・・・。ルストが・・・・・・・」

「え!!?ルスト!!!?」

黒いバケモノの影にはやはりルストがいた。最後に見た、巨大なバケモノの姿が目に浮かぶ。

ワーパが『力』によって足止めしてくれたから、なんとか助かったが・・・・・。

「彼が、女神の塔を壊そうとしているのです」

「女神の塔を!?でも、それじゃあ、この町の人たちはっ!?」

 

「詳しいことはわしが話そうぞ」

低い不気味な声が響く。


挨拶

どうでもいいけれど、私は丘が好きらしい。

こんにちは。優です。

なんだか、丘が今回も登場しました。すぐ移動したけど。

なんでこんなに丘が好きなんだろ〜。いいよね、丘。

そんな感じで、挨拶、終わり(おい)

 

っと。次はババ様登場!?です。


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